「ケツァクウァトルは、が大事なのね」


飛空挺、ファルコンの甲板で風を其の身に受けながら、ティナが言った。
彼女の言葉には「何だ、突然」と言い視線を移す。
ティナはクスリ、と笑みを零して口を開く。


「だって、魔大戦の時の事とか、オーディンの事とかに色々考えてたはずなのに、ずっとの事も考えてたみたいだったもの」

「・・・ケツァクウァトルは、心配性なんだ」

相手なら、皆が心配性になるわよ」


そう言って悪戯っぽく笑うティナを、少しだけ表情をムッとさせたが見る。
そして、「意地悪くなったな、」と言うと何故だかティナは嬉しそうに微笑んだ。


「・・・何で、嬉しそうなんだ?」

「何でかしらね? ふふっ」

「・・・・・・変なティナ」


眉を少し下げながら、不思議そうに呟く
そんな彼女に少し近付いて、ティナは手をそっと握った。


「頑張りましょうね」

「・・・当然」


二人で微笑み合い、甲板へ上がって来る皆を見た。
全員が上がってきたのを確認し、エドガーが口を開く。


「では、三手に別れよう。 戦力も考えて、上手く別けないといけないからな・・・」

「どの辺りに三闘神が置かれているのかは分からないのでござるか?」


カイエンがそう問う。
はそれに腕を組み、少しだけ考えた後に頷く。


「流石に其処までは・・・。大きな魔導の気ならあるから、そこらにあるのは分かる。
 だが、どれがどれだかまでは分からない」

「取り敢えず、ぶち当たった相手と戦えば良いんだろ?」


少しだけ下を向いて言ったの横にさり気無い動作で近付いて来たロックがそう言う。
が横を見ると、彼はニッと笑みを向けて「俺はと一緒に行くからな」と言った。


「ロック・・・、」

「私もと行くわ」


そう言って近付いて来たのはセリス。
彼女は真剣な瞳を真っ直ぐにに向けて来た。
それには頷き、「じゃあ、」と言い一人離れた所に居るシャドウに視線を向けた。


「ある意味一番危ないシャドウ、私と一緒に来てくれないか?」

「・・・お前に言われたくは無い」


シャドウはそう言うとに向かって歩を進めた。
彼の足元ではインターセプターが何だか嬉しそうに着いて回り、の足元に座り込んだ。

結局、三手に別れたメンバーはとロック、セリス、シャドウ。
ティナ、マッシュ、、ガウ、ストラゴス。
エドガー、カイエン、リルム、モグ、ウーマロ、となった。

セッツァーは飛空挺を操縦し、何時でも脱出出来る様に準備しておくので行かない事に。

操縦桿を握りながら、セッツァーがを手招きする。
それに気付いたは彼に近付いて、「何?」と問うた。


「気をつけて行って来いよ」

「当たり前だ」


即答するに、セッツァーは笑んで片手で操縦桿を掴みつつ、空いた手で彼女の頭に手を置いた。
「帰って来いよ」そう優しい声で言うセッツァーに笑みを返してはロック達の方へ戻る。

彼女の背を少し見続けていたセッツァーだが、瓦礫の塔が近付いて来たのに気付いて前を向きなおした。


、」


セリスにそう声をかけられ、は彼女に視線を移した。
不安げに瞳を揺らしながら、セリスは言い辛そうに言葉を濁す。
だが、近付いてくる瓦礫の塔に視線を移した後、口を開いた。


「三闘神は幻獣界において魔法を司る神様・・・。その神を倒せば・・・、」

「・・・そうじゃ、どうするんじゃ・・・?」


セリスの言葉を聞いたストラゴスがハッとした様子で言う。
その言葉の後に続く意味を理解出来ないマッシュが、「どうなるんだ?」と問うた。
セリスは俯いてしまい、答えたのはストラゴスだった。


「幻獣・・・そして魔法がこの世から消えて無くなってしまうかもしれん・・・」

「すると・・・、」


ストラゴスの言葉を聞いたエドガーが眉を寄せて呟く。
そしてその場の全員が二人に注目する。
二人を恐る恐ると言った様子で見、セリスは呟いた。


「ティナとは・・・?」


どうなるの?

それは言葉になる前に彼女が口を閉じてしまったせいで音として発せられなかった。
俯いてしまったティナの肩に、が安心させるように手を置く。
そして少しだけ微笑んで、「きっと、平気」と言う。


「ティナには人間の血だって混ざってる。だから、魔力の無くなった世界でもきっと平気だ」

「っつ・・・! は!?」


ティナは瞳を細め、の両肩を掴む。
詰め寄る様にしながら、ティナは縋るような視線でを見詰めた。

それに反してはとても優しげな笑みを向けると、小首を傾げて「さぁ」と言った。
あまりにもあっさりとそう言うに、ロックが「!」と言い彼女の腕を掴む。
それには不安げに瞳を揺らすロックの方を見る。


「私は、一度死んだ身だ。ケツァクウァトルの魔力で生き長らえている身だから」

「・・・消える、って、言うのか・・・?」

「それは分からない」


震えるロックの声に、は首を振ってそう返す。

愕然とした様子で立ち尽くすロックに向き直り、は両手を広げた。

そして、


ぱっちん!!


と、渇いた音を立てて勢い良く両手でロックの頬を挟んだ。

突然の事に瞳を丸くするロックには悪戯が成功した子供の様に笑って、「しっかり」と言った。


「何回叩かなきゃ立ち直らないつもり? しっかりしないと、」

「っ・・・! で、でも、」

「ロック」


彼の言葉を遮って、名を呼ぶ。

は彼を真っ直ぐに見詰めながら、言う。


「三闘神を倒す以外にもう世界を救う術は無いんじゃないのか?」

「でも、お前を失うんじゃ――」

「だから、分からないって言った」


は彼の頬を抓み、思い切り横へとぐいっと引っ張る。
それに「痛い痛い痛い!」と悲鳴を上げるロックには口の端を吊り上げながら言う。


「やる前から投げない!」

「う、うん、」

「やる前から諦めない!」

「わ、わかった、わかった・・・!」


ロックが返事をすると、は手をやっと放した。
痛さに瞳を細めるロックに、彼女は大きく頷くとくるりと後ろを向いた。


「・・・この根性を教えてくれたのは、皆だ・・・。だから私は進めてきたんだ」

「・・・、」

「お前も来てくれるだろ? 約束したんだから」


腰に手を当てて言うに、ロックは困った様に笑った。
が、直ぐに何時もの明るい笑みを浮かべると「当たり前だろ?」と言って彼女に手を挙げた。
も手を挙げ、掌同士を合わせた―。

二人の会話を聞いて、他の皆も決意が出来たらしかった。

それを確認したは大きく頷き、「行こう」と何時もの調子の声で言った。


本当は分かってる。

それを皆も、本当は分かってるんじゃないかと思う。

でも、何処かで希望を求めている。

本当になるかなんて、分からない事だから。


そう思い、はクスリと笑みを零した。


(本当に願っているのは、私自身なのかもな)


願わくば、彼の、皆の傍に。


そう思い、瞳を閉じたの背を、ロックは唯真っ直ぐに見詰めていた。




次は瓦礫の塔侵入です。
さぁ女神、鬼神、魔神、どれに当たるでしょうかね?