『反連邦勢力による未曾有の大型テロ「ブレイクピラー」から4ヶ月。
多数の犠牲者とその遺族の悲しみは、いまだ癒えません。
しかし、メメントモリにより、軌道エレベーターの完全崩壊は免れ、崩落による異常気象も沈静化の兆しをみせています。
そして、今日、人類は新たなる復興の日を迎えました』
テレビ報道が流れる。
GN−XVがアクロバット飛行により、空に綺麗な模様が浮かぶ。
『連邦加盟国の技術支援により、アフリカタワーの送電が再開されたのです!
この喜ばしい日に、初代地球連邦大統領として宣言します!
復興と共に、新たなる戦いも、今日から始まるのだと!
大型テロを未然に防ぐため、地球連邦軍はその指揮権を、独立治安維持部隊アロウズに集約。
反連邦勢力を撲滅し、真の統一世界実現のため、邁進していく所存です!』
そんな報道を消して、は前方に映った目標を見やった。
「・・・目標、オービタルリング上にある衛星兵器、2号機・・・!」
セラヴィーとアーチャーアリオスの間を通り抜け、は一気にチャージしておいたGNメガランチャーを放つ。
『ハッシャネ!ハッシャネ!』というハロの声を聞きながら、メメントモリ周辺に展開していた巡洋艦を1機撃沈させる。
そのままの勢いでGNソードを抜いて突っ込むカマエルに、刹那が声をかけようとする。
が、それより先に、アーチャーアリオスのGNアーチャーがGNミサイルを発射し、MS部隊を倒しつつ進み出た。
『! 、マリー!』
『・・・アレルヤ、彼女のフォローを!』
『・・・了解!』
刹那に言われ、アリオスも前進する。
両手にGNソード、GNブレイドを持ちGN−XVを切り倒していく。
「お前らを倒さないと・・・倒さないと・・・!!」
あれを壊せないだろうが!!
そう叫びながらは更にカマエルを加速させた。
あんな兵器があるから、いけないんだ!
そう思い行く手を阻む敵MSを破壊する。
叫ぶを気にかけつつ、刹那は沙慈に通信を入れる。
「ジェネレーターの制御は?」
『やってる!』
沙慈はモニターを見ながら答える。
(協力するのは今回だけだ・・・衛星兵器を破壊するためなら・・・!!)
沙慈がそう思っていると、ジェネレーターの制御画面が変わった。
同調した!と言う沙慈に刹那は「了解」と返しダブルオーライザーをトランザムさせる。
「トランザム・・・ライザー!!」
ライザーソードはそのまま振り下ろされ、メメントモリを切り裂いた。
中部までいったところで、オービタルリングを切らない為に真横に薙いだ。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
刹那の攻撃により、メメントモリは大爆発した。
それでもなお、攻撃を続けるアロウズのMS。
カマエルの背後を取ったアヘッドが、ビームライフルを放つ。
「・・・う・・・!」
機体が揺れる。
は目の前のGN−XVを斬りつつ振り返りつつ、GNバルカンを放つ。
怯んだアヘッドにとどめをさしたのは、GNアーチャーのビームサーベルだった。
「・・・退かないのなら・・・お前らも・・・!」
『落ち着け、!』
凛とした声が通信越しに響いた。
GNアーチャーがカマエルの腕を掴み、そのまま後退する。
『戻るぞ』
短く言われ、は荒くなった呼吸を整えるために、深呼吸を繰り返した。
そのままGNアーチャーに続いてプトレマイオス2に先に戻る事となった。
帰還したカマエルを収納した後、はコクピットからゆっくりと出た。
キャットウォークの上で立ち止まり、メットを被ったままバイザーを開き薬を飲む。
ブレイクピラーから4ヶ月。
世界の情勢は動き続けている中、アロウズの情報統制もあり、未だに偽りの平和が表面上にある。
薬を飲んだおかげか、精神が安定してきた。
はそう思いながら、メットを取った。
そこに、
「!!!」
銀色の髪を揺らし、赤色のパイロットスーツを身につけた彼女が移動してきた。
半重力の中、着地した際に彼女の銀色の髪がふわりと舞った。
「・・・ソーマ、」
「また無茶をして・・・!」
金色の瞳を鋭くさせる彼女は、ソーマ・ピーリスだった。
両腕を伸ばし、の両肩を掴み、ソーマは一気に顔を近づけた。
「異常は無いか!?」
「へ、平気・・・薬も飲んだし・・・」
「何ならレーゲンの所にでも・・・、」
「マリー!!!」
ソーマがそこまで言ったところで、アレルヤの声が響いた。
それに反応してか、ソーマの瞳の鋭さが増す。
アリオスのコクピットから降りてきた、オレンジのパイロットスーツを身につけたままのアレルヤが、下方に居た。
彼を睨みつけながら、ソーマは口を開いた。
「その名で呼ぶなと何度言えば分かる!
私はソーマ・ピーリス!超人機関の超兵1号だ!」
そう言いソーマはの腕と腰に手を回し、床を蹴った。
突然の事に瞳を丸くするの手からメットが落ちる。
「おっ」
ロックオンが前から来たが、ソーマとに道を譲る為に身を動かす。
そのまま落ちている朱色のメットを拾い上げ、アレルヤを見やる。
すっかり意気消沈した様子のアレルヤは、「マリー・・・」と小さく呟いていた。
そんなアレルヤにロックオンは溜め息を吐き、傍に居る沙慈と一緒に肩を竦めた。
格納庫から出たソーマは、片手に移動用レバーを握り、もう片方の手での腕を掴んでいた。
『大佐!・・・大佐ぁぁぁっ!!』
目の前で大破したタオツー。
それにはセルゲイ・スミルノフが乗っていたのに!
大佐が、
『ああ・・・ああああ・・・!!!』
ソーマはGNアーチャーの中で言いようのないショックを感じていた。
あの優しい大佐が、どうして、
『何故だ・・・!何故大佐が死ななければならない!?』
そこである事に気付き、GN−XVを目で追う。
タオツーを撃墜したGN−XV。
確か、あれに乗っていたのは、
『あのGN−XV・・・アンドレイ少尉・・・殺したというの?』
肉親を、実の父親を?
そう思い、唖然としている彼女に通信で声がかかった。
『どうしたの、マリー』
聞き覚えのある声。
マリーと自分を呼ぶ、超兵の声。
『黙れ!私はソーマ・・・!ソーマ・ピーリスだ!!』
4ヶ月前の事を思い出したソーマは、表情を歪めた。
(私が欲しくても手に入れられないもの・・・)
『任務を終えたら、必ず帰ってきます!』
そう言いあの家を出た。
あの家に帰れると、疑いもしなかった。
帰る事が出来ると、信じていた。
しかし、カタロン殲滅戦で殺戮をするオートマトンを見て、自分自身も兵器である事を実感した。
超兵である私は戦う為の存在。
でも、大佐は人として扱ってくれただけではなく、
人として生きていけるように、ずっと守ってくれていた。
それを自らの手放したのは、自分自身。
「私は超兵・・・!戦う為の存在・・・そんな私が、人並みの幸せを得ようとした・・・!」
娘にならないかと言ってくれた大佐。
それを踏みにじったのは、自分自身。
ずっと焦がれていたそれも、手が届かなくなってしまった。
大佐が死んでしまった今、もう、届かない。
(何故そう簡単に捨てられるの?どうして・・・!?)
ソーマにとって、アンドレイが簡単にセルゲイを殺してしまった事は、どうしても理解出来なかった。
マリーとなっていたから大佐を守る事が出来なかった。
今は、私が前に出ているんだ。
だから、
そこまで思い、ソーマは後ろに居るを見た。
朱色のパイロットスーツを身につけた彼女は、絶対に守らなければいけない。
『・ルーシェについてだが』
あの時、辺りに誰も居ない事を確認しながら、レイはソーマに近付いて声をかけた。
『・・・4年前の戦いで、彼女は現在のアロウズの上層部に位置する人間に捕らわれた』
『・・・やはり、4年前から・・・』
『もう一人とは違い、は特別だったから実戦投入されている』
エクステンデッド。
超兵とは違い、精神操作を主に操作されているは、その技術を今でも使われている。
小声で、重要機密をレイはソーマに教えてくれた。
精神操作、記憶操作をされている。
だからは4年前の記憶が無い。
薬の投与は?と聞くソーマにレイは青空色の瞳を少しだけ細めた。
ブーステンデッドと呼ばれる薬物投与が主な実験もあった。
レイはそう言い言葉を続けた。
『未だあまり深くは調査が出来ていないが、も薬を服用している。それに含まれている可能性も、行動後に投与されている可能性もある』
『・・・なら、は・・・!』
『生体CPU扱いの彼女だが、白兵戦でもMS戦においても優秀だ。易々と捨て置かれる事は無いだろう』
寧ろ、重宝される。
レイはそう言い、ソーマから離れた。
そんな彼を思わず呼びとめ、ソーマは彼の腕を掴んだ。
『・・・お前はの何だ・・・?』
何故そんなにも彼女に構う?
そう問うソーマに、レイは微かに目元を柔らかくした。
『俺の友が、彼女を大切に想っていた。今は俺が代わりに、彼女を守ってやらねばならない』
優しい声色で言うレイに、ソーマは微かだが瞳を丸くした。
『・・・の、記憶は・・・?』
『今はまだ戻らない方が良いな』
上層部にまた捕らわれて、記憶改造、薬物投与がまた繰り返されるだろうな。
しれっと言ってのけたレイに、ソーマは思わず顔色を青くした事を思い出した。
恐らく、レイは未だにアロウズに居る。
自分がマリーとなって、アロウズから離れた後、レイはどのようにサポートしたのか。
ソーマはそう思っていた。
((アレルヤが呼んでる))
((アレルヤのところへ行きたい))
あの時、マリーの願望が痛いほど伝わってきた。
最早大佐の下で幸せを望む事も出来ず、兵器として戦い続ける事しか出来なかった。
ずっとマリーは眠っていた。
しかし、アレルヤの呼び声に、マリーは目覚めた。
上書きとされた人格であるソーマは、主人格であるマリーが望んだ幸せをその時優先してしまった。
確かに、マリーにとってそれは幸せだっただろうが、にとっては?
そう思い、ソーマはの腕を更に強く引いた。
あの時、大佐と離別する時。
はアレルヤに切りかかった。
マリーはだと気付いていたはずなのに、それを誰にも言わなかった。
「どうして、アレルヤの隣にその人が居るの?」
「え?」
「は、もういらないっていうの・・・!?」
ソレスタルビーイングのオペレーターの女性もそう言っていた。
明らかにアレルヤとが恋人同士だった事は明確だ。
それなのに、奴はマリーを取った。
がどうなっているかも知らないで、あいつは。
そう思うとソーマは苛立った。
4ヶ月前は、本当にソーマは手が付けられないほどだった。
憎きE−57が居るソレスタルビーイング。
しかし、大佐を討ったアンドレイを倒す為に、アロウズに戻るわけにもいかなかった。
それに、ソレスタルビーイングには、彼女が居たから。
ソーマはずっと、についていた。
マリーと呼ぶアレルヤには、寄るなと言い邪険にあしらい拒絶をする。
それに反して、自身をソーマと認めてくれるには、柔らかい表情も見せていた。
それにアレルヤはずっとやきもきしていたのだが。
以前マリーが思いを寄せていたレーゲンも、彼女をマリーと呼ばずにソーマと呼んで自己紹介から始めた。
『えーっと、とりあえず自己紹介だな。
俺はレーゲン。この艦の医者をやっている。何かあったらすぐメディカルルームに来いよ』
無茶はするなよな。
そう言い頭を撫でられたソーマはそれを振り払ったのだが。
居場所が無い時、自室かメディカルルームにソーマは身を寄せていた。
大抵はと一緒だったが。
そう思いながらも、メディカルルームに入る。
「おかえりー」
ひらひらと手を振りながらレーゲンは二人を迎え入れた。
ソーマはを椅子に座らせて、腕を組んでレーゲンを見上げた。
「の様子をチェックしてくれ」
「本当に保護者だな。正直とっても有難いぜ」
レーゲンはそう言い、ソーマの頭を撫でた。
それを腕で払いながら「早くしろ」と言う。
レーゲンは改めてに向き直り、パイロットスーツの前を寛げる彼女に問うた。
「薬はもう飲んだのか?」
「・・・うん。飲んだ」
「最近また乱れが出てるからなー・・・ま、予想はちょっとついてるんだけど」
そう言いながらレーゲンはの頭を優しく撫でた。
ソーマはそれに反応し、瞳を細める。
そんな彼女に気付いたレーゲンが、「ああ、」と声を出す。
「ソーマのせいじゃねぇよ。お前もお前で色々大変だろ。
・・・俺が言ってるのは、中途半端君の事だよ」
一度ちゃんと整理しろって言ったのにな。
そう言いながらレーゲンはの身体チェックをする。
「・・・ほれ、大丈夫だろ」
外傷も無いし、精神面でももう落ち着いてる。
そう付け足して言い、レーゲンはの頭を撫でた。
しかし、アレルヤがソーマを気にしているからの精神面は穏やかなものではないだろう。
アレルヤの代わりの刹那も怪我が怪我だしな。
そう思いながら、今アニューが隣の部屋で看ている刹那を思う。
は、ちらりと横に立つソーマを見上げた。
自分はソーマ・ピーリス、超兵1号だと態々何度も言う彼女に、少し違和感を覚えていた。
4ヶ月前からアレルヤに言い続けている事。
それは、戦いをする為の理由に思えた。
超兵だから戦う。
此処に居る理由と、戦える理由。
ソーマはずっとそれを主張しているように思えた。
きゅ、と気付けば彼女の手を握っていた。
ソーマは金の瞳を丸くして、を見やる。
「何だ?」
不思議そうに言うソーマを、黙ってじっと見詰める。
それが不安げに見えたのか、彼女は安心させるように笑むと、の手を握り返した。
「大丈夫だ。には私が居る。お前を守ってやるから」
「・・・ソーマ」
あんな奴に任せられない。
そう呟いてソーマはに一歩近付いた。
本当にアレルヤを信頼していないようだった。
当たり前か、と思いつつそれを見ていたレーゲンは小さく息を吐いた。
「なんか、そうしてると二人が危ない関係に見えるんですけど・・・」
何を言っているんだ。
ソーマにキッパリとそう言われ、レーゲンは苦笑した。
隣の部屋でのやり取りを聞きながら、スメラギは小さく息を吐いた。
が、直ぐに前を向き直った。
「刹那の容体はどう?」
医療カプセルに入っている刹那を看ていたアニューがそれに答えた。
彼女の答えを聞く為に、同室しているラッセとティエリアも視線を向ける。
「肩口の傷を中心に、細胞の代謝障害が広がっています」
「擬似GN粒子の影響・・・」
「ですが、その進行は極めて緩やかなんです。ラッセさんの症状とはまるで違う、何かの抑制が働いているとしか・・・」
原因は不明だ。
(こういう時に、ヴェーダにアクセスできれば・・・)
ティエリアはそう思いながら歯がゆさを感じていた。
そこで、ドアが開いた。
隣室に居たレーゲンと、ソーマが入ってきた。
カプセル内にいる刹那は、視線だけを動かしてを見やる。
「刹那、」
カプセルに近付いて覗き込む。
自分を見つめる空色に、刹那はどこか眩しそうに瞳を細めた。
「、俺は大丈夫だ」
「・・・あんまり無理しないでね」
雰囲気が柔らかくなった。
の隣に立つソーマはそう感じた。
自分と居る時も幾分かは柔らかい雰囲気は出すが、以前と比べると本当に表情が少ない。
特に、笑うことなんて、なくなった。
(E−57と居るとは辛そうにしているが・・・こいつと居る時は・・・)
脳量子波で感じる。
は安心している。
自分と居るよりも、この刹那という男と居る方が。
僅かな悔しさを感じながらも、彼女の事を考えると、安堵の息が零れた。
刹那はと少しばかり会話をした後、以前の出来事を思い出していた。
(アリー・アル・サーシェス・・・否、ダブルオーを手に入れようとするイノベイターの策略。
つまり、ツインドライブの情報は向こうにはないという事。切り札は、俺のガンダム・・・!)
「大佐に二度と彼女を戦わせないと誓ったというのに・・・僕は・・・」
第三デッキ前にある小部屋の椅子に腰を下ろしたアレルヤは、そう言い顔を覆った。
離れた場所に座る沙慈と入り口に立っているロックオンはそんなアレルヤを見た。
「それに、まで再び戦場に・・・」
「しばらくそっとしておけ。心の整理をつけるのに、時間は必要だ」
「しかし、彼女たちに危険な真似を!」
「自分の考えだけを押し付けんなよ」
ロックオンが鋭く言う。
それにアレルヤは思わず口ごもった。
無重力空間に浮いていたメットを手に取りながら、ロックオンは息を吐いた。
「大切に思っているなら、理解してやれ。戦いたいという彼女たちの気持ちを」
そう言い、ロックオンは部屋から出て行った。
閉じた扉を見ていたアレルヤだが、また顔を俯かせた。
二人のやり取りを見ていた沙慈は、瞳を細める。
(ルイスも同じなんだろうか?
家族を失った悲しみを憎しみに変えて・・・、僕はルイスに何を言えば・・・?)
5年前は笑顔が絶えなかった彼女も、武力によって家族、親族を失い、自身も傷付いた。
目の前で父親のような存在を失い、気持ちを紛らわすかのように戦いに明け暮れるソーマを見ていると、沙慈は悩まずにはいられなかった。
アロウズの宇宙巡洋艦のロッカールーム内で、ルイスとアンドレイは会話をしていた。
「昇進されて、中尉になられたそうですね」
そう言うルイスに、ロッカーを閉じたアンドレイが向き直る。
「どうやら、ブレイクピラー事件で私が撃墜した機体が、クーデターの首謀者のものであった事が判明したらしい」
それが上層部に認められたようだ。
そう言うアンドレイに、ルイスは素直に祝辞を述べた。
「おめでとうございます、中尉」
「まさか、君に祝辞を貰えるとは」
微かに笑み合った彼らだが、そこに割ってはいる声があった。
「実の父親を殺して昇進とは」
突如聞こえた声に、ルイスが小首を傾げる。
アンドレイと二人でロッカールームの入り口を見やると、男女が立っていた。
真紅の瞳を持つ薄紫の髪を持つ青年と、若草色の髪の少女。
そして、その背後に立つもう一人の男性。
「流石はアロウズの精鋭、頼もしい限りね」
若草色の髪の少女、イノベイターのヒリング・ケアが言う。
それにアンドレイは「どうしてそれを・・・!?」と言い瞳を見開く。
「本当なんですか、中尉」
父親を殺したって、
そう言い瞳を揺らすルイスに、アンドレイは少しだけ黙る。
「・・・父は反乱分子に加担していた。私は軍務を全うしたまでだ・・・!」
「お父様だと知っていて討ったんですか・・・!?何故です!?」
「平和の為だ!」
突如声を張り上げたアンドレイに、ルイスの肩が跳ねる。
「紛争を無くしたいと願う、人々の為だ!
軍を離反し、政権を脅かす者は、処断されなければならない・・・!
せめて肉親の手で葬ろうと考えたのは、私の情けだよ!」
実際は、憎しみに駆られて撃った。
しかし、アンドレイは自分に言い聞かせるようにそう捲くし立てた。
信じられない事実に、ルイスは瞳を見開く。
「そんな・・・そんな事・・・!」
「同じ状況になれば、君はどうする?」
アンドレイの言葉にルイスは「それは・・・」と口ごもる。
「他人の命は奪えても、肉親は出来ないというのか!?」
「おーおー、最低な男だねお前」
ヒリングとリヴァイヴの後ろに居た男が軽く手を振りながらそう言った。
視線が集まる中、彼は真紅の瞳を楽しげに細めた。
「彼女の戦いの意味も知らないまま、自分の正義だけを主張する・・・これが人間か」
「アハハ!父親殺しの男と、家族の敵を討とうとする女。お似合いよ、あんたら」
男とヒリングが笑みながら部屋から出て行く。
入り口の壁に寄りかかっていたリヴァイヴも、足を動かす。
「彼女の事が大切なら、君が守ってやる事だ」
イノベイターが去って、その場に沈黙が落ちる。
アンドレイは少しだけ気まずげに視線を彷徨わせた後、ルイスに向き直った。
「准尉、我々は理想の為に戦っている」
そのためには決断をしなければならない時がある。
そう言い、アンドレイはルイスの肩に手を置いた。
しかし、彼女は心ここに在らずといった様子で、ぼんやりとしているだけだった。
それに焦れたアンドレイが、彼女を腕に納める。
「その内、君にも訪れる」
(出来るだろうか・・・私に・・・彼を・・・、)
思い浮かぶのは、愛しい彼。
(沙慈を撃つ事が・・・)
プトレマイオス2では、沙慈はやっと顔をあげた。
首から提げたチェーンに通した指輪が、無重力の中を舞う。
(僕は・・・、)
『ルイス・ハレヴィを取り戻すには、戦うしかない』
以前刹那に言われた言葉。
戦うしかない。
それは、どう戦うかは、
(彼女を取り戻す戦いをするんだ・・・! それが、僕の戦い!)
沙慈はそう強く決意し、オーライザーを真っ直ぐに見下ろした。
アンドレイは虚しい男。
沙慈とルイスは本当に幸せになってほしいカップル。