!こっち!」


セリスに手を引かれながら走る。
そうしていると、途中で突然階段が消えてなくなった。
思わず手を離してしまい、とセリスは階段の上と下で隔てられてしまった。
「あ、」と思ったがは直ぐに下に居るカイエンを呼ぶ、


「カイエン!其処のスイッチを押して!」


そう言いながら下に落ちそうになっているエドガーの手を引く。
指定されたカイエンは「えっ!?」と慌てた様子で返してスイッチに近付く。
そんなカイエンを見ては苦笑をする。

そういえば彼は機械音痴だった。

初めて会った時だって、魔導アーマーの操縦が出来ないほどだった。
見かねた自分が彼の膝の上を借りて、操作したんだっけ。


・・・そういえば、破廉恥とも言われたっけ・・・


等と思いながらはカイエンを見守る。

カイエンは恐る恐るといった様子で機械を操作し始める。が、途中で分からなくなったのか「機械は苦手でござる!」と言いながら適当に押し始めた。
おい。と、思ったが再び階段が現れてエドガーも無事に着地できた。


「機械音痴も何とかなるでござるな!」


そう言いカイエンは嬉しそうに笑った。

本当に何とかなるものだな、偶然でも。
はそう思いながら走っていたら、真横から手が伸びて来た。
此処には居ないはずのそれに「あれ、」と思いながら彼を見上げる。


「セッツァー?」


どうして此処に?
そう問う前に彼に「迎えに来たんだ。飛空挺はこっちさ」と言われて腕を引かれた。

彼の案内で進んでいると扉があった。
其処へ行こうとしたセッツァーだが、ティナに「待って!」と言いとまる。
その直後に、目の前の扉が塞がれて左右に道が開けた。

どっちへ、と皆が悩んでいる中、セッツァーがコインを投げた。
コインは左へ転がって行ったので、其方へ向かおうとしたセリスとマッシュ。

だが、コイントスしたセッツァーが「待ちな!」と彼らを止めた。

そして逆の道を指す。
取り敢えず指された方へ進み、扉を開けるマッシュ。
それと同時に、先ほど進もうとしていた先にあった扉が大爆発を起こした。


「・・・今、考えている事の逆が正解だ。 でも、それは大きなミステイク」


セッツァーがそう呟く。
正解だった方の扉へ向かって走る皆。
もセッツァーと共に一緒に走る中、彼は嬉しそうに、


「お前の口癖だったな。 ダリルよ!」


と言い、亡き友を思い出していた。

その友の話は聞いたことがあった。
今使っている飛空挺ファルコンの持ち主だった人だ。

それにしても、とは思いセッツァーの後姿を見る。

こんな時でもコイントスをするなんて、根っからのギャンブラーだ。
自称、流離いのギャンブラー、だっけ?
そう思いながらはくすりと笑みを零した。



前へ進むと、扉が閉まっていた。

エドガーが率先して扉に付いている機械を操作する。
それとほぼ同時に、彼の頭上からトラップが作動したのか、大きな鉄板が降ってきた。
驚くエドガーに、「危ねぇ兄貴!」と言いマッシュが駆け寄って手を伸ばして鉄板を防ぐ。
その間にエドガーは操作を続けた。


「・・・俺は、兄貴に国を押しつけたわけじゃないぜ。
 兄貴は国を支える。俺は、その兄貴を支える。だから俺は強くなろうとしたんだ!」


そう言うマッシュに、エドガーが微かに口の端を吊り上げる。
二人に駆け寄ったは、手を翳してマッシュの手助けをする。
ウーマロやロックも加わって積み重なってきた鉄板を押し退ける事が出来、扉も開ける事が出来た。

大きく息を吐いているの手を、今度はマッシュとエドガーが片方ずつ引いて走った。


「お疲れかい? レディ」

「・・・そう見えたならそうしておけばいい」


ふい、とそっぽを向いたにエドガーは「相変わらず手厳しいね」と言う。
そんなエドガーには悪戯っぽく笑い、言う。


「そんなお前は相変わらず軽いお口だな、王様」

「・・・何だか、懐かしいね」


初めて会った時も似た様な台詞を言ったな。
はそう思いながら次にマッシュを見た。

彼は仲間内で初めて自分を叱って、思いをぶつけてくれた相手だ。
今なら自分が魔列車でした事は馬鹿な事だと分かる。
何時もマッシュには、元気を貰っている。

そう思って彼の背を見ていたら視線に気付いたのか、マッシュが振り返って「ん?」と言ってきた。
それには首を振って「否、なんでも」と言い前を見る。

其処には、穴に落ちそうになっているモグが居た。
「あ、」と思っていると横からクレーンが伸びてきてモグを見事に挟んだ。
そして其の侭移動し、モグを下ろす。 まるで・・・、


「ぬいぐるみじゃないクポー!」


クレーンゲームみたいに。
と、は思っていたがモグが必死にそれと違う事を主張しているので黙っている事にした。
ぼてっと落とされたモグに近付いて起こしてやる。

そういえば、モグとはナルシェで出会ったのだったな。とは思い出す。
コソ泥狼を追いかけていたら人質になってしまったモグ。
それが出会いか、否、きっともっと早い段階で出会っていたかもしれない。

最初の、坑道で助けてもらった時、とか。

そう思いながらはモグを抱えて走った。



前の方で何だか足が止まっている様だった。

ロックやマッシュ、エドガーが扉に体当たりしているがどうも開かないらしい。
どうすれば、と思っていると腕の中のモグが「ウーマロ!行くクポ!」と声を上げた。
さり気無く横に立っていたウーマロは大きく頷くと、「ウガー!」と声を上げて何故か壁へ突っ込んで行った。
え?ドアじゃなくて?と、が思っているとウーマロが体当たりした壁が一気に崩れ、道が出来た。
そっちの方にあったドアにエドガー達が素早く近付いて開けると、奥へちゃんと続く道があった。
「でかしたぞ!」やら言葉をかけて走っていく皆。
もモグを抱えながらウーマロの方へ行き礼を言う。


「ウーマロ、流石だな」

「ウー・・・。 ウガー!」

「え、ちょっ・・・!?」


が笑って褒めると、ウーマロは嬉しそうに咆哮した後を横抱きにして走り出した。
きっと嬉しかったんだ。彼は。
根は素直で純粋な奴だから、とは思いウーマロを見上げる。
彼には髪飾りを貰ったりと、色々して貰った事もあった。

そう思っていると真上から思いっきり腕を引かれた。
「えっ?」と声を上げると其処には万遍の笑みのガウが居て、「ちかみち!」と笑顔いっぱいで言われてしまった。

何?と、が思っているとガウはの手を引いたまま道じゃない場所へと突き進んでいく。
「ま、待って!」とが声を上げた事で全員が此方に気付いてくれたが、ガウは止まらなかった。
の手を引いたまま、剥き出しの岩の上を飛んだり降りたり、繰り返す。

ガクガクと揺れる視界の中、ガウは相変わらずだなと思う。

自分を慕ってくれて、何時でも気にかけてくれていた子供。
心優しい少年には、何時も癒されていた。
がそう思ってガウを見ていると、ガウはやっと地面に着地した。


「ガウ!ちかみちちかみち!」

「・・・無理矢理過ぎたけど、偉いぞガウ」


がそう言ってガウの頭を撫でると彼はとても嬉しそうに笑った。

ガウが通った近道を通り、先へ進むとベルトコンベアがあった。
其処を使用して皆が進む中、後ろからリルムの焦った声が聞こえた。


「駄目!諦めちゃ、おじいちゃん!」


ベルトコンベアの逆走は老体にきついものがあったのか、リルムが小さい身体で背負って進む。
も慌てて戻ってストラゴスに肩を貸す。
「すまんのォ」と言うストラゴスにリルムは進みながら口を開く。


「弱音ばっかりはいていると似顔絵描くぞ!」

「あわわ!それだけは勘弁ゾイ!」


リルムのスケッチは攻撃手段としてのものだ。
似顔絵を描かれたら、思いっきり攻撃される事は目に見えている。

リルムはそのつもりで言ったのだろうが、急にしおらしくなり、「でもね、」と呟く。


「・・・本当の似顔絵をおじいちゃんに一度は描いてあげたいの・・・」

「リルム・・・。 よせい、こんな時に・・・、霞んで前が見えんゾイ・・・」

「・・・あたしね、のも描いてあげたいんだよ?」


リルムに言われ、は「私のも?」と返す。
彼女は大きく頷いて、「だって、」と言って続ける。


「ほんと、最初助けて貰ったのに、ちゃんとしたお礼出来てないもん」


だから。と、言うリルム。
そうだ、家事に巻き込まれたリルムを助けた事もあったっけ。
はそう思いながらストラゴスを見る。
ストラゴスは「最早、懐かしいのう・・・」と呟いた。
「そう、だな」とは返して笑みを向ける。


「・・・今度、昔の話でもしようか」


皆で、と言うにストラゴスは瞳を細めて「そうじゃなぁ・・・」と言った。


ストラゴスを連れてベルトコンベアを抜けると、先には実験室みたいな場所があった。
ティナが「こっち!」と言い進むので皆が続く。
そうしている中、一つの魔石がティナから飛び出した。

―ティナの父親、マディンの魔石だ。


「お父さん・・・?」


ティナがそう呟く。
直後、マディンの声が響いた。


『ティナよ、お別れだ。 この世界から幻獣が消える。幻獣の血を引いたお前ももしかしたら・・・。
 ・・・でも、もし人間として何か大切な物を感じとる事が出来たのなら・・・、
 お前は人間としてこの世界に・・・・・・、』


その言葉を最後に、マディンの魔石は砕け散った。
そして、先ほどから砕けている魔石の様に粒子となり、に吸い込まれるように消えていった―。

立ち止まってしまったティナに近付き、は彼女の手を握る。
そして「こっちだったな」と言い彼女の手を引いて走り出す。


「・・・!」

「・・・最初も、一緒にこうやって走っていたな」


ナルシェの炭坑の中で。
そう言うにティナは瞳を細めて「えぇ・・・」と言い頷く。

ナルシェのガードから二人で逃げていて、それでも囲まれて、穴に落ちて。
それからも、色々あった。リターナー本部でも色々な話をしたし、幻獣化してしまった彼女を探す為に旅立ったりもした。

なんていったって、彼女は自分の――、


「友達、だから」


がポツリと呟く。
それにティナが「え、」と言い瞳を丸くする。
そんなティナの脳裏にある光景が過ぎる。あれは確かフィガロ城での事、








「私、友情とかそういうの、分からないの」

「・・・当に忘れていた感情だ」


はそう言い、フードを外して壁に寄りかかる。
金の髪が宙を舞った―。


「・・・友達に、なれるのかしら」

「ん?」

「私と、友達に、なれるのかしら・・・?」


ティナはそう言い真っ直ぐにを見詰めた。
は微笑して壁から離れティナの肩をぽん、と片手で一回叩いて歩を進めた。


「なれたらいいな」








「・・・ふふっ、」


其の時の事を思い出して笑みを零すティナ。
彼女に「何」と返すの耳は少しだけ赤い。照れているのだ。
ティナは微笑んだまま、「ありがとう、」と言う。そして、


「私の大切な、初めてのお友達・・・」


そう言って、皆を導く為にふわりと浮いて前へと出て行った―。

そんなティナの背を見送っていると、後ろを走っていたセリスが近付いて来た。


「・・・ねぇ、私もの友達になれてる?」


そう問うてくるセリスには瞳を丸くし、「何を今更」と言った。
セリスは嬉しそうに微笑み、「ありがとう」と、言ってを見詰める。


「裏切り者と言われた私を、貴女はずっと信じててくれたのよね」


私、凄く嬉しかったんだからね。
そう言うセリスには「私だって、」と返す。


「迷惑かけてるなって思ってたけど、セリスが何時も心配してくれた時、嬉しかった」

「・・・当たり前じゃない!貴女ってば直ぐに無茶ばっかりするんだから!」


そう言うセリスにはクスクスと笑みを零す。

今みたいに心配される事が、とても嬉しかった。
セリスの真っ直ぐな思いが伝わってきて、酷く安心出来る様な気持ちにもなれたのだ。


そのままセリスと共に進んでいたら細い道へ出た。
どうやらこの奥が出口らしい。ティナが駆け出し、ストラゴスやリルムが走っていく。
ある事に気付いたは前を走るセリスに気付かれない様に立ち止まり、辺りを見渡す。


「・・・シャドウ・・・?」


そういえば、姿が見えない。

まさか、と、嫌な予感がしては辺りを見渡した。
「シャドウ!?」と彼の名よ呼びながら少しずつ歩いて進む。
そうしていると脇の道に寄りかかっているシャドウを発見して、思わず駆け寄る。
足元にはちゃんとインターセプターも居て、安心した。


「何をしているんだ、早く行かないと此処も崩れる!」


そう言ってシャドウの腕をぐいぐいと引く。
の行動を真似てか、インターセプターもシャドウのズボンを咥えてぐいぐいと引っ張る。


「・・・俺は、」

「・・・シャドウは言った、約束って。
 ・・・さっき、ちゃっかり聞いていたんだからな、私」


シャドウを引っ張りながらは言う。
先ほどケフカの問いに皆が答えていた時、シャドウははっきりとそう言っていた。

はシャドウを真っ直ぐに見、「だから、」と言う。


「私は、必ずお前の下へ戻ってくるから・・・。お前にも待っていて欲しい」


だから、こんな所で一人ひっそりと死のうとしないで。

視線だけでそう訴えるとシャドウは瞳を細めた。
動かなくなったシャドウに小首を傾げていると、思い切り彼に引っ張られた。
何事かとが思っていると、「早く走れ」と背を押されてしまう。

後ろからはちゃんとシャドウとインターセプターも走ってきている。
どうやら後ろの道が崩れ始めたようだ。
こうして一緒に走ってくれているという事は、シャドウは約束を守ってくれるという事。

それが嬉しくて、は微笑んで頷いた。


そのまま二人で走っていると、皆の後姿が見えた。
どうやら追いついたらしかった。

そう思ったその時、くん、と頭が後ろに引かれた。
何だと思い振り返って見ると、バンダナが壁の金具に引っ掛かっていた。
は取り敢えずバンダナを解いて、シャドウとインターセプターを先に行かせる。
と、行ってもシャドウは少し離れた位置で立ち止まって此方を見ていたが。

が壁に引っ掛かったバンダナを外し終えたその時、彼女の足元の床が崩れ落ちた。
彼女自身も落ちそうになり、反射的にまだ無事な部分の床を掴む。
片腕しか伸ばせなかった。もう片方の手にはバンダナがあるから。

何とか片腕だけで耐えようとしたの手を、大きな手が掴んで引き上げた。
突然の事に驚いていると、誰かの胸に飛び込んでしまった。


「あ、危ねぇ・・・!」

「・・・ロック・・・?」


が見上げると、其処には肩で息をしているロックが居た。
ロックは彼女の背と膝裏に手を回すと素早く抱き上げた。
そしてシャドウに「行くぞ!」と声をかけて走り出した。


「ロック、あの、」

「バンダナ、大事にしてくれてるんだな、お前は、相変わらず!」


走っている事もあり、声が途切れ途切れになる。
ロックはぎゅ、と彼女の肩を掴む手に力を込めると高いところから飛んで、地面へ着地した。
そしてまた走り出す――。


「だってこれは、お前がくれたお守りだから・・・」

「・・・色々、俺達すれ違いも、あったけど・・・」


ロックはを抱きかかえたまま走り続ける。
そんな彼の腕にも、前と変わらず真っ赤なリボンが巻かれている。








「俺は、これからも君の隣に居る。
 が何かに苦しんでいるのも、悩んでいるのも、俺のせいかもしれない。
 だけど、君の傍に居たいんだ、俺も・・・我が儘だな」


ロックは苦笑をして、を正面から見た。
そして、の金の髪にそっと触れる―。


「俺のせいでの苦しみも、悩みも、俺が癒してやりたい。
 出来れば・・・・・・、」

「――っ、 !」








「えと・・・私は言葉に表すのが苦手だから上手く言えないんだが・・・・・・。
 ・・・つまりは、元気を、出せ・・・・・・直ぐにじゃなくていいんだ、だから・・・出来れば、その、あの・・・、あれだ・・・あれ・・・」


しどろもどろになりつつも一生懸命言葉を捜しながら自分を励まそうとしてくれるを見ていてロックは笑みを一つ零した。
そんなロックを見ては瞳を丸くしてきょとんとした。
其れを見てロックは更に笑みを深くした。


「な、何だ・・・?」

「否、ありがとう。 

「・・・・・・?  あぁ・・・、まぁ、何かあったら私を呼べ。
 誰かが傍に居るだけで、結構楽になるらしいからな、人は」








「ほんと、色々あったな・・・」


ロックの腕の中で、彼に寄り添いながらが思い出す様に瞳を閉じて言う。








「・・・ロック?」

「・・・あ、わ、悪い! その・・・・・・本当に綺麗で・・・。

 ・・・・・・はは、何か、照れるな・・・!」

「こっちが照れる・・・」


はそう言い頬をほのかに赤く染めてふい、とそっぽを向いた。
ロックは其れを見てナルシェでの事を思い出しつつ、ふ、と笑う。


「何かって、普段はキリッとしてるけど本当は可愛いよな」

「か、かわっ!?」

「本当だって・・・―――、」


肩を跳ねさせて此方を向いたの頬に手を伸ばして、触れる直前で止める。
其れをは不思議そうに見、「ロック・・・?」と呟く。

ロックは少し苦笑した後、「、」とまた名を呼んでこう言った。


「・・・触れても、良いか・・・?」








「セリスが心配だ・・・セリスは私を助けてくれた。帝国軍のスパイだったなんて言葉、私は信じない!」


は歩を進めようとした。
彼女を見てロックは慌てて彼女の腕を掴む。


「駄目だ!!」

「放せ!」

「駄目だ!!お前まで居なくなったら・・・・・・!!」

「――っつ・・・!!」


乾いた音が響いた。

が酷く傷付いた表情で、ロックの頬を強く叩いたからだ―。

見ていたエドガーとマッシュも驚き、瞳を見開く。
叩かれたロックはじんわりと痛む頬を押さえ、唖然とを見ていた。


「・・・だ・・・・・・、」

「・・・え?」

「やっぱり・・・、誰でも、いいんだ・・・・・・」








「考えれば、俺って、に叩かれっぱなしだなぁ・・・」

「安心しろ。これからも沢山引っ叩いてやるから」


悪戯っぽく笑って言うにロックは苦笑して「それは勘弁、」と言った。








「コレ、貰うな・・・。 私は、コレが無いともう駄目みたいだから・・・、」

「っ・・・そんな物幾らでもくれてやる・・・! だからっ!」

「ロック」


は笑みを浮かべてロックの手を放した―。


「今まで、ありがとう。
 ―――ずっと、好きだった・・・、
 ・・・さようなら―――」








「手を離した時もあったけど、」

「離されても、俺はずっと追い続けるぜ?」


お前の為なら、絶対。

ロックはそう言って段差を飛び越えた。








「離して!此の儘じゃお前まで落ちる!」

「ふざけんな!! 絶対・・・・・・絶対離さないからな!!」

「っ・・・・・・ロック!!」


訴えかけるようにロックに離せとは言うが彼は「嫌だ!」と言い首を振った。
が再度彼の名前を呼ぼうとした瞬間、彼が揺れる地面のせいでまた亀裂に身体が飲み込まれそうになった。

としては彼を失うという事は耐えられない事で、瞳を細め、悲痛な表情で「ロック!!」と叫んだ。


「私なんか助けてはいけない!!私のせいで国は滅んだ!私のせいで立ち寄った村は襲われた!
 私に関係した者は皆不幸になる!! だから―――!!」


私なんて・・・!そう言うの手首をギュ、と更に力強く掴んでロックは裂け目に擦れる腕に痛みを感じたせいか、眉を寄せながら「馬鹿野郎・・・!」と口を開いた。


「好きな女の手を、離せるかってんだ!!!」

「―!!」








「どうして・・・? それさえあれば、レイチェルさんを・・・」

「・・・レイチェルは、俺の心に光をくれた。
 彼女はこう言った。俺がレイチェルに与えてきた幸せに対する感謝の気持ちで俺の心を縛っていると。
 その鎖を断ち切って、心の中の、その人を愛してくれって」

「ロック・・・、」

「レイチェルが居なくなったからでも、そう言ったからじゃない。
 俺は俺の意思で、レイチェルとの間にあった事をはっきりさせて、蹴りをつけたんだ。

 だから、。 俺はお前とこれからを過ごしたい、

 俺は、お前が好きなんだ」








「何時も私は、お前に救われてきた」


はそう呟く。
ロックは「ああ、」と言い瞳を細めて走り続ける。

彼に寄り添いながら、はバンダナをぎゅっと抱き締める。


「・・・約束、したよね、」


戦いが終わったら、ずっと一緒に居ようって。

そう言うにロックは何度も頷く。
そんなロックを見上げ、は微笑んで彼の頬に触れる。


「・・・待ってて、くれるんだな・・・」

「・・・当たり、前、だろ・・・!」


ロックの返事には嬉しそうに微笑んで、「ありがとう、」と呟いた。


―直後、


最後の魔石が砕け散り、彼女の身体も光の粒子と化した―――。


ッ――――!!!


首を振って、ロックは飛んだ。
飛空挺に着地というより、思い切り座り込んで降りてきた状態のロックだったが、誰も何も言わなかった。

ティナが案内をする中、セッツァーが舵を切って彼女を追う。
魔石が無くなった世界では、ティナの魔力ももはや皆無だ。
人間の姿に戻り、降下するティナを助ける為に飛空挺もほぼ垂直の状態で降下する。

あまりの衝撃の為、遠退いていく意識の中、ロックは空へ手を伸ばしていた。


(―、)


俺は、ずっと待ってるから―――。


そこで、意識は途切れた。




next epilogue......