あの後野営地にロックと共に戻ると心配そうなエドガーとは目が合った。
はエドガーの横を通り過ぎる時に小さな声で「ごめん、」と呟いてティナの居るテントへ入っていった。
外に居るエドガーはが足早に入っていったテントを見て苦笑して腕を組んだ。
「・・・私には謝る暇すら与えてくれないのかい?レディ」
次の日、無事にリターナーの本部へ達は辿り着いた。
洞窟の入り口の様な場所の前に一人兵士が立っている。
エドガーの姿を目に留めると「エドガー様!どうぞ此方へ」と言い中へ案内をしてくれた。
中は外面と違い人の手が入り込んでいる事が分かり敷物や机やらランプが置いてあって洞窟という感じはあまりもうしない場所だった。
は辺りを見回しながら兵士に着いていくエドガーの後を着いていっていた。
暫く進んでいると、一人の男の前でエドガーが止まった。
年配で髭を生やした男。恐らく彼がリターナーの指導者の・・・・・・、
「バナン様。例の娘と狙撃者を連れてまいりました」
エドガーの言葉に勘が当たっていた事をは感じた。
(この男が・・・バナン・・・)
エドガーはそう言った後ティナとを見た。
視線を追ったバナンは座っていた椅子から立って一歩、また一歩と近づいてくる。
そしてまずティナを見る。
「ほう、この娘か・・・氷漬けの幻獣と反応したと言うのは・・・」
「幻獣・・・?」
の横に居るティナはバナンの口から出た幻獣という単語に表情を強張らせた。
何かを思い出しているのかもしれない。彼女は複雑な思いの中、の手をきゅ、と握った。(恐らくは無意識だろう、)
ティナが表情を強張らせるのとほぼ同時にも幻獣という単語に反応し、一瞬表情を強張らせたが、直ぐに何時もの表情に戻った。
「如何やらこの娘は帝国に操られていた様です」
「伝書鳥の知らせで、大凡は聞いておる。
―帝国兵50人をたったの3分で皆殺しにしたとか――・・・「いやああぁぁぁ!!」
ティナがバナンの言葉を遮る様に悲痛な叫びを上げて隣に居たに抱きついた。
も無言で其れを支え、落ち着かせる様にティナの背を優しく撫でた。
「バナン様っ・・・!酷すぎます!」
エドガーがバナンのあまりにも率直な言い方に抗議の声を上げる。
彼にしては珍しく声を張り上げている・・・。
「逃げるな!」
そんなエドガーの張り上げた声以上の声をバナンは出して厳しい視線でティナを見る。
そんなバナンにティナは怯えた様にビクリと肩を大きく跳ねさせた。
はそんなティナの背をまた優しく撫でた。
「こんな話を知っておるか?
未だ邪悪な心が人々の中に存在しない頃、開けてはならないとされていた一つの箱があった・・・・・・」
バナンは話をしながらロックとマッシュ、エドガーの脇を通り抜けてとティナの下へ来た。
は正面からバナンを見据えているがティナはにしがみ付く様に抱きついた体制の儘、地を見ながら聞いていた。
「だが、一人の男が箱を開けてしまった。中から出たのは、あらゆる邪悪な心・・・・・・。
嫉妬・・・妬み・・・独占・・・破壊・・・支配・・・・・・。だが、箱の奥に一粒の光が残っていた。希望という名の光じゃ」
(人の汚い心か。 ・・・確かパンドラの箱の話、か・・・)
はそう思いふぅ、と気付かれない様に溜め息を一つ吐いた。
「どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな。おぬしは世界に残された最後の一粒。「希望」という名の光じゃ
其れは狙撃の・・・・・・お前もじゃ」
バナンは最後にを見て言った。
は今度はあからさまに溜め息を吐いてじろりとバナンを見た。そして、
「下らない」
そう苦々し気に吐き出す様に言った。
其れにはバナン、ロック達、そして話を聞いていたリターナーの兵士達までもが大いに反応をした。
そんな事をお構いなしには続ける。
「聞こえなかったか? 下らないと言ったんだ」
はティナの背を撫でながら言葉を続ける。
「結局お前は何が言いたい?私とティナにお前等の希望とやらになれとでも言いたいのか?
・・・そうだろうが、私から見ればお前の思考はお前の言った邪悪な心なのだが」
「貴様!バナン様に向かって!」
リターナーの兵士が前に出てに抗議の声を上げるがの鋭い睨みをきかされて短い悲鳴を上げて一歩後ず去った。
其れを見ては口元にだけ笑みを浮かべる。
「何だ?言いたい事があるなら言えばいい。それとも私のこの力が恐ろしいのか?」
「・・・ヒッ!」
脅しの様にが言うと兵士はまた短い悲鳴を上げて後ろへと下がっていった。
は再度バナンを見る。
「で? 結局お前は遠まわしに言いすぎなんだ。最初の無駄な率直さは何処へ行った」
「我々に協力してくれと言えばしてくれるのか?」
「お前等によるな。 ・・・私を兵器としか見ない奴だったら・・・もう、ごめんだ・・・。
要らなくなったら捨てるとかだったら私は辞退させて頂く」
「その様な事をする筈が無い。 ・・・狙撃の者よ、名は何と言う?」
バナンは影の落ちたの表情を見、少しだけ優しい声色で声をかけた。
はそんなバナンを見、「、」と短く自分の名前を言った。
「か。 安心しろ、我等はお前を捨てたりは決してしない」
「・・・・・・それだったら今の所は私は良い。 だが、・・・ティナに関してはあまり押し付けないで頂きたい」
がそう言うとティナが驚いた表情でを見た。
そんなティナには安心させる様に少しだけ笑い、言った。
「ティナは未だに記憶が戻らず、混乱している。其れに全てを任せるのはあまりにも重い・・・」
「・・・」
「ティナの自由にすればいいんだ。好きな様に、嫌なら逃げ出せば良い」
そう言うとティナは悩む様な表情になった。
リターナーに付くか付かないかで悩み始めたのだろう。
其れと同時に急にこんな話になって混乱もしているのだろう。
休ませた方が良いと思いはバナンを見た。
「答をあまり急かせる事も無いだろう。少し休ませてくれ」
「あぁ・・・。わしも疲れた。休憩だ」
バナンはそう言い奥の部屋へと入っていった。
は近くに居た兵士に「空いている部屋を借りる」と言いティナの手を引いて適当な部屋へと入った。
入った一室はベッドだけ置いてある簡単な部屋で、何となくフィガロの一室を思い出した。
ティナはベッドに腰を下ろして立っているを見上げる。
「あの、・・・ごめんなさい、何か色々・・・」
「気にするな」
が少し笑って言うとティナも其れに習う様に笑った。
暫くしてティナは何か言葉を発しようか迷っていて、「あの、」と言葉を口にしようとした瞬間、扉をノックする音が室内に響いた。
立っていて扉の位置の近かったが開けると、其処にはロックが居た。
「・・・タイミングが悪い」
「え?な、何だよ・・・」
「否、何でも無い。ティナに用事か?」
がそう言うと未だ頭に疑問符を浮かべつつロックは頷く。
それならば、とは出て行こうとするが「」と二人に名前を呼ばれ止められた。
「な、何?」
二人して、と思いは多少驚きの色を出しながら振り返るとロックが、
「にも聞いてもらいたいから、居てくれよ」
と言った。
笑って言っているが瞳に他の色を感じては頷いて部屋へ戻った。
は相変わらず壁に寄りかかって立った儘で、ロックは近くにあった椅子へ背もたれを前に来させる様に座った。
「二人には俺がリターナーに入った理由を知ってもらいたいと思ってな、
俺は大事な人を帝国に奪われた。俺が帝国を憎むようになったのはそれからだ」
ロックはそう言い椅子の背もたれに腕を置いて顎の乗せる。
大事な人という人を失った時の事を思い出しているのか、彼の表情は影が落ちた。
「帝国が此の儘のさばれば俺の様な人間が増える一方だ・・・・・・。だからリターナーに入った」
「でも・・・私には大事な人は居ない・・・」
「そんな事は無いさ」
俯いて言ったティナにロックは明るい声色で言う。
そしてを一度見てから再度ティナに視線を戻した。
「逆に、君の事を大事に思ってくれている人も居るかもしれない。其の為にも・・・」
ロックは其処まで言って少し黙った後「出来れば、だがな」と言い笑った。
はロックの言った言葉を考えていた。
(そういう事で、反帝国組織にお前は入ったのか・・・)
そう思いじっとロックの背中を見ていたらティナが何かを少し考えた後「、」と名前を呼んだ。
其れには反応して「何だ?」と言う。
「は・・・魔導の力をどうして手に入れたか自分で分かっているの・・・?」
「あぁ」
「・・・そう・・・怖く、無いの・・・?」
「リターナーで、この力を使う事に関して?」
がそう言うとティナは頷いた。
は少し考えた後ふぅ、と一息吐くと「少し、私の話をしようか、」と言った。
「・・・私は以前、ある国家で働いていた親の子だった。とうにその国家は滅びているがな・・・。
其処で魔導の力を手に入れて、国家が滅びた後、他の国や街に行って其処で魔物や帝国からこの力を使って守っていた」
あまり詳しくは話さずは言ったが聞いているティナとロックは深く事情を自分から聞く気は無い様で黙って聞いていた。
「しかし、街の人々は私を恐れた。そして、国家は私を生きる兵器扱いだった・・・・・・。
用済みになったら、ポイだ。 もしかしたら此処、リターナーでもそうかもしれないと思っていたが・・・、
指導者バナンの言葉の裏に闇は無かった・・・。それと・・・、」
は其処まで言ってロックを見た。
「お前は、約束してくれたから・・・」
「・・・」
「・・・私は彼等を今は信じてみようと思う。
だから・・・力を使う。リターナーの為でもあり、自分の為に。怖さなんて、もう・・・」
其処まで言うとは微笑んだ。
ティナはじっとを見ていたがは「マッシュやエドガーにも話を聞いてみると良い、」
と言い外へ出て行ってしまった。
部屋に残されたティナとロック。
ティナはじっとが出て行った扉を見ていた。
「信じて、みる・・・・・・」
そうポツリと呟き、ティナは瞳を閉じた。