「薄暗い森だな・・・」

「此処は迷いの森と呼ばれている森でござる。足元に気をつけなされ」


ポツリと呟いたにカイエンがそう言う。
其れには「解った」と短く言い自分の足元を見つつ進んだ。
薄暗い森の地面には枯れ落ちた葉や腐った木等が沢山敷き詰められていた。

暫く森を進んでいると開けた場所へ出た。
其処は如何やら駅の様だった。


「無人駅?」


が言う、が。列車が停まっている。
カイエンも首を傾げて言う、


「プラットホームに列車!? 未だに戦火に巻き込まれていないドマ鉄道が残っていたとは・・・」

「生き残りがいるかもしれない。調べてみよう」


マッシュの言葉に皆が頷いて列車に近付いてみる―――カイエン以外。
カイエンは何か引っ掛かる事があるのか何やら考え事をしつつも遅れて付いて来た。
シャドウが中に入れそうな扉を見つけたので皆で中に入ってみる。

中に入って列車内を見渡してみると先ず埃っぽさに少し咽た。
凄い埃・・・と思い椅子や窓を見ると結構埃を被っている。


「マッシュ殿!!」


カイエンがマッシュを慌てて呼び戻している。
とシャドウは取り敢えず辺りを見渡していた―――ら、
何やら白くてふわふわと浮いている物体が目に入った。

は思わず其れを凝視して目で追っていたが暫くすると蜘蛛の巣が張ってある天井の端っこの方でフッと消えた。
―思わずシャドウと顔を見合わせる。

其の時、カイエンが慌てた様子でやって来て口を開いた。


「出るでござる!此れは魔列車ですぞ!!」

「魔列車?」


カイエンの口から出た単語に聞き覚えが無かった為にはそう聞き返す。
―が、何処かで聞いたな・・・と思い少し思案する。


(何だったっけ・・・・・・確か、霊の・・・・・・?)


其処まで思っているとポッポーという汽笛と共に外の景色がゆっくりと、そして段々早く、動き始めた。
其れにマッシュが「動き出した!?」と驚いて言う。
カイエンは「早く出なければ!」と言い入ってきた扉を開けようとするが扉は開かなかった。


「遅かったでござるか・・・」

「この列車は何なんだ?」


項垂れるカイエンにマッシュが聞く。
其れに答えたのはだった。


「確か、霊関係の物じゃなかったか・・・?」

「そうでござる・・・。魔列車は死んだ人間の魂を霊界へと送り届ける列車でござる」

「・・・・・・待てよ・・・ってぇ事は、俺たちも霊界とやらに案内されちまうって事か?!」

「此の儘乗り続ければ、そういうことになるでござる」

「そんなのご御免だぜ! 降りられないとなれば列車を止めるしか無いよな・・・とりあえず最前列の機関車へ行こう!」


驚いた後慌てた様子でそう言って動くマッシュ。
はそんなマッシュに習い歩き出そうとしたが何かに気付いた途端にハッとし走り出す。


「マッシュ!退け!」


マッシュの後ろに居た白い布みたいな何かがマッシュに鎌の様な物を振りかざしたのでがマッシュを体当たりで突き飛ばして銃で其れを受け止める。


「! !」

「・・・っつ・・・! 何なんだ、コイツは!」


はそう言い力を込めて相手の鎌を押し返した。
それで出来た隙を見逃さず、は手を其の侭相手に向けて魔法を放った。


「サンダー!」


雷が直撃すると、そいつは消えていた・・・。

急にしんとした車内。
聞こえる音といえば、列車が動いている音のみだ―・・・。


ぞわり


・・・?」

「もしかしなくても、おばけと戦うという事、か・・・?」


複雑、と呟いては鳥肌の立った自分の腕を摩った。
マッシュが暢気に「寒いのか?」と聞いてきたがは其れを無視し銃を手に持ちつつ進んだ。

―暫く四人無言の儘進んでいると前に一人の男が現れた。
また先ほどの様に敵かと思い皆構えるが男の一言で其れは解かれた。


「私がこの列車の車掌です。どのような用事でしょう?」

「車掌?」

「取り敢えず聞ける事は聞いておかないか?」


首を傾げるカイエンを見上げつつが言うとシャドウが口を開いた。


「・・・この列車は如何したら停まる?」

「列車の止め方ですか?機関室をくまなく調べればお分かりになりますよ」

「そうか・・・」

「それだけじゃ分からねぇよ。ちょっと調べてみようぜ」


マッシュはそう言い此処ら辺は安全だと周りと見渡して思ったのか一人であれこれ探し始めた。
其れにカイエンも習う―。

は動かないシャドウ(と言っても視線は辺りを探っている)の横へ行き声をかけた。


「・・・お前も、やはり降りたいか」

「・・・・・・今は未だあいつの所へは行けない」

「・・・そっか・・・」


はそれだけ言うとそっと瞳を伏せた。

―あいつの所。

シャドウは友の事を酷く悔いている。
全てを知っているは複雑な心境の中、両手で銃をきゅ、と握り締めた。


(私は・・・、)


ふと、思った。
魔列車の席の埃を払って其処に腰を下ろして窓の外を見てみる。
薄暗い森の景色がざーっと流れて行く、同じ景色が、


(・・・此の儘、乗っていた方がいいのではないか?)


そう思い自分の両の手を見る、
其れは少しでも魔力を込めると電流がパチリと走った。

人間離れしたこの力、とは言っても自分は人間と呼べるものなのかも分かっていないのだが、
は唯、唯考えた。

此の儘乗っていたら、

帝国へ捕まる事は無い、力を利用される事も無い、追い回されて皆に迷惑かける事も無い、


両親の下へだって―――――、


殿!」


急に声をかけられてハッとする。
顔を上げるとカイエンが心配そうな視線を此方に向けていた。


「如何したでござるか?電車酔いしたでござるか?」

「否・・・少し休んでいただけだ。 何かあったか?」

「それが時刻表も真っ白でござるし・・・「何だ此れ?引っ張ってみようか」


何も・・・と言おうとしたカイエンだが其れはマッシュの声によって掻き消された。
その声に其方の方向を見てみると何やら黄色のレバーを引っ張っているマッシュの姿が目に入った。
其れにカイエンは慌てる。


「マッシュ殿!弄り回さない方が良いでござる!」

「引っ張っちゃったもんね〜」

「な、なんと! まったくもう・・・」


ガキかお前。

等と思いは呆れの目で二人を見つつ立ち上がって其方へ向かう。


「・・・・・・、カイエン。もしかして怖いのか?」

「な、何を仰る! 別に拙者が機械が苦手なもんで、出来るだけ機械とは関わりたく無い、
 等と考えているワケではござらぬゾ。 いや、ホントに・・・」

自分でばらして如何するんだお前


いや、ホントに。じゃねぇよ。
は呆れの目をカイエンに向けて溜め息を吐いた。
瞳を丸くしてカイエンの言う事を聞いていたマッシュは「あれ、」と言い言葉を続けた。


「カイエン・・・・・・お前、機械が苦手だったんだ」

「うっ! 
な、何故分かったのでござるか!?

だから自分でばらしてただろうがお前


アホか。

そう思い思わずまた溜め息一つ零す。
其れはシャドウも同じだったらしくは隣でシャドウも溜め息を零したのを見、少しだけ笑みを浮かべた。


(コイツらと居ると、考え事をしている暇も無いな・・・)


はそう思い甘くなった自分に自嘲すると「ほら、」と言い銃でマッシュとカイエンの頭をど突いた。
ごいんという結構痛そうな音がしたが気にせず「早く降りたいのだろう?行くぞ」と言い歩を進めた。


(・・・此の儘、乗るか、降りるか・・・。
 ・・・・・・私は―――――――――――・・・・・・)