どの服がいいかな。
数少ない服を出しながらベッドに並べて見比べていく。
顎に手をあて、は傍に居たイエローハロに問いかけてみる。


「どれがいいかな?」

『ドレモステキネ!ドレモステキネ!』


イエローハロは瞳をチカチカと点滅させながら言う。
悩んでるんばってば、と言いながら何となしにワンピースを手に取る。


「スカート短くてもいいかな?それともタイツとか履いてみちゃう?」

『ナマアシネ!ハレルヤヨロコブネ!』

「そうかな・・・?」


色々と赤色のリボンのついたワンピースやスカート、ホットパンツもある。
どうしようかな、と思っていると訪問者を告げるブザーが鳴った。
直ぐに出てみると、そこには珍しい事にスメラギが居た。


「スメラギさん!どうしたんですか?」


何かあったのだろうか、と思いながら問うがそれに反して彼女は気楽そうに笑った。
腕を組んでいた彼女は片手をあげるとを指した。


「そろそろ悩んでる頃じゃないかと思ってね」

「え・・・?」


瞳を瞬かせるに、スメラギは楽しげに笑う。
そんな彼女の後ろから、ひょっこりとフェルトが顔を出した。


「最近、ミッション積めだから・・・」

「ちょっとデートの前に地上に降りて羽休めしてきなさい」


何かあったら刹那もロックオンも居るし大丈夫よ。
そう言うスメラギには空色を丸くした。


「え、で、でも今度のお休みも頂いちゃってますし・・・」

「フェルトも休みを入れるわ。二人で行ってらっしゃい」


にこり、と微笑むスメラギ。
まるで有無を言わさない様子には瞳を瞬かせた。


「それに、服にも悩んでるみたいだったから・・・デートの服を二人で選んできなさい」


ちゃんと私にも見せてね。
そう言いウインクをしたスメラギには礼を述べた。


その後フェルトと一緒にはリニアトレインを利用して地上に降りた。
ユニオン領の都市を訪れ、二人でショッピングを開始した。
人が多い中、二人で辺りを見渡す。


「・・・人、多いね」

「丁度休日だから・・・、アレルヤとは久しぶりに会うのよね?」

「え?あ、うん・・・確か三ヶ月ぶりくらいかな?」


小さな小競り合いもあったり、テロ行為を排除していた為、中々休暇が取れずにいた。
しかしやっと落ち着いてきた頃となり、地上で巡礼の旅をしているアレルヤと予定を合わせて会う事になった。
久しぶりのデートなので服装は張り切ったものにしたい。
可愛いと言われたい。
その気持ちから数少ない私服から選んでいたのだが・・・。


「だったら精一杯お洒落しなきゃね」


あのお店なんてどうかな。
そう言いフェルトはの手を引いて歩き出す。

正直スメラギの提案はありがたかった。
服もあまり持っていないし、アレルヤに見せた事がある物ばかりだった。
新しい服があれば、新鮮な気持ちでお互い会えるかもしれない。
そう思いながらはフェルトの後を追った。

それにしても、こんなにフェルトが積極的になるなんて。
以前クリスティナに連れ回されてクタクタに疲れていた彼女が、今はこんなにもはしゃいでいる。

普通の女の子みたいに、はしゃいで。

良かったね、クリス。
そう思いながらはフェルトと一緒に店に入った。


「これなんてどうかな」


フェルトが選んだものはチュニックだった。


「下にレギンスやタイツも履いてみてもいいんじゃないかな」

「・・・私に似合うかな?」


首を傾げるにフェルトは「勿論!」と言って即答する。
そのまま試着室まで押し込まれたは手に持っていたチュニックを見下ろしてみる。
これならホットパンツでもいいかも。
そう思いながらベルトも使用してみる。

どうかな、と言ってカーテンを捲る。
待っていたフェルトは若草色の瞳を輝かせて微笑んだ。


「似合ってるわ、とっても」

「そ、そう・・・?」


じゃあこれにしようかな。
そう言いは元着ていた服に着替える。
お待たせ、と言って試着室から出て行く。
レジへそれを持っていく途中、視線を感じた気がして振り返る。
あれ、と小首を傾げるにフェルトが声を掛ける。


「どうしたの?」

「・・・ううん、気のせいだったみたい」


そう言ってレジへチュニックやベルト、ついでにタイツも持っていく。
購入した後、フェルトと一緒に雑貨店に入る。
雑貨店ではフェルトが色々なアクセサリーを見ていたが、には今使っている装飾品以外使う気が無いので少し一緒に見た後外に出る事にした。
飲み物を買ってくると言い自動販売機に向かう。

フェルト、アクセサリーを熱心に見てたな。
やっぱり誰かに褒めて貰いたいのかもしれない。

そんな事を思いながらフェルトには紅茶を購入する。
後はどうしようか、と考えながら改めて自販機を見上げる。


「どーれーにーしーよーうーかー・・・なー」


ぽちり、とボタンを押す。
ガコンと音を立てて出てきたのは、


「成る程。今日の君は確かに柑橘の香りがする」


橙色のワンピースが風に揺れる。
わ、と慌ててスカートを手で押さえたと同時に今買ったオレンジジュースが地面に落ちる。
転がったジュースは彼の靴に当たった。
それを手に取った男は、


「・・・久しいな、

「・・・グラハム・・・!」


グラハム・エーカーその人だった。
駆け寄ってきたを眩しそうに見つめ、彼は口を開く。


「よもやこのような場所で君に会えようとは・・・」

「グラハム・・・それ、地球連邦の・・・」


軍服を身に纏っているグラハムに、が視線をやる。
彼は「ああ、これか」と言い襟元を正す。


「今は軍に身を置いている。君も、相変わらずのようだが・・・」


今日は天使の羽休めかな?
そう問うグラハムには曖昧な笑みを返す。


「さっきこっち見てた?」

「おや、流石。気付いていたか」


グラハムはにオレンジジュースを手渡しながら言う。
受け取ったそれを両手で抱えながら、は彼を見上げた。


「お面は止めたの?」

「なんと・・・お面とは・・・あれは立派な仮面だとも」


グラハムの言葉に、そっか、と返しながら手をあげる。
そのまま彼の右側にある傷跡に触れる。
グラハムは若草色の瞳を瞬かせた後、柔らかく其れを細めた。
心地良さげに瞳を伏せ、甘える猫のように彼女の手に頬を摺り寄せた。


「・・・痛む?」

「もう平気だとも。この傷は君が私を救ってくれた証だ。気にしてもいないさ」


むしろ見せびらかしたいくらいさ。
と言うグラハムには「前は隠してた癖に」と言って笑う。

グラハムも手を伸ばし、の胸元にある自分が贈った首飾りに触れる。
瞳を和らげながら彼は口を開く。


「・・・君は、私を責めてもいいのにそうしないのかな」

「・・・責める?グラハムを?」


なんで?
空色を瞬かせるにグラハムは困ったように微笑む。


「私はアロウズに君が捕らわれの身となっている事を知りながら救い出さなかった愚か者だ」


君が苦しんでいる事に気付きながらも。
そう言うグラハムには瞳を大きくした。


「自身の事を優先してしまった・・・君も苦しんでいたというのに・・・」

「でも、グラハムも色々あったんだから・・・」

「しかし、どうしても言いたかった・・・」


グラハムは小さく息を吐いて、改めて姿勢を正してに向き直った。


「君は幾度と無く私の心に光をくれた太陽だ。それなのに、自分自身を優先し、私を救ってくれた君を蔑ろにしてしまった」


すまなかった。
彼はそう言い頭をさげた。
当然は慌てて両手を振ってグラハムに声をかける。


「ちょ、ちょっと!止めてグラハム!」


頭をあげて!
そう言い彼の肩に触れる。


「私はずるい男だ。優しい君は私を許してくれる事を分かっていながらもこのような行動に出ている」


頭を下げたまま言葉を紡ぐグラハムに、は思わず体を硬くする。
小さく息を吐いてから、グラハムの傍に一歩近付く。


「グラハム」


えい、と彼の首筋に冷えたオレンジジュースをくっつけた。
突然冷たさを感じ反射的に顔をあげたグラハムに、は笑みを向ける。


「そんなに難しく考えないで。傍に居てくれた事も分かってるし、想ってくれていた事も分かってる」


私はそれで十分だよ。
そう言って微笑むにグラハムは若草色を見開く。


?」


どこ?
というフェルトの声が聞こえる。
あ、と思っては顔をあげる。
そのままグラハムに「はい、」とオレンジジュースを手渡す。


「ごめん、仲間が待ってるから。これ、プレゼント!」


グラハムも休憩中でしょ?甘い物でも飲んでね。
そう言い片手を振ってはフェルトの下へ向かった。
あ、とグラハムが手を伸ばしたが、その手が彼女に届く事は無かった。


「・・・正に天使だな・・・」


ぐ、とオレンジジュースを両手で抱え、グラハムはそう呟いた。

戻ったはフェルトに紅茶を手渡す。


「何か良いのあった?」

「うん。少し買っちゃった・・・は、誰かと話してたの?」


訝しげに未だそこに居るグラハムを見るフェルトに、は頷く。
ちょっとね、と言うに何かを思ったのか、フェルトは鋭い視線を彼に向けながらの腕を掴む。


「・・・それじゃあ、行こう?」

「え?あ、うん」


フェルトに引っ張られて足を動かす。
は空色を瞬かせながら、フェルトを見やる。
早足で、まるでこの場から早く離れようとしているフェルトに小首を傾げる。


「服も買ったし、アクセサリーも大丈夫でしょ?靴とかも見る?」

「え?あるのじゃ駄目かな?」

「折角だし、一緒に選ぼう?」


にこり、と微笑んで言うフェルトにもつられる。
結局その後、靴もフェルトと買い物をしてからホテルに一泊する事になった。

予約しておいたホテルに着くと、二人でベッドに横になる。


「ふわー疲れたねー!」

「いっぱい歩いたからね」


お疲れ様。
そう言い微笑むフェルトには「フェルトもね」と返す。


「こんな買い物・・・久しぶり」

「ミレイナとは行かないの?」

「地上でのミッションが中々無いから・・・今度ミレイナとも行きたいな」


そう言いフェルトは微笑む。
ミレイナは宇宙暮らしが長いから、私が案内してあげようかな。
フェルトはそう言ってうれしそうに笑った。
恐らく、クリスティナとのショッピングを思い出しているのだろう。
フェルトもお洒落をするようになったし、いい傾向かも。
そう思いながらは思い切り体を伸なす。


「フェルト、お洒落さんだね。今日もたくさん選んでくれて嬉しかったよ」

「・・・そう、かな?」


小首を傾げるフェルトには頷く。
新しいアクセサリーを弄っているフェルトを見て、は頬杖をついて彼女を見る。


「それ、すごく似合うと思うよ」


みんなにも見せてね。
の言葉にフェルトは困ったように笑う。


「でも、トレミーに戻ったら制服を・・・」

「少しくらいなら大丈夫だよ。ライルや刹那にも一緒に見せに行こうよ」


きっと褒めてくれる。
はそう思いながら言うが、フェルトの表情はそれに反して曇った。


「・・・でも、きっと刹那はに夢中だから・・・、」

「え?」


ぽつりと呟かれた言葉。
小首を傾げるにフェルトは慌てて「なんでもないの!」と言う。


・・・そうよ。にはアレルヤが居るんだから・・・刹那の・・・、


刹那の、片思いだから。
は悪くないのに。

フェルトはそう思いながら小さく息を吐いた。

ベッドの上で頬杖を着いて携帯端末を操作し始めたに視線をやる。
メールをしているようで、表情穏やかに端末を操作している。
恐らくは相手はアレルヤだろう。だからこそ、あんな表情をしているのだろう。

ふわふわの金髪。空色の大きな瞳。
芯があって強い意思を持っているのに、どこか儚さを感じさせる
誰でも彼女を守りたい、支えたいと思うだろう。
刹那も、自分を支えてくれるに惹かれないわけがない。

そう思いながらフェルトは小さく息を吐いた。

そんなフェルトの心情を露知らず。
は携帯端末でアレルヤにメールを送っていた。


・・・えーっと、今日はフェルトとお買い物をした・・・っと


今度買ったもの見せるね。
そこまで打ち込んで送信の操作をする。
携帯端末をベッドの上に置いて頬杖をついて思わず頬を緩める。


楽しみだな・・・三ヶ月ぶりだし・・・マリーも元気かな?


そう思いながらは携帯端末を突っつく。
今日はグラハムにも会えたし、いい日だな。
そんな事を思いながらはベッドに横になった。

二人で順番にシャワーを浴びた後、ベッドで寛ぐ。
夜で友だちとお泊りといえば、


「恋愛トークってやつ?」

「え?」


の言葉にフェルトが瞳を丸くする。
うーん、とは髪を梳かしながら考える。


「私はアレルヤとの事しか話せないけど・・・フェルトはどう?」

「わ、私!?」


私は、と言い言葉を濁す。
頬を赤く染めながら視線を彷徨わせるフェルトには「お」と声をあげる。


「気になる人でも居るの?誰?」


レーゲン?ジュビア?刹那?ラッセ?
等と思いついたままの名前をあげていく。
それとも、


「ニールの、事とか?」


そう問うにフェルトが動きを止める。
は身を起こしてフェルトを見る。


「・・・ニールの事は、ずっと想ってるよ。彼は私を変えてくれた・・・大切な人だもの」

「ニールだったらライバルはティエリアだね」

「どうしてそうなるのよ」


ふふ、と笑みを零すフェルトにも笑う。
きっとフェルトの初恋だったであろう。
だからこそずっと引きずって、ライルの事も見ていた時期があったのだろう。
はそう思いながらフェルトのベッドに移動をする。


「私の事より、の事を聞きたいな。アレルヤとハレルヤ相手じゃ大変じゃない?」

「え?大変って、何が?」


小首を傾げるにフェルトは「え」と短く声をあげたあと、急に顔を赤くして手を振る。


「ち、違うの!そういう意味じゃなくってね!?」

「え?」

「・・・だ、だから・・・ハレルヤは乱暴っていうか・・・に酷い事してないか心配で・・・」

「ハレルヤは優しいよ」


フェルトから見たハレルヤはがさつで乱暴で口悪い。
兎に角良い印象が無かったが、が嬉しそうに話すので印象が少し変わった。
アレルヤに関しては変わらずで優しい事や色々尽くしてくれる事をフェルトは聞いた。

幸せそうに彼の事を話すを見て、フェルトは安心した。
二人が恋人同士となった事は分かっていたが、以前のの様子を知っている身としては心配だった。





『・・・二人は恋人同士じゃないの?』


クリスティナ等がこの二人の関係について話していた。
だから、とアレルヤは恋人なのだとずっと思っていた。
いつか私も二人みたいに誰かと幸せになれたら、なんて考えながらもロックオンと自分を重ねた事もあった。

しかし、その問いかけにが返したものは、


『・・・だったら、いいな』


思わず短く声をあげた。
アレルヤとは恋人同士だと思い込んでいたから。
は苦笑して、言葉を続けた。


『でも、私はアレルヤが大好き』


あまりにも幸せそうに、微笑んで言うものだから何故か自分が恥ずかしくなった。
はにこりと微笑んで、言葉を続ける。


『彼が、すごく好きなの』


きっと、二人は相思相愛。
もアレルヤも、お互いを想いあっているんだ。
そう思って、言葉を口にした。


『想い合っているんだね』


羨ましい、と思わず呟いた。
しかし、次に見せたの表情は、


『・・・ずっと、一緒はできないけれど』


酷く、悲しげなものだった―――。





だからこそ、がそんなに嬉しそうにアレルヤとの話をする事が、フェルトには嬉しかった。
今度のデート、上手く良くといいな。
そう思いながら、フェルトはの隣に横になった。










後半に続く!(笑)
次はアレルヤとのデート編になります。

フェルトとの関係やグラハムとの再会も折りいれてみちゃいました^^

拍手ありがとうございました!