ひらり、と下げられたヴェールが揺れた。
ヴェールからうっすらと見える空色の瞳が宝石みたいで、思わずフェルトは見惚れていた。
「、すごく綺麗・・・」
プトレマイオス2の一室では純白のウエディングドレスを身に纏っていた。
見惚れるフェルトにえへへと笑みを零すとは「ありがとう」と告げる。
「結構ふわふわしてるねやっぱり」
「ええ・・・装飾品や化粧もすると、やっぱり本番って感じがするね・・・」
そう言うフェルトも、ドレスを身に纏っている。
フェルトのドレスも可愛い。
そう告げるにフェルトもはにかんだ。
「アレルヤはもう準備してるんだよね」
「そうよ・・・そろそろ私は"お父さん"役を呼んでくるから」
「ありがとう、後でね、フェルト」
微笑んで言うとフェルトは部屋から出て行った。
一人残された部屋で、はゆっくりと瞳を伏せた。
今日は結婚式。
アレルヤとハレルヤと、家族になる大切な日。
仲間達も集まって、準備をしてくれた。
皆への感謝の気持ちも込めて、幸せな日にしたい。
がそう思った時、ドアが軽くノックされた。
入ってきたのは、大切な人の友である人物。
彼は室内に入ると、海色の瞳を柔らかく細めた。
「美しいな。あいつも見れなくて悔しいだろう」
「そう、かな?」
ありがとう、そう言いは差し出された手を取った。
立ち上がり、前に立つレイを見つめる。
しかし、と言いレイは少しだけ首を傾げる。
「本当に俺でよかったのか?ロックオンやエーカー少佐でも・・・」
「ううん、シンの友だちのレイが良かったの」
ロックオンもお兄さんだし、グラハムも立候補してくれたけどね。
そう言い微笑んだにレイはそれ以上は何も言わず、腕を出す。
彼の腕をとり、そのまま二人で歩き出す。
「・・・シンにも見せたかったな」
「うん・・・逆を言えば、私シンの結婚式も見たかったかも」
「恐らく、彼女と結婚するだろうな、シンは」
紅紫色の髪をした少女を思い浮かべながらレイが呟く。
半ば複雑そうな表情のレイに、が小首を傾げる。
「・・・さんかくかんけー?」
「俺の話は良いだろう」
「あ、そうなんだ」
気にするな。俺は気にしていない。
そう言うレイがなんだかおかしくて、はくすくすと笑みを零した。
進みながら、正装をしたレイを見上げる。
「それって、シンとお揃いの服だよね」
地球連邦の軍服とは違い、赤色の見覚えのある軍服を着ているレイに言う。
記憶に色濃く残っているそれは、ZAFTの赤服だったはずだ。
そうだ、と答えたレイはを見ずに言葉を続ける。
「フレイも以前の服を着ている。・・・クロトたちの物には、お前は見覚えがありそうだが」
「そうだね、地球軍の軍服なら・・・」
アウルとスティングも着ていたもの。
青を基準としたあの軍服を想像しながら言うに、レイは口を開く。
「俺たちはあの世界を忘れてはいけないんだ」
あの戦いも、出会った人も、失った人も。
勿論、討った命も。
そう言うレイには小さく頷く。
「この世界を受け入れなくてもいけない。だが、俺たちも、受け入れられるんだ」
「・・・そう、だね」
この世界で、この服を着ている意味。
レイの言いたい事を理解して、は微笑んだ。
「私はこの世界を受け入れて、受け入れられるんだもの」
今日、この日に。
そう言うにレイも微笑んで頷いた。
丁度そこで用意された部屋の前に着く。
スライド式のドアを開ける準備をしながら、レイが「準備はいいか」と問う。
は「おっけー」と言って微笑んだのを見てドアを開く。
ドアが開かれた途端、用意されたオルガンの前に座っていたマリナが曲を奏で始めた。
約束通り、マリナ・イスマイール皇女が養子たちを連れて参加してくれたから。
その養子の中から選ばれた子ども二人が、の長いヴェールを持ち上げた。
そのまま、レイと共に赤い絨毯の上を歩く。
左に座っているルイス、沙慈は手を繋ぎながら真っ直ぐにを見詰める。
普段は退屈そうにしているクロト、オルガ、シャニも軍服を身にまとってじっとを見詰めていた。
ロックオンとアニューも笑顔で、スメラギやフェルト、ミレイナも嬉しそうに、瞳を向けている。
他の面々も穏やかな表情で二人を見守る。
途中、レイが離れ、を見送る。
そこで、ゆっくりと壇上の人物が振り返る。
髪を上げて、金と銀の瞳を真っ直ぐに向けてきた彼は、純白のタキシードを身に纏っている。
思わず見惚れてほうと息を吐くと、彼は照れたように笑んだ。
も壇にあがり、神父の位置に居るレーゲンを見やる。
二人が向き直ったところでオルガンも止まり、レーゲンは微笑んだ。
「新郎、あなたは新婦が病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「((誓います))」
脳量子波でも通じた。
彼らの答えにレーゲンは頷いた後、に向き直る。
「新婦、あなたは新郎アレルヤ、ハレルヤが病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「はい、誓います」
微笑んで言うに彼も嬉しそうに口の端をあげる。
「では、指輪の交換を」
レーゲンが告げると、脇に控えていた子どもたちが両手でしっかりと指輪の入った箱を持って出てきた。
子どもがのブーケを預かったのを見て、彼は指輪を受け取り、彼女の手を恭しく取る。
そっと銀色に輝く、綺麗な宝石のついた指輪を彼女の指に嵌める。
が眩しそうに空色を細めた後、自分も子どもから指輪を受け取る。
彼の手を取り、同じ指輪を嵌める。
((おそろいだ))
嬉しくてそう思うと、脳量子波を介して伝わってしまったのか彼は照れた様にはにかんだ。
くるくると入れ替わりで別の子どもがキャンドルに火をつける準備をする。
一生懸命な子どもたちの様子を見て微笑むは、そっとそれに火を灯す。
彼もした事を確認してから、レーゲンが「では、」と告げる。
「誓いのキスを」
スメラギやフェルト、ミレイナがとても楽しみにしていたと言っていた。
は人前は少し恥ずかしいかも、なんて思いながら体を彼に向ける。
改めて真正面から見る彼は、とても格好よかった。
普段下ろされている前髪は全てあげられ、普段と同じなところは襟足が軽く跳ねているくらいだ。
白いタキシードを着こなす彼は、とても魅力的だった。
反して、彼ものウエディングドレスに見惚れる事になる。
ヴェールに隠されて表情は上手く見えないが、胸元にちりばめられたレースも、純白の布地の上に巻かれてボリュームたっぷりのスカートを見栄えさせる大きなリボンも、全てが彼女に似合っていた。
自分が触れたら汚してしまうのではないかと思うくらい、綺麗だった。
ゆっくりとした動作で彼女のヴェールをあげると、普段より巻かれた睫に、チークが軽く塗られた頬、淡い色をしたシャドーがよく見えた。
お互いを見詰め合った後、がそっと瞳を伏せた。
唇は変わらずぽってりとしており、軽くグロスが塗られていた。
気付けば、周りの目なんて気にせずに吸い寄せられるように口付けをしていた。
直後、
「ガンダムのパイロットよ!必ずを幸せにしてくれたまえッ・・・!」
感極まったのか、突然グラハムが立ち上がって叫んだ。
うぇ!?と思わず声を出してしまいアレルヤが思わず其方に顔を向ける。
グラハムの隣に座っていたアンドレイは「しょ、少佐!」と彼を座らせようとするが、悪乗りしたスメラギが煽りを入れた。
「素敵なキスシーンをごちそうさま!」
「幸せになって欲しいですー!」
ミレイナも乗りに乗って両手をあげて言う。
「絶対放すんじゃないわよー!」
「幸せにな」
「めでたいじゃないか。狙い撃ったなお前さん」
「もう、ライルまで・・・」
フレイとレイがはやし立てた後、ウインクして言うロックオンにアニューが笑みを浮かべながら言う。
アレルヤは力なく笑った後、改めてに向き直る。
「絶対、絶対幸せにするからね」
「うん!私もアレルヤとハレルヤを幸せにするから!」
男らしい台詞を言いながら微笑む花嫁にアレルヤも笑む。
そのまま彼女の両肩に手を置いて再度顔を近づけた。
「・・・んむっ」
「嫌だっつっても、もう放さねぇからな」
ハレルヤはそう言い腕を動かす。
そのままを横抱きにし、見せ付けるように全員を見下ろした。
「わ、わ!」
「いいか!お前はもう俺の嫁なんだよ!」
((僕も!・・・僕らの、家族だよ、))
「・・・うん!」
彼の頬にキスをして、は明るく微笑んだ。
ラッセが指笛を鳴らすと、他の面々も悪乗りをする。
レーゲンがやれやれといった様子で微笑む中、お色直しだろ?と言ってハレルヤがずんずん進む。
「ほーら!幸せになって下さいねー!」
ミーアがフラワーシャワーを先だって行うと、全員も席を立って籠を持ち始めた。
花弁の雨を受けながら、と彼が微笑む。
「!幸せにね!」
「泣かすんじゃないぞ、アレルヤー!」
「ガンダムのパイロット!覚えておくこ・・・「し、幸せに!」・・・今一度言うぞ!ガンダムの・・・!」
「おめでとう、二人共!」
其々の面々が祝福の言葉をくれる。
嬉しい。
は微笑みながら彼の首に腕を回した。
「私、とっても幸せ!!」
こんなにも胸がいっぱいなんだもの。
きっと、貴方も同じ気持ちだよね。
―シン、
別の空の下、頭の上に花弁を積もらせた青年がふと空を仰いだ。
深紅色の瞳を穏やかに細めながら、彼は柔らかく微笑む。
「・・・ああ、幸せだ」
そう言い、空で輝く太陽を眩しげに見つめた。
『今日はたくさんの人がお祝いに来てくれた。賛美歌っていうのも、ミーアとマリナさんから教えてもらって歌ったよ。
誓いのキスとか、色々みんなの前でとか恥ずかしかったけど、楽しくする事が出来たの。
あ、一応画像とかハロの中に入れるけど・・・あんまり見ないでね?
画像、撮ってもらったのもたくさん入ってるけど・・・ね。見たかったら見てみてね。
ひろーえん?とかもやって・・・違うドレスに着替えてみんなとお話したよ。
フェルトはずっと嬉しそうにしてくれてたし、ミレイナも羨ましがっててイアンさんを困らせてた。
アンドレイさんはフレイの事ちらちら見てたけど、フレイは気付いてるのに気付かないふりして意地悪だったし・・・。
レイとはシンの話をたくさんしたよ。あと、ライルはアニューと俺らもやるかー?みたいに言ってていちゃいちゃしてた。
スメラギさんはラッセたちと飲んでたし、マリーもレーゲンたちと一緒に楽しんでた。
今日はどたばただったけど、とても幸せだった。貴方が戻ってきた時、もう一度着て見せてあげたいな・・・・・・、
画像見てくれた?大きくなったでしょ、もうちょっとで産まれるんだって。
男の子か女の子かとか、まだ聞いてないの。産まれてからのお楽しみにしたくって・・・。
最初、小さい頃から戦いばっかで、この手を真っ赤にしてきた私が、子ども産めるのかって・・・
育てていけるのかって、すごく心配だったの。
でも、一人じゃないから・・・アレルヤもハレルヤも居るし、他のみんなもたくさん手伝ってくれるから・・・。
名前もね、実は考えてあるんだ。でもまだアレルヤにもハレルヤにも内緒なの。
こっそり先に教えてあげるね・・・あのね・・・って、わ!マイスター集合!?ちょっと久々・・・。
あ、お手伝いだから行って来るね。大丈夫、MSには乗らないから・・・乗らないから!
ちょっと間が空いちゃった・・・ごめんね。なんか寝るっていうか、気絶?したみたい。
で、産まれましたー!あのね、ほっぺとか本当にぷにぷになの、なんていうか、そう、猿みたいほんと。
目とかまん丸でね、まだあまり見えてないみたいなんだけどこっちに手を伸ばしてくるのー!
あうあうんばんばとか訳分からない事ばっか言ってるけど、なんとなく分かる気がする・・・まさか、脳量子波かな?
あ、名前なんだけどね、まだ他の皆には内緒なの。貴方に一番に教えたくって・・・。
アレルヤとハレルヤも私が決めたのなら良いよって言ってくれたからもう決定なの!
可愛い可愛い私の子ども。重たいなぁって思ってたらなんと双子ちゃんでした!
びっくりだよね、なんかアレルヤとハレルヤみたい、って言ったら片方女の子だったから怒られちゃった。
あっ、それでね、名前なんだけど――――、』
球体のそれを片手で持ち、そっとデータを開く。
そこにはソレスタルビーイングのトレミークルーや、他の訪れた面々の姿が映し出されていた。
どれもみんな笑顔で映っている。
懐かしい彼らの姿に口の端をあげると、触れていた手にかすかな力がこもったようだ。
直ぐに触れていた彼女が気付いた。
「どうしたの?うれしい事だった?」
「・・・ああ。これは宝物だな」
たくさんの思い出と心が詰まった、宝物。
そう答えると彼女は穏やかに笑んで「それは良かったわ」と言った。
「じゃあ、大切にとっておかなければね」
「ああ・・・想いを伝えに行くのも悪くない」
けど、今は。
そう言い彼は彼女の手を優しく握る。
意図が伝わったのか、彼女はにこりと微笑んで彼の手を握り返した。
俺は今、幸せだ。
そう思いながらソラン・ブラヒムはそっと瞳を伏せた。
Fin
→あとがき