「何だと!?それは本当か!?」
スメラギから告げられた言葉にティエリアが声を張る。
ブリッジに居たクルーは其々が反応を示す中、アレルヤが瞳を細めた。
ラグランジュ5へ行っていた刹那からの通信には二つの情報があった。
一つはヴェーダの居場所が分かった事。
そして、もう一つはとイノベイターがプトレマイオス2へ向かってきている事。
どうやら以前乗っていた大型MAに乗っているようだった。
彼女たちが辿り着くまでには後数日はかかるだろうが、急がなければヴェーダの居場所が変えられてしまうかもしれない。
スメラギは眉を潜めながら、口を開く。
「・・・トレミーの進路をラグランジュ5方向へ・・・途中でかち合った方が時間を取らないわ」
「了解です」
スメラギの言葉にアニューが答える。
ミレイナとフェルトもパネルを操作する中、スメラギはアレルヤを見やる。
ティエリアも隣に立つ彼を見、口を開く。
「・・・大丈夫か」
「・・・ああ。僕は一人じゃない。二人でを救い出してみせる・・・!」
二人で。
ハレルヤと共に。
そう言うアレルヤにティエリアは「そうか」とだけ返した。
アニューが操舵幹を動かしながら、気まずげに口を開く。
「・・・もしかしたら、と一緒に来ているイノベイターって・・・」
「心当たりがあるのか、アニュー」
ロックオンの問いにアニューは小さく頷いた。
直後、ブリッジのドアが開きソーマとレーゲン、イアンが入ってきた。
「ガンダム、全機いつでも出られるぜ。調整も終わった。
これで新武装が来ても直ぐに取り掛かれるぜ」
「そう・・・レーゲンも手伝ってくれてありがとう。・・・貴女も」
スメラギの礼にレーゲンは手をひらひらと振り、ソーマは違う方向を向く。
で、と言いレーゲンはスメラギを見やる。
「と、ヴェーダだって?」
「ええ。今解析しているわ・・・」
忙しなくパネルを操作しているフェルトとミレイナ。
少し経ってから、フェルトが声をあげた。
「暗号解析終了しました。ポイントは、CZ9842R・・・月の裏側です!」
「ミレイナ、超望遠カメラでポイントを」
「了解です!」
モニターに映像が映し出される。
場所が映し出され、アレルヤが「ラグランジュ2?」と呟く。
「コロニー開発すら行われていない場所だ」
「隠れるには丁度いい場所ってわけだ」
「ポイント、表示するです」
イアンとレーゲンの言葉の後に、ミレイナが画面を切り替える。
しかし、そこに映っているのは宇宙空間のみであった。
「何も無いぜ?」と言うロックオン。
「この位置からの天体図を画像に重ねて」
「はいです!」
スメラギの指示に従い、天体図を画像に重ねる。
すると、エラーが表示された。
「星の位置がずれている?」
アレルヤの言葉通り、画面に表示された天体図と映像にはずれが生じていた。
光学迷彩ね、と言いスメラギは瞳を細める。
「フェルト、ずれのある距離を算出して」
「了解、距離は・・・!ちょ、直径15kmです!」
あまりの大きさにロックオンとティエリアが驚きの声をあげる。
「15kmだって・・・!?」
「そこまで隠すほどの物体が・・・!」
「月の裏側にあるって訳ね」
レーゲンがそう言った直後、ラボの輸送艦から暗号通信が届く。
新装備が到着したようだった。
ミレイナが「ママ!」と喜びの声をあげる中、イアンは受け取りの為に移動をする。
レーゲンもそれに続こうとしたが、名を呼ばれて振り返る。
操舵席に座るアニューが、不安げにレーゲンを見上げていた。
「ん?」
「・・・このまま行けば、とイノベイターと戦闘になるかもしれないわ」
「・・・そりゃ、そうだろうな」
頭をかきながら言うレーゲンに、アニューは気まずげに視線を彷徨わせる。
そんな彼女を支えるように、ロックオンが肩に触れる。
「・・・もしかしたら、来ているイノベイターって・・・ジュビアかもしれないの・・・!」
「ジュビア・・・?」
俺と同型の?
そう言うレーゲンにアニューは頷く。
そっか、と言いレーゲンは頭を再度かいた。
「・・・とりあえず、次は俺も出た方が良さそうだな」
「・・・な!?」
レーゲンの一言に反応したのはソーマだった。
それに気付かないふりをし、レーゲンはスメラギを呼ぶ。
「多分輸送艦にあるはずだ。俺も次は出る」
「・・・そうなると、思っていたわよ」
スメラギは悲しげに微笑み、「いいの?」と問うた。
「貴方の片割れなんでしょ?」
記憶が無いと言っていたレーゲン。
彼が以前どう思っていたのかも分からないのに、片割れと戦うなんて。
アニューの言葉からすると、仲が良い様だったから尚更だ。
レーゲンは「んー」と言い少し視線を彷徨わせた後、「まぁね」と言った。
「どうにかなったら、撃ってくれても構わない。今の俺の意志だ」
「お前・・・!!」
「ジュビアは俺が食い止められると思う。お前はお前で頑張れよ」
レーゲンはそう言いアレルヤの肩を叩いた。
そんな彼の腕を、ソーマが強く掴んだ。
「レーゲン!!」
「・・・君はに呼びかけるんだろう?」
笑みを浮かべ言うレーゲンに、ソーマは複雑な表情を浮かべる。
俺なら大丈夫だとでも言うように彼はソーマの頭を撫でた。
「体が知っているらしい。MSは扱えるよ」
「・・・そういう事ではなくて!」
「・・・悪いな、分かってくれ」
レーゲンはそう言い、困った様に微笑んだ。
その笑みに、ソーマは何も言えなくなる。
分かっているのだ。彼の真実を求める気持ちも。
そして、ジュビアと分かり合おうとしている事も。
口を噤んだソーマにレーゲンは真紅を細め、真横を通っていく。
ブリッジから出て行った彼を追わず、立ち尽くすソーマにアレルヤが近付く。
「・・・ソーマ・ピーリス・・・」
「・・・」
ソーマはアレルヤには応えず、そのままブリッジを後にした。
そんな彼女を見ていたミレイナが、口を開く。
「ピーリスさん・・・複雑です・・・」
「・・・そうね」
スメラギはそう言い瞳を伏せた。
自動走行に切り替えたルットーレの中では膝を抱えていた。
その体には、いくつもの管の様なものが絡みつき、露出した肌の部分に突き刺さっている。
コードを煩う様子もなく、はシートの上で膝を抱える。
肩、腕、足、色々な部分に先に針のついたコードが突き刺さっても、痛みは無かった。
何かを忘れている。
忘れさせられている。
いつから、いつまで、これからも、忘れる。
何かを知っているはずなのに、何も知らない。
がふと顔をあげると、無重力の中で目の前に漂う物があった。
どこにでもある携帯端末。
しかしそれは、幾分か古いもののように思えた。
実験中も、改良中も、決して手放す事無かった物。
それを彼女から離そうとすると暴れた為、手元に置かれていたが、
はそれにゆっくりと手を伸ばした。
「私と連絡を取る時は、これを使ってください」
「・・・端末?」
「はい。貴女だけに」
微かに思い出せる。
けれど、靄がかかったみたいにはっきりと思い出せない。
相手は男か女か、どんな声だったか、どんな容姿をしていたか、何時貰ったのか、
もう、全てが曖昧だった。
「・・・私は、何なんだろう・・・」
そう呟き、手を力なく落ろした。
赤。記憶に残る紅、白、青、橙。
なんだかもうごちゃごちゃだ。
考える事が面倒になり、は瞳を伏せた。
戦闘が予想されている宙域に近付いてきた事により、各マイスターはガンダムで待機をしていた。
刹那も途中で合流出来そうなので、スメラギも安堵の息を吐いていた。
万一アレルヤの脳量子波が届かなかった場合、刹那のトランザムで起こす量子空間により話し合いが出来るのだから。
ソーマもGNアーチャーで待機をしていたが、視線を動かし、脇に備える機体を見やる。
大型GNコンデンサーを備えている其れは、白と黒を基準とした色合いのGNソルジャー。
ビームサーベルやミサイル、ビームライフル等とGNアーチャーとは外見も武装も同じようなものだが、GNソルジャーは主に接近戦を主としている。
その為にスピードやらビームサーベルの数など差がある。
それに乗っているのはレーゲンだ。
そう思うと、ソーマは複雑な心境になった。
直後、通信と艦内放送でフェルトの声が響いた。
『大型MAとイノベイター専用機、捕捉しました!』
『来るか・・・』
『ケルディム、セラヴィーを出撃させて!』
スメラギの指示が飛び、コンテナに移動される。
ケルディムとセラヴィーが先に出撃し、敵の足を止める。
兎に角ルットーレの足を止めなければならなかった。
『アーチャーアリオス射出後は、GNソルジャー発進』
スメラギの声が響く。
それを聞きながらアレルヤは移動する中瞳を細める。
「行くよ、ハレルヤ」
((ああ。にきっちり教えてやらねぇとな))
自分の居場所って奴を。
そう言うハレルヤにアレルヤは頷き、レバーに手を置く。
瞳を伏せ、発進シークエンスを確認する。
「アレルヤ・ハプティズム・・・アーチャーアリオス、目標へ向け飛翔する!」
行くよ、ハレルヤ。
出撃直後にGNアーチャーと分離し、飛行形態のままアリオスは真っ直ぐにルットーレへ向かう。
GNアーチャーは続いて出撃したGNソルジャーと共に行動を開始する。
『足を止める!GNバズーカで・・・!』
セラヴィーが放ったGNバズーカを、ルットーレは真正面から受け止めた。
擬似太陽炉の輝き、赤いGNフィールドが展開される。
威力が格段に落ちたそれを見、ロックオンが大きく息を吐いた。
『生半可な攻撃じゃ、足止めすらできねぇぞ』
『分かっている!』
舌打ちをし、ティエリアがGNキャノンを放つ。
ルットーレは軽い動きでそれを避けつつ、バルカンを放つ。
ケルディムとセラヴィーはそれを避けつつ、迎撃を続けた。
「!!!」
二機の間をアリオスが通る。
真っ直ぐにルットーレへ向かい、クローアームを開く。
ルットーレもアームを伸ばし、それを防ごうとする。
アリオスのクローアームがルットーレの腕を挟み込む。
そのままの勢いで移動した事により、巨大なルットーレが体制を崩した。
「これだけ近ければ・・・ハレルヤ!!」
((任せろや!))
キィン、と頭に痛みが走る。
アレルヤはそれに耐えながら、レバーを動かす。
ルットーレを思い切り押し通した後、MS型に変形をする。
そのまま隠し腕からビームサーベルを出し、切りかかろうとする相手と切り結んだ。
「・・・!僕だ、アレルヤだ!!!!」
((!!てめぇいつまで寝ぼけてんだ!!))
((・・・なんだ、頭・・・声・・・!))
ハレルヤを通して通じる声。
間違いなく彼女の物のそれに、アレルヤは瞳を大きくする。
やはり彼女は記憶をまた改竄されている。
戦いたくないのに、戦わされている!
そう思うと遣り切れない気持ちになり、アレルヤは奥歯を強く噛んだ。
「!思い出してくれ!僕は君とは戦いたくない!!」
((させねぇよ!!!))
「((!!))」
突然の介入にアレルヤとハレルヤの意識が逸れる。
直後、アリオスに向かってガラッゾが攻撃をしかけてきた。
爪状のビームサーベルを振るわれ、ルットーレから離れる。
((全部破壊しろ!))
((全部・・・全部・・・壊す・・・!))
壊せばいい、
そう震える声で言うに、アレルヤは「駄目だ!」と声をあげる。
「君の意思じゃない!戦っちゃいけないんだ!!」
((壊す・・・壊してやる!全部全部、全部!!))
「!」
ルットーレの砲口が開かれる。
光が集まるそれに気付き、セラヴィーが動く。
((壊れればいい、もう、全部!))
「!」
『アレルヤ!!』
ティエリアの声が響いた直後、大型のビームが発射された。
アリオスは避け、セラヴィーはプトレマイオス2の前に立ち塞がりGNフィールドを展開する。
あまりの衝撃に後ろへ下がるセラヴィーの中で、ティエリアが眉を潜める。
『なんて威力だ・・・!』
ほとんどのエネルギーを持っていかれた。
そう言いつつも、を足止めする為にティエリアは動く。
アレルヤはまた動き、ルットーレへ向かおうとするがガラッゾに止められる。
GNアーチャーとGNソルジャーも迎撃に動く中、通信越しに声が響いた。
『アロウズの戦艦が・・・!MSも居ます!』
「援軍か!?」
距離はあるが、戦艦が迫って来ている。
そこからGN−XV、アヘッドが次々に出てくる。
ケルディムは其方の迎撃に移るが、如何せん数が多い。
セラヴィーもケルディムと迎撃行動に移るようにとスメラギの指示が飛ぶ中、GNソルジャーがアリオスと切り結ぶガラッゾを攻撃する。
((何だ!?))
((相手は、俺だ!!))
((―――!?))
アレルヤの頭に脳量子波を通じて彼らの声が響く。
動揺の為か、動きを緩めたガラッゾに思い切り体当たりをしたGNソルジャーはそのまま敵機を押しやる。
その間にアレルヤはケルディムとセラヴィーを攻撃しているルットーレへ向かう。
((壊れたら、いいんだ・・・!思い出も!!全部!!!))
「・・・駄目だ!そんな事言っちゃ!!」
((五月蠅い!消えて無くなってしまえばいいんだ!記憶も、全部分からないのならば!!))
悲痛な叫び声が響く。
彼女の言葉にアレルヤは瞳を細めた。
思い出せずに歯がゆい思いだってしているはず。
記憶を何回も改竄され、身体的改造も受け、戦場に引きずり出されて。
彼女は苦しんでいる。こんなにも。
「((!!))」
((!? ―――声・・・?))
どうして彼女ばかりがこんな思いをしなきゃいけないんだ。
『君が頑張ってくれれば、ステラもアウルも、スティングも俺も。みーんな助かるんだ』
『うん。戦うのは本当は怖いけど、ネオたちの為なら頑張れる』
恐怖を押し隠して、戦い続けて、
『し、ん・・・』
『・・・』
『ステ、ラ・・・あっち・・・』
『え!?』
『おね、が、ステラ、まも、って・・・』
自分の事よりも他人を優先して、
『で、でも、どんな過程があろうと結局は私のエゴだよ?自分のエゴで無関係な民間人を大量に殺すんだよ?』
本当は誰よりも脆いのに。
ずっとずっと、それを隠してただ必死に戦いぬいて。
どうして、彼女だけが!!
アリオスは飛行形態に変形し、ルットーレの砲撃を避けた。
GNソルジャーは動きが鈍くなったガッデスへビームサーベルを振り下ろした。
切り結んだ二機の間で火花が散る。
((なんでだよ!なんで戦場に出て来てんだよ!?))
「頭に響く声・・・君がジュビアか!」
動揺した様子の声色にレーゲンが名を呼ぶ。
脳量子波を通して彼の感情が伝わってくる。
喜び、疑惑、混乱、怒り。
様々な感情が一気に伝わり、レーゲンは瞳を細めた。
直後にモニターに自分と同じ顔が映る。
『レーゲン、レーゲンが、どうして、』
「・・・お前と話したいから、来た」
『何でだよ、お前は戦闘好きじゃないって、なのによ・・・!』
ジュビア、と彼の名を呼ぶ。
腕を振られ、二機が離れる。
ガッデスはビームサーベルを構えたまま、立ち尽くす。
『・・・だから、俺が居るんじゃねぇか。なのになんでお前、機体に乗って出て来てんだよ・・・』
「・・・それはどういう、」
ジュビアの言葉に引っかかりを覚え、問おうとした直後。
レーゲンの頭に鋭い痛みが走った。
「う゛・・・!?」
『大丈夫だ、レーゲン。俺たちは二人で一つだもんな。お前にだって、俺が必要なんだ』
「・・・これは・・・!?」
『目を閉じていれば良い。お前が嫌な事は、全部俺がやってやるから』
『レーゲン!?』
ソーマの声を聞いたのを最後に、レーゲンの意識は途絶えた。
は暗闇の中に座り込んでいた。
暗闇の中から伸びた物が、彼女の手足に絡み付いている。
ずず、と少しずつ闇の中へ沈んでいく彼女を見下ろし、ハレルヤは金と銀の瞳を細めた。
『何してんだ、お前』
そう言うが、何も言わないにハレルヤは舌打ちをする。
暗闇の中、躊躇せずに彼女の方へ向かい、真正面に立つ。
『それでいいっつーのか、お前』
『・・・いい。もう、私は疲れた』
疲れた。
彼女の一言にハレルヤは眉を潜めた。
『分からない・・・私の事も、全部何も分からないから・・・、もういい』
『・・・そうやって、今度は諦めんのか?』
向き合う。そう決めたはずなのに彼女は今は諦めると言う。
ハレルヤの言葉を聞いては動いた。
自身もアレルヤと向き直る事を決意した。
アレルヤも前向きにとの関わりを決意したというのに、今はこれだ。
苛立ちを感じつつ、ハレルヤは彼女を見下ろした。
は膝を抱えたまま、肩を震わせている。
そんな彼女にまた苛立ちを覚え、ハレルヤは再度口を開く。
『逃げんのか』
『なんでもいい、もう、いい』
諦め。
何時に無く消沈した様子の彼女の体が、また闇に沈む。
澄んだ空色の瞳も、今は暗く濁っている。
『・・・簡単に諦めてんじゃねぇぞ』
『・・・』
『お前はンな簡単に諦めるタマじゃねぇだろうが・・・!』
そう言いハレルヤは闇に沈む彼女の目の前に立ち、腕を伸ばした。
交錯する想い。