人類が宇宙に進出して数百年。
宇宙の覇権をめぐり人間同士で争う血の時代を経て、地球連邦の成立を期に平和が訪れたかに思われたが、それは一瞬に過ぎなかった。
A.G.101年。
突如地球圏に襲来した謎の敵"UE"によって、スペースコロニー・エンジェルが破壊された事件"天使の落日"を端緒とし、
UEと地球連邦軍の戦いは終わる事無く続いていた。
幼少の頃にUEの襲撃で母親を亡くし、母親から託されたAGEデバイスを元に設計したガンダムAGE−1に搭乗してUEと戦った者が居る。
救世主というガンダムを造った彼は地球連邦軍の指揮官の位置に居る。
その者の名は、フリット・アスノ。
これから彼女が出会う、運命の人の父親であった。
はっきりと今でも覚えている。
燃える街。引かれる手。痛む足と喉。肌に感じる熱さ。
頑張って!と言って走る母親は自分を引いていない左腕があらぬ方向へ曲がっている。
先ほど爆風に煽られた時、自分を庇った際に怪我をしたのだろう。
爆発音に反応し、其方を見てしまう。
そこにはUE・・・ヴェイガンのMSが街に攻撃をしている所だった。
爆発する建物。爆風が此方にまでまた及んできた。
母親が自分を抱き上げる。
足をもつれさせながらも片腕で我が子を抱きかかえた母親はザザ、と電波の悪い状態の携帯端末を持たせた。
『・・・い、・・・じょ・・・い・・・!!!』
ザザ、という音に紛れて声がする。
それは父親が開発した携帯端末。
離れたコロニーに住まう家族の為だけに連絡用として造ってくれたもの。
此方のヴェイガン襲撃の報は届いているだろう。
爆音が飛び交う中、腕の中にある携帯端末に呼びかける。
「お父さん!お父さん!!」
『・・・え・・・!無事・・・、い・・・・・・!』
「おと、」
お父さん、と名を再度呼ぼうとした途端、ヴェイガンの機体が此方に掌を向けてきた。
あ、と思った時にはもう、攻撃が放たれていた。
母親が悲鳴をあげる。
腕の中から投げ出され、地面を転がる。
痛みに悶えながらも顔をあげ、瞳を見開く。
目の前にあったのは、自分を抱いてくれていた腕。
「・・・ぁ、」
あらぬ方向に曲がった足。
仰向けなはずなのに地に伏した顔。
無残な母親の姿に瞳を見開く。
唇から震える息が漏れる。
「お、かあ・・・さん・・・!」
ヴェイガンの機体のバイザー部分が光る。
ひ、と息を飲んだ後、条件反射に立ち上がる。
そのまま駆け出し、叫び声をあげる。
怖い、怖い、怖い!
このままじゃ死んでしまう。
自分を守ってくれた母親も、目の前で死んでしまった。
そうだ、お母さんは、死んだ。
「う、う、・・・うあああああああああああああ!!!!!!」
恐怖と悲しみから涙を零しながら、幼い少女は炎の中を駆けた。
時は流れ。
A.G.140年。
"コウモリ退治戦役"と名付けられたアンバット攻略戦から25年が経過したが、火星圏に本拠を持つヴェイガンと地球連邦軍との戦争は続いていた。
12歳でありながらも地球連邦軍の少尉という立場に居るはディーヴァの中で待機していた。
今頃は新兵たちを集めた式典を行っているはず。
様々な艦隊が新兵を受け入れる為に準備をしているが、は特にする事も無く、父親に言われた通りに動いていた。
Gアルターのデータチェックも難なく終わった。
あの機体は父親でああるジーニンが司令官であるフリット・アスノと共に作り上げたガンダムの能力を受け継いだ機体である。
アデルやジェノアスよりも機動性も高いそれに不備なんてあるはずがなかった。
でも、もう一度機体を良く見ておくか。
そう思いは立ち上がり、自室から出る。
25年前に造られたディーヴァだが、古い印象も無く、艦内は綺麗なものだった。
しかし初めての艦により、未だに道を把握出来ていない。
与えられた機体にばかり注意がいってしまっていたようだったは、気付けば連結路のところまで来ていた。
なんとなしに其方を見てみると、どうやら式典が終了したようだった。
連結路を通って其方を覗いてみると、ディーヴァに乗艦する予定の新兵パイロットたちが集まって来ていた。
「あんたがアセム・アスノ?」
青緑の髪を靡かせた少女が、金色の髪を束ねた少年に声をかける。
「君は」と返すアセムと呼ばれた少年は、緑色の球体ロボットをキャッチした彼女を見返す。
「私はアリーサ、あんたと同じ期待のルーキーだよ」
「何で俺の事を?」
「噂になってんの知らないの?『アスノ司令官の息子は、ガンダムに乗る特別扱いの坊ちゃんだ』ってね」
『ボッチャン!ボッチャン!』
アリーサと名乗った少女が言うと、彼女の手の内にある球体ロボットが声をあげる。
驚いた、あれは喋るのか。
はそう思いながら連結路の入り口で立ち止まる。
アスノ司令官の息子。ガンダムに乗る。
というと、あの金髪の少年がアセム・アスノで間違い無いだろう。
アセムは「やっぱりか」と言い表情を歪める。
アリーサは気にするなと言うが、彼の表情は晴れなかった。
「分かってる・・・慣れてるよ。それで何か?」
素っ気無く返すアセムの顔を、アリーサが覗き込む。
突然の接近に驚いたようで、アセムは思わず背を反らす。
「あれ?何か冷たいなぁ・・・うちの親父も軍人でさ、アスノ司令官の幼馴染なんだ」
「え?」
「つまり、あんたの親父とウチの親父はダチってわけ」
アリーサは微笑んでそう言い、アセムに球体ロボットを手渡す。
「だから私らも仲良くしないとな。一緒に頑張ろうぜ、アセム!」
ウインクをするアリーサにアセムも表情をぎこちなく緩める。
「ああ」と返事した彼にアリーサは満足げに笑った。
それを見たは踵を返そうとするが、アセムに渡った球体ロボットが何を思ったのか、耳のような部位を開閉させながら跳んできた。
『ハロ、ハロ』
「・・・!」
戻ろうとしていたは反射的にそれを受け止める。
「ハロ?」とアセムが声をあげる。
どうやらこの球体はハロというらしい。
どうしたんだ、と言いアセムとアリーサが近付いてくる。
「・・・子ども?」
アセムが訝しげに眉を潜めてを見下ろす。
はアセムを見上げ、無言でハロを差し出した。
ああ、と言いアセムはそれを受け取る。
「・・・君は、どうしてこんなところに・・・?」
「・・・まさか、あんたがジーニン所長の子どもの・・・?」
アリーサは知っているようだった。
の父親であるジーニンはMS開発やXラウンダー能力の戦闘投入精度の期待など、様々な研究を続けている。
地球連邦軍でも重宝されている彼は、所長の肩書きを持っていた。
「ディーヴァに配属だったのか・・・じゃあ、ガンダムタイプが2機になるのか」
「配属って・・・軍服も着てるし、こんな子どもが戦うのか?」
アセムがアリーサの言葉に空色の瞳を見開く。
それをぼんやりと眺めていたはアセムの瞳の色に気付く。
まるで空色みたいだ。
きれい、と思っていると、その瞳が訝しげに細められる。
「・・・学校にはこんな奴居なかったぞ」
「当たり前さ。こいつは超Xラウンダーって言われていて能力の高さから即実践投入されてるんだから」
「・・・こんな、子どもが?」
子どもが、戦争を?
アセムがそう言う。
からすれば年齢なんて関係無い。
MSに乗れば技術の高さが物を言わせる。年齢なんて関係無いのだから。
それに、数々のパイロットたちを見てきたからすると、アセムも"子ども"だった。
は何も言い返さない。
無言のまま、無表情でいる子どもにアセムが気まずげに視線を逸らす。
「・・・こいつ、喋らないのか?」
「さぁ・・・私は名前くらいしか知らなかったから・・・」
アセムの問いにアリーサが返す。
はそれを気にした様子も無く、今度こそ踵を返す。
そんなに、ハロが続いた。
『ハロ、、、』
ハロは子どもが好きだから。
そう思いながらアセムは今はハロの好きなように行動させる事にした。
後に続いていくと、どうやらは格納庫に向かっていたようだった。
出港準備中のディーヴァの中は慌しい。
それでも、機体だけを見ておきたかったアセムにとって、丁度良い場所となった。
あ、とアセムが何かに気付く。
手摺りを乗り越えて下方に向かい、整備中の機体の前に立つ。
それを横目で見ていたは、新たに搬入されて整備されている機体に視線を移す。
「これは・・・」
「ガンダムだよ」
アセムの後ろから男が声をかける。
アリーサと同じ髪色をした中年男性は、気さくな笑顔を見せた。
言葉に反応したが、ハロを抱えたままアセムと同じように手摺りを乗り越える。
それとほぼ同時に、ハロが男に飛びついた。
「おお、ハロか!元気だったか?」
『ゲンキ!ゲンキ!』
「これがガンダムってどういう事なんですか?」
アセムの問いかけに男はハロを抱えたまま「ああ、」と言う。
「コイツはな、状況に応じて飛行形態から人型形態に変形できる。
AGEシステムが産み出したガンダム2つ目の機体・・・ガンダムAGE−2だ!」
「ガンダム・・・AGE−2・・・!」
整備途中の機体を見上げ、アセムが声を漏らす。
聞いた話ではAGE−1でヴェイガンとの戦闘を既にこなしている様子だったので、AGE−2を見るのは初めてなのだろう。
自分の為に用意された機体を真っ直ぐに見詰めるアセム。
「お前の今までの戦闘データをバルガス爺さんから受け取って、開発を進めておいた。
こいつに装備されたハイパードッズライフルは、今までの2倍の出力を持っているんだ。
AGEシステムの最適化が終われば、すぐにでも出せるようになる」
「今までのガンダムは?」
「ガンダムAGE−1は、ビッグリングで、AGEシステムと切り離して使えるように改良する」
男の言葉にアセムが「へえ」と声をあげる。
ドッズライフルといえば、と男は言いながらを見る。
「、お前さんの機体のGアルターだがスパローのような機動性重視だから接近戦が主だぞ。忘れるなよ」
男の言葉には頷く。
頭を下げるに、男は困ったように笑う。
「本当・・・なんでお前さんみたいな幼い子を・・・」
「・・・え?」
男の呟きにアセムが瞳を丸くする。
明らかに男の瞳は哀れみの色をしている。
この子どもに対して?そうアセムが思っていると、別の男の声が響いた。
「おい!新人ども!」
AGEビルダーの近くに、銀色の髪をした男が立っていた。
「MS見学会は終わりだ!全員集合!」
上官である彼の名前は、ウルフ・エニアクル。
ディーヴァのMS部隊長である彼の下にライは直ぐに移動した。
「すみません、俺もう行かなきゃ」
「おう。ガンダムの事は、この俺がチーフメカニックとして面倒を見ることになる。ディケ・ガンヘイルだ」
よろしく頼むな。
そう言い手を差し出してきたディケとアセムは固く握手を交わす。
二人の会話を聞きながら、は一番最初にウルフの下に集合をする。
直立不動し、表情を変えないにウルフは「ん?」と言い見下ろしてくる。
そうしている間に、全員が揃い整列をする。
「全員そろったな。俺が、ディーヴァMS部隊の隊長、ウルフ・エニアクルだ」
「軍の上の方からは相当煙たがられてる荒くれらしいぜ?」
アリーサがアセムに耳打ちをする。
アセムが「へぇ」と呟いた後、ウルフが二人の前に立った。
「お前だな。この前、無茶な操縦でガンダムを動かしていたのは」
「すみません・・・」
「ったく、向こう見ずなところは親父譲りか」
頭をかいて言うウルフにアセムが声をあげる。
それを聞いてか、同じ部隊に配属になったマックス・ハートウェイ、オブライト・ローレインも瞳を大きくする。
「お前の親父とはよくつるんで戦ったものだ」
「隊長は、父の知り合いなんですか?」
問うアセムにウルフは笑みだけを返した。
そのままの様子で部隊員に声をかける。
「いいかお前ら!俺は今日からお前らのボスだ。戦場において俺の命令は絶対!それが掟だ。わかったな!」
「「「「はい!」」」」
返事を返し敬礼をした部下たちに満足した様子で「よろしい」と言い腕を組んだ。
ウルフはそのまま歩き出したが、の前まで来ると、穏やかな笑みを見せた。
「最年少、無茶すんなよ」
そう言うとの短い髪をくしゃりと撫でてからディケの下へ向かった。
そんな彼を見ていたディケは「やばいよ」と言いアリーサやオブライト、アセムに話しかける。
「ウルフ隊長の下だと命がいくつあっても足りなってい話だぜ?」
「でも、昔は"白い狼"って呼ばれて、軍でも一目を置かれた凄腕パイロットだったらしいっすよ?」
白い狼、とアセムが復唱する。
搭乗機体は全てその名の通り白色で統一されているらしい。
少佐である彼は今ではGバウンサーを駆って戦場へ挑んでいる。
「でも今はどうなんだろう?」
「俺はウルフ隊長の部隊にいた事がある」
オブライトの言葉に全員が彼を見る。
それで、どうだったんです?と問うアリーサにオブライトは瞳を柔らかくして答えた。
「あの人は模範的な軍人ではないが、最高の隊長だ」
まぁ、その内分かる。
そう言い腕を組むオブライトに、アセムもアリーサもマックスも顔を見合わせる事しか出来なかった。
少し間が開いた後、それで、とマックスが声を潜めて言う。
「あの、っていう男の子だけど・・・12歳にしてMSのパイロットで階級も少尉なんだよね」
「ああ、知ってますよ。超Xラウンダーですよね?」
アリーサの言葉にマックスが眉を潜める。
「父親が地球連邦の研究所長だからね、コネで入って、能力だって父親が底上げしてあげてるとか、色々良い噂は無いよ」
「・・・でもなんか、人形みたいな子ですよね・・・笑わないし、喋らないし」
ウルフに撫でられて乱れた髪を戻す様子も無く、はただそこに立っている。
表情は変わらず、本当にアリーサの言う通り人形みたいだとアセムは思った。
移動用のレバーを使いディーヴァの通路を移動していたウルフ。
そんな彼を背後からアセムが呼び止めた。
「ウルフ隊長!」
「アセム・アスノか、何だ?」
立ち止まって振り返るウルフに、アセムも習う。
「あの、」と言いアセムは彼を見上げた。
「あの・・・父は昔からあんな感じだったんですか?」
「あんな感じ?」
「すごいっていうか、なんでも完璧って言うか・・・?」
アセムの知るフリットとは完璧であった。
常に冷静に物事を判断し、仕事に私情を挟まない。
まさに、"完璧"だった。
アセムの言葉を聞いたウルフは「あー」と言い顎に手を当てる。
「どうだったかな・・・?まあ、ちょっと面白いガキではあったかな」
「父さんが・・・面白いガキ・・・?」
まるで今のフリットとは会わない言葉にアセムが瞳を丸くする。
「お前が誰の子だろうが関係無い、お前は他の奴等と同じ兵士だ。せいぜいガンダムをとられないように頑張るんだな」
ウルフはそう言い笑う。
はい、と言うアセムに「よろしい」と言って肩を叩く。
そのまま去っていく彼の背を、アセムは見送った。
ディーヴァのブリッジではディーヴァをビッグリングへ出港させる指示が出されていた。
「出港準備完了!総員部署に就きました」
「ディーヴァ、微速前進。ビッグリングへ進路をとる」
艦長であるミレースの指示に従い、クルーたちが手を動かす。
はパイロットスーツに着替えて格納庫で待機をしていた。
そんなの様子に、機体をチェックしていたアリーサたちが顔を見合わせる。
「・・・どうしてもうこんな所で待機しているんだ?」
マックスの問いかけに答えず、紅いパイロットスーツを身に纏ったは俯いたままだった。
少し気味が悪い。そう思いながらを見下ろしていたマックスの横から、アリーサが顔を出した。
「・・・私はアリーサ・ガンヘイル。自己紹介が遅れたな」
アリーサがそう言い手を差し出すと、が顔をあげた。
赤茶色の短い髪が、小さく舞う。
前髪の間から真紅の瞳が覗く。
その瞳が、丸く開かれる。
まるで「なぁに?」とでもいうかのようなそれは、年相応のものに見えた。
アリーサは満足げに笑うとの手を取って自分の手にあわせた。
「ほら、握手だ!」
上下に大きく振っていると、やってきたアセムが「何してるんだ」と言った。
「自己紹介が未だだったなと思ってさ。ほら、アセムも」
「・・・そうだったな」
アセムはそう言いアリーサからの手を受け取る。
小さいそれは、アセムの掌に簡単に収まってしまった。
思った以上に小さい手に少し驚きながらも、アセムは自己紹介をする。
「アセム・アスノだ」
よろしくな、と言いぎこちなく笑むアセム。
は瞳を丸くし、指先に小さく力を込めた。
手を握り返された事にアセムは思わず小さく驚く。
「・・・僕は、」
父親に与えられた名前は、。
初めて言葉を発したに、オブライトとマックスも目を見張る。
その声は子ども特有の高いもので、可愛らしいものだった。
喋ったなら、と思いマックスが先ほどと同じ問いをしてみる。
「ど、どうしてもう着替えて・・・」
「・・・」
真紅の瞳に見つめ返される。
思わず固まってしまったマックスの隣に居たオブライトが、に手を差し出す。
「オブライト・ローレインだ、よろしく」
「あ、マ、マックス・ハートウェイ。よろしく」
オブライトとマックスとも握手を交わしたライは、小さく頷いてから立ち上がる。
それで、とアセムが小首を傾げる。
「戦闘準備はまだじゃないのか?」
どうしてパイロットスーツに?
アセムの問いには小さく俯く。
どこか不安げな様子のにアセムが瞳を瞬かせる。
「・・・僕には分かる。敵が来るんだ」
「敵って・・・!?」
アセムが声をあげた直後、艦内に警告音が響いた。
全員が驚きの声をあげる中、だけが瞳を細めていた。
始めてみましたAGE連載。
AGEのガンプラで初めて購入したのはクランシェカスタムでした(笑)
最初はツンケンちゃんです。その内デレます・・・!