お前は今、どんな気持ちで眠ってるんだろうな。
*エピローグ*
「よ、っと・・・。 おーいマッシュ、それこっち持ってきてくれよ!」
コーリンゲンの端の方に建てられた家。
建ったばかりの新居に、荷物を運ぶ男と其れを手伝う人々が居た。
マッシュはロックに頼まれた整理棚を一人で持ち上げると家の中へ入って行く。
それを横目で見ていたロックは思い切り伸びをした後、まだ外に置いてある椅子に手をかけた。
中ではセリスやティナが割れ物を箱から出している。
ロックが後ろを通る際、「ちょっと通るぜ」と言うと二人してどいてくれ、通る事が出来た。
先に家に入れて置いた机の近くに椅子を下ろす。
マッシュは今度はタンスを取りに行ってくれたようだ。力仕事を得意とする男が居ると助かるものである。
―あの戦いから三年が経っていた。
各町や村も復興して今や緑で溢れてきている。
未だに荒野の部分もあるが、人々が協力し合い、緑豊かな大地を復活させようとしている。
コーリンゲンも、以前の花がいっぱいの華やかな街に戻ってきていた。
トレージャーハントをして、各地を巡った後ロックはコーリンゲンへ戻ってきていた。
数ヶ月に一度は必ず戻っていたのだが、今回は家を建てたので冒険を一時止めにして留まっていた。
モブリズからはティナとセリスが手伝いに来てくれていた。
ティナと共にモブリズで暮らす事にしたセリス。二人とディーン、カタリーナで村の子供の面倒を見ているようだった。
モブリズも緑豊かな大地に戻ってきていて、子供達は良く外で駆け回っているらしい。
たまに
マッシュはフィガロ城から手伝いに来てくれていた。
コーリンゲンの南にある砂漠に今はフィガロ城はある。
公務で多忙なエドガーの代わりに来てくれたようだった。
ちなみに他の各々も色々している。
モグはウーマロと共にナルシェに留まっているらしい。
其処にはガウも偶にやってくるらしいが、あまり姿は見せ無いようだった。
ナルシェにも人々が戻ってきて、炭坑の町として復活をしている。
人々を集めたのはレオと元帝国兵らしかった。彼らを筆頭に、ナルシェは復興していったらしい。
カイエンはドマに居た。
ロックが各地を巡っている際にドマにも寄ってみたのだが、カイエンと近隣の村の人々がドマ城を修復していた。
城下町を作って其処に村人達は移住してくる予定らしい。そのために先ずは復興をしているようだった。
リルムとストラゴスは相変わらずサマサの村で暮らしているようだった。
リルムがシャドウにインターセプターと会いたいとお願いをした為か、シャドウは偶にだが訪れてくれるらしかった。
インターセプターもリルムに会う事が嬉しいらしく、よく一緒に遊んでいるという話を聞いた事もある。
セッツァーは相変わらずの流離いのギャンブラーらしい。
時折、頭上を通っていく飛空挺。それの情報も良く入手するので、元気でやっているらしい。
ロックは他の仲間の事を思い出しながら、大きく息を吐いた。
(・・・何だかんだで、三年か)
復興やら資金集めやらで三年だった。
これからは何時彼女が戻ってきても良い様にと思い溜めていたお金を使用し、足りない分はトレジャーハントした宝石をお金に変えて、家を建てた。
家具も買って、全部この家に暮らせるように準備をしている。
そう、何時彼女が戻ってきても良い様に。
ロックは大きく息を吐いてから箱を運んだ。
何時戻ってくるかなんて分からないけど、彼女は確かに自分と約束をした。
この戦いが終わったら、ずっと一緒に居る。と。
それを信じて、これからも過ごしていくだけだ。ロックはそう考えていた。
寂しくないと言ったら嘘になる。
今でも彼女の温もりも、柔らかさも、綺麗な金色も、全て鮮明に思い描ける程覚えているのだ。
忘れる気すらさらさら無いが。
そう思いながらロックは思い切り伸びをする。本日何度目かもう分からない仕草である。
欠伸を一つ零してから、彼は「休憩しようぜ」と言う。
「流石に朝からぶっ通しで疲れただろ?休んでくれて構わないぜ」
ロックがそう言うとティナとセリスが頷き、立ち上がる。
「ちょっと外の空気吸ってくるわね」と言って二人は外へ出て行った。
窓を開けてあるからと言っても、少し部屋の空気が篭っている気はしていた。
窓に近付いてもう少し開かないかと手をかけてみても其れは動かなかった。
ふわり、と風が吹き込んできた。
それは室内に吹き込んできて、椅子にかけておいた真っ赤なリボンを攫っていった。
ぱさりと音を立てて床に落ちた其れに近付いて、拾い上げる。
なんとなく其れを手にとって、ロックは家のドアを開けて外へ出た。
すると、家の壁に寄り掛かって休憩しているマッシュと目が合った。
「何処か行くのか?」と問うて来るマッシュにロックは頷き、「ちょっと外の空気吸いに、」と言う。
何となしに持ってきたリボン。
歩くたびに、風が吹くたびにそれはふわふわと揺れて手の中で踊っているようだった。
適当に歩いていると、レイチェルの家があった場所が視界の隅に入った。
今はあそこは彼女の家ではなく、墓となっている。
あの後、ロックはレイチェルの遺体を埋葬したのだ。
彼女の墓の回りには沢山の花々街の子供達と協力して作った小さな花畑だ。
それを横目で見ながら通り過ぎ、丘の方へ向かった。
丘は自然で出来た花畑がある場所だ。
何となく此処へ来てみては良く寝そべったりしている。
所謂お気に入りの場所、というやつか。
ロックは花を潰さない様に横になり、空を視界いっぱいに入れる。
青空に雲が流れて行く光景は、とてものどかで平和的だ。
けれども、彼の心はあまり晴れないでいた。
何時までも待つと言った手前だが、彼にだって寂しさという感情はある。
そして、不安に見舞われる事だってある。
もし彼女が自分の生きていない時に戻ってきてしまったら、心優しい彼女の事だ、涙を零して其の侭消えてしまうかもしれない。
何せ、生きる意味が無いからである。
俺だって、と思いロックは身体を起こす。
「・・・会いたいんだ・・・、」
寧ろ、自分が会いたいのだ。
寂しくて、触れたくて、傍に居たい。
心はこんなにも渇いて彼女を求めている。
彼女は今何処に居るのだろう、きっと眠っているだろう、だとしたら、どんな夢を見ているのだろうか。
そう思い、ロックは瞳を瞑ろうとした。 その時、
「わぷっ!?」
顔に何かが飛んできて、へばりついた。
海に面した丘なので風が強いこの場所で、何かが飛んできたらしかった。
何だと思い顔に付いた其れを手に取ってみると、それは見覚えのあるものだった。
「・・・・・・これって、」
青い生地の布。
見慣れたはずであるそれは、間違いでなければ―――、
「俺の、バンダナ・・・?」
何故こんな所に?
と思ってバンダナを掲げてみようとした時だった。
視界の端に何かがチラついて見えたのだ。
日の光を浴びてキラキラと輝くそれは、見間違う事の無い輝きだった。
瞳を大きく見開いて、唖然とした様子のロックは無意識のうちに立ち上がっていた。
そして、その輝きへ近付いていく。
後姿だが、見間違える筈が無い。 あの後姿は、彼女の―――!
そう思い、気持ちは焦りつつも、何故か足はゆっくりとした速度だった。
彼女から1m程離れた場所で、立ち止まる。 否、足が止まったのだ。
長い金色の髪は下ろされていて、しゃがんでいるせいで先の方が地面に散らばっていた。
彼女は身を屈ませて何かを探すように手を動かしていた。
ロックは唾を飲み込んで、瞳を細めて口を開いた。
気付けばカラカラに渇いていた喉から、声を出そうとした其の時、
「何者だ」
足元の草花に足が当たって音が立ったのだろう。
流石に接近しすぎで気付いた彼女はバッと振り返って所持していたらしい銃を向けてきた。
向けられた強気な瞳が、ロックの姿を捉えた瞬間に警戒の色を消す。
「・・・・・・あ、」
そして、瞳を丸くして其の侭硬直した。
思わず条件反射で両手を上げていたロックはプッと噴出するとやんわりとした動作で彼女の銃を下ろした。
銃を向けたままだった事を忘れていたらしい彼女は再度「あ、」と短く言うと視線を泳がせた。
真っ白なワンピースを着ている彼女は「ええと、」と言葉を濁す。
きっと何を言って何を如何したら良いのかが分からないのだろう。
そんな彼女にロックは笑みを向け、彼女に先ほど拾ったバンダナを手渡す。
そして、「お帰り、」と言って彼女の額にキスをした。
「・・・ただいま・・・、ロック、」
遅くなって、ごめん。
そう言い彼女は申し訳無さそうに眉を下げた。
それを見てロックは「ああ違う、」と言ってニッコリと笑んでみせた。
「には笑顔が似合うんだ、笑ってくれよ、折角還ってきたんだから」
そう言うと彼女は瞳を丸くし、破顔した。
そして思い切り抱き着いてきて、万遍の笑みで「ただいま!」と言った。
もう君を放さない! もう君から放れない!
お互いにそう強く思い、ぎゅうぎゅうと強く抱き合った―。
あとがきへ。