ナルシェへ戻る飛空挺の中。
ロックは甲板に居た。
真正面から風を受けて、痛む目を気にせずにずっと正面を見据えていた。
(何で・・・俺は・・・・・・、)
こうも、失敗ばかりするのだろうか―。
「・・・何処で間違えた?」
「それはセリスを疑ってしまった所だろうな」
「!!」
音も無く自分の後ろに来てそう声をかけたをロックは瞳を見開いて振り返った。
驚きの表情の儘固まっているロックには苦笑を浮かべて彼の横に並んだ。
「さっきは悪かった」
「・・・・・・え?」
「叩いて、 ・・・痛かっただろう?」
申し訳無さそうに言うの言葉にロックは魔導研究所を脱出する時の事を思い出した。
彼は「否、」と言い首を振って苦笑した。
は表情を苦笑の儘口を再度開いた。
「・・・・・・セリスなら無事だろう」
「・・・だと良いんだがな」
「大丈夫、シドだって居る。 其方の面ではシドは信じれるだろう・・・」
其方の面で―。
未だ全てを信頼している訳では無いが、セリスに関してはシドは信頼して良いだろう。
あの申し訳無さそうな、後悔した表情。
其れは演技か、はたまた本気でそう思ってくれているのか―・・・。
どっちにしろ今のには如何でもいい事となっていた。
彼女の頭に残っているのはセリスの安否、ゾゾに居るティナの事、そして―――、
「ロック」
「ん?」
今、隣に居る――、
「・・・・・・何でも無い・・・」
貴方だけ、
は瞳をゆっくりと伏せてぎゅ、と手を力強く握った。
(ロックの寄り所は、セリスだ。そして、彼女の寄り所も、ロックだ・・・・・・。
・・・・・・隙間なんて、無いのに・・・・・・、)
はぁ。と溜め息を一つ吐いては前方に見えてきた山を見た。
あそこを越えたら、ゾゾだ。
「皆来てたのか・・・」
ゾゾの街に入り、階段を上がってティナが居る部屋に行くと其処には既にカイエンとガウが居た。
ロックがそう言うとガウは「がう!」と返事をしてに走り寄った。
「!! だいじょうぶだったか?」
「ガウ・・・」
心配そうに自分を見てくるガウを見、は憂いを帯びた瞳を細めて笑顔を作った。
其れにガウはピクリ、と身体を震わせたがは其れに気付かずにガウの頭を撫でた。
そんな二人を横目で見つつ、エドガーが魔石を取り出しつつティナに近付いた。
途中、一つの魔石が強く輝きを放つ。
「何だ・・・?」
「・・・・・・」
はガウの頭を撫でていた手を止めて其方を見やる。
魔石・マディンが輝いている。
其れに呼応する様に、ティナの身体も輝きを放つ。
光の中、ゆっくりとティナが瞳を開けた。
「お、とう・・・さん・・・?」
目を覚ましたティナに皆が驚きと安堵の表情を浮かべている中、が静かに歩み寄りエドガーの手からマディンの魔石を取ってティナに近付いた。
ティナはの手の内の魔石を見ると一瞬、瞳を大きく見開いた後ふっとまた瞳を閉じた。
「・・・思い出したわ・・・。 私は幻獣界で育った・・・」
ティナがそう言った途端、魔石が強く輝き始めた。
「っ!!」
其れに呼応する様に今度はの身体が輝き始めた。
はビクンと肩を揺らしてその場に膝を付いた。
「! !!」
其れに驚いて皆が駆け寄ってくる。
ロックが自分の両肩に両腕を回して俯いているをそっと支えて声をかける。
途端―。
その場に居た全員の脳内に映像が浮かんだ―。
「大変だ!ゲートの向こうから・・・!」「もし・・・しっかりなさい・・・」「人間だと言うのか?」「恐らく、何かの間違いで向こうの世界から迷い込んでしまったのでしょう」「貴方は・・・幻獣?この胸のペンダントは?」「君にプレゼントしよう。この幻獣界のお守りさ」
脳内に一人の幻獣の男と人間の女の映像が過ぎる―。
人間の女は微笑んで、再度口を開いた。
「私はマドリーヌ。人間の世界が嫌になってしまったの」
「幻獣と人間とは相容れない生き物・・・か」「私はやっぱりこの世界でも邪魔者・・・なのかしら?」「いや、分からない」
「もし、人間界に戻りたくないのなら此処に居ても良いのだぞ。
それが誠の事かどうか、俺達が示してみればいいではないか?」
――――――。
微笑んで手を取り合うマディンとマドリーヌ。
世界が真っ暗になったと思ったら、次の瞬間マディンが笑顔で赤ちゃんを抱えていた。
「名前は決めてあるんだ」
「・・・なぁに?」
「ティナだ。 良い名前だろう・・・?」
―ティナ―
幻獣と人間の間に出来た、子供。
こんなにも愛しそうに見つめられて、愛されていた、子供。
穏やかな場面から一変して、一気に荒れた空気が渦巻く幻獣界になった。
「はっは。とうとう見つけたぞ!千年前の書物を謎を解き魔導の秘密と幻獣界への入り口を探し当てた事がっ!
報われる時がやっと来たぞ!!
捕えよ!!幻獣を捕えたものは思いの褒美をやる。 行けーーーー!!」
その声と顔を見た途端、は強烈な嘔吐感に襲われた。
―ガストラ皇帝―!
ガタガタと身体が震え出す、脳裏に過ぎるこの光景は、自分の故郷と酷く似ている。
そんなをロックは強く支えた。
(・・・・・・ロック・・・、)
(大丈夫だ、俺が居る、)
「仕方ない・・・最後の手段だと思っていたが・・・・・・、」「もしや・・・封魔壁?」「そうじゃ。嵐を起こし、全ての異物をこの世界から追い出し結界のゲートに封印の壁を閉ざす。その術を唱えることが出来るのは幻獣でも特殊な血筋を持つ者のみ・・・、今やその術を唱える事が出来るのもわしだけになってしまった」「しかし!そのお身体で封魔壁の魔法を使えば・・・!」「死ぬかもしれん。わしが死ねば一生封魔壁を出来なくなる」「・・・マドリーヌはそれでいいのか?」「もう向こうには未練がありません」「では、行くとするか。其れしか手は無いだろう」
幻獣界の長老と思われる男性が魔力を放出して、封魔壁を発動させている。
そんな中、如何してかマドリーヌがティナを抱えて走っていった。
其れをマディンが追い、出口付近でやっと追いつく。
マドリーヌはティナを抱き締めて倒れていた。
否、外の人間界へ吸い出されない様に其処に倒れる様にして、岩にしがみ付いていた。
「マディン・・・私はあの人たちの仲間なんかじゃ・・・」「分かっているさ!」「・・・ありがとう」「戻ってくるか?」「ええ・・・」
二人が戻ろうとした時、ティナが物凄い勢いで外、人間界へと吸い込まれていった。
「・・・!ティナ!!」「マドリーヌ!!」
マドリーヌがティナを追い、マディンはマドリーヌを追った。
「人間の女か? ! こ・・・この子供は?!」「私の・・・・・・子に構わないで・・・!」「お前の?ふっ!そうか。もしやお前と幻獣の・・・」
ガストラ皇帝。
彼はティナをマドリーヌから奪い取るとニィ、と歪んだ笑みを浮かべた。
「これは面白い!ファハッハ!私の帝国を築き上げる夢も意外に早く実現しそうだ」「や・・・めて・・・!」
痛む身体に鞭を打ち、地を這って、我が愛しい子に手を伸ばすマドリーヌ。
しかし、
「うるさい!!」
ザシュ、という嫌な音が響いた。
ガストラが持っていた剣で容赦なくマドリーヌの身体を切り裂いたからだ。
(!!!)
其れを見た途端、の脳裏にもう一つの光景が過ぎる。
(いやだいやだいやだいやだいやだ!!!)
『此処に幻獣が逃げ込んだと聞いた』『もったいぶらずに早く出した方がいいぞ』『死ね!』
『この子には指一本触れさせない!』『餓鬼が・・・!死ね!』『いやあああああぁぁぁ!』『ーーーー!』
『「私が世界の支配者となるのだ!! ファファファ・・・!」』
ガタン!!!
「!!?」
倒れそうになったをロックが再度支える。
近くにあった椅子はがぶつかり、大きな音を立てて倒れた。
未だに呆けているにロックは焦り「、、」と名前を呼びつつ頬を軽く叩いた。
すると瞳に色が戻った。
「・・・・・・ロック・・・」
「・・・大丈夫か?」
「・・・あぁ・・・」
ロックは安堵の表情を浮かべてそう言う。
そんな彼を見ては苦笑交じりにそう答えた。
暫く間を置いて、元の姿に戻ったティナが口を開いた。
「私は幻獣と人間の間に生まれた・・・。この力も、其の為に・・・。
でももう大丈夫。少しの間だけど力をコントロールする事が出来る・・・」
「ガストラはその時に幻獣の力の秘密を知ったんだ。
魔導研究所で捕らえられていた幻獣はその時に攫って行った幻獣か。・・・とすると、セリスの力も幻獣が犠牲に・・・」
「許せん帝国!殴ってやらないと気が済まない!」
ティナの後にエドガーが続いて言う。
その後にマッシュは握り拳を作りつつ、そう言った。
「がうー、 へいき?」
「・・・ありがとう、ガウ。 ・・・ロック、もう大丈夫」
「・・・、その・・・さっきのは・・・」
ロックが何処か気まずそうに言う。
其れには先ほどの自分の記憶が触れていたロックにまで流れてしまっていた事に気付いて、苦笑した。
「・・・すまない、気分の良い物では無かっただろう・・・」
「・・・帝国は、許せないな・・・」
「・・・・・・あぁ、そうだな・・・」
ふっ、と視線を逸らして言うをロックは唯じっと見詰めていた。