「暇だよ」



ポツリとそう言葉を零すと隣に居るバンダナがトレードマークのトレジャーハンターさんは一度私の方を見たけれども直ぐに自分の手元に視線を戻した。

そんな彼の様子に少しだけ自分が苛立ったのを感じながら今度は彼に一歩近付いてまた「暇だよ」と言う。

それでも私に構ってくれる様子が無いトレジャーハンターさんの背中に思い切り寄りかかって三度目の言葉を零す。



「暇だってばさ」

「・・・ルナ、俺はトレジャーハントの準備してて今は構ってやれないって言わなかったか?」

「言ったよ。キチンと聞いてましたってばさー・・・。 ちなみに今から三十分四十三秒前に言ったよ」



ずっと数えて待ってたんだから、と言うと寄りかかっている背中が小刻みに揺れた。

何?と思って身体を反転させてさっきから次の冒険の準備ばかりして私に構ってくれないトレジャーハンターさんの顔を覗き見る。



「・・・何笑ってるのさ」



覗いてみたら・・・何か笑ってた。

ちょっと堪える様に、でも凄く楽しそうに、可笑しそうに。

当然私の発言の後でのこの様だから自分に対して笑っているって理解した私はさっきから私を苛立たせているトレジャーハンターさんを睨み上げた。


私が怒っているのを直ぐに理解したのか彼は笑いつつも「悪い悪い」と言って頭に手を置いた。
子供扱いしないでよ、って怒ったらまた「悪い悪い」って言いながら笑った。



「・・・ねぇ、バンダナがトレードマークでさっきから次の冒険の準備ばかりして私に構ってくれないちょっとムカツクトレジャーハンターさん」

「長いな・・・っていうか何だよその呼び名!」

「私暇なんだってばさ」



バンダナがトレードマークでさっきから次の冒険の準備ばかりして私に構ってくれないちょっとムカツクトレジャーハンターさんの言う事を無視してそう言って私はまた彼の背中に寄りかかった。






暇、暇、暇。






今から三十二分五秒前に「暇」って彼に言ったのに彼は冒険の準備ばっかりで私にちっとも構ってくれない。


実は此れが初めてじゃないの、


仲間達と力を合わせて世界を救った後からずーーーっと、このやり取りをしているの。


故郷とかに皆は戻って行ったけど、私は彼に付いていって、ずっと旅をしてる。


一緒に冒険するよ、楽しいよ、次は何処に行くのかっていうのも楽しみだよ、


でもさ、でもさ、でもさ!


最近行き尽くしちゃったからさ!無いんだよ冒険の場所が!!


だから正直暇なの。私は。


此処らへんが潮時かなーとか思ってるんだけどロックは「きっとあそこら辺に洞窟がある筈だ!」とか「あそこの湖の近くが怪しいんだよな・・・」とか言って一人ででも行ってしまう。


お宝も無い場所をね。


彼は「まだまだ世界の何処かにあるはずだ!」とか言うけど、崩壊した後の世界だし、もう世界全土を歩いたと思うのですよ私はさ!


・・・だから正直暇。


冒険し尽くしちゃった世界に対して面白さを感じないし(友達に会うのは別)


一人で居るのは暇、当然。


近くに居るロックも構ってくれない。




無茶苦茶暇です、私。



此の儘じゃ暇過ぎて暇死してしまうんじゃないかってくらいね。








「ねぇ、次は何処行く予定なのさ?」

「・・・・・・」

「ねぇってばさー」

「・・・・・・」



黙って作業の手も止めてしまったロックに私はまさか、とある考えが浮かぶ。



「・・・行く宛ても決まってないのに準備してたり?」

「・・・ナルシェの近くだ、」

「今考えたでしょ」

「多分あそこの近くの山に・・・!!」

「はいはいはい多分あそこの近くにーは聞き飽きたってばさ!」



そう言って私は彼の背中から離れて彼に背を向けた儘天を仰いだ。


目に入るのは、今居る宿の一室の天上。

あら、木目がとっても綺麗。



「ねーロック」

「何だ?」



やっと普通に呼んでくれたな、と言いながらロックは私の言葉を待っている様だった。

様子は見えないから分からないけど、伊達に長く付き合ってないから其れ位は分かる。


私は一呼吸してから、一気に振り返ってロックの背中に抱きついた。


彼は驚いたのか「あ、え!?」と言って慌てながら振り返る。

「手に持ってる地図がぐしゃぐしゃになって来てるよ」とも「顔が赤いよ」ともからかいの言葉も無しに私はじぃっとロックを見詰めた。



「ねぇ、私此の儘じゃ駄目になっちゃう」

「・・・え?」

「暇なのは耐えられないの、」



そう言って彼の背に頬を摺り寄せると彼の身体が強張った。

何緊張してるんだか、と心の何処かで考えながらも私は言葉を続けた。



「ロックが冒険好きなの分かってるよ。でもさでもさ、行く宛てが無いからさ、何て言うかさ・・・・・・」

「・・・・・・、」

「・・・・・・冒険止めろとは言わないからさ、ちょっと休もうよ、休んで、休んで・・・、」



顔を上げてロックを見ると彼は真剣な表情で私の話を聞いてくれていた。

手の中にはもう、地図も何も持たずに、

唯、私を見てくれていた。


其れが嬉しくって、私は少しだけ笑って彼の背に顔を埋めた。

嬉しくて正直何言おうか考えられないよ、嬉しさの方が勝ってしまったですよ。



「休んでさ、休んでからで良いからさ、その・・・あれよ。 私に構えよ」

「否、命令形かよ」



思わず命令形でそう言って「ヤッチャッタ!」と思っていた私の頭上からロックの笑い声が聞こえる。

・・・って思った瞬間両肩を捕まれて引き剥がされた。


其れに驚いて「何で?何で?」の言葉で心と頭が一杯になって、混乱してたら正面から抱き締められた。


また脳内で「何!?何!?」の嵐が起こっている中、ロックの優しい声が響いた。



「俺はもう根っからのトレジャーハンターなんだ」

「え?何の話?」

「良いから聞け。 ・・・だからさ、長期は休んでられない。其れでも良いか?」

「はっ!?」



聞けって言われてデコピンされた後に痛がりながら聞いてたら何か凄い事が聞こえた気がして思わず大声でそんな反応をしてしまった。

した後にハッとして口に手を当てたけど時、既に遅し。

目の前には苦笑顔のロックさん。


私は取り敢えず口に手を当てた儘ロックを見上げて再度問う、


本当か、どうか。



「・・・本当に良いの?」

「良いってば、ホラ。 ちょっと休んだ後にお宝情報が入ってくるかもしれないだろ?」

「あ、あのさ!でもロックって優しいからさ、私の我が儘に付き合ってるんじゃあ・・・!」



其処まで言うとロックの手で口を塞がれて言葉が出なくなった。

思わず口を閉じるとロックは笑って私の正面に顔を持ってくると目を合わせた。



「俺は、冒険も大事だけどもルナだって大事なんだ」

「・・・・・・ん?」

「つまりは、駄目になられると困るって事だよ」



ニカリとシニカルな笑みを浮かべるロックを私は瞳を丸くして口を空けて、そう。

正にポカンな状態で見ていた。


でもちょっとしてロックの言った事を理解した私は嬉しくて堪らなくなって「ロックー!」と叫んで飛びついた。

そんな私の行動を予想していたのかロックは笑いながら私を受け止めてくれた。




嬉しい!嬉しくて仕方が無い!!




味気の無い毎日の連続で本当に暇死する所でした!!

ありがとうロック!!!



そう言ったらロックは「寂しかったんだろ」と言って私の頭を撫でてくれた。

別に寂しかった訳では無いと思うけれども、って言ったら思いっきり嘘だと言われて笑われた。


楽しそうに笑うロックにつられて、私も笑った。





味気ない日々よ、サラバ!!!




incoloro

無味乾燥な、日常・・・、でした!