この感情は何だ?


酷く辛くて、苦しくて、痛い・・・。 


でも、温かくて、優しい―。


此れは、以前にも感じた事がある、


そう、此れは――――――、





「ロック?」


横を歩くセリスに声をかけられてロックは一瞬だけ瞳を大きく開いて彼女を見た。
セリスは何処か心配そうな表情でロックを見詰めている。


「どうかしたの?」


ぼうっとしてて、とセリスは付け足す。
ロックは曖昧に笑って「否、何でも」と言い前を向いた。

視界に映るのはとマッシュ。
未だにはマッシュの腕の中に居て"チャクラ"を受けている。
段々と彼女の顔色は良くなってきているが、何処か自分の胸中は落ち着かなかった。

そんなロックをちらりとエドガーも見る。
そして、苦笑をした。
其のエドガーをセリスは横目で見ていた。

彼女は視線をロックに一度戻した後、何処か憂いを帯びた瞳をそっと伏せた―。





――マッシュからチャクラを受けていたも暫くすると回復した。
「もう大丈夫だ、すまなかった」と言いはマッシュの身体をやんわりと押してから礼を述べた。
周りの面々を見渡しては少しばかり苦い笑みを浮かべて「行こうか、」と言った。




その後、魔導研究所の奥へと進んでいると研究所の様な広い場所へ辿り着いた。
真ん中に通路があり、両側にはカプセルがびっしりと並んでいる。

そのカプセルの中には、幻獣の姿があった―。

自分達が来たのに気付いたのか、カプセルの中に居る幻獣がゆっくりと瞳を開けて此方を見てくる。
そしてを見ると、愛しそうに瞳を細めて何事かを囁いた。
だが其れは音として伝わる前にゴポリ、と音を立ててカプセルの中にある液体の中へ空気と共に消えた。

其れを見ていたは息を飲んで思わず駆け出した。
通路ギリギリまで行き柵に手をかけて身体を乗り出す様にする。

少しだけそうして居たが直ぐにハッとして再度駆け出しては研究所の奥にあるコンピューターに走り寄った。
暫く其れを見て考えた後、数回ボタンを押す。
するとカプセルの動作が止まった。

次には彼等を外に出す為にボタンを押そうとしたが、其れは彼等幻獣達により止められた。


『我々を助けようと言うのか・・・・・・しかし、我々の命はもう長くない・・・・・・イフリートと同じ様に・・・死して、お前達の力となろう・・・』

「!! そんなっ―――!!!」


キィン!という大きな音が響き、辺り一面が光に覆われた。
慌てて周りを見渡す。其処にはもう幻獣達の姿は無く、魔石だけがあった―。


「・・・・・・ぁ・・・、」


が放心状態に陥り、膝を着いた。
そんなにロックは気を取り戻して駆け寄る。

そっと彼女の肩を抱いてやると、震えていた。


「・・・・・・ごめんなさい・・・」


ポツリ、とが呟く。
ロックはその呟きを聞き、肩を抱く手に力を込めて、唯無言でを支えた。

そうしていたら、何処からか機械音が響いてきた。
何だと思いマッシュ達は警戒し辺りを油断無く見渡す。
ロックもを守る様に肩に回している手をグッと引いてを抱き込む形で辺りを見渡した。

機械音の発信源はエレベーターだった。
エレベーターに乗って上がってきた黄色の作業服を身に纏った中年の男だった。
男はロック達の姿を視界に留め、大声でこう言った。


「其処で何をしておる!」


だが其れも辺りのカプセルを見た途端、終わった。
彼は表情を驚きの色に変えて「こ、これは!?」と驚きの声も上げた。
そしてロックとを素通りしてカプセルを覗き込む。


「・・・幻獣は死す時に力だけを残す事が出来るのか・・・!
 此の石に秘められている力は・・・幻獣から直接取り出した力の何倍、否、何百倍もある・・・・・・ふーむ・・・」


魔石を見つつ機械を弄りながらそう言う男をはロックの腕の中から睨み付けた。


(―よくも・・・、)


の瞳の色が怒りに染まり、身体から金の光が微かに放たれる。
其れを見たロックは瞳を見開いて「!」と声を張り上げた。
そして魔法を発動させようと上げ掛けている手を押さえた。


「っつ! 放せロック!私は―――・・・!」

「落ち着くんだ!」

「・・・・・・っ・・・!」


真剣な瞳で、正面から見詰めてそう言われては押し黙った。
そんなにロックはほっと安堵の息を吐き、落ち着かせる様に彼女の背を撫でた。

二人を気にしつつもセリスが一歩前へ出て「シド博士」と言う。
其れに男が振り返り「セリス将軍、」と呼ぶ。
男はシドというらしかった。

シドはセリスの横に居るマッシュやエドガーを見て眉を潜めた。


「何じゃ、此の怪しい奴等は? お前さんの部下かい?」

「いいえ。そうじゃなくて私は・・・・・・、」

「何でも反乱を企てておる連中に、スパイとして潜り込んだと聞いたが?」

「!?セリス…?」


シドの言葉にロックが大いに反応して思わずから手を放してセリスを見やる。
言われたセリス本人も瞳を見開いていて口を開こうとした。

―その時、


キィン!


「っ!!」

「! !?」


の身体が行き成り吹き飛んで壁にぶち当たり、倒れた。
ロックが慌てて駆け寄ろうとするが倒れている彼女の横にある人物が現れた為に其れは出来なかった。

高笑いをしつつ現れたのは、先ほど会ったケフカだった。
ケフカはカプセルの中に入っていた魔石がロック達の下へ飛んでいくのを見つつ、再度高らかに笑った。


「成程!!魔石か!!でかしたぞシド博士!!そして・・・・・・、」


ケフカはシドにそう言った後、セリスを見て歪んだ笑みを浮かべる。


「セリス将軍! さあ、もう芝居は良い。そいつ等の魔石を持ってこっちへ来い!」


ケフカの一言でロックの意識がセリスに向く。
其の隙にケフカはの一つに結わいた髪を掴み上げた。


「ぁうっ・・・・・・!」

!!

「この女もこうして楽に捕まえられましたよ、此れもセリス将軍のお陰ですよ!
 奴等の油断も、何もかも、全て!」


ケフカの言葉にロックが奥歯を噛み締める。
そしてセリスを振り返り瞳に焦りと怒り、そして悲しみを混ぜて言う。


「セリス!騙していたのか!?」

「違うわ!私を信じて!」


セリスは酷く傷ついた表情でロックに正面から言った。
その瞳には唯彼に信じて欲しい、との色しか浮かんでいない。


「ヒッヒッヒ!裏切り者か・・・セリスにピッタリだね・・・」

「・・・っ・・・! ふざ、けるな・・・!」


パリッ、


身体に雷を纏うがケフカを睨み上げる。
だかケフカは其れに怯まずに笑みを浮かべたままの髪を更に上へと引っ張り上げた。
痛みに歪むの表情。ケフカは今度はの首に手を回して壁に押さえつけた。

強い力で壁に押し当てられたので呼吸が一瞬止まり、の喉からひゅ、という空気の音が聞こえた。
それでもはケフカを睨みつつ続けた。


「セリスが・・・裏切り者・・・?  ッハッ!そりゃあ帝国から、見たらだろうがっ・・・!」

「お前達も裏切られたのですよ」

「ぅあ・・・!」


ケフカはの首を掴んだまま其の侭上へと彼女の身体を持ち上げた。
地から離れた足は動かさず、は手をケフカの腕にかけて何とか身体を上げようとしていた。


「・・・ロック・・・!何をしている・・・!早くセリスを・・・・・・!」


に言われてケフカに攻撃を仕掛ける隙を伺っていたロックの肩がびくりと跳ねる。
そしてゆっくりと、セリスを振り返る。

セリスは悲痛な表情で「ロック、信じて・・・!」と言った。

だがロックは目線を下へずらし、「俺には・・・、」と苦々し気に呟いたきりだった。

そんな二人には舌打ちを一つして足をブンと思い切り振った。
が、ケフカは其れを難無く止めると開いている方の手を勢い良く上げた。


「今だ!皆殺しにしろ!!」


ケフカがそう言うと同時に魔導アーマーが数体来た。
そして魔導レーザーを放つ。

不意をつかれたロック達は其れを喰らい吹き飛んだ。

―それは、セリスもだった。

だがセリスは何とか起き上がりケフカを睨む。


「・・・ケフカ・・・!を放して!」

「・・・セ、リス・・・」

「何を馬鹿な事を。この女も魔石にするのですよ。基は幻獣と同等ですからねぇ!」


ケフカの言葉にセリスはギリ、と唇を噛んだ後に瞳を閉じた。


―直後、辺りの空気が震えた。


其れにビクリとの身体が跳ねる。
此れは魔導の力。しかも、とても協力な―、


、」


セリスは手をゆっくりと上げつつを見て微笑んだ。


「私じゃ、いけないのよね・・・信じてもらうには、貴女じゃなきゃ、いけないのよ。 
 ・・・そう、私の入り込む隙間なんて、最初から無かった――・・・、」

「・・・セリス・・・?」

「ロック・・・ 今度は私が貴方を守る番・・・そして・・・、 此れで私を信じて・・・!」


セリスはそう叫びケフカに向けて走り、強く体当たりをしてとケフカを離した。
は其の侭床へ崩れ落ち、セリスはケフカを掴んだまま一気に魔力を放出した。


「セリス! そ・・・其れは! やめろ!!!」


ケフカのその言葉を最後に、空間に歪が生まれて其の中に魔導アーマー、ケフカ、そしてセリスも吸い込まれていった。


急に静かになった空間。


沈黙が痛い―。


「・・・セリス・・・、」


ロックが瞳を揺らしてそう呟いた。
は自身にケアルをかけてゆっくりと立ち上がり、呆然としているロックを見た。
エドガーとマッシュは項垂れるロックの傍へ行く。だが、はその場に立っているだけだった。


唯その場に立ち尽くしているは、天井を仰いだ。

其処にはもう何の跡形も残っていない―。


「・・・入り込む隙間が無いのは、私の方だ・・・・・・、」


そうポツリと呟いた。




またぐだぐだ逆戻り。