「幻獣は無事だったな」
丘の上に行き、氷付けの幻獣を確認しながらホッとした様子でエドガーが言う。
その横に立っていたカイエンはしげしげと幻獣を見て、妖しげな輝きを放っている幻獣を見て思わず、
「それにしても・・・生きているようでござるな・・・」
と呟く。
其れにマッシュが「まさか、」と言い肩を竦める。
マッシュはそんな風に言いつつも訝しげな表情で幻獣を見詰めている。
は黙って後ろからじっと氷付けの幻獣を見ていた。
(眠っている・・・?)
そう思い最後尾からの視線を強める。
すると幻獣がまた妖しく輝いた、と思った途端、
「ティナ!如何した!?」
ティナが?と思いは声のした方を見る。
ティナはカタカタと肩を震わせ、自分を包むように両腕を回して座り込んでいた。
そんなティナの前には心配そうに彼女を見るロック。
はまた胸に痛みが走るのを感じたがさほど強い痛みでは無いし、もう気にしない様にして二人の様子を見ていた。
―すると、
キイイイィィィィン!!!
「っ!? うわ!」
「!!」
突然幻獣とティナの身体が協調した様に輝いた。
その直後、衝撃波が走り一番近くに居たロックが吹き飛ばされた。
自分の真横をすっ飛んで通り崖に身を投げ出しそうになったロックの手をは強く掴み、引っ張った。
「ロック・・・!」
「す、すまない・・・」
何とか落ちずにすんだ。
はほっとして息を軽く吐いた後ティナを見た。
ティナは苦し気に表情を歪ませていた。
幻獣が身体の輝きを増すと其れにつられた様にティナの身体が強く輝いた。
「いやあ!!!」
キイイイイイイイィィィィン!!!!
再度先ほどと同じ様な、否。
先ほどより更に強い衝撃波が起こった。
其れにその場に居たティナ以外の者が吹き飛ばされた。
周りは崖。だが此処まで戦い抜いてきた者達だ。
落ちそうになった者は崖にしがみ付いており誰一人落ちる事は無かった。
は雪のお陰か崖に落ちる直前の所で倒れていた。
霞む視界の中で先ほどまで近くに居たロックを探す。
そうしていると背後から音が聞こえ、ゆっくりだが近付いてきた。
「く・・・、大丈夫か・・・」
「・・・・・・お前こそ・・・」
苦痛に表情を歪めながら自分を抱き起こすロックに苦笑交じりにそう返す。
辺りを見るとマッシュは崖から素早く上がり崖にしがみ付いているエドガーを助けていた。
ガウもマッシュと同じく素早く崖から上がって倒れているセリスとカイエンに走り寄った。
―如何やら全員無事の様だった。
「幻獣とティナが・・・・・・」
「反応しているのか!?」
エドガーとマッシュがそう言いつつティナをじっと見守る。
ティナは戸惑いの表情を浮かべて俯いていた。
「何!?この感覚!?」
暫くそう言い俯いていたが突然ハッとした表情で顔を勢い良く上げて幻獣を見た。
そして彼女にしては珍しく、声を張り上げた。
「えっ? 何? ・・・今、何て・・・・・・
ねえ、教えて! 私は誰・・・? 誰なの・・・!?」
「ティナ!」
「幻獣と・・・反応しているのか・・・」
何とか自力で座れる様になったはティナと幻獣をじっと唯、見守っていた。
だが途端ハッとしては声を張り上げて言った。
「これ以上は危険だ! ティナ、幻獣から離れろ!!」
がそう言うがティナには聞こえていないらしく彼女は唯、幻獣を見ているだけだった。
は立ち上がろうと力を込めた途端、ティナと幻獣の間に光が現れた。
其の光はティナと幻獣から出て、お互いの中へ入っている。
交信している様に、光が行き来している―。
「ティナ・・・・・・、 !!」
「・・・!?」
突然ガクンと再度膝をついたにロックが驚き声をかける。
は短く声を発すると瞳を大きく見開いた。
『怖い、嫌っ・・・・・・何これ・・・!』
「ぁ・・・・・・あ・・・・・・」
『私の中から、何かがっ―――――!!!』
声が途切れた、と思った途端光が強く輝き、視界を奪った。
光が収まった時、其処に居たのは恐らく、ティナ。
「・・・・・・ぁ・・・、」
恐らく。それは彼女の外見と一致しなかったからである。
ティナは姿を変えていた。
身体中が桃色になっていて口元から牙が覗いている。
人の形をした何かに姿を変えてティナは其処に居た。
其の姿を見た途端、此処に居る全員が絶句をする。
最後、ティナは苦しげに再度衝撃波を出すと唸り声を上げつつ空へと勢い良く身を翻した。
急降下した後、再度天高く飛び上がり、消えた―。
あの後、ジュンの家で全員が休んでいた。
と言っても、全員があの後気絶してしまいナルシェのガードやバナン、ジュンに助けてもらって此処に居るのだが。
目を覚ましているは銃の手入れをしていた。
隣には好奇心旺盛な瞳で其れを見詰めているガウ。
「・・・ガウは、寝ていなくて大丈夫なのか?」
「がう、もうへいき。 のおかげ」
「・・・ケアルをかけただけだがな・・・」
は少しだけ笑ってそう言いバラバラにしていた銃のパーツを集め、組み立て作業に取り掛かった。
そんなに後ろから近付いてきたセリスが声をかける。
「、ロックに着いてなくていいの?」
「・・・別に、私じゃなくてもいいだろう・・・」
はそう言い他の小銃を手に取り手早くパーツをばらして火薬の粉が詰まっている部分にふっ、と息を吹きかけた。
そんなにセリスはふぅ、と溜め息を吐き「、」ともう一度名を呼んだ。
「・・・セリスが着いていればいいだろう・・・」
「・・・気まずいのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「無言は肯定と見なすぞ」
セリスはそう言い「後で必ず交代に来るんだぞ」と言い残し寝室へ入っていった。
―ロックは未だ目を覚ましていない。
それはカイエンやエドガーにも言える事なのだが・・・。
そう思いつつ銃の手入れ作業を続けるの膝にガウが頭を乗せた。
「? 如何した?」
「、おかしい」
「・・・おかしい?」
が聞き返すとガウは頷いて眉をハの字にして言った。
「ロックみてると、くるしそう」
「・・・・・・」
ガウの言葉を聞いては驚いていた。
気付かれていたなんて―・・・。
「如何して気付いたんだ・・・?」
「ガウ、がだいすき・・・。 だから しんぱい」
つまりは見ていたから気付いたのか?とが聞くとガウは頷いた。
はガウの頭を優しく撫でて微笑んだ。
「・・・心配してくれてありがとう」
「がう・・・」
「でも、私は大丈夫だから・・・」
―そう、大丈夫。
は自分にそう言い聞かせる様に再度そう呟いた。
暫くたって全員が目を覚ました。
少し休んだ後、集まって話をする。
「ティナを助け出そう。
目撃した者の情報によればフィガロの西へ物凄いスピードで飛んで行ったらしい・・・」
「早く行こう!俺は守ると約束したんだ!」
エドガーが言うとロックが勢い良くそう言ったがエドガーに其れを鎮められた。
「まあ待て。帝国は又此のナルシェの幻獣を狙って来るかもしれん」
「それに反帝国組織の頭が居るんだ。護衛が必要だろう」
が言うとエドガーは頷いて再度口を開いた。
「二手に分かれてティナを助けに行こう。
残ったメンバーはナルシェを守る。フィガロ城を使えば西の地へ行く事が出来る。
多分コーリンゲンかジドールに何か手がかりがあるはずだ」
「・・・それが良いな」
はそう言い其の後に「私はティナを助けに行きたい」と主張した。
其れにロックが続く。
「俺も行く。一度守ると誓った女は守り抜く。
・・・、君もだ」
「・・・・・・」
はロックの視線から逃げるように、ふい、とそっぽを向いた。
そんなを、ガウが心配そうに見た。
「私も行こう」
「兄貴が行くなら俺も行くぜ!」
「同じ魔導の力を持つ娘・・・放っては置けない」
後にエドガー、マッシュ、セリスがそう言い組み分けは決定した。
エドガーが「さて、」と言いを見る。
「君の事について、今聞いておいていいかい?」
「・・・約束だからな、言うさ」
はそう言い未だ心配そうに自分を見てくるガウの頭を撫でてから全員を見た後、口を開いた。
「私は今はもう無い、ある国出身だ。・・・其処で幻獣、ケツァクウァトルが体内に入って来て私の身体と融合した。
純粋な幻獣の力・・・、私は、幻獣と融合したせいで幻獣そのものの力を持っている・・・」
は一気にそう言った後エドガーを見た。
「幻獣と融合・・・そんな事が・・・?」
「私もよく分からない。何せ其の時は十三歳だったからな」
「・・・幻獣は?何故君の身体に?」
「・・・・・・私の命を救ってくれたんだ。私の体内に入り、私と融合する事で身体の傷も癒え、生き長らえた。
つまりは、私を助けてくれる為に、だな」
「そうか・・・・・・」
エドガーはもっと深く追求したい衝動に駆られたが彼女の心を傷付ける事になると分かっているのであえて其れは聞かないでおいた。
は黙った皆を見、くすりと笑う。
笑うといっても、其れは自嘲的な笑みだった。
「お前等も私を化け物だと罵るか?」
「そんな事言う訳無いだろう!」
ロックが声を張り上げてそう言いを見る。
真っ直ぐに、曇り無い瞳で見られは少しだけ後ず去った。
「は、だ」
―トクン、
「・・・あ・・・・・・、」
さっきから何回も続いていた胸の異変。
だが今感じた異変は痛む物では無い、
(あたたかい―・・・)
「ロックの言う通りだ! 俺らの仲間のには変わり無いってこった!」
マッシュが笑顔で近付いてきて少々乱暴にの頭を掴みくしゃくしゃと撫でる。
其れに呆けていたは驚いて思わず「わ、」と声を漏らす。
面々はそんな様子を笑顔で見守っていたが余りにもマッシュがの髪の毛をくしゃくしゃにするのでセリスが静止の声をかけた。
「そのくらいで止したらどうだ? 髪がぐちゃぐちゃだ・・・」
「おっ、ほんとだ。悪いな」
全然悪いなんて思っていない様子でそう言いマッシュはの頭から手を離した。
髪が物凄く乱れたは一度バンダナを解き口で其れを咥えて手櫛で髪をとかしてまた一つに髪を束ねた。
其れが終わった後はちらり、と一度マッシュを見上げてからロックを見た後他の面々も見渡してから少し俯いた。
「・・・? 殿?」
カイエンが心配して声をかける。
の近くに居たガウが心配して覗き込む。
覗き込んだ直後、ガウの表情が笑顔になった。
「 まっか!」
ガウがそう言いの両頬を掴んで上に上げる。
ガウの言った通りの頬を赤く色づいており、瞳は微かに潤んでいた。
無邪気に笑うガウに反してカイエンは慌てて、「どどどどど如何したでござるか!?」と問うた。
は「否・・・」と言い目元を拭ってから微笑んだ。
「・・・うれしくて・・・、何か・・・・・・。
変だな、私・・・。 ・・・私・・・・・・・・・・」
嬉しい筈なのに、何故か視界が滲む。
嬉しい筈なのに、何故か胸が凄く熱い。
これは如何してなんだろう―?
でも、以前感じていた胸の痛みは辛かったが、
この感情は、何でかとても心地よい・・・。
「・・・・・・」
「悲しい訳では無いんだ・・・決して・・・、何か・・・、 わたしっ・・・・・・!」
「、」
自分の中で生まれた新たな感情にが戸惑っていたら優しい声と共に肩に手が置かれた。
其の声の方を見ると、彼は優し気な瞳を此方に向けて居た。
其れは彼だけでは無く、其処に居る皆が―、
「、それって嬉し涙だろ?別に可笑しい事じゃない」
「嬉しくて・・・泣くのか・・・?」
「・・・そうだよ」
「・・・そうか・・・」
は少しだけ考えた後そう言って微笑んだ―。
其の時、自分はやっと、人を信じられる様に、
世界を―・・・大切に想える様になった瞬間だったかもしれない。