「生きて、いた?」
飛空挺で外へ出て行ったマッシュ達が皆が予想した通り次の日には帰って来た。
が森で射撃の訓練をしている時に、マッシュとカイエン、ガウにセッツァーが近付いてきて事の経緯を話してきた。
まずマッシュは自分の師が生きていた事を話してきた。
以前霊山コルツで突然襲い掛かってきた男、バルガスの父であり、彼らの師匠だったか。
名は確かダンカンといった。
ダンカンの死を原因にマッシュとバルガスは争っていたのでは?と、は思い小首を傾げた。
マッシュはそれに嬉しそうに大きく頷き、口を開く。
「あぁ。お師匠様は無事だった。 そして、再会した俺に新たな技を伝授して下さったんだ・・・!」
「新しい技?」
拳をぐっ、と握ったマッシュにがそう返す。
それにガウが嬉しそうに頷き、カイエンが口を開く。
「常人なら幾日もかかって己の物に出来る技を、マッシュ殿は僅か一日でこなされたのでござるよ」
「それでケフカを倒して来いって爺さんは言ってたぜ」
カイエンとセッツァーの言葉を聞いたは「そうか、」と言い笑みをマッシュへ向ける。
そして、「良かったじゃないか」と言い腕を前に出す。
マッシュも笑みを浮かべ、「おう!」と嬉しそうに返すと彼女の腕に自分の腕を軽くコツン、と当てた。
「お師匠様から授かった技、"夢幻闘舞"! これでケフカの奴をぶっ倒してやるぜ!」
「それは頼もしい」とが言い、笑みを零す。
暫くは皆で笑い合っていたが、ふと何かを思い出した様にマッシュが「あ、そうだ!」と言いまた嬉々とした様子を見せた。
そんな彼の様子にが小首を傾げると、マッシュはガウの頭をがしがしと少々乱暴に撫でながら言った。
「ガウの親父さんが見つかったんだよ!」
「・・・ガウの、お父さんが?」
獣ヶ原でずっと暮らしていて"野生児"と呼ばれている彼の親が見つかった。
本当なのか、と思いはガウを見下ろすと、彼の嬉しそうな瞳と視線が合った。
明らかに嬉しそうな様子だが、羞恥心もあるのかもしれない。
何時もの様に喜びを身体で表さないガウに、は視線を合わせる様に腰を折った。
「見つかったのなら、良かったじゃないか」
はそう言いぼさぼさになったガウの頭を手櫛で梳く様に撫でる。
それが心地よいのか、ガウは嬉しそうにしながら「がう!」と言った。
「ガウのお父さんは何処に?」
「あー、あれだ。 俺とは前にレテ川でタコにぶっ飛ばされただろ?」
「・・・あぁ・・・あの紫タコ・・・」
思えば其処が最初の出会いだったな。と、思い出しながらは頷く。
オペラでも、サマサの西の山でも邪魔してくれたな。と思いながらはマッシュの話を聞く。
「その後に、シャドウと会った所があっただろ? ほら、家があって、俺だけが入って行った・・・」
「・・・良く喋る行商人が居た事は覚えているんだが・・・」
顎に手を当てて考えるにマッシュは笑みを浮かべる。
そして、「まぁ、は入ってないしな」と言う。
「でも、場所は大体分かった。 取り合えず、其処に住んでいる人がガウのお父さんなんだな?」
「早い話がそういう事でござるよ」
なるほど。と、が思っているとマッシュが「そこでだな!」と大声で言った。
思わずそれに驚いてしまったはビクリと肩を跳ねさせるが、それに気付いた様子は見せずにマッシュは続けた。
「あの親父に教えてやろうぜ!このガウが本当の息子だって事を!!
そこでだな、せっかくの親子の対面だ・・・おめかしでもさせた方が良いよな?」
な?と、同意を求める様に言うマッシュにはちらり、と周りを見る。
それにカイエンとセッツァーは肩を竦めて返すだけだった。
彼らの様子を見ると、既にこの言葉は耳にしたものらしい。
はゆっくりと頷きを返す事しか出来なかった。
彼女が頷いた直後、マッシュは「よしっ!」と言い拳を掌に打ってパン!と、音を立てた。
「ジドールで色々準備してガウを一人前の格好にしてやろう!!」
そういう所は、エドガーと似ている気がするな。
はそう思いながらこっそりと溜め息を吐いた。
―それから。
サマサの村に戻って皆にガウの父親が見つかった事を言い、マッシュの提案も話すと、彼らは快く了承してくれた。
全員を乗せた飛空挺はサマサを離れ、ジドール付近に停まった。
中に残る人物も必要なので、シャドウとリルム、ストラゴスが留守番を引き受けてくれた。
ちなみに、移動途中の飛空挺内でテーブルマナーをガウに学ばせていたのだが・・・、
「ガウ、駄目駄目! 手で食べるなと何度言ったらわかるんだ?」
準備されているフォークやスプーンを使わず、手でサラダの野菜を掴んだりするガウにマッシュが言う。
こんな事が先程から何度も続いている。
は頬杖をつきながら二人の様子を見ていた。
セリスやティナ、ロックやエドガーなども椅子に座ったり、壁に寄り掛かったりしながら見ている。
「ガウ・・・」
「ガウじゃなくて『ハイ』でしょ!?」
「はう!」
「・・・・・・」
駄目だコリャ。
と、マッシュが思った気がした。
はそう思いながら「ガウ、」と彼を呼んで近付く。
そしてガウの手を綺麗にナプキンで拭いてからその手にフォークを持たせる。
予備に置いてあったフォークを自分が手に取り、「こうするんだ」と、言い先ずはお手本を見せる。
野菜にフォークを突き刺すと、サク、という音が響いて貫通する。
それをガウの口元に持っていくと、彼はおずおずと口を開いた。
ぱくり、と口に入れて野菜を食べたのを確認してからフォークを抜き取る。
もぐもぐ、と口を動かすガウには「やってみろ、」と言い横から見詰める。
ガウは先ずフォークをサラダに向け、ぶっすりと刺した。
刺しすぎかな。と、は思ったが敢えて口には出さずに彼を見守る。
野菜が串刺しにされた状態の其れをガウは口元へ運んでぱくりと食べる。
ガウの非常に面倒そうな顔つきに苦笑しながらも、は「そうだ、よく出来たな」と言い頭を撫でてやった。
そんな二人の様子を見ていたロックが、ぷっ、と噴出しながらクスクスと笑みを零す。
そして「何か、」と言い笑いながらを見る。
「お母さんみたいだな、」
「お、お母・・・さん・・・?」
私はまだ二十歳・・・否、二十一歳なんだが・・・。
そう思いがっくりと項垂れるに、エドガーがロックを一瞥し、口を開く。
「動作が、という事だろう? 是非私にも手解きをしてくれないか?」
「無理。 というかお前はテーブルマナー完璧だろうが」
王様が出来なくてどうするんだ。と、付け足して言いながらは腕を組んだ。
そんな彼女の言葉に「そうよね」と言いセリスが笑う。
次にセリスと一緒に笑っていたティナが、口を開いた。
「・・・それにしても、見習わせて貰うわね。私も、モブリズの子達にもそう教えたいから・・・」
「何時か、自分の子にも上手く教えられる様に、ともね」
「・・・! そんなっ、私別に・・・!」
茶化すように言うセリスに、ティナがパッと頬を朱に染め、手を振りながら弁解する。
そんなティナに笑っていると、「・・・もう!」と言いティナが少し頬を膨らます。
「私だけに言える事じゃないわ! セリスやだって・・・!」
「わ、私?」
拗ねた様子を見せるティナが言った言葉にセリスは「出来たら良いわね」と仄かに頬を朱に染めながら言っていたが、は思わずパッと顔を上げて焦った様な声を出す。
そんなに、皆が視線を向ける。
注目を浴びたは少し慌てた様子で、「な、何だ?」と言う。
そんなを見、微笑ましげに笑むマッシュが、「良いんじゃないか?」と言う。
「・・・何が?」
「とロックの子ならやんちゃそうだしな、教えがいもあるんじゃないか?」
「!!!」
マッシュの一言に頬を真っ赤に染めたが物凄い速さで部屋から出て行った。
バン!とドアを開けてまたバン!!と勢い良く閉めた。
あまりの速さに呆気に取られたマッシュが目を丸くする。
セリスは額に手を当て、溜め息を吐くと「まったく・・・照れ屋なんだから」と呟いた。
ある意味散々だった。
はそう思いながらジドールの服屋に入りながら知らずの内に溜め息を吐く。
各々がガウの服を選ぶ為にあちらこちらに向かう。
自分も服を探しながら、は先程の事を考える。
(私と、ロックの子供・・・か・・・)
私と、ロックの。
そう思うとまた知らずの内に頬が朱に染まっていく。
いけない、いけない。と思い頭を振るが、ほんのりと色づいた頬はそのままだ。
(何時か、だなんて)
願望は、正直あった。
モブリズで会ったディーンとカタリーナの間に子供が出来ている事を知った時、とても羨ましく思った。
でも、
(私には・・・、)
「ー、」
「! ひゃ!? ・・・ロ、ロック・・・!?何を・・・!」
突然背後から声をかけられ、間近で名を呼ばれて思案に耽っていたは酷く驚いた。
後ろを振り向き、誰かを確認すると眉を吊り上げて彼を見た。
そこまで驚かれると思っていなかったロックは瞳を瞬かせながら「あ、悪い」と言って笑った。
「考え事でもしてたのか?」
笑って言うロックには思わず押し黙る。
まさか、「お前との子供について考えていました」だなんて言えるはずが無いからだ。
ふい、と顔を背けるにロックは苦笑し、手近にあった服を手に取ってみる。
「・・・は、さ」
「・・・ん?」
「ケフカを倒したら、どうするんだ?」
ロックに習い、自分も手近にある服を手に取ってみて色々と見ていた所で、彼にそういわれて思わず動きを止める。
反対方向を向いているロックは其れに気付かず、空いている手で頬をかきながらの返答を待つ。
は少し考えた後、ゆっくりと瞳を伏せた。
そして、とても小さい声で、ポツリと呟いた。
「・・・お前と、一緒に居たいな・・・、」
「・・・・・・!」
問われた通り、思った事を返してみる。
だがそれは願望であり、実際自分が戦いの後どうなるかなんてまだ分からないのだ。
ケツァクウァトルには「足掻いてみせる」と言ったが、最早そんな時間なんて無いに等しい。
分離も出来ないまま、このままいったらどうなるかだなんて、彼女には予想はついていた。
だから――、
「・・・?」
また思案に耽っていた。
そんな彼女の手を、大きく温かな物が包み込んだ。
ロックの体温を感じながら、は彼を見上げた。
表面上、笑みを浮かべているが瞳は真剣だった。
そんな彼に胸が高鳴るのを感じながら、は彼の言葉に耳を傾けた。
「・・・戦いが終わったら、否、終わっても、ずっと一緒に居よう」
ずっとだぞ、分かってるか?
そう言ってはにかむロックにつられた様にもはにかんだ。
「私も、お前と居たい」
出来れば。
その言葉は飲み込んで、は微笑んだ―。
服選べよ(笑)