勢い良くドアを開かれて部屋の中に押しやられた。
ドレスを着た儘だったは裾に躓いてしまい上手く受身が取れず床へ倒れる形になってしまった。
は自分を此処へ連れてきて今自分の背を押した男、セッツァーを見た。
彼は上機嫌の様子で不適な笑みを浮かべた後、
「後でゆっくり可愛がってあげるさ」
と言い部屋から出て行った。
ガチャリと鍵を掛けられた音を聞いてはゆっくりと立ち上がった。
すると床が揺れた。
今自分が居る所は飛空挺だ。セッツァーが今飛空挺を起動させたなら早くしないと逃げられなくなるし話し合いすら出来ない。
取り敢えずロック達を中に入れるのが先だ、とは思い壁に掛かっていたロープを掴み窓を開き其処から降ろした。
ロープを近くの大きな椅子に強く頑丈に括り付けては窓から下を覗いた。
其処にはもう既にオペラ会場から走って来てロープを掴んでいる仲間達。
はほっとして登って来るロックに手を差し出した。
全員が飛空挺の一室に入ってきたのを見てはロープを元の位置に戻した。
そして手早くドレスを脱ぐ。
其れに皆驚いて瞳を丸くした。
男性陣は「あ・・・、」と言いほのかに頬を染めて回れ右をした。
セリスは其んな男性陣を見てハッとして「!何をしているの!?」と慌てて言った。
そんなセリスには小首を傾げて「え、だって・・・、」と続けた。
「下に着ているぞ?普段着ているあれを・・・」
「それでも水着でしょ其れは!」
「マントもバレオも持っているが・・・」
「・・・お願いだから、危機感を持ってちょうだい・・・」
がくりと項垂れてセリスが溜め息交じりに言った。
は「そんな大袈裟な」と言い腰にバレオを巻いてバサリと音を立ててマントを羽織った。
そして綺麗なリボンを外して、何時もの様にバンダナで髪を束ねた。
もう大丈夫か、と思ったのか男性陣もやっと振り返った。
何時もと変わらないにエドガーが近付いてに少しだけ顔を寄せて言う。
「・・・大胆なのは嬉しいのだが出来れば二人きりの時だけに・・・」
「そんな事は今後とも在り得ないから安心しろ」
はエドガーの髪を後ろに引っ張ってキッパリとそう告げた。
「つれないね」と言っていたがもう無視。
そんなにロックが声をかけた。
「立派な女優振りだったぜ」
「・・・茶化すな」
はロックに背を向けてそう言った。
横に居たマッシュは彼女の頬がほのかに朱に染まっているのを見て、笑った。
其れに気付いたはマッシュを横目で睨む。
「でもこれからが本番だぜ。第2幕の始まりだ。セッツァーは?」
「さぁな。 ・・・・・・――否、来る」
ロックにがそう返答した直後、ドアが荒々しく開かれた。
大きな足音が聞こえていた所から急いで来たのだろう、セッツァーは疲れこそ見せなかったが其れが感じ取れた。
彼は室内に居る面々を見、驚きの表情になった。
「き、貴様ら!?お、お前はマリアじゃねぇな!!」
「惚れた女と見知らぬ女の区別も付かないのか、お前は」
「・・・」
セリスがの肩に軽く触れてセッツァーを見る。
「お願いセッツァー。私達ベクタに行きたいの。だからあなたの飛空艇が・・・」
「マリアじゃなきゃ用はない」
セッツァーは短く、口早にそう言い入ってきたドアに身体を向けた。
其れを見たが「待て」と声を出す。
「私達はお前の船が世界一と聞いて来たんだ」
「世界一のギャンブラーともね」
に続いてそうロックが言う。
セッツァーは横目で此方をちらりと見ながら話を聞いた。
エドガーが一歩前へ出て口を開く。
「私はフィガロの王だ。もし協力してくれたなら褒美は沢山出すぞ」
「おい一国の王。 金で釣るな」
「・・・君は本当に彼を引き止めたいのかね?」
「思った事を言っただけだ」
がエドガーを見上げてキッパリとそう言う。
そんなをセッツァーはじっと見た後何かを思案する様に顎に手を置いていた。
だが直ぐに其れは終わりドアを開けた。
「来な」
「何だ、協力する気になってくれたのか?」
「勘違いするな。まだ手を貸すとは言っていない」
の言葉にそう返してセッツァーはドアを潜り、先へ進んでいった。
当然、其れに達も続く。
飛空挺の中の筈なのだが部屋の内装はカジノの様だった。
左右、正面にも色々なギャンブルの道具が在る。
は其れを横目で見ながらセッツァーの後に続いた。
着いた場所は、奥のギャンブルテーブル。
向かい側にセッツァーは行き、口を開いた。
「ふ・・・帝国のお陰で商売も上がったりさ」
「貴方だけじゃないわ。沢山の街や村が帝国によって支配されているのよ」
「帝国は魔導の力を利用し、世界を我が物にしようとしているんだ」
セリスの後にロックが続けて言う。
それにフィガロ兄弟も続けて口を開く。
「私の国も今迄は帝国と協力関係にあったが、最早此れまでだ」
「帝国の言いなりなんて絶対御免だね」
「・・・セッツァー、魔大戦は知っているな」
が言うとセッツァーは肩を竦めて「御伽話のか?」と言ってきた。
は頷いて「御伽話では無く、本当に昔在った話なのだがな」と言い続けた。
「あの幻獣と人間の戦いが、下手したら又始まってしまう。
大地を焼き払い、空は暗雲と化す・・・。 そして、魔導の力で全てを無に帰してしまう」
は自分の前に自分の掌を出した。
セッツァーは何かと其れを見ていたがの掌からパリ、と電流が走ったのを見て瞳を丸くさせた。
「魔導、使い方によっては人に幸も不幸齎す。 私達は不幸を齎そうとしている帝国を止めたいんだ」
そう言うとセッツァーは「帝国・・・か、」と呟いた。
其の表情は何処か影が落ちている。
「帝国に嫌悪感を抱いているのは私達と同じだろう?
少しでも良いんだ、協力を・・・「あんた、良く見ればマリアより綺麗だな」・・・・・・は?」
人が大事な事を言っている時にこの顔面傷野郎は何を言っているんだ。
と、は思ったが其れは口に出る事は無かった。
まじまじと自分を見詰めてくるセッツァーに思わず一歩後退する。
セッツァーは上から下までじっくりとを見たこう言った。
「・・・あんた、名前は何だ?」
「わ、私か・・・? だが・・・」
「、か・・・」
セッツァーは口内で何度も舌を転がしての名前を脳内にインプットした。
そしてを見、「良い名前だ」と言い何時の間にか持っていたダイスを一度宙に放り投げて其れをパシンと音を立てて掴み、笑顔で言った。
「決めた! が俺の女になる。だったら手を貸そう。 其れが条件だ」
「・・・・・・は?」
言われた本人はそう気の抜けた声を出して瞳を丸くした。
そんなとセッツァーの間に「待て!」と言いロックが素早くを守る様に入り込んだ。
「そんな勝手な事・・・!」
「駄目なら此の話は無しだ」
セッツァーはそう言うが、視線は真っ直ぐに向いていた。
ロックは其れに気付き奥歯を噛んだ。
酷く苛々した。
値踏みの様な視線もそうだが、好意の念も込めてある視線。
其れが自分の後ろに居るに向けられている。
そう思うと、苛々した。
ロックの後ろに居るはなにやら考えている様子だった。
(・・・如何する、帝国大陸に行く為にはセッツァーの協力が必要不可欠だ・・・。
条件を飲むか・・・、 ・・・・・・だが・・・)
其処まで考えては自分の前に居る彼の背を見詰めた。
(・・・ロック・・・)
其の瞳が揺らいだ。
の後ろに居るマッシュ達は心底困った表情で如何しようかと思案している。
振り返り皆を見たは一瞬ハッとしてマッシュに近付きつつセッツァーに向けて口を開いた。
「別に、お前の女になっても良いぞ」
「! !?」
の一言にロックが瞳を見開いて勢い良く振り返る。
周りの皆も驚いた様子でを見ている。
セッツァーは嬉々とした様子で「良し! じゃあ早速・・・」と言いかけたがの「但し」という言葉に遮られた。
はマッシュの前へ行ってセッツァーを振り返り、こう言った。
「条件がある。 ギャンブラーならギャンブラーらしく、賭けと行こうではないか」
がそう言うとセッツァーは面白そうに瞳を細めた。
の後ろに居るマッシュは何かを察したのか、の手をぎゅ、と握った。
「・・・」
「有難う・・・、マッシュ」
がマッシュを見上げてそう言うと彼は悪戯っぽく笑った。
其れにつられる様に、も何処か悪戯っぽく笑う。
そんな二人を見ていたロックは眉間に皺を寄せていたが「、平気なのか・・・?」と声色は気遣わし気だった。
は頷いてセッツァーに拳を差し出した。
拳を解いて一度其れを弾いてまた掌の内に閉じ込める。
「このコインで賭けをしよう。 表が出たら私の勝ち、無条件で私達に協力して頂こう。
裏が出たら・・・お前の勝ちだ、私をお前の女にしてもいい。 但し、帝国大陸には行って貰うぞ」
「ほう・・・いいだろう。受けて立とう!」
不敵に笑ったにセッツァーも面白そうに笑う。
そんな二人を見、ロックが再度口を開く。
「・・・良いのか?もし裏だったら・・・」
「ナニもアレもされるかもしれないぞ?」
「黙れ一国の王。 ・・・ロック、大丈夫だ。そんな顔をするな」
はロックに微笑んでそう言い「行くぞ、」と言いコインを弾いた。
キィン、と綺麗な音を出して放たれたコインは綺麗に弧を描いて机の上で立ってくるくると回った。
其れをその場に居た全員が真剣な瞳で見詰める―。
ぱたりと音を立てて倒れたコインの面は―――表。
は其れを見てにこりと笑った。
「表だ。私の勝ちだな」
「・・・驚いた」
セッツァーはコインを拾い上げて裏面にひっくり返して言った。
「貴重な品だな、此れは。 両表のコインなんて初めて見たぜ」
「マッシュよ・・・そのコインは・・・」
エドガーがマッシュを見てそう言うがマッシュは悪戯っぽい笑みを返すだけだった。
そんな弟を見、エドガーも笑みを零した。
「如何様もギャンブルの内だ。 そうだろう?派手好きの流離いのギャンブラーさん?」
腕を組んで見下し笑顔でがそう言うとセッツァーは一瞬呆けたが直ぐに肩を震わせた。
笑みを零しつつこう言った。
「はっ! こんなセコイ手を使うとはな・・・見上げたもんだ、益々気に入った!!
良いだろう、手を貸してやる。帝国相手に死のギャンブルなんて久々にワクワクするぜ!」
セッツァーははしゃぐ子供の様にそう言いコインを弾いた。
其れは綺麗な弧を描き、の所へ来た。
は其れを取って、笑う。
「俺の命そっくりチップにしてお前らに賭けるぜ!」
セッツァーがそう言った後に「其れと!」と言いを指した。
「何だ。 というか人を指差すな」
「俺は諦めたワケじゃ無いぜ。 何時か絶対俺の女にしてやるからな!」
「・・・はっ・・・?」
何で。
は素でそう思い溜め息を深く零し、頭を抱えた。
「良し!じゃあ早速・・・」
・・・・・・早速、何(笑)