「!!」
目の前に差し出された大きな掌。
その掌の中に段々と魔力が集まってきていて、ひんやりとした冷気が漂って、
あ、ヤバイ。って思った。
『ノーザンクロス』
感情の篭っていない冷たい声が響く。
目の前に冷気の渦が繰り出され、思わず反射的に両手を顔の前で交差させて目を閉じた。
―けど、痛みは何時まで経っても来なくて。
恐る恐る目を開けてみたら、
「・・・・・・あ、」
氷付けになったロックが、目の前に在った―。
思わず瞳を大きく見開いて、見上げていた。
「・・・・・・ロック・・・?」
擦れた声で、そう呟いた。
「!!」
唖然としていたの眼前で魔神が拳を繰り出した事に気付いたセリスが叫ぶ。
はハッとして高速で詠唱してシェルを唱えた。
物理攻撃を阻む壁を作り出し、氷像と化してしまったロックを守るとは直ぐに彼に近付いた。
全身凍ってしまっているロック。
息も出来無いし、心臓も止まっているかもしれない。
何せ急激に体温が奪われたのだ、ショックだってある。
は瞬時にそう思い、直ぐに炎の魔法を唱える。
「ロックをお願い!あっちは私とシャドウで何とかするから!」
「すまない・・・!」
は走っていくセリスにそう言い、両手を前に突き出してロックの氷を溶かしていく。
表面を覆っていただけのそれに安堵の息を吐きつつ、彼の氷を溶かしていく。
向こうでは前衛で魔神の気を引くシャドウとインターセプター。
そして其れを援護するセリスが見える。
だがは脇目も振らず、ただただロックを癒していた。
「・・・ロック・・・・・・!」
段々と溶けてきたが、どうも体温が急激に低下している。
温めなくては、と思い彼の手を握りながら魔力を流し込んだりして温めていく。
「・・・馬鹿なんだから、」
後先考えないで、こんな無茶して。
そう思い、は瞳を閉じているロックの両頬を両手で包む。
そして荷物の中から毛布を取り出してロックに巻いてやる。
彼の頬を最後にひと撫でし、「行って来る」と言いは立ち上がった。
二人で何とか善戦しているが、キツイはずだ。
はそう思い、ライフルを構えて標準を魔神の脳天に合わせる。
そして、
バァン!!!!
撃った。
魔神は不意の攻撃によろけた。
その隙を見逃さず、シャドウとインターセプターが攻撃にかかる。
も駆け出して、ロックが先ほど使用していた剣を振るう。
久々のシャドウと剣の連携攻撃を繰り広げ、魔神に確実にダメージを与えていく。
静かにしているセリスなら、恐らくあの呪文を唱えているはずだ。
セリスの魔法さえ完成して放てれば、なんとかなるはずだ。
はそう思い魔神の腕を足場にし、飛ぶ。
そして真上から思い切り剣を衝き立てた―。
その後、セリスから光が放たれて魔法が完成したのが見て取れた。
とシャドウが引こうとした瞬間、魔神が大きく腕を振るった。
不意の攻撃に、二人は対処出来ずに腕が思い切り身体に当たって吹き飛んだ。
セリスが心配そうに「!シャドウ!」と悲鳴染みた声を上げる。
二人が其の侭吹き飛んで氷の壁に当たりそうになったその時、腕が伸びてシャドウとの腕を掴んで何かの上に下ろした。
「―――っふぅ! 間一髪!」
「ロック!」
とシャドウの腕を掴んで、真下に引き下ろしたのはロックだった。
テントやら毛布を使用してロックを温めていたそれをマット代わりにして二人を下ろしたのだ。
へへ、と笑いつつも凍りついた身体に今の動作はきつかったのか、彼は顔を歪ませた。
それに気付いたが素早く起き上がって彼にケアルラをかける。
二人が無事なのを確認したセリスは、ほっと息を吐いて、改めて魔神に魔法を放った。
「これで終わりよ! アルテマ!!」
セリスがそう唱えた瞬間、眩い光が舞って、魔神に降りかかった――。
パキィ、と音を立てて魔神は跡形も無く消滅した―――。
それを確認した直後、全員が座り込んだ。
が全員にケアルラをかけた後、「少し休もう」と言い丁度敷いてあった毛布の上に腰を下ろした。
インターセプターも喉を鳴らしながらに擦り寄って座った。
「・・・そうだ、。大丈夫だったか?」
あの時、と言ってくるロックには苦笑を返す。
「自分の心配をしろ」と言いロックに毛布をかけてやった。
まだ彼の身体は冷えていた。もっと温めないと上手く身体も動かせないだろう。
ロックは「サンキュ」と言って毛布を自分にかけなおす。
そんな彼には首を振って「私こそ、ありがとう」と言う。
「お前が助けてくれなかったら、今頃カチンコチンに凍っていたかもしれない」
「ほんとだぜ。お前が無事でよかった」
ロックはそう言って笑った。
は彼に笑みを返しつつ、視線を動かした。
(・・・残るは女神と鬼神か・・・。他の皆は大丈夫だろうか?)
否、平気に決まっている。
何ていったって彼らなんだから。
はそう思い、インターセプターの頭を撫でた。