さくさくと歩を進めると同時に小さな音が立つ。
寒い風に思わずマントを深く被り首を竦めた少女は奥の方で先ほどから聞こえている爆音に耳を済ませていた。
―恐らく自分と同じ目的で来た帝国の魔導アーマー。
少女は肩にかけていた長身の銃を下ろし、両手でしっかりと持って再度歩を進め、倒れているナルシェのガードに近づいた。
「おい」
しゃがんで息を確認する、微かだが、生きてる。
頬を幾度か叩いて声をかけているとガードはゆっくりと目を開けた。
「・・・あ、あんたは・・・?」
「私は旅の者だ、ナルシェの氷付けの幻獣の噂を聞いて来たんだが・・・帝国か?」
「あぁ・・・あいつら、その氷付けの幻獣を、手に、入れる気だ・・・・・・!止めなければ・・・!幻獣が帝国の手に、渡ったら、大変な、事になる・・・!!!」
「・・・そうだな」
「じっとしていろ、喋るな」と言い少女はガードにポーションを飲ませると同時に何かをポツリと呟いた。
するとたちまち男の怪我は治っていき座れる程まで回復した。
「・・・すまないな、あんた、名は?」
「名乗る程では無い」
立ち上がり銃を持ち直しつつ魔導アーマーが去って行った方向を見ている少女にガードは再度尋ねた。
「恩人の名位、覚えておきたい」
「・・・・・・だ。この町のジュンという者に雇われている」
「、か・・・イイ名前だ。何時かこの恩は返すぜ」
少女、は一度だけ振り返りそう言うと歩を進めた―。
「邪魔をする」
バンという大きな音を立ててドアを開きは一件の家に入った。
中に居た老人は大して其れを咎める様子は無く「待っていた」と言うと更に奥の部屋へと通じるドアを開けてに着いて来る様促した。
は其れに従い部屋の奥へ入る、其処には歳は未だ十代の半ばから後半頃だろうと思われる綺麗な顔立ちの緑の髪を持つ少女がベットの上に寝ていた。
マントもゴーグルも外さぬまま部屋へ入りはその少女の寝ているベットの脇の椅子にどっかりと腰を下ろして男を見上げた。
「あなたがジュンか?」
「いかにも、私がジュンじゃ。 今回は来てくれて感謝している」
「私の真の目的は氷付けの幻獣。今回は雇われたから協力しているだけだ」
「報酬は出す・・・それにしても、そなたは依然としてリターナーに入る気は無いのか・・・?」
老人、ジュンにそう言われはふいと彼から顔を背けた。
其れは「入る気は無い」という意味の肯定だった。
そんな彼女の様子にジュンは はぁ と溜め息を吐いた後に「まぁ気が変わったら言ってくれ、私は諦めない」と言いを真っ直ぐに見た。
―本題か、と思いも彼を見た。
「氷付けの幻獣については帝国が手を出してきた。ので暫くは近づく事も出来ないだろう」
「機が来たら再度来る」
「リターナーは反帝国の意思を持っている、無論ナルシェのガードもだ。手を組めば幻獣に近づける」
「其れについては未だ考えさせて頂く」
表情一つ変えずに言うにジュンは動じずベットの上の少女に視線を向けた。
も習って少女を見やる、と、ジュンから凄い告白を受けた。
「この少女は先ほど魔導アーマーに乗っていた娘じゃ」
「!!帝国の!? ・・・其の娘を何であんたがこうして・・・、」
は瞳を丸くしてそう言いジュンをバッと見た時にあるものが目に入って再度ハッとした。
そして暫く考えた後苦々しげに言葉を吐き出した。
「・・・操りの輪・・・」
「そうじゃ、そなたも噂で聞いた事はあろう? 生まれながらに魔導の力を持つ娘の事を・・・」
「・・・この子が、そうなの・・・?」
はそう言い少女の頬へそっと手を添えた。
―温かい。
よくよく見ると怪我をしている、だが特に目立った外傷が無い事を確認するとほっと一息吐いた。
「そうか・・・この子が・・・」
じっと見ていると少女の目元がピクリと動いた。
そして微かに身じろぎをする。
は少女を覗き込んだままじっと少女を見詰めていた。
「・・・ん・・・・・・」
少女がゆっくりと瞳を開けた。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳が虚ろな色をしている。
未だ目覚めたばかりなので光に目が慣れていないのだろう、慣らすように何度も瞬きを繰り返しを視界に納めるとじっと彼女を見た。
「・・・あなたは・・・? ・・・・・・ここは・・・?」
上半身だけをゆっくりと起こし、辺りを見渡してそう呟く。
床に足を付けて歩こうとしたら急によろけたのでが支えた。
「ほう・・・あやつりの輪が外れたばかりだというのに・・・」
「頭が・・・痛い・・・」
「無理をするな。これは操りの輪。これを付けられればその者の思考は止まり、人の意のままに動くようになる」
ジュンがの支えている少女に操りの輪を見せながらそう説明をする。
そんな彼の説明を聞いているのかいないのか、少女はぼうっとしながら床を見詰めていた。
「・・・何も思い出せない・・・」
「大丈夫。時間が経てば記憶も戻るはずじゃ」
思い出せない。
操りの輪のせいで記憶が無いのか・・・。
はそう考えながら少女の背をそっと優しく摩った。
少女はそうしてきたをじっと見上げると首を傾げた。
「・・・あなたは・・・・・・? 私と同じ気を感じる・・・」
「私は。 ・・・分かる?自分の名前・・・」
「私の、名前・・・・・・」
少女はのマントをきゅ、と握りながら眉を寄せつつそう呟いた。
必死に思い出そうとしている。
は無理はするな、と言おうと口を開きかけたが其れより早く少女が口を開いた。
「私、名前はティナ・・・」
驚いた。
はそんな表情をして自分の名前を名乗った少女、ティナを見ていたが直ぐに表情を戻し彼女の手をそっと握った。
ティナはそんなの行動に、少しだが緊張が解けたようだった。
「ほう・・・強い精神力を持っておる」
ジュンがそう言うとほぼ同時に家の外からワンワンワン!という犬の鳴き声が聞こえてきた。
其れと同時に、ドアを強く叩く音。
「此処を開けるんだ!」
「娘を出せ!」
「そいつは帝国の手先だぞ!」
等とドンドンという強くドアを叩く音と同時に喧しく外から人と犬の声が聞こえてくる。
は其方を一瞥した後にジュンを見やる。
ジュンも丁度を見た時で彼は頷いて家の裏口の方向を見た。
「帝国・・・?魔導アーマー・・・?」
「とにかくここを出るんじゃ。わしが説明してもやつらは聞かんじゃろう・・・・・・こっちじゃ!」
ジュンはそう言うと部屋の奥へと進んで行った。
ティナは不安そうに其れを見た後にを見上げのマントを握る手に力を込めた。
そんなティナには彼女を安心させる様に彼女の手を握ってジュンの後を追った。
「裏の炭鉱から逃げられるはず。、ティナを頼んだぞ」
「了解した」
「此処はわしが食い止める。さあ、早く!」
ジュンはそう言いとティナを裏口から外へ出してドアを閉めた。
内側からガチャンと鍵をかけた音が聞こえた。
はマントの内側に来ていた防寒具を取り出すとティナへと渡した。
「着て、寒いから」
「でも貴女が・・・」
「私は未だコレがあるから大丈夫だ。さぁ行くぞ、兎に角ナルシェを出なければ・・・
・・・・・・戦えるか?」
は自分のマントを軽く掴み上げて言った後に数歩歩いたが止まり、振り返ってティナにそう聞いた。
ティナは強く頷く。 そんな彼女を見、は満足そうに頷いた後肩にかけていた長身の銃を手に持って再度歩を進めた。