ファミリーって感じだった。
俺が入るまでもなく、ソレスタルビーイングの実行部隊、プトレマイオスに乗艦する奴らはそれで十分なほどだった。

まぁ、総舵手と医者が居ないのは心許無いか。

レーゲンはそう思いながらデータ移植の為に端末を操作していた。
メディカルルームには、プトレマイオスに乗艦していたドクター・モレノが残してくれたデータも残っている。
プトレマイオス2のメディカルルーム内は新しい艦の通り、綺麗なものだった。
武装も追加された点ではもうそう簡単には落ちはしないだろう。
以前の戦闘データを見ながら、レーゲンは移植作業をしていた。

そもそも、俺っている?

ティエリアがみんなを引っ張りながら、新型のガンダムに関して主に取り組んでいる。
オペレーターのフェルトは新しく艦に乗る事になった整備担当のイアンの娘、ミレイナと早くも打ち解けている。
そのまま彼女にオペレーターとしての仕事を教えているし、ミレイナも父親の手伝いもしたりしている。
イアンは言わずもがな、新型の調整に忙しなく動いている。
傷を負っていたラッセも、今ではすっかり完治しているし。
一人メディカルルームに篭って移植作業やらトレミークルーのデータ確認やらをしているレーゲンは、一人浮いている感じがしていた。

溜め息を吐いて、短い前髪をくしゃりと掌のうちに納める。

どうして王留美は俺なんかをプトレマイオス2の船医として乗艦させたんだろうか。
疑問は消えなかった。
気付けばソレスタルビーイングに居た。
技術班にも関わりつつ、何故か長けた医学の知識も役に立った。
その気になればMSの操縦だってたやすくできるかもしれない。
身元もあまりはっきりしない俺を、よく実行部隊に編入させたもんだ。
レーゲンはそう思いつつ、保存の操作をする。
これで大体の作業は終わった。
一週間以上データと睨めっこしていたせいか、酷く気だるい感じがする。
椅子に座ったまま体を伸ばし、レーゲンはゆっくりと立ち上がった。
軽く腰を捻ればボキボキと音がなる始末。俺ってそんなに若くないんだろうかなんて馬鹿な事を思いながらデータ端末を片手にメディカルルームから出る。
目指すは食堂だ。
最近まともに食事を摂っていない気がする。

まぁ、自分みたいな得体の知れない奴が食事を摂らないからって、気にする奴もいないだろうが。
医者の不養生だけは嫌だしな、食べよう。

レーゲンはそう思いながら移動用レバーを掴んで食堂を目指した。

首の骨をボキボキとならしながら食堂に入ると、丁度昼時のせいかフェルトやミレイナ、ティエリアまでもが揃っていた。
首裏のツボを押しながら欠伸を噛み殺す。
そのままAランチを受け取って、レーゲンは何気なく振り返った。


「・・・うお!?」


直後、視界いっぱいに広がった整ったティエリアの顔に思わず背を仰け反らせた。
頭一個分くらい小さい彼を見下ろしつつ、レーゲンは真紅の瞳を丸くしたまま「どうした?」と尋ねた。
何か用事だろうか。医療に関するなんらかの指示がまた出たのか。それともデータ整理について?
そんな事を考えていると、彼は口を開いた。


「これから食事か」

「ん? ・・・ああ、一区切りついたんでな」

「此処最近、君がトレミーに乗艦してから食事をしている姿をあまり見ないが」


さすがリーダー。周りをよく見ているな。
そう思いながらレーゲンはにへらと軽い笑みを浮かべる。


「定時に食事摂れなくってさ。ついつい集中しちまって」

「体に悪いぞ。まさか食事は抜いていないだろうな」


じ、とレーゲンの体を上から下まで観察するように見る。
レーゲンはトレミークルーの着ている制服の上着を着ずに、白衣を羽織っている。
それゆえに体系が分かりづらいのだろうか、ティエリアは何やら難しい表情をしながらレーゲンの体格を見ていた。


「・・・なんかこそばゆいんだけど」

「・・・細すぎないか?」

「は?」

「しっかり食事を摂っていないのがバレバレだ」


腕を組んで、瞳を細める。
どこか怒ったような様子のティエリアはレーゲンの手からトレーを軽い仕種で受け取り、そのまま歩き出す。
へ、と気の抜けた声をあげるレーゲンに構わず、ティエリアは先ほど自分たちが座っていた席にそのトレーを置いた。
暗に隣で食べろという事だろうか。
そんな事をレーゲンが思っていると、案の定「早く来い」とティエリアに言われた。
仕方なしに席に腰を下ろし、トレーの蓋を開ける。
周りを見るとフェルトもミレイナも食べている途中のようだった。
「お邪魔しますよっと」と軽く言いレーゲンはフォークを手に持った。


「なんだかお久しぶりです!ずっとメディカルルームでお仕事をしていたですか?」

「そんな感じかな」


Aランチのパスタを口に運びながら答えるレーゲン。
そんな彼をフェルトとティエリアはじっと見ていた。
ミレイナは「お疲れ様です」と言い彼を見つつ、食事を続けた。


「一区切りと言ったが、後どれくらい仕事が残っているんだ?」

「・・・そうだな・・・移植は終わったから整備の手伝いもあるからな」

「整備?君は医師じゃないのか?」


ティエリアの不思議そうな言葉にレーゲンは肩を竦めてみせる。
そーなんだけどさ、と言い瞳を細めた。


「ガンダムカマエル。ちょっと特殊でさ。ダブルオーガンダムのGNドライヴ二乗もあるってのに・・・」

「王留美から任されたのか」


納得したようだったが、ティエリアは「しかし」と言葉を続ける。


「君一人でそこまでやる必要もないだろう」

「イアンさんもダブルオーの調整で忙しいしね。大丈夫、俺技術的にも整備も結構任されてたし」

「それでも、」


今まで黙って話を聞いていたフェルトが口を開いた。
自然とレーゲンの真紅も、彼女に向けられる。
フェルトは心配げに若草色の瞳を細め、言葉を続ける。


「・・・それでも、ちょっと働きすぎじゃない・・・?」

「・・・心配、してくれてんだ」


レーゲンがそう言うと「当たり前じゃない」とフェルトが即答した。
ティエリアもミレイナも同意のようだったのに対し、レーゲンは苦笑した。
お人よしだな、まだそんなに会話だってしていないのに。
そう思っての表情だったが、違う意味に捉えたのかティエリアが「君は、」と言う。


「我々の仲間だろう」

「・・・そうだな、ソレスタルビーイング。そんで、プトレマイオス2に乗艦する船医だ」

「部屋に篭りすぎなんです!もっとお話したかったです!」

「みんな、貴方を待っていたんだから」


どんな人か。ずっと気にしていた。
フェルトはそう言う。
それになんだか擽ったさを覚え、レーゲンは誤魔化すようにパスタを口に運んだ。
そんな彼を見ていたティエリアが、小首を傾げる。


「・・・どうした?」

「・・・慣れてないもんでね、優しさってやつに」


曖昧に笑うレーゲンに、ティエリアはまるで安心させるように微笑んだ。
そうか。と、それだけを言い彼は席を立った。


「今度メディカルルームに行かせてもらう。君とも親睦を深めるべきだ」

「そうだな・・・俺も、ティエリアと話をしたいわ」

「ミレイナもご一緒させて頂きたいです!」

「あ、私も!」


ミレイナとフェルトにも言われ、レーゲンははにかんだ。

家族なんて知らない。
正直覚えてすらいない。
だけど、この艦に乗って、彼らと話をしていけば、彼らを知っていけば。
なにかを感じる事が出来るかもしれない。

まるで真っ白だった心に色々な色の絵の具が垂れてくるようだ。

そう思いながらレーゲンは微笑んだ。




レーゲンというオリジナルキャラの馴れ初め話。
レーゲンは記憶が曖昧な自分に疑問を抱きつつも「ま、いっか」的な楽観主義w

ちなみに2ndの結構前かな。まだ修復作業とか復旧準備みたいな頃です。