『幻獣の攻撃だ!! こちらも幻獣を出せ!!!』
『こちらの幻獣はもうオーディン殿しか居りませぬ!』
『怪我は治ったのか?・・・仕方あるまい・・・最後の決戦、オーディン殿にすべてを託す・・・』
『斬鉄剣!』
怪我をおして敵の中へ突入していき、次々と敵を薙ぎ払っていく。
だが、力敵わず、魔導士の力で身体を石化されてしまった。
『やるな・・・この私を石化するとは・・・』
その言葉を最後に、オーディンは石像と化した。
「これが、その石像だろう」
はそう言い、目の前にある石像を見上げた。
フィガロ城を使用し、反対側の砂漠に上がってからファルコンを使用して瓦礫の塔に乗り込もうと考えていた。
だが、地中を移動している際に何かに引っ掛かったのだ。
様子見にとティナ、ロックにエドガーが出てきてみたら、洞窟を抜けた先に太古に滅んだ国があったのだ。
太古の戦い、千年前の魔大戦の名残が未だに残っている場所だった。
が石像に手を伸ばした途端、オーディンの石像は砕け散って魔石と化した。
其れは真っ直ぐにの手の中に降りてきて、一度だけ眩く輝いた後、光を失った。
「・・・これは、」
『魔石、オーディンですね。 ・・・、右の部屋の地下へ降りてごらんなさい』
「地下に?」
突然語りかけてきたケツァクウァトルに小首を傾げつつ、が言う。
それにケツァクウァトルは『はい』と言い先を促す。
はロック達にそれを伝え、地下への階段を下りていく。
(・・・表に出て、良いんだぞ?)
『・・・貴女の負担になるのでは?』
(良い。私は平気だから)
『・・・・・・感謝します』
ケツァクウァトルがそう言った瞬間、の意識は内側へと押し込められた。
表側にケツァクウァトルが出て行った証拠だ。
眩い輝きを放ったにロックが驚いて声をかける。
「・・・?」
『・・・は我を前に出した為奥から見ています』
「あ、お前・・・ケツァクウァトルか」
色の無いの瞳を見、納得した様にロックが言う。
其の侭地下へ降りてきていると、ある一室に辿り着いた。
机の上にある綺麗な表紙のノートを視界に留め、ティナが近付く。
「これは・・・、日記?」
そう言い日記に被っている埃を軽く払い、手に取った。
「王女の、日記」そう呟いてティナは本を開いた。
「『・・・私はやはり、オーディン様の事を愛している・・・。
許されぬ事なの・・・。だが人の心を縛る事は出来ぬはず。
ましてや、あの気高い心をお持ちの方を想うこの心・・・誰も咎めは出来ぬはず・・・。
この戦いが終わった時・・・必ず・・・この想いを打ち明けよう・・・・・・』
・・・・・・これは、幻獣と人間の、恋?」
日記を読み上げた後にティナがそう言い、少しだけ俯いた。
愛するという事を知ったティナ。
そして、自分の親の事を知った彼女にはこの王女の気持ちが痛いほど伝わってきた。
『魔大戦・・・。結果、この国は敗れましたが・・・』
ケツァクウァトルがそう言い、ある方向へと歩き出す。
揺れる金色の髪を視界の端に留めたロックは「何処へ?」と言い視線で追う。
ケツァクウァトルはエドガーの横を通り抜けて、もっと奥へと進んだ。
其処には、美しい女性の石像があった。
「・・・王女までも、石化されて・・・」
ティナが呟く。
ケツァクウァトルはそれに頷きながら、石像へ近付く。
先ほど手に入れたオーディンの魔石を王女の石像の前に掲げると、きらりと王女の瞳から一滴が零れた。
「石像が、涙を、」とエドガーが驚きの声を上げる。
王女の瞳から零れ落ちた涙は、魔石・オーディンに落ちた。
魔石が一際強く輝いた後、魔石・オーディンは王女の想いでライディーンへと成った。
「・・・ケツァクウァトル、それは?」
『オーディンは王女の想いで勇者ライディーンとなったのです。
・・・貴方方の持っている魔石。そして、このライディーン。全てを合わせれば、ケフカも倒せる筈です』
ケツァクウァトルはそう言い手を翳した。
そうすると、ロックとティナ、エドガーの服の下から魔石が同調するかの様に輝きだした。
皆の所持している魔石だ。ラムウやらマディン、フェニックス等だ。
『この力があれば・・・』
そう呟いてケツァクウァトルは三人を見る。
『・・・を、お願いします』
「・・・?どういう意味?」
『彼女は、まだまだ生き延びなければならない人間です。
我などが、こうして足枷になってはいけないのです』
そう言い、ケツァクウァトルは微笑んだ。
――悲しい微笑み。
酷く美しく見える笑みは、酷く悲しげな笑みでもあった。
ロックが一歩前へ出、口を開く。
「・・・俺は、を守ると誓った。彼女の傍に居ると・・・!」
『信じます。貴方のを想う気持ちを』
頷き、そう返してケツァクウァトルは今度はニコリと微笑んだ。
が、直後、急に真剣な顔つきになり口を開く。
『・・・ケフカの居る瓦礫の塔には、三闘神の像が置かれております。
一度動かし、世界の均衡を絶った後です。何時力を暴走させても可笑しくありません。
それと、恐らく魔大戦の生き残りの魔物があそこには溢れているでしょう』
「千年も前の魔物が?」
『魔大戦の生き残りの魔物も居るでしょうが、新たな魔物も居るでしょうね。
ケフカは恐らく三闘神の力を最大限に利用出来る位置に居るでしょう。
其処へ行くには、まず先に三闘神を倒してからではないと無理でしょう』
淡々と言い放ったケツァクウァトルの言葉に三人は瞳を大きく見開く。
が、直ぐにティナが「三闘神との戦闘だって、覚悟できてるわ」と言った。
ケツァクウァトルはそれに頷きを返し、続ける。
『三闘神は"女神"・"鬼神"・"魔神"の三体です。
恐らく三手に別れて瓦礫の塔に入り、三体を倒す事になるでしょうね』
「三手に・・・、三闘神ってのは別々な位置に置かれてるのか?」
ロックの言葉にケツァクウァトルは頷いて「恐らく」と言った。
確かに、ケフカなら既に位置を変えて瓦礫の塔の中の何処かに別々に安置してあるだろう。
『まだ少しは平気でしょうが・・・早くに倒して置く事に損はありません』
そう言い、ケツァクウァトルは瞳をゆっくりと伏せた。
(・・・、全てが終われば我々は離れる)
魔導の力の源である三闘神を倒すのだ。
すなわち、其れは幻獣の消失、魔導の消失を意味している。
前々から分かりきっていた事だが、ケツァクウァトルは彼女を諦められずにいた。
魔力も衰え、傷を負ったこの身を毎日案じて看てくれていた少女。
帝国に狙われたのは自分のせいだというのに、責めずに唯、傍に居てくれた、受け入れてくれた少女。
この娘の命、儚く散る様を黙ってみていられようか。
―自分に出来る事があるのなら、
ケツァクウァトルはそう思い、意識を深い心の奥底へと押し込めた。
段々と薄れゆく光に、の覚醒を感じ取ったロックが一歩近付いてくる。
そんなロックにケツァクウァトルは最後に微笑を向けると、裏側へと引っ込んだ―。
(死を恐れない者が、この世界の何処に居ようか)
居るはずが無い。
どんなに口では言っても、心の深層では恐れを抱く。
生に幸を感じた彼女も、
そう思い、ケツァクウァトルは眠った。
よく喋る神獣だ(笑)