少女が歩いていた。

きょろきょろと辺りを見渡し、歩いている中、

前に横たわっている彼を見つけた。

思わず小走りになって、駆け寄って、

彼を抱き起こす。

瞳を閉じている彼の頬に、ゆっくりと手を添える。


「スコール」


ねぇ、起きて?

そう問う彼女。

だが、疲れ果てた彼が目を覚ます事は無い。

ゆさゆさと彼の身体を揺らし、彼女は紅紫の瞳を揺るがせる。


大丈夫、大丈夫、きっと、大丈夫、


そう言いながら、彼女は彼の頬に手を沿え、


優しく、口付けを落とした。


その瞬間、


!!



辺りが荒廃した世界から一面の花畑へと姿を変えたのだ。
立ち込めていた雲も消え去り、今では青空が覗いている。

美しくなった景色の中、彼女は彼を抱き起こし、じっと見詰める。

そして、彼の変化に気付き、肩を大きく震わせ、唇を噛み締めて、


思いっきり、彼に抱きついた。










































































「釣れたもんよ!大物だもんよ!」



天気の良く、風も気持ちよく吹いているバラムの港。
其処に腰を下ろして釣りをしていたのはかつての風紀委員の三人。

雷神が両手で自分が釣り上げた魚を自慢げに掲げているが、誰からも賞賛の声はかからなかった。
頬杖を着き、未だに当たりの無い浮き得を見詰めている不機嫌なサイファー。
そんな彼を気にして風神は雷神を諌めようとする。

が、ついに我慢の限界がきたのか、サイファーが急に立ち上がり、竿を地面に叩き付けた。
苛立った表情で「くそっ」と零すサイファーだが、雷神は気付いていない様子で魚を自慢している。

が、直後。

風神が思い切り雷神の背を蹴ったのだ。

雷神はそのまま海へと落ち、大きな水しぶきをあげた。
あぷあぷと両手をばたつかせる彼にサイファーは小さく噴出し、次第に大きく笑い声を上げ始めた。

笑いつつ、天を仰げば不意にやってくる日陰。

真上を通過していく、母校、バラムガーデン。

サイファーは瞳を細めて其れを見詰め、ゆっくりと微笑んだ。


少年の自分とは、さよならだ。















所変わってウィンヒル。


美しい景色の中、ラグナは一人佇んでいた。
ウィンヒルの丘の上にある墓石の前で、過去を思い出していたのだ。

己の左手の薬指に嵌めてある指輪。

対の指輪は、かつて自分の命を救ってくれた恩人に手渡された物だ。



辺りも暗くなり、満点の星空が光る中、この丘に彼女を呼び出したのだ。
「ラグナ?」と自分の名を呼び、不思議そうな顔をして見上げる女性はとても愛しい存在だった。

当然、今もその想いは変わる事は無い。

中々肝心の言葉が照れのせいで言い出せず、思わず諦めてその場を離れようとした。
しかし、彼女は追い、手を伸ばしてきた。

そこで意を決して、そのまま彼女の手を取り、もう片方の手の内にあった指輪を彼女の左手の薬指に。

最初こそ、信じられない表情で自分の指に通された指輪を見つめていたが、
唐突に此方を見詰めてくる。

それに応えるように、同じ様に指輪の通されている自分の左手を上げる。

嬉しそうに微笑み、目に涙を浮かべ、自分の気持ちに素直なままに、胸に飛び込む。

しっかりと彼女を抱き締めながら、二人で幸せを分かち合ったのも、この場所だった。



ラグナはそう思いながら、彼女の墓を見詰めた。
「レイン、」と彼女の名を呟いた時、


「ラグナおじさーん!」


と、自分を呼ぶ声がした。

振り返ってみると、丘の上にキロス、ウォード、クロス。
そして、此方に手を振りつつ、丘を降りてくるエルオーネが居た。

風がまたふわりと舞った時、真上をバラムガーデンが過ぎっていった。

花びらが舞う中、彼らはバラムガーデンを微笑みながら見送った―。





















































「ど?ど?ちゃんと映ってるよね〜?」


ジジッと音を立てつつ起動するビデオカメラにセルフィが試しに映りこむ。

バラムガーデンでは無事生還したSeeD達を祝うパーティが催されていた。


とりあえず〜、と言いつつセルフィが辺りを適当に撮っていると、アーヴァインとキスティスの姿が映りこむ。
「お二人さ〜ん」と言いながらビデオカメラを向けていると、少し照れくさそうにキスティスがカメラに向かって手を振った。


「キスティ、ちょっとおかた〜い!」

「そ、そう言われても・・・。 こうかしら?」


そう言い、綺麗に映る様に工夫をしてみる彼女だったが、真下から上がってきたアーヴァインがカメラに割り込む。
ムッとした表情をしたキスティスに、アーヴァインが「ごめんってキスティ」と声をかけつつ彼女の肩を抱くが、突き飛ばされてしまった。


「アービン、自業自得」

「ちょっとした冗談だったのに〜」


そう言いつつ頭をかくアーヴァイン。


キスティスはそのままシドの方へ向かい、挨拶をする。
少しの間、二人は雑談を続けていたが、学園長がカメラに気付く。
「セルフィ、こんばんは」と言い、笑みを向けてきた。

そしてグラスを掲げてちょっとしたポーズを取ってみたり。

その後照れた様に頭をかくシドだが、ある人物を見つけ、嬉しそうな笑みを零した。

セルフィも同じように「あっ」と声を漏らす。

カメラが移動した先には、真っ黒なドレスに、真っ黒な綺麗な長髪。
幼い頃から皆が知っている、まませんせいの姿のイデアが居た。
お辞儀をした後に、シドの方へ一歩一歩近付いていく。
シドに寄り添い、仲睦まじい二人の様子を捉えていると、アーヴァインが近付いた。
彼は帽子を取ってキスティスと共に紳士的に礼をし、少しの間雑談をする。

そんな中、アーヴァインがふとカメラの方を見、セルフィに近付いて彼女の頭に自分の帽子をかぶせた。


「な〜に〜?」

「ほら、カメラ交代」

「えっ?いいの?」


ありがと〜!と言いつつセルフィは早速アーヴァインにカメラを渡してキスティスの方へ駆けていく。
一緒に並んだ様子をアーヴァインが撮るが、セルフィがある事に気付く。


「アービン!それ横!立てて立てて!」

「へ? ああ、こうかい?」


んしょ、と声を入れつつカメラの向きを直す。
そうするとセルフィは満足そうに微笑、カメラに向けて手を振ってみたりする。

丁度その時、他のガーデン生徒から「アーヴァイン」と声をかけられた彼がカメラを其方に回す。
挨拶代わりに手を振っていると、真横からセルフィが割り込んできた。


「ちょっとアービン!」

「わわ、ゴメンよセフィ〜?」


ムッとした表情をした彼女は、そのままキスティスと共に別の場所へ移動しようとする。
拗ねてしまったセルフィをどうしようか、とアーヴァインが考えている時、何かを見つけたらしいセルフィがキスティスの腕を引く。
それを見たキスティスも笑みを零して女子二人でクスクスと笑い合う。


「ゼルさん、そんなに急いで食べなくても・・・」


図書委員の三つ編みの女子生徒が心配する中、ゼルがパンを頬張っていた。
次から次へとパンを口に入れるゼルだが、詰まったのかコップを手に取る。

が、中身は空。

思わず咽こんだゼルの背を、セルフィ、キスティスも駆け寄って三人で擦る。
三つ編みの図書委員の女子が「お水貰ってきますね!」と慌てて駈けていった中、キスティスとセルフィでゼルに声をかける。


「やるじゃないの、ゼル」

「そ〜だね〜! 良い感じだと思うよ〜!」

「ただ、パーティでもやっぱりパンなの?」

「っていうかそんなに急いで食べなくたっていいじゃん?」


ムグムグ、と口の中の物を無くそうとしているゼルにキスティスとセルフィが言い続けている、と、

唐突に立ち上がったゼルが「うるせぇ!!あっち行け!!」と言い腕を振って二人を追い払った。
キスティスとセルフィは笑いつつ「きゃー」等と言いふざけつつ退場する。

そのまま三つ編みの図書委員の女子が戻ってきて差し出してくれたグラスを傾けていた所。
まだアーヴァインがカメラを向けている事に気付いたゼルが、


撮ってんじゃねぇー!!!


と言いパンを投げつけてきた。
「わわわ!」とアーヴァインは慌てつつ、その場を退散した。

その後セルフィの後姿を追いつつ撮っていたら、彼女の前からリノアが駈けて来た。
どこか嬉しそうな表情で、「こっちこっち」と言い三人に手招きをする。

セルフィ、キスティス、アーヴァインがリノアの後を追い、彼女の指した方向を見ると、


「おっ!」

「アービン!撮って撮って!」

「撮ってる撮ってる!! ・・・って、あれ?」


ピーという音を最後に、ビデオカメラの電池が切れてプツリと途切れた。


それに思わず四人共「あーっ!」と声を上げた。















「前も此処でお話したよね」


テラスに寄り掛かりつつ、星空を見上げながら言う
スコールはそれに無言の肯定を返しつつ、その時の事を思い出す。

SeeD就任試験の後の、合格パーティ。

あれから色々な事がありすぎて、とても前の事の様に思える。


「なーんか、いっぱい、色々あったね」


スコールと同じ事を考えていたらしいがそう言い、少し微笑む。


「考えてみたら、ほんと色々あったね。
 私、スコールに迷惑かけっぱなしだった」

「否、迷惑なんて思ったことは無い」


スコールはそう返し、彼女と同じように満点の星空を見上げる。


「あんたは俺にとって一番の存在なんだ」


だから、

と、言いスコールは真っ直ぐにを見詰めた。
彼女の頬に手を伸ばし、柔らかな頬に触れる。


「あんたは俺が絶対これからも守り続ける。
 あんたからは離れない、俺が絶対、を幸せにするんだ」


真っ直ぐに見詰められ、真っ直ぐに気持ちを伝えられ、は思わず頬を赤くした。
あ、と小さく声を零し、彼を見上げる。


彼の本気の気持ちが伝わってくる。


は少しだけ笑んでから、彼の手に己の手を重ねた。

そして頷いて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「スコールの傍が、幸せ」


きゅ、と彼の手を掴む力を込める。


「ありがとう、スコール」


そういった彼女にスコールは満足そうに微笑んで、顔を上に上げさせた。

輝く満月を背に、スコールはに優しく口付けを落とした―――。


魔女の騎士として、彼女を愛する獅子として、誓いの口付けを。


俺が着いている、ずっと、ずっとだ


永遠に。


そう誓いをして、彼らはゆっくりと抱き合った。




あとがきへ。