ズシャッ、という音を立てての身体が地面に落ちる。
ケフカは粒子となって消滅をした。
だが、今のロックにはケフカなんてどうでも良かった。
ただ、
「!!!」
彼女だけが、気掛かりだった。
倒れているの身体を抱き起こす。
ケフカに貫かれた胸からは絶えず血が流れ続けており、止まる様子は無かった。
腰に着けていた飾りの布を外して彼女の胸に宛てても、布は直ぐに真っ赤にそまり、血が滴るまで沁み込んでしまった。
胸に風穴が開いている。
瞳を開かない彼女に、ロックは震える声で「・・・?」と彼女の名を呼んだ。
嘘だ。
唯、そう思いたかった。
だって守ると約束をした。傍に居ると言った。
それなのに―――、
「ッツ・・・!! !!」
堪らなくなって、ロックはを抱き締めた。
冷たくなってしまっているその身体はもう金色の輝きは放ってなく、何時も通りの彼女の姿だった。
視界が滲んだから、目を閉じた。
頬を伝う涙の感覚、当然気付いていたが、ロックは拭う気力すらなかった。
後ろに立っている仲間達も唖然としている様子が気配で分かった。
『――は、死にました』
ふわり、という感じで真上から金色の光を放つ神獣、ケツァクウァトルが舞い降りてきた。
翼でを、彼女抱き締めているロックごと包み込むと悲しげに瞳を細めた。
『我と分離した事が何よりの証拠。 ・・・は、死にました』
「・・・ケツァクウァトル、どうにもならないのか・・・?」
ロックが涙に濡れた顔を上げ、そう問うとケツァクウァトルはゆっくりと瞳を伏せた。
それとほぼ同時に、先ほどからずっと輝き続けていたフェニックスの魔石の光が増す。
「これは・・・、」とセリスが呟く。ロックは握り締めたままだったフェニックスの魔石を見てみると、綺麗に輝いていた。
光は舞い、真っ直ぐにへと降り注いでいく。
それが始まると同時に、フェニックスの魔石にピシリと罅が入った。
「! フェニックスの魔石に罅が・・・!」
「・・・・・・! ティナ!?」
ロックが魔石の事を言った直後、エドガーの焦った声が聞こえた。
其方を向いてみると、幻獣の姿に、トランス状態になったティナが倒れていた。
何で、とロックが思っていると、ラムウの魔石が宙へ浮かび、粉々に砕けた。
そうだ、魔導の源である三闘神を倒したのだから――、
「この世界から魔石が消えていく・・・!」
次々と消えていく魔石を見ながらセリスが言う。
「幻獣の存在が無くなるから・・・ティナの存在も・・・?」
瞳を揺らして言うリルムに、ティナは静かに俯く。
どうなるかは未だに分からない。でも、自分に出来る事はしたい。
ティナはそう強く願っていた。
そんなティナの横に舞い降りたケツァクウァトル。
ゆっくりと、彼らに語りかけた。
『・・・我々の最後の力で、脱出も可能でしょう』
もうじき、此処は崩れます。
ケツァクウァトルがそう言うと同時に激しい揺れが起こった。
ですが、とケツァクウァトルは続けて言う。
『ティナ。貴女の力があれば、きっと彼らを導いて脱出出来ます』
「・・・私が・・・」
ケツァクウァトルは頷き、不安げに瞳を揺らすティナを優しく羽で包み込んだ。
『我々幻獣と人間の友好の象徴よ。そなたは生きるべき存在・・・。
我等が消えても、後の事を任せられます』
それと、とケツァクウァトルは言うと未だに最初の位置から動かず、を抱き締めているロックへ視線を移す。
『・・・そなたらは、を愛していますか?』
「・・・当たり前だろ」
ケツァクウァトルの問いには、ロックが答えた。
他の面々も、大きく頷いている。それにケツァクウァトルは満足そうに頷いた。
「そうじゃなかったら、どうしてこんな気持ちになれるんだ・・・」
『・・・そならたの愛を信じます』
ケツァクウァトルがそう言うと同時に、身体から眩い輝きを放つ。
それに同調するように、フェニックスの魔石も輝きを増した。
何を、と、ロックが思っていると、信じられない光景が目の前で起こった。
「・・・、ロック・・・、」
が、瞳を開いたのだ。
胸に空いた風穴も綺麗に塞がっており、彼女の体温も感じられた――。
信じられない事だが、驚きよりも嬉しさが勝ってロックは彼女を強く抱き締めた。
「わ、」と慌てた声を上げると、「・・・!」と彼女の名を呼び続けて彼女を抱き締めるロック。
そんな二人にケツァクウァトルは近付き、『一時的です』と言い放った。
『我々の愛しい人間、。
そなたにも、我々は生き延びて欲しいと願っています。何より、生き延びたいというの願い・・・。
・・・我は、やっと貴女へ恩返しが出来そうだ』
「・・・ケツァクウァトル・・・?」
ロックに抱かれながら、は不安げに瞳を揺らした。
そんな彼女にケツァクウァトルは優しげな笑みを向け、『聞いて下さい』と言う。
『生命を操る事は容易ではありません。
我々幻獣の全ての力を使い、に生き延びて貰います。
あの時一度死に、そして今正に二度目の死を受けた。我々の因果に巻き込んでしまったが故に・・・。
次こそは、幸せになって貰いたい。 それが、我の願いです』
「ケツァクウァトル、私は・・・!」
『人間、は一度死に、また何時か舞い降りるでしょう。
それは幾日後かなど、我々でも分からぬ事。
魔力を貯蓄し、生命の源とし、身体を成すまで、如何程の時間を要するのか・・・。
それを待つ、覚悟はありますか?』
静かなケツァクウァトルの問い。
何日か、何年か、下手すれば何十年後かという話だ。
本当に下手をすれば生きている内に会えないかもしれない。
だが、ロックは顔を上げ、真っ直ぐにを見詰めた。
「俺は待ちたい」
「・・・ロック、」
「・・・何時でもお前が帰ってきて良い様に、待ってるよ」
そう微笑んで言ったロックに、は表情をくしゃりと崩した。
泣き出しそうな彼女の表情に、ロックは困った笑みを浮かべた。
「嫌か?」
「・・・嫌じゃない、 嬉しい、けど、私・・・!」
戻ってこれるか、
其処まで言いかけたの口を、ロックは自分の口で塞いだ―。
顔を離した後、ロックは笑って「待ってる」と言った。
それにポロリ、と涙を零した。
そんな彼女に皆近付いてきて声をかける。
「私も待ってるわ。戻ってきたらモブリズに来てね」
「私もよ。、絶対私にも顔見せに戻ってくるのよ?」
「殿には世話をかけたでござるな・・・。以降、拙者も恩返しをする為に日々技を磨いておくでござるよ」
「俺も、もっと強くなる!戻ってきたら見てくれよな?」
「城に来てくれたら最上級の持て成しをさせて頂くよ、レディ」
「がうがう!ガウもまってる!」
「ボクもウーマロと一緒に待ってるクポ!」
「サマサにも寄って欲しいゾイ。待ってるからのう」
「戻ってきたらの似顔絵描いてあげるヨ!!」
ウーマロはモグに同意するように唸り声を上げた。
シャドウは何も言わなかったが、腕を組んで真っ直ぐに此方を見ていた。
きっと、彼は待っていてくれる。自分が死ぬ訳ではないのだから。
は皆の言葉に微笑んで答えた。
それとほぼ同時にケツァクウァトルの身体が輝きだす。
ハッとして其方を見ると、ケツァクウァトルの身体が透けていた。
消えてしまう! そう思ったは「ケツァクウァトル!」と名を呼んだ。
「・・・私は・・・、お前と居ても、幸せだった・・・」
『・・・。 ありがとう・・・』
「礼を言うのはこっちの方だ。 ありがとう、ケツァクウァトル・・・」
がそう言うと、ケツァクウァトルは微笑んで、光の粒子となった。
その光は真っ直ぐにに降り注ぎ、吸い込まれていく。
地面の揺れが激しくなった事を感じ、ティナが立ち上がった。
「私に着いて来て。残された最後の力を使って皆を導く!」
そう言ったティナにが「私も手伝う、」と言おうとしたがセリスに手をぎゅっと掴まれてしまった。
其方を見ると、少しだけ目元を赤くしたセリスが居た。
「貴女、今は何時消えても可笑しくない身体なんだから、無茶しないで」
少しでも、今は一緒に居たいの。
そう言うセリスに、は申し訳なくなって複雑な笑みを向けることしか出来なかった。
きっと、脱出している途中で消えてしまうだろう。
それでも、今は居るなら、再会するまで間だってあるのだ。
少しでも一緒に居たい。
皆が、そう思っていた。
長いので区切ります。いよいよラスト。