「そういえばロック、話があるんじゃなかったのか?」
部屋に戻る途中、隣を歩くロックにそう問いかけると彼は「ん?」と首を傾げた。
お前が話があると言ったんだろうが・・・!
等とが思っているとロックは、「ナルシェで言った事、覚えててくれたんだな」と言い笑った。
正直は今、お前が忘れてたかと私は思った。 と考えたがあえて言わないでおいた。
「んー・・・唯、今話したからもういいんだよな」
「そうなのか?」
「・・・マッシュから聞いたんだが、結構過酷な旅になったんだろ?
其の中の内の魔列車での事をあいつから聞いて、さ」
「魔列車・・・・・・」
魔列車と言えば、苦い記憶が蘇る。
皆の足枷になるのを恐れて、あのまま冥界まで行こうとした事。
はロックを見上げて苦笑した。
「・・・馬鹿をやってすまなかった」
「本当にな! 其の話を聞いた時俺がどれだけ心配や後悔したと思ってるんだ・・・」
「・・・本当に、ごめん。 大丈夫だから、今はもう・・・」
はそう言い微笑んで部屋の前で止まった。
「・・・大丈夫だから」
そう言いにこりと笑うとロックも少し笑った。
そしての肩を一度だけポン、と叩くと自分の部屋に向かう為に再度歩を進めた。
「おやすみ」
「あぁ・・・おやすみ」
はロックを見送った後部屋へ戻りセリスが寝ているのを確認して物音を立てない様に静かにベッドに入った。
―が、何だかどうにも寝付けなかった。
起き上がり窓から外を眺めた。
闇夜に浮かぶ月は美しい輝きを放っていた―。
(・・・ティナ・・・・・・)
彼女は無事だろうか、彼女も月を見上げているのだろうか?
そんな事を思いながらは瞳を伏せた―。
翌朝、フィガロ城を砂漠に潜らせて目の前の山の地下を通ってコーリゲン前へと移動させた。
ティナを見た者が居て、山を越えていったと聞いたからだ。
取り敢えず準備をしてから城を出て、コーリゲンに行く事にした。
コーリンゲンに向かう途中の戦闘で、とロックの連携の攻撃がまたあった事でマッシュ達は安心し、彼らに気を使うこと無く難無く先頭を終わらせて早めにコーリンゲンに着くことが出来た。
コーリンゲンに着いてからは各自自由行動とする事となった。
当然、情報を集める為なのだが。
各々一人で情報を集めていたら酒場に行ったはマッシュと会った。
「マッシュ」
「お、か。丁度良い!」
マッシュはそう言い手招きして来た。
疑問に思いつつもはマッシュの方へ行った。
それと同時に彼に近付くにつれて、彼の影にもう一人居た事を確認した。
「シャドウじゃないか」
「か」
「魔列車以来だな。 ・・・丁度良かった。光に包まれた娘を探しているんだ。
此方に向かったと聞いて来たんだが・・・知らないか?」
「光か・・・。 其れならばジドールの方向に飛んでいくのを見たが」
ジドール。と声には出さずに心の中で復唱しながらはシャドウを見た。
「ありがとう、助かる」
「否・・・」
其の侭立ち去ろうとするの腕を慌ててマッシュが掴んだ。
「あ、おいおい! いいのか?話とかもっとしなくて・・・」
「別に? あ、でもインターセプターには会っておきたいな。どうせ裏に居るんだろう?」
「あぁ・・・」
「マッシュ、情報は集まったんだ。行こう」
はマッシュにそう言うとシャドウにコインを数枚投げて渡すと片手をひらひら振って外へ出て行った。
マッシュもシャドウに礼を言ってから慌てて後に続く。
マッシュが外に出た時にははもう既にインターセプターの横に居て頭を撫でていた。
「インターセプター、シャドウに変わりは無いか?」
がそう言うとインターセプターはクゥン、と鳴いてに擦り寄った。
そんな彼の様子にはシャドウに大事は起きていない事を理解してほうっと安堵の息を吐いた。
暫く頭を撫でていたが「じゃあね」と言いインターセプターから離れた。
そしてマッシュを見上げる。
「ロック達を探すか」
「あぁ、そうだな」
とマッシュは三人を探す為にコーリゲンの街中を歩く。
暫くは他愛も無い話をしていたがマッシュがの手を見て、言った。
「はコインを投げるのが上手いな」
「そうか? ・・・もう慣れてしまったからかな?」
はそう言いコインを一枚だけ指で弾いた。
其れはキィン、と綺麗な音を出して宙を舞う。
其れを見たマッシュは昨夜、エドガーとフィガロ城について、自分達の過去について話していた事を思い出していた。
運命のコイン。
王位を継ぐ方を決める為の、賭け事。
あの両表のコインを使った、最初から答えが分かっていた賭け―。
「マッシュ?」
暫く物思いに耽っていたマッシュだがの声にハッとしてを見た。
マッシュは「悪い」と言い自分の内側のポケットからコインを一枚出した。
両表のコインを、
「・・・両表のコインか・・・珍しいな」
「あぁ、親父の形見であり・・・兄貴と王位を決める時に使った運命のコインだ」
「・・・王位を・・・」
は何かを思ったが、あえて言わないでおいた。
両表のコインでの賭け事―・・・。
はマッシュを見上げると、にこりと微笑んだ。
「大切に持っていろよ?」
「当たり前だ」
マッシュも笑いながらそう答えた。
あの後エドガーとセリスは難無く見つかったがロックだけが見つからなかった。
一体何処に居るんだ。と首を傾げていた面々だったが、エドガーだけが違った。
「・・・恐らくは、あそこだろう」
「あそこ?」
がエドガーを見て聞き返すと、エドガーは少しだけ困った笑みを浮かべてこう言った。
「昔の恋人の所さ」
そう言いエドガーは歩を進めて一軒の家を目指した。
それに達も続く。が、の表情は冴えなかった。
(・・・恋人が、居たのか・・・昔だが・・・)
胸の内が微妙にツキンと痛んだが気にせずには歩を速めた。
ある一軒の家に入ると、下の階から話し声が聞こえた。
何だと思い降りていってみると、其処にロックは居た。
「心配しなさんな。あんたの宝物は大事に大事に取ってありますよ・・・・・・けっけっけっ・・・」
ロックの奥には、少し気味の悪い老人が一人と、
花に囲まれて眠っている、一人の娘。
否。恐らくはもう既に死んでいる。
顔色は死人に化粧をした時の様な肌色で、胸が上下に動いてもいない。
何で、と思っていると自分達にロックが気付いて振り返った。
ロックが何かを言うよりも早く、老人が再度口を開いた。
「あの時偶然出来た例の薬で此の娘は永遠に年を取らずに此の姿の儘・・・!けっけっけっ!
ロックのたっての頼みとあっちゃあねえ・・・薬を使わない訳には行かないもんねえ・・・!」
その言葉に、ロックは俯く。
「・・・ロック・・・?」
何の話だ?薬?永遠に此の儘?如何いう事?
は脳内に疑問符ばかりが浮かんでいた。
老人の気味の悪い笑い声だけが響く空間の中で、ロックが「俺は、」と呟いた。
「俺はあいつを・・・守ってやれなかったんだ・・・・・・」
そう言い拳を強く握った。
ロックは自分の足の先を見たまま、言葉を続けた―・・・。
「俺には、レイチェルという恋人が居たんだ・・・・・・」
ロックはそう言い視線だけを後ろで眠る彼女に向ける。
―彼女が、 とは思いロック越しにレイチェルを見た。
「俺は、あの時彼女を連れてトレジャーハンティングに向かっていた・・・。
レイチェルの誕生日が近かったからだ、プレゼントを、その場であげようとして・・・・・・、
でも、連れて行くんじゃ・・・なかった。
レイチェルは俺を庇って谷底へ落ちていったんだ・・・! 必死になって探して、彼女を見つけて、連れて帰って・・・・・・。
彼女は幸い怪我も少なくてすんだが、頭を強く打っていたのか・・・・・・記憶を失っていたんだ・・・!」
記憶を―・・・。
はロックが記憶を無くしたと言ったティナに「守る」と宣言した時に何処か遠くを見ていた彼を思い出した。
そして其の理由を、今知った。
「俺はレイチェルの傍を離れた。彼女はこれから彼女の新しい人生を見つける・・・それで俺が居たら邪魔だから・・・。
レイチェルの家族にも、レイチェル自身だって、俺を拒んだ。だから、俺は逃げたんだ・・・。
逃げてあいつの下を離れたんだ・・・! でもそれも間違いだった!」
ロックは其処まで言うと奥歯をギリ、と音を鳴らして強く噛んだ。
握った拳は力を入れすぎて、もう白くなってきている―・・・。
「一年経って・・・俺が此処に戻った時、レイチェルは・・・帝国の攻撃によってこの世から居なくなっていたんだ・・・・・・
死ぬ直前に、記憶が戻ったと聞いた・・・。
俺の・・・俺の名を・・・呼んで・・・・・・
・・・俺はあの時、レイチェルの側を離れるべきじゃなかった・・・」
ロックはそう言い階段を上がって行ってしまった。
残された達は唯重苦しい空気を感じつつ、その場に留まっていた。
そんな達に、老人が声をかける。
「ロックの奴はこの女、レイチェルを蘇らせようとしているんでっせ」
「蘇らせる・・・?」
セリスが「そんな事が可能なのか?」といわんばかりの瞳を老人に向けると彼は嬉々として頷いた。
「勿論! 魂を呼び戻す伝説の秘宝をご存知で?不死鳥の力だそうですけどねぇ・・・
それがあれば、可能かもしれないって話でっせ」
「・・・・・・」
はそれだけを聞くと一人足を動かして階段を登った。
其れをセリスが追おうとしたが、エドガーに「セリス、」と名前を呼ばれて止められた。
「・・・・・・・・・」
「今は、に任せよう」
マッシュはセリスの肩に手を置いてそう言いいつつ、彼女の後ろ姿をじっと見ていた。
家を出て、川に掛かる橋の上にロックは居た。
は無言でロックに近付いた。
横に並んだ時に、ロックは唇を噛み締めた後、こうポツリと言った。
「俺は・・・あいつを守ってやれなかったんだ・・・・・・」
「ロック・・・」
悲しみの色が強い瞳でロックはを見た。
は一歩ロックに近付いて、口を開いた。
「・・・私は、お前のそんな辛そうな姿を見ていたく無い・・・」
はそう言いロックの腕にそっと触れた。
―温かさが、人の温もりがロックの腕に伝わる―。
「それは、レイチェルさんも同じな筈だ。彼女も・・・そう、お前の悲しみに明け暮れた姿は見たくないだろう・・・。
辛さを分かっているからこそ、そう思っていると思う・・・」
「分かっている・・・?」
ロックの疑問には頷いて、続けた。
「彼女は記憶が戻ったのだろう? それならば、彼女もお前と同じくらい後悔して、悲しんだと思う。
如何して忘れてしまったのか―・・・等とな・・・。
・・・胸を、刺された様な、痛み。
凄く痛いんだよな・・・これは・・・・・・、
お前には、あまり傷ついて欲しくないんだ」
私も、彼女も同じだと思う。と最後に付け足しては言った。
黙って聞いていたロックを見、は少し気恥ずかしくなって頭をかいた。
「えと・・・私は言葉に表すのが苦手だから上手く言えないんだが・・・・・・。
・・・つまりは、元気を、出せ・・・・・・直ぐにじゃなくていいんだ、だから・・・出来れば、その、あの・・・、あれだ・・・あれ・・・」
しどろもどろになりつつも一生懸命言葉を捜しながら自分を励まそうとしてくれるを見ていてロックは笑みを一つ零した。
そんなロックを見ては瞳を丸くしてきょとんとした。
其れを見てロックは更に笑みを深くした。
「な、何だ・・・?」
「否、ありがとう。 」
「・・・・・・? あぁ・・・、まぁ、何かあったら私を呼べ。
誰かが傍に居るだけで、結構楽になるらしいからな、人は」
お前には借りがあるからな。と言いは微笑んだ。
そんなを見てロックは「ありがとうな」と言い微笑んだ。