『何時まで笑ってられる?』
(何時まで彼らの傍に入れる?)
『何時までそうしている?』
(何時まで触れていられる?)
『何時まで、―――――――――、』
(―――――存在していられる―?)
「・・・其の時は、其の時なんだよな・・・」
別に死にたい訳でも消えたい訳でもない。
ただ、如何しようも無いのだ。こればっかりは、仕方、ない
(私はつくづく運が無いらしい)
そう思い、前にあるドアのノブを捻り、開く。
其処には、既に合流していたマッシュとロックの姿が在った―。
「ウロウロしてたらよ、此処に出て」
マッシュはそう言い豪快に笑う。
それにロックは「探す手間が省けてよかったぜ」と言い鼻の頭を指で擦った。
へへっ、と笑みを零した後、彼はとシャドウを見、「じゃあ、行こうぜ」と言い未だ開けていないドアを指す。
「あそこだけ未だ通ってないんだ。行ってみようぜ」
「そうだな」
ロックの言葉に頷き、は彼の背を追った。
ドアを潜って奥に進むと、階段があった。
それを降りて行き、其の先にあるドアに進もうとした瞬間―、
「! ロック!!」
「!!」
の声に反応し、バックステップを踏んだロックの元居た位置に光が舞い、レーヴら三人が現れた。
「我ら、夢の三兄弟。三人揃ったからには、逃がしはしない」
そう言うと同時に、レーヴがファイラを放ってきた。
達は飛んで其れを避け、反撃の態勢に移る。
シャドウの投げた手裏剣がスエーニョに当たり、相手が怯んでいる隙にマッシュが拳を繰り出した。
そんな彼らの様子を見つつ、は魔法で援護に回る事にした。
「サンダガッ!!」
随分早く魔力を解放出来る様になって来た。
そう思いながらは腕を振りかざし、レーヴらに雷の上級魔法を見舞いした。
感電し、身動きの取れないソーニョにロックは短剣で切りかかり、一人を倒した。
「案外弱いんじゃないのか?」
「油断はするなよ」
軽口を叩くロックにそう言い、は銃を構えた。
照準をスェーニョに定めている最中、レーヴの唱えた魔法が彼女を包み込んだ。
それにマッシュとロックが「!!」と彼女の名を呼んで無事を確認する、と、
「・・・・・・ッ、」
外傷は無いが、何処か様子の可笑しいと目が合った。
彼女は忌々しげに舌打ちをした後、一瞬で照準をレーヴに合わせると容赦なく発砲した。
それはレーヴの真ん中に見事に命中し、二体目を倒した。
「!? どうしたんだ、大丈夫か?」
マッシュとシャドウが残りの一体に向かっている隙に、ロックが駆け戻り、の様子を伺う。
「?」と何度か呼びかけるが、喉を押さえた状態で彼女は座り込んでいた。
ロックを見上げ、パクパクと口を動かすだけで彼女は言葉を発しようとはしなかった。
――否、
「・・・まさか、封じられたのか?」
ロックがそう問うとはコクンと頷いた。
マッシュ達の様子を見、二人で十分な事を確認してからロックは「待ってろ、」と言い道具袋を漁る。
其の中から万能薬を出し、に手渡す。
喉を片手で押さえたまま、彼女はロックから万能薬を受け取るとそれをこくんと飲み込んだ。
「効果が現れるのはもう少し経ってからだな。それまで我慢しててくれ」
ロックの言葉に頷きを返し、は口をまたパクパクと動かして「ありがとう」と言った。
声で出てはいなかったが、彼女の言いたい事を理解したロックは笑みを浮かべ、「良いんだよ」と言って彼女の頭をポンと撫でた。
「ほら、終わったみたいだ」
ロックの言葉に、マッシュ達の方を見ると残り一体も倒したようだった。
案外、本当に楽勝だったのかもしれない。
はそう思いながら立ち上がった―。
奥にあったドアを潜ると、今度は違う景色が視界に広がった。
何処か見覚えのある景色に音。
セピア色の光景の辺りを見渡していたが瞳を丸くし、マッシュの肩をポンポンと叩く。
それにマッシュは振り返り彼女を見、「ん?あぁ、そうだな」と言う。
カタンコトン、という一定のリズム。
揺れる車内。
間違いなく此処は魔列車だった。
カイエンが夢見てる内容なのか?と、思いながらは進んでみる、と。
真上からカイエンが落下してきて、追ってくる霊と共に物凄い速さで走っていった。
あっという間に離れていってしまったカイエンに呆気に取られながらも、取り敢えず追う事にした。
走って追っている間に、マッシュがに「またお化けだぞ」と言ってきたので彼の足を思い切り踏んで彼女は先を走り出した。
斜め後ろで痛さに呻き声を上げている彼は気にしないフリをして。
そのままカイエンを追っていくと、空間がぐにゃりと歪んだ。
あれ?と、思っている内に、気付けば洞窟の中に居た。
取り敢えず前方を走るカイエンを追おうとして、は、と気付く。
自分達は何故か魔導アーマーに乗っていたのだ。
・・・カイエンは走っているが。
「魔導アーマーか、何だか懐かしいなー!」
「・・・カイエンが帝国軍基地で暴れてたな、これで・・・ゲホッ」
マッシュの言葉にが擦れた声でそう返す。
あの時は色々な意味で大変だった。そう思いながらカイエンを追っていると、
バキャ!!という音を立てて渡っていた橋が壊れた。
それに如何こう出来る訳も無く、達は真下へと垂直に落下していく―――。
来るであろう衝撃に身を固くしていた達だが、次に来たのは柔らかな感覚だった。
閉じていた目を開けてみると、ドマ城の寝室に居た。
全員ベッドの上に落ちたらしく、怪我は無かった。
が起き上がりながら皆を見回し、「怪我は無いか?」と一応聞いてみると全員から肯定の返事が返って来た。
取り敢えずベッドから降り、全員が顔を見合わせた時、真っ赤な光が舞った。
それに驚いて光の発生源に視線を向けると、其処には女性と少年が立っていた。
悲しげに瞳を伏せている女性は、胸の前で手を組んで口を開いた。
『お願い・・・。私の夫を・・・、カイエンを助けて・・・』
「夫・・・、貴女はカイエンの奥さん・・・?」
それに女性、ミナは頷くと『此処は、カイエンの心の中』と言った。
彼女の一言に「やはり、」と思いながらも彼女の話に耳を傾ける。
『夫は・・・カイエンは自分を責め続けていました。
ドマを守れなかった事、世界を救えなかった事・・・。そして、私達の事を・・・・・・』
『そこを、アレクソウルっていうモンスターにつけ込まれたんだ!』
ミナの後に、息子のシュンがそう言う。
アレクソウル、という名前に聞き覚えがあったは口を開く。
「アレクソウルとは・・・。千年前の魔大戦で心を無くした魂の集合体という、あのアレクソウルか・・・?」
の言葉に『そうだよ!』と言い、シュンは拳を握り、其れを振るった。
『そいつらが好き勝手に暴れてるんだ・・・お願い、パパを助けて!!』
『カイエンをお願いします・・・』
『パパを守ってあげて・・・!』
最後にそう言うと、二人はまた光の粒子となって姿を消した―。
散っていく光の粒を見詰めながら、が「当然だ・・・」と呟く。
「救える者は、救うべきだからな・・・」
はそう言いロックを見やる。
ロックもを見、頷きを返した。
―その時、
「・・・何かさ、声が聞こえないか?」
マッシュが小首を傾げながら言う。
それに反応し、が窓から外を覗いて見ると、
『なかなか良い筋をしているでござる。もっと修行を積めばドマで一番の剣士になれるでござる』
『わ〜い!!褒められた〜!ママに自慢してこよ〜っと!』
『あっ、これ!シュン!!』
中庭で剣術の稽古をしているカイエンとシュンの姿が見えた。
嬉しそうに笑いながら走っていくシュンにカイエンは『全く・・・』と言いつつも顔に笑みを浮かべて息子の後を追った。
その姿は、途中で靄が掛かった様に消え去った。
「・・・今のは・・・、」
幻?
そう思いつつは後ろに居るロックらを振り返る。
と、視界に入ったのは―、
『ねえ、あなた・・・。 私の事、愛してる?』
何時の間にか室内に居たミナとカイエンだった。
ミナは剣の手入れをしているカイエンにそっと問いかける。
『まったく、何を言うのかと思えば・・・。
武士たる者はその様な言葉を口にするものではない!』
カイエンはそう言い、剣の手入れに集中するふりをする。
お茶の準備をしているミナは『そう・・・』と言い、少しだけ寂しそうな笑みを見せた。
その後に、
『あ・・・いして・・・・・・る、でござる。愛しておるでござるよ・・・、ミナ』
顔を真っ赤にしてカイエンが呟くように言った。
それにミナは最初こそ驚いた顔をしていたが直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
その時、入り口の方から明るい声が響いてきた。
『わー!聞いちゃった、聞いちゃった!
アイシテル、アイシテル!!パパはママをアイシテル!!』
『これっ! シュン!』
『聞いちゃったもんねー!』
からかう様に言うシュンにカイエンがそう言うが、シュンはそう言って元気いっぱいに笑うと部屋から逃げる様に出て行った。
残された夫婦が『全く・・・』と、言った所でまた靄が掛かった様に二人の姿が消えた―。
しん、とした室内。
そんな中、がポツリと呟いた。
「・・・此処は、カイエンの心の中だったな・・・」
「・・・・・・これが、カイエンと家族の思い出、か」
の後にマッシュがそう言い、頭を掻く。
「早く助けてやろうぜ」と言うマッシュには頷き、「当たり前だ」と返した―。
思いのほか長い・・・!!