「私の名前は、レーヴ」

「私の名前は、ソーニョ」

「私の名前は、スエーニョ」


くるくると回転しながら子供の姿をした三人の魔物は口を揃えてそう名乗った。
「我ら、夢の三兄弟」と、言った後に名乗った順からまた口を開く。


「この人の、心は頂いた」

「今日は、ご馳走」


各々がそう言い、眠っているカイエンに吸い込まれる様に入っていく。
達は其れを瞳を丸くして見ていたが、よからぬ事が起こるのは間違いないので、


「待て!!」


彼らを追って、カイエンの心の中へと入った―。










































そうだ、そんなんで今こうなっているんだった。


はそう思い床に手を着いて身体を起こす。
辺りを見渡すと、一面が闇の様な、それでも仄かな光が舞うという不思議な空間の中に居た。

最終決戦前にドマの様子が見たい。と、カイエンが言ったのでドマ城へ来たのだ。
以前ケフカに毒を流されたせいで滅んでしまったドマの国、カイエンの故郷。
暫く城内を散策した後に人々の墓を作っていたら日も暮れたので今日はドマ城に泊まる事にしたのだ。

其処で―、


(・・・朝になってもカイエンだけ起きてなかったから、様子を見たら・・・、)


先ほどの子供が三人現れてカイエンの中へ入っていったのだ。
放っておけずに後を追ってしまったが。と、は思い座り込んだまま、再度辺りを見渡す。


「・・・ロック?」


辺りを見渡しても、誰も居なかった。

確かカイエンの様子を見に行き、後を追ったのは自分を入れて四人だった。
ロックとマッシュと共に部屋へ向かっている途中、シャドウに会ったから四人で起こしに行って、四人で後を追って・・・、

は取り敢えず立ち上がり、背の銃を確認する。
武器を持っていてよかった。と、思い魔物の気配を探った。
辺りに気配がある事から、居るようだった。

は歩き出し、辺りを見渡す。

空間が捻れているのか、上に階段があったり真横になったドアがあったり、明らかに不思議な場所だった。
まぁ、取り敢えず歩くか。と、思い歩を進めてみても捻れ空間のせいで奥へ進んでいるのか戻っているのかすら分からなかった。

歩を進めながら、考えてみる。

先ほど見た子供達は"夢の三兄弟"と名乗っていた。
其の名の通りなら、カイエンの夢を食べに来たのだろう。ご馳走とか言っていたし。
夢なら誰でも、という訳では無さそうだった。

カイエンは恐らく今でもドマで一人生き残った事を悔いているのだろう。

其処までは行かずとも、彼の心に深く残っている出来事には変わりない。

その悪夢を狙って来たのなら、


は其処まで考えて銃を背から下ろし、一点に銃口を向ける。


「居るのは分かっている。姿を現せ」

「・・・三人揃わずに戦うのは分が悪い」


ぐにゃり、と空間が歪んで先ほどの三兄弟の内の一人が現れた。
「夢の中まで追ってくるとは、」と言い、レーヴは瞳を細めた。


「やはり此処は夢の中か。大方、カイエンの悪夢でも狙っているのだろう」

「この人間の夢は酷く心地良い。迷いに迷っている、最高の味がするだろう」


レーヴはそう言い、「だが、」と付け足す。
そして、舌なめずりしながら品定めする様にを見る。


「お前も、お前の仲間も結構な味がしそうだった」


レーヴはそう言うと軽くジャンプをし、姿を消した―。
気配を探ってももう何処にも居ないらしい。
は銃を下ろして息を吐いた。

もう一人、

は其処まで考え、共に来ていた仲間内のある人物を思い出す。


(・・・シャドウ、)


でも、彼は飲まれなかった。
しかしこの空間の中に居る事は変わりない。

これは早めに皆と合流しなければ。

そう思いは背後に居た魔物の脳天に銃弾をお見舞いすると歩き出した。


でも、何処に。

そう思ったその時、「!!」と自分を呼ぶ声が聞こえた。
「え?」と、短い声を上げて辺りを見渡してみると、少し離れた所に浮いている箇所にロックが居た。
其方に近付いて彼の無事を確認すると、は安堵の息を吐いた。


「ロック、無事だったか」

「それはこっちの台詞だぜ。 ・・・何なんだろうな、此処。ドア開けて進んでも同じ所グルグル回ってる感じだぜ・・・」


うろついてたのか、と言おうとしたが彼が大人しくその場で留まる人物では無いのでは口を噤んだ。
小さく息を吐いてから、彼に再度声をかけようとした時に背後に気配を感じた。
は直ぐに振り返り、笑みを浮かべた。


「シャドウ、お前も無事だったか」


それに頷きもせずにシャドウは抜いてあった刀を鞘に収め、の横に立った。
此処で一人足りない事を考え、はロックとシャドウに「・・・マッシュは?」と問うた。
それに彼らは首を振るだけだった。

は顎に手を置き、思案する。


(・・・あいつの事だろうから、その場に留まる事なんかしないよな・・・)


当然ながら。

は「取り敢えず」と言いロックを見る。


「お前は其処から動くな。私とシャドウでそっちに行ってみる」

「・・・どうやって?」

「取り敢えずドアを開ければ違う場所へ移れる、と思う」


上手く行けばな。と、言いはシャドウを見る。
が最後にロックに「本当に動くなよ」と釘を刺してから歩くのに、シャドウも続いた。

取り敢えず近くにあったドアを開けてみると、全く違うであろう場所へと辿り着いた。
階段が見えたので降りてみるとまた別のドアが見えた。

暫くは無言で歩いていた二人だが、先ほどのレーヴの言葉を思い出したが「あ、」と声を上げる。


「・・・お前の所にも、来たか?」


の問いかけにシャドウは軽い頷きを返した。
それには「・・・そっか、」と言い、彼を見ずに続ける。


「吹っ切れる訳、無いか」

「・・・・・・」

「でも、それで自分が死んでそれを償いにする事は間違っている・・・」


無言で話を聞いているシャドウの視線を背に感じながら、は少しだけ伏せ目がちになる。
ゆっくりと、歩を進めながら彼の事を考える。


友を見殺しにし、今でもそれを悔いていて償い方法を探していると以前話した彼。

死に場所を探していると言う彼、それを償いだと思っている事を、は何時も否定をしていた。


「・・・逆に、生きる事を償いとすれば良い・・・、」

「生き恥を曝せと?」

「違う、そうじゃないんだ」


はそう言い、俯く。
何と言えば良いのかを少し考えた後、やはり振り向かないまま彼女は言葉を口にした。


「・・・身勝手かもしれないが・・・、私が・・・、」


私が、

そう途中で言葉を切り、は知らずの内震えていた唇を噛み締めた。
ゆっくりと息を吐こうとしても、震える唇は上手く呼吸すら出来なかった。
伏せている瞼も震え、は視界が少しだけ滲む事に気付いた。

シャドウに悟られないように拳に力を入れ、震えを抑えようとする。

なのに―、


ぽん、と頭に大きな手が軽く乗せられた。


そしてすれ違い様に、


「死ぬ気の奴に死ぬなとは言われたくないな」


―そう、言われた。


嗚呼、と思い、前を歩く事になった彼の背が滲む。
上を向いて、零れない様にしては彼の服の裾を掴んだ。

十五歳頃に一番やっていた行動だ、寂しい時、甘えたい時につい縋ってしまった彼にする事。

懐かしいかもしれない、と、思っているとシャドウが静かに言葉を発した。


「・・・やっぱり、お前には何でもお見通しか」


幻獣の力、魔導の力で生き長らえている自分。
それがケフカを倒した後どうなるのかなんて、自分が一番理解していた。
ケフカは三闘神を操ってくるだろう。それらと戦い、それらを破った後、世界は救われるだろう。
魔導という代償を失う代わりに―。

まぁ、少し考えれば分かる事だな。

そう思いはシャドウを見る。


「・・・お前が消えるのなら、俺も消えるべきだ」

「・・・・・・拾ったからには面倒は最期まで見る、って?」


の問いかけにシャドウは短く「ああ」とだけ返した。
インターセプターは?と、思ったがあれならストラゴスに預ければ済む話だった。

以前と同じように―。


「・・・・・・、」


つまりは、

シャドウは私の為に、今まで生きてくれていたという事。
はそう思い顔を前に向け、彼の背を真っ直ぐに見詰める。


ずっと前からこの背を追ってきた。

力を制御できずに暴発させてしまった時も、怪我をしている癖にずっと隣に居てくれた。
ごめんなさいごめんなさいと謝り続ける私の傍に、何時だって居てくれた。

知らず内、これからも。などと考えていたのかもしれない。

はシャドウの手にそっと手を伸ばし、彼の手に自分の手を重ねた。
それに僅かに首を捻らせ此方を見たシャドウに悪戯っぽく笑う。


「・・・お前も、私が心を許した数少ない人物なんじゃないのか?」


はそう言いクスリと笑みを零し、跳ねる様に彼の前へと出た。
そして再度前を歩きながら、「でも、」と言い今度は悲しげに瞳を伏せて呟いた。


「・・・其の時は、其の時なんだよな・・・」


彼女がポツリと零した言葉に、彼は黙って瞳を伏せた。




なんという親子←