「んぐぐぐ・・・」


もごもご、と口を動かして唸る彼女。
さっきからずっとそんな調子のに俺は溜め息を一つ吐き、「もういいだろ?」と言う。

それに拒否の念を表すかのようには俺の目の前に手を出してきて首を振る。

そんなを見て、俺はまた溜め息を一つ零した。


「・・・さくらんぼのへたくらい、結べなくてもいいだろう・・・」


そう零すと、はちっちっち、と言い人差し指を立てて振る。
そして「甘いぞスッコー君」と言い片頬を少しだけ膨らませながら俺に言う。


「これが出来る人って事は、イコールキス上手って事なんだから!」

「別にアンタは恋人は要らないんだろ?」

「・・・、でもっ!スッコーに出来て私に出来ないなんて悔しいじゃん!!」


はそう言うとつん、とそっぽを向いてまた口内をもごもごと動かし始めた。

微妙な間が空いたが、今のは何なんだ。と、俺は思いながらも水を口に含む。
この分だとまだまだ時間がかかりそうだ。
雑誌でも読んで待ってるか、と思いつき俺は机の上に放置しておいた月刊の武器雑誌を手に取る。

ぱらぱらとそれを捲っている間にも、はずっとさくらんぼのへたと奮闘していたが、やがて力尽きたのかゴッ!という音を立ててテーブルに倒れた。

明らかに痛そうな音がしたぞ、今。

そう思いながら「おい、」と声をかけるとはゆっくりと顔を上げて俺を見てくる。


「デコ赤いぞ、あんた」

「痛い。 ね、スッコー。コツとかないの?」

「知らない。自然に出来た」


俺の返答が不服なのかは「えぇー」と言って頬を膨らませた。
仕方ないだろう、本当に自然に出来たんだ。

はじ、っと俺を見てきて「ん!」と言ってさくらんぼのへたを差し出してきた。
自分はまだ口内でもごもごとしながら。という事はつまり、


「お手本にするからやってみて!」

「絶対出来ないと思うがな」

「だーかーらー!アドバイスちょうだいよステテコ君!」

「誰がステテコ君だ。 ・・・仕方ない、」


最早最初のスと最後のコしか合ってないじゃないか。
そう思いながらも俺はさくらんぼのへたを口に放り込んで舌を使って上手くへたを巻く。


「取り合えず、巻け」

「それがですねー上手く巻けないんですよねー」

「努力しろ」

「アドバイスになってないからね!?」


んー?と、声を上げながらもごもごと口を動かす
彼女がそうしている間にも、俺は既にへたを結べていた。
舌に乗せて出すと、それに気付いたが「あ!」と声を上げる。


「・・・っていうか、スッコーがキス上手ってのが意外なんですけど」

「俺も知らない。した事も無い」

「・・・無いの?」


瞳を真ん丸にして問うてくる
そんな彼女に俺は「悪いか」と返すと「いや、うん、全然」と返してきては結べていないへたを出した。


「なーんか、意外っちゃ意外だけど、そうっぽいかも」

(・・・どっちなんだ)

「スッコーって、そういうの興味無さそうだし、今までだってどうせ彼女居なかったんでしょ?」

「・・・だったら何だ」

「ううん、特には。 唯、将来スッコーの彼女になった子は上手くリードしてくれる彼氏で幸せだねーって思ったの」


はそう言うと俺のベットにごろりと横になった。
そんな彼女に俺は頭を抑える。

どうして男の部屋でこいつはベットで横になるんだ・・・。

別にどうこうする気は無いが、こうも無防備で居られると悲しくなってくる。


「・・・へた結びは諦めたのか?」

「あ、うん、なんか、もういいや、眠いし」


はそう言うとくぁ、と欠伸を零した。
そんな彼女に俺は「其処では寝るなよ」と言うとそのつもりだったのか「けちー」という声が返ってくる。


「私は・・・良いやぁ・・・。 スッコーみたいな人に、リードして・・・貰えれば・・・・・・、」


そう言った後に、すぅ、という寝息が聞こえてくる。
本当に寝たのかと思い近付いて覗き込んで見ると、瞳を閉じて眠っているがそこに居た。

俺は溜め息を零し、タオルケットを彼女にかけてやる。


「・・・俺が、」


そこまで言いかけて、首を振って言葉を止める。

これは言うべき言葉では無い。
己の中の欲望を押さえ、俺はの赤くなった額にそ、っと手で触れてストックしていたケアルを放つ。
淡い光が舞い、彼女の額の赤みは消え去った。

こんな事で本来魔法は使うべきではないのだが、瘤になりそうだったのでつい使ってしまった。


(俺も、変わったな)


そう思いながら俺はベットに腰を下ろした儘、閉じた雑誌をまた開いた。







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