ドマ城の玉座の間に行くと、玉座に腰掛けたアレクソウルが居た。
そしてその脇にはカイエンが力なく倒れていた。

マッシュが前へ出、「お前がアレクソウルか!カイエンを返してもらうぜ!」と言う。
それに怯んだ様子も無く、アレクソウルはゆっくりと口を開いた。


「己の無力さに絶望し、自分を責め続けている此奴の心では我の力に逆らう事は出来ん。
 悲しみが、怒りが、憎しみこそが我の源。
 さあ、お前達も我の一部となるのだ! お前の体に乗り移ってやる!
 そして、お前が死を迎えた時に、私はまたこの姿を現すだろう!」


アレクソウルはそう叫ぶと倒れているカイエンを押し退け、空に溶ける様に姿を消した。
残ったのはアレクソウルの手下のソウルセイバー。

は銃を構えながら、辺りを窺う。
ロックやマッシュは戸惑いの色を見せ、「何処だ?」と言い構えている。

アレクソウルは相手に乗り移り、その者の生気を喰らう事によって今まで生き長らえてきた怨霊の魔物だ。
四人の内の誰かに乗り移ったのなら、と、考えはぞっとした。


(誰かに、致命傷を負わせないとアレクソウルは再び姿を現さない)


それは仲間に手をかけるという事だ。

ぞわり、と全身に鳥肌が立った。
は銃の照準を倒せないと分かりつつもソウルセイバーに合わせる事しか出来なかった。

どうしたら、と、悩んでいると目の前に立っていたシャドウが首だけを動かして此方を見やった。
何だと思い彼を見ると、彼はの持っている銃を握り、自分の方へと銃口を向けた。
それには勿論、ロックとマッシュも瞳を見開く。


「何を・・・!」

「俺を撃て。そうすればアレクソウルは姿を現すだろう」

「どうして、お前を・・・!」


撃たなければならない、

と、言いかけたの言葉を遮り、ロックが「分かった」と言い短刀を構えた。
マッシュも何時でも動けるよう、体制を整える。
そんな二人には瞳を見開き、シャドウに視線を戻す。


「良いか。アレクソウルが出てきたら一撃で仕留めろ」

「だから、どうしてお前に・・・、」


乗り移っていると分かる?
そう言いかけてはハッとした。

ずっと自分の前に立っていたシャドウ。
それは、自分にアレクソウルが乗り移らないようにする為?

レイチェルとの蟠りを無くしたロック。師匠の生を知ってやる気を出したマッシュ。
二人には不安も悲しみも無い。 それがあるのは――――、


「・・・ッツ・・・!馬鹿!」


はシャドウの手を振り払い、真っ直ぐに銃口を彼に向けた。
致命傷になるよう、それでも殺さないよう、位置を確かめながら瞳を細める。


「・・・殺してなんか、やらないからな」


アレクソウルが出てきたら直ぐに治すからな。
そう言うにシャドウはゆっくりと瞳を伏せ、「良いから早くしろ」と、言って来た。


「・・・っ!」


息を詰め、引き金を思い切り引いた。
瞬間、パァン!という発砲音が響き渡った。
倒れるシャドウから出てくる霧状の物は段々と姿を固めていき、アレクソウルが現れた。

まさか仲間を本当に撃つとは思っていなかったらしく、動揺するアレクソウル。

その隙を見逃さず、素早くロックが魔石・ラムウを使用して雷を落とす。
それを喰らいふらついた所をマッシュが素早く間合いを詰め、幾度にも見える拳を繰り出した。

脇でアレクソウルを仕留めている二人に見向きもせず、はシャドウに駆け寄り、転ぶ様に彼の傍らへと座り込む。
そして直ぐに魔力を高め、彼の傷を癒していく―。


「シャドウ・・・!」


そう祈るように呟くと、光が舞った。
淡い緑の光がシャドウを包み込み、傷を癒していく―。



「・・・なんで、お前はこんなに・・・・・・、」


くしゃり、と顔を歪ませつつも涙は零さない様に、は目を瞑った。

何故、銃口を自分に向けられない自分が、大切な人を傷付いて。
何時もそうだ、シャドウは傷付いて傷付いて、私が傷付けて、それでも、


「・・・優しいんだ・・・」


それでも、ずっと傍に居てくれた人。

これ以上傷付けたくなかった、甘えていられなかった、だから、離れたのに、


は傷を全て癒した彼を見下ろす。
そして、ショックのせいでか、意識を失ったシャドウに縋るように抱きついた。


「・・・ごめんなさい・・・・・・、」


貴方を傷付けてばかりで、ごめんなさい。

その謝罪は、静かな空間で宙に溶けた―。












































無事らしいシャドウとを見やり、ロックはほっと息を吐いた。
アレクソウルも無事倒せた事なので、自分達はカイエンの方を看る事にした。

カイエンは直ぐに瞳を開けた。そして、何事かを全て理解しているようだった。


「助かったでござる・・・。
 拙者の妻と息子が呼んでいたような気がしたでござる。その声に励まされ、何とか頑張れたでござるよ・・・」


妻と、息子。

その言葉にロックとマッシュが顔を見合わせる。
カイエンに一室で現れたミナとシュンの霊の話をした方が良いのか、と、お互い思案する。

―その時、

キィン、とまた赤い光が舞ってミナとシュンの魂が現れた。
カイエンはそれを見て直ぐに起き上がり、「ミナ!! シュン・・・!」と彼らの名を呼んで近付く。


『ありがとう、あなた・・・』

『やっぱりパパは強いや!』


微笑んでそう言うミナとシュンに、カイエンは顔を俯かせ、「否、」と言う。


「拙者は何もしてやれなかった・・・。あの時も・・・、そして今も・・・。拙者は、不甲斐ない男でござる・・・」


そう言うカイエンに、ミナがすっと近付き、カイエンが握っている手にそっと触れる。
だが、魂のみの身体ではそれを通り抜けてしまい、カイエンはハッとした様に顔を上げる。

ミナは
『いいえ、』と言うとまた綺麗な笑みを浮かべて言う。


『充分過ぎる程でしたわ。 あなた・・・、私達はいつも一緒です・・・』

『パパ・・・大好きだよ・・・』


ミナの言葉に頷きながらシュンは言う。
そんな二人の身体が段々とまた消えて行くのに気付き、カイエンは思わず声を張り上げる。
「待ってくれ!」そう言い、手を伸ばしてもそれは目の前に居るミナには触れずに空を切るだけだった。


『何時もあなたの側に・・・』


ミナがそう呟くと同時に、辺り一面、眩い光に包まれた―。








――気付けば、ロック達は現実のドマ城に戻ってきていた。
カイエンを起こしに来た部屋だ。
その部屋の真ん中に立っているカイエンは、一振りの刀を握り締めていた。

マッシュが気遣い、一歩近付くと、カイエンは振り返って口を開いた。


「ミナとシュンは、拙者の心の中に生き続けているでござる。
 もう、過去を振り返りはしない。 唯、己の信ずる道を行くのみでござる」


そう言うカイエンの瞳に、迷いは無かった。
マッシュは笑みを浮かべ、片腕を前に出す。カイエンもそれに習い、同じ動作をして拳と拳をコツンと合わせた。

そうした後にカイエンが「そういえば、」と言い掌を見せる。
その手の内には魔石があった―。


「アレクソウルの変わった姿かもしれぬ。が、魔石なので持ってきてしまったでござるよ」

「良いんじゃないか?魔石なら魔法を使うのに役立つし」


ロックはカイエンにそう言い、横を向く。
其方にはベッドにシャドウを寝かせているが見えた―。

近付き、彼女の肩に優しく触れると、は振り返った。


「この馬鹿なら少し休んだら起きるだろう」

「馬鹿って・・・、」


の一言にロックが苦笑交じりにそう返すと、は「馬鹿で十分だ」と言い椅子を引き寄せて、それに腰を下ろした。
そうしていると、器用にもドアを開け、インターセプターが入ってきての足元に座り込んだ。
インターセプターの頭を撫でながら、はマッシュとカイエンに先に皆の所に行く様にと言った。
マッシュは了承をし、カイエンと共に部屋から出て行った。

ロックは残り、の横に立ったまま彼女を見た。
口調こそ冷たいが、シャドウを心配しているのは長い付き合いなので十分分かっている。
それでも、愁いを帯びた横顔を見ると、どうも居た堪れない気持ちになる。


「・・・馬鹿だよな、コイツ。 何時も何時も、怪我ばっかりして」


はそう言いシャドウを見る。

ずっと前、力が暴発した自分を怪我をしつつも止めてくれた。
身体中傷だらけなのに、泣きくじゃる私の横にずっと居てくれた。

影ながら支えてくれている事だって分かっている。
レテ川でタコに飛ばされた後、再会したシャドウ。
魔列車の中でもああ言いながらも本当はどうなるかを全て理解していて、見守ってくれていた。

サマサでケフカに連れて行かれた自分を助ける為に、傷付いた事もあった。
魔大陸が浮上するという中、自分を助けようとしたせいだ。

ほら、やっぱり傷付いてばっかりだ。

はそう思いながら手を伸ばし、自分がして貰っていた様にシャドウの頭を撫ぜてみた。

そんな彼女の様子を見ていたロックが、苦笑しながら「なんか、」と言う。
次に照れた様に鼻の頭をかきながら、彼は続けた。


「妬けるな、なんか」

「妬ける・・・?」

「否、分かってるんだけどさ」


ロックはそう言うと椅子を引き寄せて、反対座りをする。
背凭れに腕をかけ、其処に顎を乗せながら彼は此方を見て笑った。


「シャドウって、の事凄く大事にしてるだろ?
 負けてるつもりは無いんだけど、やっぱ一番理解してるってか、近いっていうか、さ」


上手く言えないけど。と、言いロックは笑った。
それに釣られる様にも笑みを浮かべ、シャドウの頬を撫ぜる。


「こいつは優しいから、つい頼ってしまうんだ。 友愛というか、家族みたいな・・・そんな気持ちなんだ」


がそう言うとロックは「分かってるさ」と言い彼女に手を伸ばした。
それに気付いたは自分の手を膝の上に乗せ、ロックの方へ顔を向ける。

は自分の頬に触れる彼の手の温もりを感じながら、ゆっくり瞳を伏せた。


「・・・お前は、不思議だな。
 お前と話していると、心の蟠りが全て消えて行くみたいだ」


クスクス、と笑いながら言うにロックははにかみ、彼女の瞼に口付けを落とした。




シャドウ「あの、起きれないんですけど」な状態←
眠ってますけどね!!!