部屋の外に行くと、皆が居た。
取り敢えず、街の外へ戻りながら話をする事にした。

一通り説明を終えた頃にはもう入り口に居た。


「帝国が幻獣から魔導の力を・・・」

「本当なのか?セリス?」


フィガロ兄弟がそう言いセリスを見る。
セリスは頷きはしたが、それは曖昧な物だった。


「私達は眠らされた儘魔導の力を注入されたのではっきりとは覚えていない。
 でも、そういう噂は聞いた事がある」

「・・・取り敢えず、行くしか無いのだな」


が言うと皆が頷いた。
カイエンが「では、」と言い言葉を続ける。


「乗り込むのですな。帝国へ」

「二手に分かれたほうが良いだろう。ナルシェの守りも固めなければいけない」

「そうでござるな」


エドガーがそう言いカイエンも同意した。
はほうっと息を吐いてからセリスを見た。


「セリスは帝国内部の情報はよく知っているんだな?」

「あぁ。 だから私は行く方向で決定でいいだろう」

「そうだな」


が頷くとマッシュが眉を潜めて「けど一人じゃあ・・・、」と言った。
当然、一人だと危険極まりない。同行をつけるのが打倒だろう。とは思い少し考えた。

其の時、ロックが口を開いた。


「心配なら俺も着いて行くぜ」

「ロック!」


ロックが言うとセリスが何処か嬉しそうに言った。
其れを見ていたはまたツキツキと胸が痛むのを感じつつ、皆に悟られない様に天を仰いだ。
だが隣に居たガウに「?」と名前を呼ばれる。

そうか、この子は敏感だったな、と思いはガウを見た。
そして心配をかけない様に微笑んで見せた。

だがガウは更に表情を険しくし、の手を握った。


「え・・・?」

「ガウしんぱい・・・、ないてる」

「泣いてる? ・・・ああ、違うよガウ。此れは雨だ」


実際、空からは雨が降っている。
彼には其れが丁度目の辺りに落ちて涙に見えたのだろうと思いはガウの頭を撫でつつそう言った。
が、ガウは首を振って「ちがう」と言った。


ないてる」

「だから・・・」

「こころがぎゅーってなってる? 、すごくつらそう・・・がう・・・」

「・・・・・・」


ガウにそう言われた途端、から表情が消えた。
其れを見たガウはの手を握る己の手に力を込めた。

其れにはハッとし、また笑って見せた。


「辛いのは、ティナだ。ティナの為に頑張ろうな、ガウ」

「がう・・・・・・」


はそう言いガウの頭を撫でて誤魔化し、ロックとセリスを見た。

向こうは未だ振り分けを決めているらしく、話中だった。

だが決まったのか、ロックが此方を見て「、」と名前を呼んだ。


、君は出来れば俺と来て欲しいんだが・・・帝国に狙われている・・・」

「今はもうそんな事関係無い。私は少し確かめたい事もある。だから帝国へ行――」

「がう!、のこるがいい!」


がロックにそう言おうとした時、ガウが言葉を遮った。
そして二人の間に立って続ける。


「おまえ なんできずつける?」

「傷付ける・・・?」

「ガウ!」


が慌ててガウの腕を引く。
だがガウは思いのほか力があり、その場からピクリとも動かなかった。
ガウはロックをキッと睨み上げて続けた。


「ロックといっしょ、 いつもくるしそう!」

「ガウ! 違うから!」


がそう声を張り上げて言う。
余りにも声が大きかった為か、皆が此方を見ていた。

視線を浴びつつ、は罰が悪そうな顔をしつつ、再度「ガウ、」と名前を呼んだ。


「・・・先ほども言ったが、私は別に何とも無い。辛いのはティナだ。分かるか?」

「・・・・・・がう」

「それと、私は帝国の方へ行く。幻獣に会いたいんだ、私の中のコイツも、騒いでいるし・・・」


分かって、との念を込めてはガウの頭を撫でた。
俯くガウを見、はカイエンを見る。


「ガウはナルシェに残った方がいいだろう」

「そうでござるな。拙者がまたガウ殿と残るでござるよ」

「そうか・・・。 ・・・・・・すまない、カイエン」


が言うとカイエンは笑って「いいでござるよ」と言いガウに近付いた。
其れを見た後、結局今のメンバーの儘か、と思いつつもはロックを見た。


「ロック、すまなかった・・・」

「俺は、を傷付けているのか・・・?」

「そんな事無い。少し、考え事をしていたらガウが勘違いしたんだ」


はロックに少し笑ってみせた後、エドガー達を見た。
マッシュが頷いて「じゃあ、行こうぜ!」と言い歩を進めた。
ロックは未だ納得していない表情だったが気持ちを切り替えようとしたのか、自分の両頬をパン、と手で挟んでから歩を進めた。

歩を進めつつ、セリスが口を開く。


「それにしても、帝国は南の大陸。 船も出ていないし・・・一体如何したら良い物やら・・・」

「南のジドールの貴族さん達なら、何かいい方法教えてくれるかもしれないぜ。何てったって金持ちだしな」

お前の基準は金か・・・

 そういう訳じゃあ無いぜ!」

何故焦る。 まぁお前はトレジャー・・・ああ悪い、ドロボウだったか

何で合ってたのに言い直すんだよ!?


とロックはそう言い合いながらも歩を進めて雨の街、ゾゾを出た。










ゾゾを出て南下して、何日か経った後ジドールへ着いた。
さて此処で如何しようか。と悩みつつも聞き込み。


「大陸に行きたいなら空しかねえな。 空を飛ぶ手段?知らねえのかい? そら君、飛空艇しかないだろ」

「今どき帝国の大陸にわざわざ行くような物好きはいないわよ」


だが、あまり良い返答は無かった。
また最初に逆戻り。

如何する?と悩んでいるとロックが「金持ちに聞くか?」と言い出した。

結局それか・・・。は考えつつ街の中で一番でかい屋敷に行く事にした。
街の人の話でもあの屋敷にすむアウザーとかいう人は噂の的だったし・・・。

アウザーの屋敷に入ると髭を生やし、スーツをピシッと着こなしている男が居た。
だが顔色は赤い。酒に酔った様に―・・・という、足元が覚束ない、酔っているのだろう。
男はドアの開いた音に振り返り、瞳を見開いた。


「マリア・・・!?」

・・・は?


驚愕の色を混ぜた瞳で自分の方を見て来た為に思わず間抜けな声を上げてしまったのは
慌てて口元を押さえた後、「何だ?」と聞き返す。
すると男は「あ、」と短い声を上げた後謝ってきた。


「すまん、人違いだった。その女性が私の劇団の女優にあまりにも似ていたので・・・ あー 困った・・・」


男はそう「困った、困った、」とブツブツ言い続けながらフラフラと屋敷を出て行った。
其れを見送っていた面々だが、エドガーがを見て言った。


がマリアに?」

「マリアとは?」

「先にあの男性が言っていた様にオペラの美しい女優だ」

う、つく、し・・・・・・!?


エドガーにそう言われは思わず頬を赤く染める。
其れを見ていたロックは何だか心の中に靄を感じて視線を彷徨わせた。

美しいと言われている女優に似ていると言われたんだ、其れに照れているんだろう、

ロックはそう思いつつ視線を彷徨わせていた、が。
その視線はある場所で止まった。


「何だ此れ?」


そう言い何やら手紙の様な物を拾う。
皆ロックの方に集まってきて「それは何だ?」と聞く。

ロックは首を傾げて口を開いた。


「否、分からない。 多分あの人が落として行ったんだろうけど・・・」

「団長へ、と書いてあるな」

 あ、あぁ・・・」


ロックは自分の真後ろから顔を覗かせていて今は自分の顔の真横で自分の手の内にある手紙を覗き込んでいるに一瞬どきりとしたが直ぐに平静さを取り戻してそう答えた。

後ろの階段から人が降りてくる気配を感じ、マッシュが振り返ると一人の男が居た。


「あの人はオペラ座で芝居をやってる劇団長なんですよ。皆はダンチョーって呼んでますがね。
 そんな手紙が来たもんだから酔い潰れて・・・・・・」


彼はそう言い苦笑した。
背後からマスターと呼ぶ声がする。男は「はいはい待ってて」と返事をしてから此方に向き直った。
「まあ、読んで見るか」とロックが言い封を開けた。

手紙の内容は・・・・・・、


『おたくのマリア、嫁さんにするから攫いに行くぜ。

  流離いのギャンブラー』







――・・・間。







・・・・・・手紙の送り主は頭が悪そうだな

あぁ・・・センスも悪そうだ


とロックが結構好き放題を言う。
其れを聞いたマッシュも頷きつつ階段の上に居る男を見上げて口を開く。


「で?誰なんだ?この流離いの何とかってのは?」


否、今読んだばかりだろう、流離いのギャンブラーって・・・!

本文の稚拙さに目に入らなかったのか?と思いつつは男の返答を待った。


「知らないのかい? 世界に一台しかない飛空挺を持っているセッツァーさ」

「・・・飛空挺があれば、空から帝国に乗り込めるな」


ロックが少し考えてからそう言う。
それには「え?」と反応をして瞳を丸くしてロックに問いかける。


・・・奪うのか?

違う!話し合いをするんだっ!」

「あ、あぁ・・・そうか・・・てっきり私は・・・

何で目を逸らすんだよ!俺を何だと思っているんだよ!
 ・・・取り敢えず、会いに行こうぜ。 セッツァーに!」




あえて王道で行こう、オペラ!