少し時間が経った。

甲板に居たセリス達もが降りて暫くしたら降りて来た。
未だねちねち何かを言いあっているロックとセッツァーはの呆れ声でやっと止まった、らしい・・・。



「あと少しで帝国大陸だぜ」

「此のデカい船で帝国上空を飛ぶのは目立ちすぎる。奴等に気づかれないよう少し離れた場所に降りよう」

「そうしよう。俺は飛空艇に残っていつでも飛び立てるようにしておく」


セッツァーはロックの言葉に同意して窓の外を見た。

オイ、意外と仲が良いじゃないか・・・・・・。

はそう思いつつちらりとロックを見た。
―彼を見た瞬間、先ほどのセリス達の言葉が浮かぶ。


「ロックだって、貴女を見ていると思うわ。・・・彼と行動していた時、貴女の話を結構していたわ。
 行動している時、よくボヤいてたもの・・・気になって聞いちゃったわ。
 そしてら「は大丈夫か」とか言ったり腕に巻いてあるリボンに触れたりしていたわよ」



セリスの言葉を思い出した途端、ロックの腕に巻かれている赤いリボンが目立って見えて来た。
は自分の頬に熱が集まっているのを感じ慌ててそっぽを向いた。


「? ?」

「な、何でも無い!!」


気付いたロックが此方を向いた。
は慌てて身体を反転させてロックに背を向けて赤面を隠した。


(何で、如何して私は・・・こんなにも・・・・・・?!)


両頬を両手で押さえる、

其処は酷く熱っている―。


如何して、何で、という疑問符ばかりが頭に浮かぶ。

ロックを見ていると胸が温かくなる、此れはどうして?

けれども時たま彼を見ていると胸が酷く痛む、此れはどうして?


ロックの目は昔の恋人、そして、セリスに向けられているのに、


わたしは―――――――、 どうして、  なんで、




恋?




そう思った途端は頭の中が真っ白になった。

イケナイ、イケナイ、と危険信号が鳴っている。


(ち、違う!此れは恋なんかじゃない! 駄目だから、違うんだ!!)


机に手を付いては唯、机の上のダイスを見ていた。

ふと、脳裏に過ぎる、オペラ会場での出来事―。


「・・・触れても、良いか・・・?」


照れた様にロックはそう言って手を伸ばしてきた。

この感情を、酷く、否定したい、否、否定している。


私はロックは仲間内では特別な位置に置いているが、此れは恋ではない、


そう、この彼に向けている感情は、忘れかけていた、友情。


そう考えるとは心が酷くスッキリした。
久々に心を許せる者が出来たせいか、自分の心は不安定だった。
だから、胸が痛んだんだ。

はそう思いゆっくりと瞳を伏せた。









―飛空挺を離れに止めて、暫く歩いた後。

帝国の首都、ベクタに着いた。

ベクタはさすが帝国の首都という事で広かったが、活気が無い。
建物や鉄鋼には必ず帝国軍の軍旗が在った。

街に居る人を見てみるが、表情は暗く、瞳にも光は無かった。

は隣に居るマッシュを見上げて、口を開く。


「帝国兵もウロウロしている。手早く用を済ませた方が良いだろう」

「あぁ、賛成だ」


そう言い、魔導研究所の方向へ向かう。
と、物陰から行き成り老人が出てきてエドガーに一礼をした。
その様子からして、味方だろう。
老人は達を真っ直ぐに見て口を開いた。


「私はリターナーの同士です。貴方方の話は聞いています。
 私が帝国兵を引き付けている間に此の箱から鉄塔に飛び乗って魔導研究所に忍び込んで下さい」


此の箱。と言い老人が指したのは結構大きめの木箱。
見上げると鉄塔との距離は余り無い。

なるほど、此れなら上れそうだ。とは思い老人に視線を戻した。


「準備は良いですか?」

「当然だ」


に続いて、全員が頷く。
其れを見た老人は横に置いてあった酒瓶を手に取って其れを一気に飲んだ。
ほのかに顔が赤くなった時、物陰からふらふらと覚束ない足取りで魔導研究所の門番の前に躍り出た。


「ういー!よっぱらっちまったー!」


そう言いふらふらと行き来した後、門の前でへたり込む。
そんな老人を見て帝国兵が「ええい!邪魔だ!」と声を張り上げる。

帝国兵の視線が老人に向いている其の隙に、箱に飛び乗って鉄塔に飛び移る。
後は奴等が向こうを向いた瞬間、鉄塔の上を走って一気に中へ入る。


「ういー・・・、・・・、・・・、 は き そ う だ ・・・!

「おいおい・・・」


凄い名演技だ・・・。

ルナが変な所で感動を覚えていると呆れ顔の帝国兵が老人に近付き、背を摩る。
其の瞬間、達は音を立てない様に走り、魔導研究所の敷地内へ入り込んだ。

奥まで進んだ所に鉄製の重そうな扉があった。
マッシュが「任せろ!」と言い押し開ける。

其処から中へ入った。

魔導研究所の中は機械だらけだった。
クレーンやベルトコンベアやらワイヤーやらがごちゃごちゃしている。
しかも、広い。


「無駄に広い上に無駄に入り組んでいるな・・・」

「あぁ、慎重に行こうぜ」


がそう言った後、ロックが皆を見渡しつつそう言う。
そう言った途端、帝国兵の姿が見えた。
慌てて各々近くにあった物陰に隠れて様子を見る。

此方に向かってきていたので、は小銃を取り出して弾が入っているか確認した後、帝国兵を見た。
自分が隠れている真横を通ろうとしたその瞬間に躍り出て足払いを掛けて帝国兵を倒した。
そして一気に蹴り飛ばす。

帝国兵は壁にぶち当たって其の侭ずるずると床に倒れた。
―気を失っている様子だ。

予備で出していた小銃を仕舞い、は皆に「平気だ」と声をかけた。


その後も帝国兵や防犯の為のロボット等と幾度か戦闘を繰り返した。
其の中、ベルトコンベアに乗って移動している際、下に魔導アーマーに乗っている帝国兵が見えた。
クレーンに飛び移りつつ、彼らの様子を盗み見る。
幸い此方には気づかず、彼らはエレベーターの様な物に乗って下へと降下して行った。


「さすが敵の本拠地なだけにうじゃうじゃ居るな・・・」

「恐らく、ケフカも居るわ。用心しましょう」


はセリスの言葉に頷いてクレーンから手を離し、床に足を着いた。
そしてまた別のクレーンにぶら下がる。


「・・・いい加減、荷物気分を味わうのも飽き飽きなんだが・・・」

楽しんでたの? ていうか、仕方ないじゃないの。これしか移動手段が無いのだから」

「先ほど奴等が使っていたエレベーター・・・ ・・・羨ましいな

「けど、あれに乗ったら即見つかると思うぜ?」


じーとエレベーターを見ているルナはロックにそう言われては「そんな事分かっている、気分だ気分」と言い身体を少しだけ揺らしてロックのぶら下がっているクレーンにぶつかる。
突然揺れたので彼は「おわっ!」と言い焦った声を出して必死にクレーンにしがみ付いた。


「あ、あぶねーな!」

「お前なら平気だろう。 マッシュはびくともしなさそうだが・・・」


そう言いマッシュをちらり、と見る。
するとマッシュは視線に気付いたのか「ん?」と言い何だ何だと笑顔を向けてきた。

そんなマッシュに何でも無い、と言いつつは考えていた。


(・・・やはり、恋愛感情なんかじゃない、)


他の奴等同様、話したり、触れたり、友情の楽しみではないか、


はそう思いクレーンから手を離して床に足を着いた。







辺りに気を回しながら進んでいると、何処かで聞いたうざったい高笑いが聞こえてきた。
ぞわり、と鳥肌を立てつつは「この声・・・、」と呟いた。
全員理解したのか、物影に隠れる。

はロックと同じ位置に隠れて、彼を見上げた。


「・・・本当に奴が居るとは、少し厄介だな・・・」

「あぁ・・・」


そう小声で話していたら、予想通りケフカが現れた。


「俺が神様だよ・・・ヒーッヒッヒッヒ!!」


行き成り何宣言だ。は思わず口に出して言いそうになったが言ったらばれるので堪えた。
ケフカは進みつつ再度口を開いた。


「幻獣をもっと集めて・・・・・・魔導の力を取り出してー・・・・・・そして・・・・・・、」


指折り数えつつそう言っていたが途端、言葉を止める。
其れと同時に歩みも止めて天へと手を伸ばして嬉々とした表情で言った。


「三闘神の復活だー!!」

!!!


ケフカの其の一言にの肩がビクリと跳ねた。
横に居たロックが気遣わし気な視線を送ってくるが、は其れに答えている余裕は無かった。


三闘神の復活・・・!?

冗談では無い!!!


は心の中で叫び、唇を噛んでマントを強く握った。
そんなの肩を、ロックが優しく抱いた。

其れにはハッとして彼を見上げる。

彼はケフカに気取られない様に、声を出さず、口だけを動かしてこう言った。


『 だ い じ ょ う ぶ 』


其れは一体何に対しての物はか分からなかったが、肩の力が抜けるのをは感じた。
少しだけロックを見上げていたが、ケフカが移動したのに気付き、二人で少しだけ身を乗り出して覗き込む。

ケフカは奥で「もう魔導の力を吸い尽くした様だね・・・」と言い何かを見下ろしていた。

其れを見た途端、または瞳を見開いた。


心が騒ぐ、

私の中の、幻獣がっ―――!


『シヴァ、イフリート、』

「・・・あれは・・・幻獣・・・・・・?」


心の中の声に反応して、ポツリと、呟く。

ケフカの前には透き通る様な美しい澄んだ青色の身体の女性型の幻獣、シヴァと大きな身体に大きな角を持つ巨体男の型の幻獣、イフリートが倒れていた。
は瞳を閉じてあの二体から魔力の流れを感じ取る。


(――未だ温かい・・・でも・・・・・・)


もう、長くは持たない。
先ほどのケフカの「魔導の力を吸い尽くした、」という言葉を思い出し、は奥歯を噛んだ。


「お前はもう用無しだ!!」


ケフカは歪んだ笑みを浮かべながらそう言いシヴァを蹴り飛ばして流れているベルトコンベアの上へとやった。
「お前も要らない!」と言いイフリートも蹴り飛ばしてシヴァの後ろへとやる。

動いているベルトコンベアの先には道は無く、あるのは穴だけだった。

二体は倒れた儘その穴に吸い込まれる様に落ちていった―・・・。

ケフカはまた大声で笑った後、奥の部屋へと入っていった。
直後、が物陰から凄い速さで駆ける。
其れに全員続く。

は躊躇する事無く、先ほどシヴァとイフリートが乗せられたベルトコンベアに自分も乗った。
其れにエドガーが驚く。


!?」

「あの二体を・・・放っておけない・・・! 未だ彼らは生きているんだ、それに・・・私の中のコイツも騒いでいる・・・」


はそう言いつつ、穴へ飛び込んで行った。
其れを見ていたロックも「!」と声を上げて彼女と同じように躊躇せずベルトコンベアに乗り、其の上を走り穴へ飛び込んだ。


下へと来たは、足場の悪さに転倒した。
倒れた時、ガシャンという軽い音が響いた。

慌てて起きて、辺りを見渡して瞳を見開く。

其処は、余りにも酷い場所だった―。

床には一面、骨。
大きさはバラバラだ。大きく太いのもあれば、小さく細い物もあり、粉々に砕けている物もある。
電気も全然無く、辺りはほぼ真っ暗だった。
唯一付いている電気は、たった四つ。
だが其の内の二つは電気が切れ掛かっているのか、パチリという電流の音が響いていて、光が点滅を繰り返している。「

余りの酷さにが固まっていると、背後でガチャンという音がした。
驚いて振り返ると、ロックが倒れていた。


「・・・! ロック!」

「イ、テテ・・・・・・此処は・・・?」

「・・・恐らく、今までこの魔導研究所で魔導の力を吸い取られた幻獣達の・・・・・・、廃棄所・・・」

「廃棄所・・・!? なんだよ、それ・・・!!」


ガバリと勢い良く起き上がってロックは辺りを見渡す。
その直後、絶句して身体を硬直させた。

ロックに続いて降りて来たエドガー達も、同じ反応だ。
エドガーは早く自分を取り戻し、イフリートが倒れているのを見て、近付く。

心配をして近付いたのだろうが、エドガーにイフリートは敵意を感じたのか瞳をギンと開いて一声咆哮した。
途端、衝撃波が生まれエドガーが吹き飛ばされる。


「兄貴!!」

「ぐ・・・!」


マッシュが走りエドガーが壁に叩き付けられる前に自分の身体をクッションにする様に支えて共に倒れた。


「エドガー!マッシュ!! ・・・!・・・きゃあ!!

「セリス!」


二人に駆け寄ろうとしたセリスにイフリートは尾を叩き付けた。
飛ばされたセリスだが、直ぐに体制を立て直して自分にケアルをかけている。
終わったらエドガー達の所に行くだろうと思いはイフリートを見上げる。


「落ち着いて!イフリート!! 私達は敵では・・・、・・・っつ!!!

「! 


がイフリートにそう声をかけている時に、の足元が凍った。
其れにロックが慌てての所へ向かおうとするが、彼はイフリートの後ろに居たシヴァの冷気を喰らい吹き飛んだ。
直後、身動きの取れないをイフリートが攻撃した。
足元の氷も砕け、は吹き飛んでロックの隣に倒れた。


「っつ・・・・・・かはっ・・・!」

「く・・・・・・・・・!」


横で腹部を押さえ、苦しそうに咳をするにロックは必死に手を伸ばす。
其の時、


パリッ―、


「・・・!!」

・・・」


の身体が輝いた後、また電流が走った。
セリスが驚いて振り返る。
彼女に回復してもらっているエドガーはポツリとそう呟いて、視線だけをに向けた。




ヒロイン、勘違いの自覚←