彼が悪い訳じゃないのも分かってる。
あの時は迫る恐怖、悲しみに耐え切れずにずっと彼に八つ当たりを続けてきた。
見捨てられても仕方ないくらい。
それなのに、彼は最後まで私を助けようとしてくれた。
私の為に、たくさん涙を流してくれた。
相変わらず泣き虫なんだから。
でも、それはもう今では違うのかしら。
泣き虫は卒業して、他の女の子とよろしくやっているのかしら。
それとも、ずっと迷っていた親友と仲直りして、楽しく過ごせているのかしら。
どっちにしたって、貴方が笑っていられるなら、それでいい。
そう、思っていたのに、
「・・・え?」
聞いた言葉が信じられなくて、フレイは灰色の瞳を見開いた。
目の前に居る同じ世界から来た彼、レイ・ザ・バレルは青の瞳を真っ直ぐに向けている。
その瞳に嘘は無い。
それでも、彼の言った言葉が信じられずにフレイは「今、なんて?」と問うた。
「キラ・ヤマトは戦いを続けている。そして、彼が殺めた少女も、此方の世界に来ている」
キラが戦いを続けている?
キラが殺した女の子?
フレイは、レイが何を言っているのか理解出来なかった。
どうしてキラが未だに戦いを続けているのか。
優しいキラが、人を殺す事をあんなに悩み苦しんでいたキラが、どうして女の子を殺したのか。
「・・・俺の友の大切な少女だった」
レイはそう言い自身の経緯も全てフレイに話した。
アークエンジェルに乗って、戦場に割り込んでくるフリーダム。
不殺を貫いていたフリーダムが、シンというレイの友だちの大切な少女を殺めた事。
スーパーコーディネーターのキラが、望んだ世界についても。
考えを破棄する道は、人として生きる意味を失くす事。
苦しんでも、悩んで考えて、自分の道を進むべきだという事は分かる。
けれども、そんな自分勝手な戦争介入で、どれほどの人が傷付いただろう。
キラ自身、何も感じていないのだろうか。
それとも、また自分の時と同じ、誰かの口車にでも乗せられているのだろうか。
何にしても、キラがした事に変わりは無い。
フレイは思わず口元に手をあてた。
なんだかひどく気分が悪い。
「・・・キラが殺した女の子って・・・?」
「俺が接触するより先に、奪われた」
「・・・どこに?」
ソレスタルビーイング。
レイははっきりとそう言った。
聞けば生体改造をされたエクステンデッドだというじゃないか。
この世界でも同じように戦わされてしまうのだろうか。
フレイがそう思っていると、レイは「暫く様子を見る」と言い近くにあった椅子に腰を下ろした。
「・・・どうして?」
「俺は、シンの代わりに彼女を見守る事しか出来ない。シンが守れなかった彼女を・・・あいつが居ない今、俺が守ってやりたい」
「・・・じゃあ、どうして助けに行かないのよ・・・!?」
「彼女みたいな存在は、戦う事でしか意味を見出せない」
様子を見る。彼女がそこで安心出来るかを。
レイは静かにそう言った。
あまり納得は出来なかったが、フレイもとりあえず落ち着く為に近くにあった椅子に座る事にした。
「・・・アイツらと違って、薬の症状は無いのよね?」
「精神的なものだ。禁断症状等は出ない」
「・・・そう」
フレイはそう言い、一点のドアを見つめた。
その向こうでは、同じ世界から来た"彼ら"がカプセルの中で眠っている。
いつ薬が完全に抜け、抗体を持ち、薬なしでの生活が出来るかはわからない。
少しでも症状が軽くなるように、"彼"に看てもらいながら"彼ら"は眠っている。
「・・・ねぇ、その娘の名前は・・・?」
「・ルーシェという。金の髪を持つ、華奢な少女だ」
レイはミネルヴァで捕らわれていた彼女しか知らなかったが、大体は記憶に残っている。
それを告げるとフレイは「そう、」と言い瞳を伏せた。
「・・・様子を見て、その娘の心の安定が取れなかったら、私が迎えに行くから・・・」
「MSの操縦を満足に出来るようになってからいけ」
「分かってるわよ!」
声を張り、苛立った様子のフレイにレイは口の端をあげる。
彼女に向き直り、再度口を開く。
「お前にとって彼女は関係無いはずだが?」
「・・・キラが気にしないはずないわ。代わりなんておこがましいけれど・・・せめてって、思うじゃない・・・」
アンタも一緒でしょ。
フレイはそう言い灰色の瞳を僅かに細めた。
彼らと彼に関しては追々本編で綴っていきます・・・!