「この服なんてどう?」
嬉々とした表情で服を手にして皆に見せたのはティナ。
は視線を其方に向けてティナの持っている服を確認する。
彼女は「ガウに似合いそうだわ!」と言って微笑んだ。
確かに。と、が思っているとティナは「でもあっちの服も捨て難いし・・・」と言い他の服も手に取る。
そんな彼女の様子にマッシュが「そんなに着れないだろ・・・」と呟く。
直後。
「何か言った?」
腰に手を当て、眉を吊り上げてティナが怒気を含んだ声で言う。
それにマッシュと様子を伺っていたは身を震わせる。
マッシュは「い、いや、何も・・・」と言いそそくさとティナから離れて行く。
そんな中、「お〜こわ」と呟いた声がの耳に入った。
「どれにしようかなー? あっ!この服もいいけど、でも・・・ガウはどんなのがいいかなあ・・・?」
「それ、明らかに自分のも混ざってないか・・・?」
セリスがうきうきとした様子で服を選んでいる。
手には明らかにガウ用じゃないものまで握られているが、其処は敢えてスルーを、
・・・すれば良かったのにマッシュが思わずそう言う。
小声だったがそれを耳ざとく聞きつけたセリスが服を持ったままマッシュにキッ、と鋭い眼光を剥けて「何!?」と言う。
それにマッシュは先程と同じようにビクついて「・・・い、否・・・!何でもない・・・」と返す事しか出来なかった。
呆れたように溜め息を零すの横では、カイエンが何故か帽子を見ていた。
「この帽子などピッタシでござるぞ」
「・・・どれに?」
が思わずそう返す。
そんな彼女の後ろから帽子を覗き込んだロックが微妙すぎる帽子に「うお、」と短く声を上げた後に言う。
「センス悪ぃー・・・」
「な、何と!これの何処が扇子でござるか!?」
「「・・・・・・」」
そんな絶妙なボケいらないから。
そう思いながらとロックは思わず無言になった。
そんな二人の背後で「これしかない!」というマッシュの声が聞こえた。
自分が良いと思う物もちゃんと探してたのか、とは思い振り返り、複雑な表情をした。
彼が嬉々とした様子で手に持っていたのは、
「それは拳法着だろ・・・」
がそう言うとマッシュは万遍の笑みで口を開いた。
「動き易くてスポーティー、これしかないな」
「ちょっと違うと思うけどな・・・」
「・・・ちょっとか・・・?」
ロックとの呟きの後にガウが「がう・・・」と言う。
そんなガウに視線を向けていると、それまで見る側に回っていたセッツァーが動き出した。
「ちっ・・・、皆センス無ぇな・・・」
「お前はまだ良さそうだな」
がセッツァーにそう返すと彼は笑み、「だろう?」と言う。
これは期待できるかもしれない。と、思いながらセッツァーを見ていると彼はカウンターに近付き、口を開いた。
「おい、親父。俺と同じ格好をオーダーで!」
コイツのサイズでな!と言いガウの両肩を掴む。
それには「ふざけろ」と言いセッツァーの頭部をチョップした。
「痛ッ」
「お前と同じ格好なんかさせてどうするんだ!」
「何だ、お前も俺とお揃いが良いって言うのか?」
「違うし勘違いも甚だしいなお前。 それにガウはお揃いが良いだなんて言ってない」
ガウの手を引いてセッツァーから引き離しながら言う。
そんなにセッツァーは「つれないねぇ」と言うが彼女は無視を貫いた。
等としていると、
「やはりこれだ!」
と、エドガーが言いガウに何かを羽織らせる。
突然の事に周りに居た達も、羽織らされたガウも瞳を丸くした。
「タキシードでビシっと決めて、シルクハットを被り・・・口にはバラを銜えて・・・!!」
「や・り・す・ぎ!!」
タキシードを瞬時に着せ、シルクハットも被せて更には何処から出したのか薔薇までガウに渡そうとした時、ロックが口を挟んだ。
ち、ち、ち。と音を立て、人差し指を立てて振りながらロックは言う。
「ったくもう・・・、エドガーはやりすぎなんだよ。固い固い!
やはり頭にはバンダナを巻いてだな・・・、」
「バンダナの何処が立派な格好なんだか・・・。ロックに品性を求めるのは到底無理な事か・・・」
「何だと!? 言わせておけば!」
わざとらしく哀愁漂う溜め息を吐いたエドガーにロックが掴みかかる。
あからさまな挑発に乗るなよ・・・、とは思いながらガウの服選びを再開した。
後ろで聞こえるポコスカ音は気にしないようにしながら。
数分後、はガウに選んだ服を見せてみた。
ガウは鏡の前でそれに袖を通し、試着をしてくれた。
先程エドガーが選んだようなタキシードだが、色合いが違い、雰囲気が違って見えた。
お固い感じでは無く、ピッシリとした清楚感を表してみた。
まぁ、子供向けなのだが。
ネクタイを着けたらどうなるだろうか。と、思いはネクタイも着けてみた。
「・・・似合うじゃないか」
「はう・・・?」
「うん、カッコイイと思うぞ」
が微笑んで言うとガウは嬉しそうに笑い、「じゃあ、これ!」と言って手を後ろに回して燕尾の裾を掴んだ。
どうやら気に入ってくれたらしい。其の事にが安堵の息を吐いていると背後から乱闘を終えたエドガーとロックが近付いて来た。
「やはりタキシードではないか」
「お前が選んだ物とは全く違うがな」
がそう言うと、エドガーは何かを考える様子を見せた後、「フム」と納得した様な声を出す。
それにが訝しげに瞳を細めると、エドガーは「成る程ね、」と言いを見た。
「この様な服装が好きなのかね?」
「は?」
「大人の正装の事だよ」
エドガーに言われは少し考えた後、「・・・そうだな」と返す。
それを聞いていたセッツァーがさり気無く近付いてくるが、それを気にせずには口を開く。
「普段と違う格好が、良いのかもしれないな。
おぼろげだが、覚えているんだ。父の正装姿・・・」
はそこまで言うと、ほんのりと頬を朱に染めた。
「格好良かったから・・・」
「「「・・・・・・」」」
うっとりとした様子で何処か遠くを見詰めている様子のに、思わずエドガー、ロック、セッツァーは押し黙る。
内心、
(・・・の父親か・・・、興味深いな)
(俺もタキシードとか着たら、こんな顔してくれっかな・・・?)
(お父さんっ子だったってヤツか?可愛い女だぜ)
等と思いながらエドガー、ロック、セッツァーはを見ていた。
「いいか、ガウ。立派になった自分を親父に見せてやるんだぞ」
「はう・・・」
きっちりとタキシードを着こなしたガウにマッシュが言う。
それにガウは舌足らずな口調で返事を返した。
結局『はい』は言えなかったが努力した結果だ。
家の中に入るマッシュとガウに、とシャドウも続いた。
中に入ると室内に老人が一人居た。
この人だろうか?と、思っているとマッシュが声をかけた。
「よう、親父さん」
「何じゃい、お前ら・・・? おお!修理屋か!?」
修理?何の?と、思いまた小首を傾げる。
見ていると老人は「壁の時計が、」等と言い始めた。
それにマッシュは首を振りながら背にガウを隠しつつ、尋ねる。
「親父さん。あんた、息子がいたんだろ・・・?なあ、そうだろ・・・!?」
「・・・息子?」
「おう、実は生きているんだよ、親父さん。 おいっ!ガウ!」
訝しげに瞳を細めた老人に、マッシュはそう言い一歩横にずれる。
そして背に隠していたガウを呼び、前に出る様に促す。
ガウは覚束ない足取りで老人の前まで進み、「オ、ヤジ・・・」と言った。
が、それに老人は訝しげに瞳を細めたまま、口を開いた。
「なんじゃ、なんじゃ?さっきからお前達・・・息子じゃと? 儂には息子などおらん!!」
「!?」
老人の言葉にその場に居た全員が絶句した。
だってこれは、ガウのお父さんじゃないのか!?
はそう思いながらビクリ、と肩を震わせたガウに一歩近付
そんな達の様子を気にせず、老人はベッドに腰を下ろして「・・・しかし、」と呟く。
「そういえば昔、悪い夢を見た事があるな・・・。 そう・・・、悪魔の子が生まれる夢じゃ!!
儂は子供を負ぶって獣ヶ原まで行くんじゃ・・・悪魔の子を・・・・・・、」
「・・・悪魔の、子・・・?」
が掠れ気味の声で呟く。
ガウは何も言わず、唯真っ直ぐに老人を見詰めていた。
「・・・獣ヶ原に着くと、その子は俄かに泣き出しよった・・・」
「おいっ!親父さん・・・!」
マッシュが老人の目の前まで進み、声をかけるが老人は虚ろな瞳で空を見詰めながら言葉を続けた。
「そして・・・獣ヶ原にその子を捨てる・・・・・・・。儂は後ろを見ないように其処から立ち去るんじゃ・・・」
「だっ、だから…」
「すると突然、泣き声が止んだ・・・儂は後ろを見てしまうんじゃ・・・・・・。
其処には・・・見た事も無いような化け物が・・・・・・!ああ・・・恐ろしい・・・・・・!
思い出しただけでも身震いがする・・・!!」
老人はそう言うとガタガタと身体を震わせ、ベッドに倒れこんだ。
自分を抱き締める様に腕を交差させる彼の瞳は、虚ろだった。
そんな老人を見、マッシュは悔しげに唇を噛み、瞳を細める。
「駄目だ・・・、この人はもう・・・・・・、」
マッシュがそう呟くと、老人は落ち着きを取り戻したのか起き上がった。
そしてガウと目が合うと柔らかな笑みを浮かべた。
「あんたみたいな立派な子を持った親は幸せじゃろうて。
儂ゃ、今でも悪魔の子に追われる夢を見るんじゃ。恐ろしや、恐ろしや・・・」
老人がそう言い手を擦り合わせた瞬間、マッシュが一気に詰め寄って「このジジイ!」と声を張り上げた。
怒りを露にしているマッシュにとシャドウが何時でも動ける体勢を取る。
「言わせておけば・・・、ガウの気持ちも考えないで・・・! 打ん殴られたいのか!?」
そう言いマッシュが拳を振り上げた瞬間。
とシャドウが動くよりも速く、ガウがマッシュの目の前に立ち塞がった。
両手を広げ、老人を守る様に―。
「ガウ・・・ゥ・・・」
ガウは悲しげに眉を寄せ、ゆっくりと首を振った。
それにマッシュはハッとして拳を下ろす。
それを確認したガウは、最後に一度老人を振り返ると、一人で外に出て行ってしまった。
は直ぐに踵を返し、ガウを追い外へ出る。
―外へ出ると、インターセプターが悲しげに鳴いていた。
その横で、ガウは俯いていた。
が一歩近付くと、ガウは「ゥ・・・」と微かな声を漏らした。
そんなガウに、家から出てきたマッシュとシャドウも近付いてくる。
「すまねえ・・・。つい・・・、」
マッシュが頭をかき、俯いて言う。
それにガウはまた首をゆるゆると振り、ポツリと呟いた。
「オ、ヤジ・・・、生き・・・てる。 ガウ・・・、 し・・・あ・・・わ・・・せ・・・・・・」
そう言い、ガウはぽろりと透明な雫を零した―。
そんなガウに堪らなくなり、は彼を後ろから包むように抱き締めた。
それに肩を震わせたガウに、優しい声色で「泣いて良いんだ、泣いて」と囁く。
するとガウは腕の中で身体を反転させ、両手を広げての胸に飛び込んだ。
それとほぼ同時に、わあわあと大声で泣き始めた。
は強く抱き着いてくるガウを、優しく抱き締めて彼の背を撫でてやる。
結果が悪くても、知れて良かった。
何も知らない方が幸せという言葉も聞くけれど、逆にそれはとても辛い事でもある。
どっちにしろ、辛いのだが。
そう思いながらはガウを抱き締めた―。
このイベントは悲しかった。ガウ、健気な子・・・!(´;ω;`)ブワッ。