ガーデンの廊下を何気なく歩いていたら、前方に見慣れた銀色が見えて、アーヴァインは足を止めた。
壁に寄りかかってた彼女は、アーヴァインの姿を目に留めると、少しだけ笑った。
「ちょっと、いい?」
にっこり。
は綺麗に笑っていたけれど、それが何だか少し怖く感じてアーヴァインは思わず背筋を伸ばした。
に連れてこられるままにアーヴァインは中庭に行った。
先を歩いていたは適当なベンチに腰を下ろすと、隣をばしばしと叩く。
座れ、と言われているようでアーヴァインはそれに素直に従った。
少し長くなった銀の髪が、さらりと揺れた。
、きれいになったなぁ。
アーヴァインはそんな事を思いながら、彼女の紅紫の瞳を見つめた。
「何が言いたいかなんて、アービンは分かってると思う」
「・・・スコールにも注意されたからね」
カップルで注意しに来るんだもん。
アーヴァインはそう言いながら唇を尖らせた。
「・・・ね、なんでセフィと一緒に居るのやめちゃったの?」
「良く言うだろ〜?押して駄目なら引いてみろってさ」
「嘘吐き」
は真っ直ぐアーヴァインを見据えて言った。
「どーせ他の理由があるんでしょ」
そうやって直ぐ誤魔化しに走るの、やめた方がいいよ。
はそう言いながら少しだけ笑った。
「私にも話せない?」
「・・・別に、そんな大層なものじゃないさ」
そう言い、彼はテンガンハットを外し、の頭に被せた。
深く被らされ、思わず「わ」と声を漏らす。
上げようとした彼女に、アーヴァインは「そのまま」と言う。
「僕、情けない顔してるから。そのままで聞いて」
「・・・うん」
大人しく頷くと、アーヴァインがホッとしたような感じがした。
「・・・セフィは、僕にとって太陽みたいなものなんだよ」
太陽。
いつもにこにこ笑ってて、元気なセルフィ。
まるで太陽みたいな存在。
いつも僕を明るく照らしてくれる。
「セフィは傍に居てとても温かいんだ」
「大好きな人、だもんね」
がそう言うとアーヴァインは「うん、」と声を漏らした。
が、すぐに「でも、」と続ける。
「傍に居られないんだよね」
どうして、とは考えた。
だってセルフィとアーヴァインは同じガーデン内に居るのに、
そう思う彼女の肩を、彼は軽く叩いた。
「セフィはトラビアガーデンに行くんだ」
今も復興作業が続けられている、トラビアガーデン。
先の戦いの中でガルバディアからミサイルが発射され、唯一犠牲になったガーデン。
そこはセルフィの故郷のような場所であり、彼女の友だちも、たくさん居た。
2年経っても、完全に復興作業は出来ずにいる。
ガーデン教師に、なんて言ってたっけ。
そう思いながらは手持ち無沙汰な手を合わせる。
「・・・そう、なんだ」
「うん。でも、僕はここでシド学園長やママ先生を守りたい」
そっか。
は紅紫の瞳を揺らした。
「だから、今のうちから離れちゃうの?」
「遠距離恋愛なんて、僕には自信が無いんだよ」
アーヴァインはそう言い小さく息を吐いた。
きっと表情は自信なさげになっているのだろう。
「セフィは一体何をしているか、余計な男がセフィに近付いてないか、僕の事、セフィが考えてくれてるかとか、」
「・・・アービン、」
「セフィは寂しがりやなんだ」
大切な人を作って、また失ってしまう事を怖がっている。
明るく見えて、人一倍寂しがりやなセルフィ。
彼女が弱音を吐く相手も、極限られた人物のみ。
「そんな彼女と遠距離恋愛だなんて、僕は自信が無いんだよ」
ヘタレって言われるかな?
そう言うアーヴァインの声色は、沈んだものだった。
「僕はセフィが大好きなんだ」
きっと、彼女も。
ふっと彼が笑う気配がした。
アーヴァインの言う通り、セルフィも彼を気にかけている。
それは彼女の弱音を聞いたは知っていた。
でも、とは顔を上げようとした。
しかしそれはアーヴァインに頭に手を置かれて抑えられた。
「だめだってば」
「・・・アービン、」
「離れるしかないんだよ、僕たちは」
幼少の頃から、ずっと好きだった女の子。
想い続けていた少女は、とても可愛らしく成長していて惚れ直したくらい。
なのに、
「アービン!!」
はアーヴァインの手を振り払って勢い良く顔を上げた。
突然の彼女の行動と声に、彼は緑の瞳を丸くした。
眉は下げられていて、口もへの字に歪んでいる。
情けない表情のアーヴァインに、は詰め寄った。
「情けない!ヘタレ!ばか!にぶちん!!」
「え、ちょ、なんでこんな罵られてるの?」
「本当の事だもん!!」
握り拳を振るって言う。
彼女が首を動かすとテンガンハットがずれる。
そんなの紅紫色の瞳は揺れていた。
突如、勢いをなくして眉を下げた彼女に、アーヴァインはぎょっとする。
「なんでセフィを想ってあげないの?」
「・・・だから、想ってるから、」
「嘘!!」
また眉を吊り上げ、アーヴァインに詰め寄る。
そんな彼女に彼はまたたじろぐ。
が、直ぐにが唇を真一文字に結んだのを見て、瞳を丸くした。
「・・・セフィ、不安がってた、怖いんだよ、好きな人が別の人と居るの、不安になるんだよ・・・」
「・・・セフィが、」
瞳を揺らす。
は瞳を伏せ、彼の手を取った。
「アービン、勇気を出して」
「勇気・・・」
「私、知ってる。ヘタレでびびりでも、いざという時はちゃんとやるんだって」
「・・・ひどい言われ様だな〜!」
まったくー!と言いつつも彼は口の端を吊り上げた。
大きな手で、の頭をくしゃりと撫でた。
「・・・ありがとう、君にはいつも励まされるね」
ガルバディアガーデンに居た頃も、前の戦いの時も。
アーヴァインはずっと前を見ているの強さに救われてきた。
『アービン、落ち着いて。 大丈夫、外しても大丈夫だから!』
『・・・・・・』
『私たちが何とかするから! ・・・ねっ?』
魔女狙撃作戦の時も、はアーヴァインを励ましてくれた。
いつだって明るい笑顔でみんなを励ましていた。
そんな彼女に、いつも―――、
アーヴァインはそこまで考え、瞳を柔らかく細めた。
「、君が友だちで良かったよ」
ありがとう。
アーヴァインはそう言いはにかんだ。
そんな彼には最初こそ瞳を丸くしたが、直ぐに腰に手を当てて胸を張った。
「当たり前でしょ!」
そう言い笑うに、アーヴァインは笑みをこぼした。
まったく。と言いは腕を組む。
「相変わらず変なところでヘタレちゃうんだから」
「そー言わないでくれよ〜!」
ま、頑張ってよ。
そう言いはアーヴァインの背を叩いた。
その痛さが、今は彼にとって安心するものになった。
アーヴァインの背中を押す話(笑)