「やめろっ!!バルガス!」
目の前に現れた大きな体の男。
攻撃をしかけてこようとしたバルガス、そしての横に居たエドガーが瞳を見開いた。
エドガーは驚いたままだったがバルガスはギリ、と歯を強く噛み締めると苦々しげに言葉を吐いた。
「マッシュか・・・・・・!」
「マッシュ!!」
バルガスの後にエドガーが叫んだ。
どうやら現れた男はマッシュというらしい、とは思い男、マッシュの後姿を警戒を解く事はせず見ていた。
「バルガス、何故、何故、何故・・・・・・!!ダンカン師匠を殺した・・・!? 実の息子で、兄弟子の貴方がっ!」
殺した、 バルガスが、 ダンガン師匠?
は頭の中の単語を掛け合わせて先ほどコルツ山の麓で老人から聞いた話を思い出していた。
「ほいほい。知っとるよ。二、三日前にお師匠のダンカン様が殺されてね・・・・・・その直後に山に登ったよ。
ダンカン様の息子、バルガスも行方知れずでねぇー・・・・・・ここもこんなに荒れちまって・・・・・・」
「・・・先ほどから私達の周りをうろうろしていたのは、コイツの方だったのか・・・」
バルガスを探して?
そう思いながら前の二人の事の成り行きを見守っていたらバルガスが口を開いた。
「それはなあ・・・・・・奥義継承者は息子の俺ではなく拾い子のお前にさせるとぬかしたからだ!!」
「其れは違う!」
声を張り上げて言うバルガスにマッシュも声を張り上げて返す。
すると怒りを露にしていたバルガスの表情が一変し、歪んだ笑みを浮かべた。
「どう違うんだ? フン、違わないさ。そうお前の顔に書いてあるぜ」
「師は、俺ではなく・・・バルガス・・・!貴方の素質を―――・・・」
「黙れ!戯言等聞きたくないわ!自ら編み出した奥義!そのパワーを見るがいい!!」
まるで会話が噛み合っていない。
マッシュは必死に説得をしようとしている様だがバルガスが聞く耳を持っていない。
そんな事を思っていたらバルガスがまた先ほどの構えを取った―・・・。
其れに此方側の全員がハッとするがもう彼を止められない、
バルガスは拳をグッと握って此方を睨んだ―
殺気!!
「必殺!連風燕略拳!!」
拳を此方に物凄い速さと気を纏わせながら突き出してきて其処から信じられない程強い気の向かい風が生まれる。
鎌居達の様な切れる風に耐える為に地から足が離れないように踏ん張っていたがフワリを身体が浮いた。
浮いた直後、凄い速さで後方に飛ばされる―!
「っつ――!!」
「! !」
吹き飛ばされてロックの真横を通ったのか、直ぐ近くから自分を呼ぶ声が聞こえたと思い其方を見てみたらロックが此方を振り返って見ていてせっかく今まで耐えて足を着けていた地を蹴っての方へと自ら飛んで来た。
そして手を伸ばして腕を掴むと自分の方へと引き寄せて抱きかかえ、其の侭二人で岩肌へ叩き付けられた。
といっても、ロックが庇ってくれたお陰では直撃はしなかったのだが―、
「ロック・・・!」
慌ててロックの腕の中から上を向いて彼の顔を伺い見る、
彼は痛みに耐える様にきつく瞳を閉じていたが心配しているの視線に気付くと瞳を片方だけ開いてニッと笑った。
「平気だ・・・」
「馬鹿っ・・・平気な訳無い・・・今治すから・・・・・・!」
そう言いロックにケアルをかける―。
淡い光が彼を包む。
は回復しながら辺りの様子を伺ったがティナとエドガーも何とか無事の様だ。
ロックが終わったら彼らも回復しないと・・・。
等と思っていると前方から笑い声が聞こえた。
「流石はマッシュ!親父が見込んだだけの事はある男!」
先ほどの場所に唯一踏ん張って立っているマッシュにバルガスが向けた言葉だ。
しゃがみ込んだマッシュを見下しながらバルガスはそう言い口元の端を吊り上げた。
そして、構える。
「や、やるのか・・・」
マッシュはゆっくりと立ち上がって構える。
此方からだと後姿しか見えないので表情は伺えないが口調からして躊躇しているのだろう、
「宿命だ」
バルガスはそう言いマッシュとの間合いを一瞬で詰めると彼に一撃をお見舞いした。
マッシュは軽く後退するが直ぐに体制を立て直して構えるが、見えた彼の表情は苦々し気だ。
「・・・終止拳かっ・・・」
「そしてお前には私を倒す事は出来ぬ!それもまた宿命だ!!」
バルガスはそう言い苦しむマッシュを見、笑った。
「ハハハハッ!お前の命も後僅かだ!」
―終止拳、恐らく相手の命を奪う・・・業・・・
は思わず舌打ちをし、精神を集中させた。
―大丈夫、きっと自分なら彼を助けられる・・・。
けれど、今はしない。 今彼を回復させても意味の無い事だから―。
「如何したマッシュ!後が無いぞ!」
其の声に反応して見るとマッシュはバルガスの攻撃を防御する一方で崖へと追い詰められていた。
治療し終わったエドガーが思わず身を乗り出して叫ぶ。
「マッシュ!」
「止めだマッシュー!」
バルガスが最後の一撃の拳をマッシュに振り下ろす―が、
マッシュは其れをひらりと身をかわすと拳を握って一撃、バルガスにお見舞いした。
「うっ!?」
突然の反撃に防御も取れずにバルガスはモロに喰らった。
―一撃では済まない、
次々とマッシュは拳を繰り出していく。
ニ撃、三撃、四撃、五撃、 もう目では確認出来ないくらい―。
「爆裂拳!」
「うっがががっ!! す、既にその技を・・・・・・っ・・・・・・ガハッ、」
マッシュの拳を全て受けてバルガスはその場に倒れこんだ―。
「・・・貴方の驕りさえなければ・・・師は・・・・・・」
終わった。
はそう思いポツリと何かを唱えマッシュに人差し指を向けた。
するとマッシュの傷が全て癒えて先ほどの終止拳の効果も消えた様だった。
―数分間が空いてから、マッシュが動いた。
「あれ?傷が?」
遅い。
と思いながらマッシュを見ていたらエドガーが「マッシュ!」と言いながら駆けていった。
走ってきたエドガーを見、マッシュも「兄貴?」と反応を示す。
・・・まぁ、体格は結構違えど、顔は同じだ・・・。
「お・・・弟・・・?双子の!?」
ロックがそう言いエドガーとマッシュを見比べる。
恐らくさっきが思っていた事と同じ事を今思っているのだろう。
ティナも瞳を丸くさせて「えっ?」と声を上げた。
「お・・・弟さん? わ、私・・・てっきり大きな熊かと・・・」
「熊ァ!?」
ティナの発言にマッシュは大いに反応した。
否、正直其処に居た皆が。
「熊か、確かに見えなくも無いな」
でっかいし、とは付け足してポツリとつぶやいた。
怒らせてしまっただろうか、と思ったのか。不安そうにティナはこっそりに寄った。
だが直ぐにそれは杞憂だったと証明される。
マッシュは大口を開けて笑った後、
「熊か・・・そりゃあいい!」
と言いまた笑った。
正直は何が良いんだろうかと思ったがあえて口には出さないでおいた。
一通り笑った後マッシュはエドガーを見た。
「其れより兄貴、一体なんだってこんな所に・・・?」
「サーベル山脈に行く所だ」
「もしや・・・地下組織リターナーの本部?」
そう聞いてきて何故かを見て来たマッシュ。
取り敢えずが頷いてみせるとマッシュは真剣な表情からみるみる笑顔になっていった。
「とうとう動き出すか!陰ながら冷や冷やして眺めていたぜ。
このままフィガロは帝国の犬として大人しくしているのか、ってな」
「反撃のチャンスが来たんだ。もう爺や達の顔色を伺って帝国にベッタリする事も無い」
エドガーはそう言って嬉しそうに笑った。
フィガロは帝国に従事させられて居たと聞く。恐らく鬱憤がかなり溜まっているのだろう。
そして恐らく反撃のチャンスとは、ティナ。
もしかしたら先ほどの雷の一件で自分も入っているかもしれないが、とは思った。
エドガーと同じようにマッシュも嬉しそうに笑い、口を再度開いた。
「俺の技もお役に立てるかい?」
其れにエドガーは最初は瞳を丸めたが直ぐに微笑んで弟を見た。
「来てくれるか?マッシュよ・・・」
じっと弟の顔を見詰めて改めてエドガーがそう言うとマッシュは頷いてまた笑った。
「俺の技が世界平和の為に役に立てばダンカン師匠も浮かばれるだろうぜ!」
マッシュという心強い仲間を得て達は再度コルツ山を進み始めた。
コルツ山を下っている中、マッシュはに声をかけた。
「なぁ、」
「何だ?」
「さっきのって、ええと・・・」
「名前か? 私の名はだ」
が名乗るとマッシュは「そうか、俺はマッシュだ」と軽く自己紹介をした後言葉を続けた。
「さっき俺の傷治してくれたの、だろ?ありがとうな」
「否・・・大した事では無いから・・・別にそう改めて言わなくても・・・・・・
・・・・・・ありがとうと言えば・・・ロック」
「ん?」
そういえば先ほどの礼を言っていない、と思い出してがポツリとロックの名を呟くと聞こえていたのか前を歩いていたロックが振り返った。
「お礼は大事だからな!有り難いと思ったから言ったんだ」
「そ、そう・・・」
マッシュにそう言われ背中をバシンと叩かれる。(ちょっと痛い)
それのせいで前を歩いているロックの隣を歩く事になった。
お礼は大事か・・・まぁ、確かにそうかもな、と思いながらロックを見上げると「ん?」という表情で此方を見返してくる。
は何だか少し気恥ずかしくなって口早に、
「さ、さっきは、ありがとう」
と言って更に前を歩いているエドガーとティナの方へ足早に歩いていった―。
残されたロックは笑み一つ零してマッシュを手招きしてから自分も前へ進んだ。