ビルの最上階に行くと入り口にダダルマーという男が居たが難無く倒せた。
錆付いている重いドアを蹴って(開かなかったから)部屋に入る。
部屋の中は広かったが、ベッドが一つと椅子が一つあるだけの質素な部屋だった。

ベッドの上に居るのは――、あの変身した儘の姿のティナ。


「ティナ・・・!」


が足早に其方に近付くと、ティナの瞳が此方を向いた。
皆で傍に寄ろうとすると、ティナは物凄い速さでベッドから飛び降りて部屋の隅へ移動した。


「ウ・・・・・・グゥルルル・・・」

「・・・ティナ?」


警戒しているのか?
は思い一人だけ一歩前へ出る。
幻獣の力を持つ私なら、あるいは・・・、と思い近付くとティナは逃げなかった。
それでも、何処か―そう、


怯えた様な―・・・
「怯えているのじゃよ」


突然背後から声がして全員が振り返った。
其処には一人の老人が椅子に腰を下ろして此方を見ていた。
彼を見つつ、エドガーが口を開く。


「・・・貴方は?」

「・・・お主達、この娘の仲間じゃな?」

「・・・そうだが・・・」


がそう答えた途端、ティナが身体から光を放ちまた物凄い速さで部屋の中を移動し始めた。
だが少したつと其れは途切れた。
ティナがよろけてその場に倒れたからだ。

は慌てて駆け寄ってティナを抱き起こす。
その様子を見てセリスが老人を見て不安の色を瞳に宿して言う。


「ティナは大丈夫なの?」

「ティナという名前じゃったか。 ・・・ティナ?・・・はて?」


老人はティナという名前に反応し、少しだけ考えたが直ぐに其れをやめて此方を見た。


「命に別状は無い。普段使い慣れない力を一気に使った為に体が言う事を聞かないだけだ」

「良かった・・・」


老人の言葉を聞いてがそう呟く。
周りの皆もほっとした様に安堵の息を吐いた。

其の後、直ぐにその表情は驚きに変わる。
老人の言葉によって、


「私はラムウじゃ。幻獣ラムウ」

「幻獣!?」


エドガーが驚いた声を上げる。
は先ほどからティナに夢中になっていた為に老人が幻獣ラムウだという事に気付かなかった自分に舌打ちを一つした。


(・・・だが、幻獣か・・・。こちら側に居るのは氷付けの幻獣だけだと思っていたが・・・)

「幻獣は別の世界の生き物ではなかったの?」


がそう考えていたらセリスが一歩前へ出てラムウに問うた。


「別にこの世界で生きて行けないという訳ではない。幻獣にもいろんな姿の者がおる。
 偶々ワシは人間の姿とあまり変わらないから此処に住んでいる、と言う訳だ。幻獣と気づかれる心配も無いからな」

「何で幻獣だって事を隠すんだ?」


マッシュが言うとラムウは表情を歪めてを横目で見た。
そして彼女を見つつ口を開いた。


「・・・其方のお嬢さんが知っているのではないか?我が友のケツァクウァトルを体内に宿しているのなら・・・」

「・・・友・・・」

「ワシはケツァクウァトルと同じ属性を持つ。ワシには分かる」


はラムウを見た後、自分の胸の前に手を持って行き静かに、ゆっくりと瞳を閉じた。
其れを他の皆も見る。

其の中でロックが気遣わし気に声をかけた。


・・・」

「何故、幻獣である事を隠すか、と聞いたな」


視線だけロックに向けて「大丈夫」という念を表した後、は皆を見渡した。


「私が自身を隠していた事と同じだ・・・。人と幻獣は相容れないものだから・・・」

「でも、ばあちゃんは言ってた。昔は人と幻獣が此の世界に住んでいた、と・・・・・・御伽話だけどな」

「御伽噺なんかじゃないさ、ロック」


が言うとラムウも頷いて少し笑ってから口を開いた。


「ファファ 本当のことじゃ。人と幻獣は仲良く一緒に暮らしておった。
 ――魔大戦がはじまる前まではな」

「魔大戦・・・」


エドガーがポツリと呟く。

魔大戦。以前リターナーでも聞いた話だ、とは思いラムウを見た。
ラムウは杖をついて椅子から立ち上がった。


「遥か昔・・・魔大戦。 幻獣達、そして幻獣から取り出された力で作られた魔導士達の戦争。
 その虚しい戦いの後で、幻獣の力を再び利用される事を恐れた幻獣達は自ら結界を作りそこに移り住んだ」

「・・・幻獣界の、事だな」


が言うとラムウは頷き、言葉を続けた。


「其処に二十年前のある日・・・人間が迷い込んで来た。
 幻獣、そして魔導の秘密を知った人間達。そして始まった幻獣狩り、幻獣から魔導の力を取り出しその力を使って無敵の軍隊を作るガストラ。
 其れに気づいた幻獣達は大きな扉を作り人間達を追い出した。
 その時に捕らえられた幻獣達は今でも帝国の魔導研究所に捕まり魔導の力を取り出されている。
 ワシは危うく難を逃れ此処にこうしているって言う訳だ。

 ・・・落ち着いたようだな」


ラムウはそう言った後にの腕の中に居るティナを見やる。
もティナを見て、もう落ち着いて瞳を閉じているティナを背負ってベッドまで運んで寝かせた。


「ティナが暴れているのを見つけ、此処に呼び寄せた。私の魔導の呼びかけにあの娘が応じたのだ」

「ティナは、幻獣なのか? ・・・・・・否、何処か違うな・・・」

「お主と似て非なるものかもしれぬな」

「・・・・・・」


はラムウを横目で見た後にそっとティナの額に触れた。

―温かい。

でも、何だか不安定だ。

先ほどの瞳は、何処か辛さを纏った色をしていたし、

部屋の中で先ほども暴れかけた。


はティナをじっと見、口を開いた。


「苦しそう、だな・・・・・・。自分の存在に不安を抱き始めているのか・・・・・・」


以前の私と同じ、とは呟いてティナの手をきゅ、と握った。
其れを聞いていたロックがの背を気遣わし気に見た後、ラムウに向き直った。


「如何すればティナを助けられる?」

「あの娘が自分の正体をはっきりと悟った時、不安は消え去るだろう」

「それは、如何すれば・・・?」

「ガストラの魔導研究所に捕らえられているワシの仲間ならティナを救えるかもしれない。
 其れと・・・・・・我が友を宿した其処の娘か・・・」


ラムウはそう言いの背を見る。
皆の視線を感じたは振り返らず、背を向けた儘首を振った。
唯、「魔導研究所に行った方がいいだろう」と言った。

セリスが顎に手を宛てつつ、言う。


「魔導研究所・・・あそこに・・・」

「仲間を見捨てて自分一人だけ逃げ隠れ住んでいた。だが其れももうお仕舞いじゃ」

「如何いう事だ・・・?」


マッシュが首を傾げる。他の面々を分からない様子でラムウを見詰める。
は唯、ティナだけを見ていた。

心の中で、これからラムウがするであろう事を想像しながら、


「ガストラの方法は間違っておる。幻獣から力を無理に吸い出した所で其の魔導の力は完全にはなら無い。
 幻獣は魔石化してこそ魔導の力が生かされる」


ラムウがそう言った直後、彼の身体が輝きを放ち始めた。
其れにエドガーが驚き、そして何かを察し、それでも、「何を!?」と叫ぶ。


「自ら魔石となりお前達の力となろう。
 ・・・幻獣が死す時、力のみを此の世に残した物が魔石・・・」

「!?」


キン、という高い音と共に緑色の輝きを放つ石が空中に三つ現れた。
其れはゆっくりと降下してきてエドガー、マッシュ、セリスの前で止まった。


「これは帝国から逃げ出すときに死んだ仲間達・・・そして私の力も・・・」

「じいさん!」


ロックが叫んだ途端、ラムウの身体はより強い輝きを放った。
そして先ほどと同じ、キン、という高い音がしたと思ったらロックの前に緑色の輝きを放つ石が降下して来た。

光が収まったと思ったと同時に軽い衝撃波が起こり全員が軽く吹っ飛んだ。
だが直ぐに体制を立て直して自分の前にある石―魔石を手に取る。


「・・・ラムウ・・・死んだの・・・・・・?」


セリスがポツリと呟いた。
其れに魔石を手に取ったエドガーが続く。


「魔石・・・ 自分の命と引き換えに、私達に力を・・・・・・」

「如何して、其処までして・・・・・・」

『我らを力として用いれば星は死に命は途絶える・・・・・・。
 止めるのじゃ。魔大戦を再び起こしてはならぬ・・・

 ・・・我が友を体内に持つ娘・・・お主の探している答えは、先にある。
 唯真っ直ぐに進めば、何時かはお主も救われるだろう・・・』


最後にラムウの声が響いて、ラムウの魔石は輝きを失った。

は立ち上がって、ティナを見下ろす。


「・・・ティナ・・・。行ってくる、待っていてくれ」


そっと頬を撫でて、ゆっくりと振り返った。