セッツァーに会いに行くと言っても彼が何処に居るかなんて分かる筈が無い。
達は取り敢えず何か知っていそうなダンチョーと呼ばれる男に会いに行く為にオペラ劇場を目指した。
一日ジドールで休んでから行った為、それとオペラ劇場へ行く道のりのせいで少し時間を喰ってしまった。
オペラ劇場に着いて中に入ると入り口でダンチョーがウロウロしていた。
何で此処?と思ったが探す手間が省けた。と思いはダンチョーを見た。
ロックがダンチョーに声をかけて「落し物だ」と言い微妙な内容だった手紙を渡す。
ダンチョーは落としていた事にも気付かなかったのか首を傾げていた。
「手紙読んだぜ。セッツァーが攫いに来るんだって?」
「劇が盛り上がったときに来るだろう。派手好きのセッツァーだからな・・・ふぅ・・・」
それならば手紙の最後に着ける名前に『派手好きのセッツァー』て書けばいいのに、と場違いな考えをしつつはダンチョーを見ていた。
ロックが何時来るか予想が着くなら話が早い、と言い指をパチンと鳴らした。
「よし!其の時に出て行って捕まえれば・・・」
「止めてくれ!芝居を台無しにしたら劇場からクビにされる!!」
「ならお手上げじゃないのよ!」
ダンチョーが飛びのいてそう言った後にセリスが腰に手を宛てて言う。
表情はもう困りと怒りが含まれている・・・。あと、焦りもか?
はそう思いつつも何か良い策は無いかと思案した。
「だから悩んでる! 芝居は成功させたいし、かと言ってマリアは攫われたくない・・・・・・うぅぅ・・・」
「だったら攫わせれば良い」
階段を上がろうとしたダンチョーの背にロックが言葉を投げかける。
其れにその場に居た全員が頭に疑問符を付けつつもロックを見やる。
ロックは悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべて続けた。
「囮だよ。 態と女優を攫わせてセッツァーの後を付ける。あわよくば飛空挺を横取りする!」
完璧だ!と言わんばかりの笑みを向けてくるロック。
・・・おい、話し合いじゃなかったのか・・・
ロックの言葉に暫くダンチョーはほげらっとしていたが脳内で彼が言った言葉を理解したのか「駄目だ駄目だ!」と手をブンブン振った。
「マリアにもしもの事があったら・・・!!」
「だからっ!」
ダンチョーが逃げようとした所をロックが後ろからドンと押した。
其れに驚いたのか、ダンチョーの足が止まる。
「だから囮なんだよ。マリアさんは安全な場所で隠れて貰って・・・・・・」
「へ?」
「似ているんだろ? マリアは」
ロックがそう言い一人良い策を思案していたを振り返る。
其れにつられた様にその場に居た全員がを見る。
急に自分に視線が集まった事と少し嫌な予感を感じつつ、はたじろいだ。
「わ・・・・・・私・・・・・・?」
恐る恐る自分を指差してそう言うとロックは笑顔の儘頷いてダンチョーに向き直った。
「マリアに化けたを態と攫わらせて俺達を飛空艇に案内する」
「名案だ!」
ロックが親指をグッと立てて言うと行き成りテンションが上がったダンチョーも親指をグッと上げてそう嬉しそうに言った。
他の面々も名案だとばかりにロックを見やる。
一人呆けていたはハッとした。
「グッとかしてる場合かお前等!」
「だって名案じゃないの」
セリスにそう言われては反論しようとしたが出来ず、ぐ、と詰った。
其処にロックが来ての肩をポンと軽く叩く。
「大丈夫だって!は歌も上手いし、慣れてるんだろ?」
「な、何を言っている!
・・・オペラは・・・その、ドレスを着たりするんだろう・・・!?」
がそう言うとロックが瞳を丸くした。
そんな彼の後ろでエドガーも同じように瞳を丸くしていた。
「其れが嫌だと言うのか? 勿体無い・・・・・・」
「黙れ軟派王め・・・!」
「兄貴の言う通りだぜ? 偶には女らしい格好をしたら如何だ?」
「・・・・・・」
はそう言ってきたマッシュをジト目で睨む。
マッシュは怯む様子も無く笑顔で言った。
「いいのか?ティナの為だろう?」
「う・・・」
「やらないっていうなら・・・・・・そうだな、の苦手な物でも此処で暴露するか!」
「はっ!?」
「意外だったんだぜ? がおばっ―――――フガッ!」
「言うな黙れ喋るな口を閉じろ」
物凄い速さではマッシュの口を塞いで一気にそう言葉を口早に発した。
鬼か。と思いはマッシュを見上げるがマッシュは唯楽しそうに笑っているだけだった。
「・・・・・・。 っ〜〜〜〜!!」
耐え切れなくなったのか、はダッシュで先ほどダンチョーが入ろうとしていた控え室に入っていってしまった。
一度ドアに顔をぶつけてから。
其れを見たセリスが心配気な視線を送りつつ、「無理か?」と呟く。
ロックは無言でドアに近付いてそっと耳を澄ませた。
『う、歌は兎も角・・・こんな服・・・・・・。
・・・あー・・・・・・ゴホン、
あー あー ラララー らー
あ うん
マ ァ リ ィ アーー』
中から聞こえてきた声にロックは声を上げて笑った。
其の後に「結構やる気だぜ、!」と言いドアに寄り掛かった。
其れと同時に笑い声が聞こえていたらしいが内側から勢い良くドアを開けた直後に勢い良く閉めた。
ドアはロックの頭に当たりゴンという痛そうな音が響いた。
「イテテ・・・・・・まあ兎も角・・・!
さっそく準備だ!を大女優に仕立てるぞ!」
そう言ったロックに続いて皆も控え室に入って行った。
こうして練習が始まった。
先ずは発声のテスト。
は元々歌でも稼ぎを入れていたので結構な歌の上手さだった為に此れは難無くクリア出来た。
其の他の動きでは元々傭兵。
結構な動きが出来た動きが硬い。
初心者だからしょうがないのだろうが、動きと合わせると歌も上手く歌えない様だった。
練習時間も、休憩の時間も、寝る前も、
は台本を読み返したり発声や動きの練習を繰り返して行った。
マリアにも手助けをして貰ったり一緒に演じるドラグゥ役の人やラルス役の人にもアドバイス等を貰い、は其れを参考にして頑張っていた。
そんな練習の日々の終わりの日の夜。
は一人舞台に居た。
明日は此処に立って演じる事をしなければいけない。
そう思いは深く溜め息を吐いた。
だが直ぐに首を振って其れを掻き消した。
覚えた事は覚えた。 自分はやれる事をやるだけだ。
そう思いはパン、と手を打って天井を見上げた。
そしてすぅ、と息を吸ってから凛とした声で歌った―。
王道王道・・・!