ナルシェの暗く狭い坑道の中。
とティナは襲ってくる魔物を蹴散らしながら進んでいた。


「ティナ、しゃがめ!」


の声に応じて前で魔物を剣で斬り付けていたティナがしゃがむ。
その瞬間にガウン、という銃撃の音が響いて魔物に当たった。
魔物は其の攻撃で消えた。
其れをティナは横目で確認しつつ剣を片手にの下へ戻っていった。


「次から次へと出てくるな・・・そろそろ追いつかれるかもしれない」

「えぇ・・・」


そう返事を返しつつ、の頬に一線が刻まれているのに気付き手を上げて頬へと翳した。
するとは、


「ティナ、魔法は控えていた方がいい」


に言われティナは「え、」と短く声を発すると瞳を丸くした。
は自分の頬を拭い、続けた。


「・・・ティナも疲れるし、コレ位ならポーションを使うまでも無い、大丈夫」

「・・・でも、顔の傷は残りやすいのよ?」

「コレ位なら大丈夫。 ・・・ありがとう」


にそう言われティナはなんだか心の中が熱くなるのを感じた。
心だけでは無い、なんだか身体の中の体温が顔に集まっている様に顔だけが少し熱い。


(この感情は、何だったかしら・・・?)


そう思いつつを見詰めていたらティナの眼前の彼女は急にハッとしてティナの手を握って走った。
ティナが驚いて背後を見ると「居たぞ!」と叫んでいるナルシェのガードが数人居た。
そんな彼等から逃げ様としたのだが、前方からもナルシェのガードが来て壁際に追い詰められてしまった。


「ちっ・・・」


が軽く舌打ちをしてティナを背後に庇うように前へ出て銃をナルシェのガード達へ向けた。

――その時、

地面が揺れた。


「「えっ?!」」


ガゴン!という大きな音と共にとティナの立っていた場所が崩れ落ちて足場が消えた。
二人は瞳を丸くしながら、急な事に受身も取れずに落下していった―。

ズシャッ、という何かが落ちた音だけが無音の空間に響いた。
なんとか気を保っていたは起き上がろうとするが身体中に痛みを感じて「う、」という呻き声を漏らした。
それでも何とか腕を地面について上半身だけを起こす。
辺りを見渡して目に入ったのは近くで倒れている気を失っているティナだった。

はティナにも外傷があるのを確認してポーションを袋から取り出して彼女にゆっくりと飲ませ、呟いた。


「・・・ケアル」


そう言うと緑の光がティナを包み彼女の傷はみるみる内に全てが無くなった―。


「・・・っく・・・」


安心したのも束の間。身体中に痛みが走りはその場へ再度倒れた。
自分の傷も癒さなければ―。
そう思うのに身体が動かない。
道具袋に手を伸ばすも、届かない。


(あと少しだから、届け・・・)


そう思い手を伸ばし続けていると、軽快な音と共に一人の男性が目の前に下りてきた。



























カチャリという先ほどのナルシェのガードとは違い、落ち着いて軽く開けられたドアを見、ジュンは言葉を発した。


「やっと来おったか。ところでドロボウから足を洗ったのか?」


その一言に入ってきたバンダナを巻いた男は瞳を丸くした後直ぐに眉を吊り上げた。
手で銀の髪をかきながら、彼も言葉を発した。


「ど・ろ・ぼ・う? 俺を呼ぶならトレジャーハンターと言ってくれ!」

「同じようなもんじゃろうが!」


笑いながらジュンが言うとバンダナの男は「ちっちっ」と言い指を振った。


「大違いだぜ! ・・・ところでこの俺を呼び出した理由は?」


本題に入る男を見、ジュンも笑うのをやめて男を見据えた。


「フム。 実は、例の娘に会った」

「!? 魔導の力を持つという娘の事か・・・?」

「今は、この都市のガードに追われている・・・この都市には、帝国に立ち向かうだけの力がある。だがその自治力の高さゆえに我々の地下組織リターナーにも加わろうとしない・・・」


頷きつつジュンはそう言いちらりと操りの輪を見た。


「娘は、帝国に操られているだけだという、わしの意見も聞こうとしない」

「わかった。その娘を助け出せばいいんだな」

「フム。ひとまずはフィガロ国王のもとへ・・・。 そうじゃ、彼女も来ているんじゃ、今その娘を護りつつ移動している筈じゃ」

「彼女?」


首を傾げるバンダナの男だが直ぐに何かを思い立ったのか手をポンと叩いた。


「狙撃の!!」

「そうじゃ。いい加減彼女にもリターナーに入ってもらいたいしの・・・彼女も恐らく同行する事になるじゃろう、頼んだぞ」

「分かった」


男はそう言い裏口のドアを開けた―。



























「何者だ」


は痛む身体を叱咤して震える腕を支えに何とか起き上がって銃口を目の前に現れた男へ向けた。
其れに男は驚いて「違う!俺は敵じゃない!」と必死に言った。
「じゃあ誰なんだ」と言うと男はとりあえず銃を下ろしてくれないか、と問うた。


「・・・何者か未だ分かっていないのに銃口を外す事は出来ない・・・」

「俺はロック。大丈夫、あんたらの味方だ。 ジュンに頼まれてあんたらを助けに来たんだ」

「ジュンに・・・・・・ っあ・・・」

「危ない!」


知った名を聞いて緊張の糸が切れたのかの身体が傾いで手からは銃も落ちた。
ロックと名乗った男は慌てての身体を支えた。
其れと同時に彼女の被っていたフードがパサリと重力に従って落ち、彼女の美しい金の髪が露になった。
顔は未だにゴーグルをしているせいでよく分からないが髪は赤いリボンで上のほうで一つに束ねられた長く美しい金の髪だった。

ロックはその美しさに少しだけ見惚れていた自分を叱咤して近くに落ちていた道具袋の中からポーションを出して彼女の口元に宛てた。
も其れに従い口を開いて薬を飲んだ―。


「・・・すまない」

「いいんだ、大丈夫か?」

「あぁ・・・ ・・・・・・何か来る、」


はそう言いロックの腕の中で少しだけ身を乗り出して奥の道を見詰めた。
其れにロックも其方を見、現れたナルシェのガードを見、眉を潜めた。


「居たぞ!!」

「ちっ!大勢来やがった!」


ロックはをゆっくりと地に下ろして短刀を出した。
其れには「私も一緒に、」と言うが、言葉の途中でロックの手が自分の口の前に来て思わず黙った。

其の時、


クポー


「この声は・・・」


どこかで、とが思っていると後ろの穴からモーグリが数名出てきた。
各々、準備運動をしたり武器を弄ったりしている・・・。


「モーグリ・・・助けてくれるっていうのか?」


ロックが言うとモーグリ達は「クポー!」と元気良く返事をした。
其れにロックは笑顔になり前の敵を見据えた。


「ありがとうよ! お前は其処に居ろよ、直ぐに片付けて戻るから!」

「あ・・・、ロック・・・!」


伸ばした手は虚しく空を切ってぱたりと地に落ちた。
だが瞳だけはしっかりと、可愛い仲間達と共に敵へ向かう彼の背を捕らえていた―。