何処か気恥ずかし気に向けられている視線。

其れは一体何なのか、誰から向けられているのかはには分かっていた。

其方の方向を見ると、此方に目を向けているティナと目が合った。

そうしたらティナは少し慌てて近付いて来た。


「あの・・・・・・!」


「その、」と続けて口ごもるティナにはにこりと微笑んで手を差し出した。



「おかえり」


「・・・・・・ただいま・・・!」



ティナもまたにこりと微笑んでの手を取った―。



そんな二人の様子を少し離れた所で見ていたロックは一人目を伏せて少し開いているドアから外を見た。
ふと、雨の中にガウが立っているのに気付く。
ロックは小首を傾げながら彼の下へ歩を進めた。

どうせ二人の時間はもう少し必要だから―。

外に居るガウの横に行くとガウはロックから逃げる様に階段を数段下りた。
ロックは「濡れるぞ、屋根があっても風で来てる」と言い手を差し出すがガウは其れを拒んだ。


「・・・ガウ、まえにもいった」

「え?」

「ロック!なんできずつける!!」


以前にも言われた言葉を再度投げかけられてロックは固まった。
ガウは瞳に怒りの色を滲ませながら続ける―。


・・・つらそう・・・」

「・・・俺の、せいでか・・・?」

「ガウにはそうみえる。 、ロックみてる、くるしそう」

「・・・・・・」


俯いて小さな声で言ったガウを見た後、先ほど自分が出てきた所を見る。
其処から丁度タイミング良くマッシュが出てきて苦笑した、


「またの話か?」

「がうー」


マッシュは階段を下りてきて苦い笑みを浮かべたままガウの後にロックを見た。


「お前はセリスの事でも頭がゴチャゴチャしてるから気付いてないかもしれないけどよ・・・、」

「分かってる」

「・・・え?」

「分かってるさ・・・俺のせいでが、塞ぎこんできてるって事も・・・」


ロックはそう言いガウの横を通り階段の踊り場に足をついた。
自嘲笑みを浮かべつつ、柵に寄りかかる。


は――――――、」


『何者だ』

強い警戒の色を瞳に浮かべて傷だらけの身体を叱咤してコッチに銃を向けてきた。
―傍らに倒れているティナを守る為に。


「凄く優しい性格なんだよな」


『コレ位・・・唯の掠り傷だ!』

本当は立っているのも辛いだろうに、痛みを表に出さないで強張った表情で何とか地に足を着いて立っていた。
何処から如何見ても、其れは強がり。


「そんで、意地っ張りだ・・・よく強がってる・・・」


『放っておいてくれ!』

叫ぶ様に言ったその言葉。表情は酷く悲しみと不安に染まっていて、それでも、助けを求める事はしなくて、


「・・・溜め込んでるから、爆発しちまうんだ・・・」


『別に・・・守って欲しくなんか無い!
 何なんだ・・・お前は・・・、人の心にズカズカと入ってきて、乱して!』


声を張り上げて、瞳を揺らして、言った彼女―・・・・・・。


「馬鹿だよな、俺――、」


『――依存、してしまう、かもしれない・・・、
 私には、温かすぎて、一人に帰れなく、なってしまうかもしれない・・・・・・』

『いいんだ、それで。 一人になんて戻らなくていいんだ、これからは俺らが居るから・・・』


「守れて、無いんじゃないか」


そう言いロックは己の拳を見詰め、其れをギュと力強く握った。
少したって其れを解くと力の入れすぎで白くなった手で自分の顔の目の部分を覆った。


「――逆に、救われてばかりだ・・・」


『・・・私は、お前のそんな辛そうな姿を見ていたく無い・・・』

『それは、レイチェルさんも同じな筈だ。彼女も・・・そう、お前の悲しみに明け暮れた姿は見たくないだろう・・・。
 辛さを分かっているからこそ、そう思っていると思う・・・。 
 彼女は記憶が戻ったのだろう? それならば、彼女もお前と同じくらい後悔して、悲しんだと思う。
 如何して忘れてしまったのか―・・・等とな・・・。

 ・・・胸を、刺された様な、痛み。

 凄く痛いんだよな・・・これは・・・・・・、
 お前には、あまり傷ついて欲しくないんだ』

『まぁ、何かあったら私を呼べ。
 誰かが傍に居るだけで、結構楽になるらしいからな、人は』


コーリゲンでかけてくれた言葉の数々。
其の言葉にどれだけ自分が救われたか、とロックは思い再度自嘲した。

そんなロックを黙って見ていたマッシュとガウだが、マッシュが口を開いた。


って案外おっちょこちょいでもあるよな。前此処で手摺りから落ちそうになった事もあるしな!」

「・・・あの時は心臓が口から飛び出るかと思った・・・」

「ははは!そうだな!」


自分の寄りかかっている柵を見ながら眉を潜めて言うロックにマッシュは豪快に笑った。
だが直ぐに真剣な表情になる。


「・・・魔列車の事、話したよな」

「・・・あぁ・・・」


―ロックはマッシュから聞いた話を、マッシュはあの時の光景を思い浮かべながら口を閉じた。


『皆の足枷になりたくないんだ』

『きっと何時かは必ず思うようになる!』

『私は七年間、帝国から逃げてきた・・・色々な所へ身を隠した!でも其処は必ず帝国の火花に襲われた!
 皆死んでいった!生き残った人も居たけど私を嫌った、迷惑がった!

 ・・・私はロックやティナ達に死んで欲しくないし・・・嫌われたくない・・・・・・

 私は・・・もう離れられない所まで来てしまった・・・・・・!

 ・・・皆に死んで欲しくない、嫌われたくない、でも、離れたくないんだ・・・馬鹿でしょ・・・?
 だから、此の儘死出の旅路に案内されるのが、一番なんだ・・・

 ・・・私は、帝国の為じゃなくて、誰かの為になら、こんな命、惜しくは無い・・・』



もう二度と、そんな事言って欲しくない。
二人はほぼ同時にそう思っていた。

雨の音だけが響く中、ロックは「お前が、」と呟いた。

自嘲気味な笑みを浮かべて続ける。


「・・・お前がの横に居た方がアイツにとっても幸せなのかもな」

「・・・・・・は?」


マッシュが呆けた顔をしているがロックの目には映っていなかった。

が魔列車に乗って冥界へ行ってしまいそうな時自分は何をしていた?
暢気に笑っていたかもしれない、最低だ。

結構彼女の傍に居るマッシュなら、きっと最善の方法でを支えてくれる、
きっと、その方が彼女も幸せになれる。

ロックはそう考えていた。

―だが、


「お前、大馬鹿だな」

「なっ!?」


マッシュの一言によって考えは全て吹き飛んだ。
「だってよ、」とマッシュは続ける。


が一番支えに思ってるのってお前だろ?」

「・・・でも俺はアイツを傷付けて・・・!」

「バンダナ」


マッシュがそう言うとロックが固まった。

―バンダナ、

それは、唯のバンダナだ。

だけれども、其れは自分が彼女に渡した―――、


マッシュはにかりと笑って続けた。


「・・・な、其れをずっと大事そうにしてた。
 其れを見て、優しそうに微笑むんだ――。 分かるか? お前を想ってるんだよ」

「・・・だ、だけど・・・!俺はっ!」

「御託はいらねぇ!」


声を張り上げてマッシュはそう言い壁に拳を打ち当てる。
壁はダンッ!という大きな音とひびも入る音も微かに立てた。

音に驚いたロックは瞳を丸くしてマッシュを唖然と見ていた。

マッシュは再度笑顔になると口を開いた。


「要は、お互いに想い合ってるんだからいいんじゃないかって事さ」

「お互い・・・?」

「お前はを守りたい。も何だかんだで、ほんとはお前に頼りたい。そうじゃないのか?」

「・・・俺は確かにそうだ。けどは・・・」

「がうがう! ごたくはいらねぇ!がう!」


ロックの言葉を遮ってガウが先ほどのマッシュの言葉を真似て言う。
ガウはロックを見上げて彼の顔の前に拳を突き出した。


まもる、おまえがいちばん!くやしいけどガウ、おもう」

「・・・お前・・・」

「セリスしんぱい、みんなおなじ。でもガウ、しんぱい」


セリス―。

ロックはセリスの事を思い浮かべた。


『違うわ!私を信じて!』

『ロック・・・ 今度は私が貴方を守る番・・・そして・・・、 此れで私を信じて・・・!』


身を呈して俺等を助けてくれた彼女。
俺を信じてくれていた彼女。

彼女の事も当然俺だって心配だ、セリスにあんな事をさせてしまった要因は、俺にある。

―だけど・・・、


『私は行かない
 セリスが心配だ・・・セリスは私を助けてくれた。帝国軍のスパイだったなんて言葉、私は信じない!』

『さっきは悪かった。 叩いて、 ・・・痛かっただろう?』



先ほど彼女が言った言葉だ、

また何かを溜め込んで、爆発した

彼女をこうさせている要因も、俺だ―・・・。


ロックはそう思い瞳を細めた。
其れと同時に自分の不甲斐無さに腹が立った。


(本当・・・何やってんだ・・・!俺は!)


守るつもりが傷つけて、

救うつもりが何時も救われてる、


こんなんじゃ駄目だ、

俺だって、お前を守りたいのに―――!!


(・・・ん?)


其処まで考えて、ロックはふとある感情を感じた。


(何だ?の事考えたら、出てきたこの感情・・・、以前も感じてた、温かい・・・・・・、)


混乱してきた頭を整理する為に瞳を閉じる。

閉じて浮かんだ物は―、綺麗にドレスを着飾った

ゆっくりと戸惑いがちに金の瞳を開く。

其れがとても綺麗で、溜まらず抱き締めた記憶が蘇る―。


(・・・俺は・・・、)


其処で、全てを理解した。

自分がに向けている特別な感情にも、セリスに向けている感情にも―、

其れを理解したと同時にロックは「ははっ」と乾いた笑いを零した。


「・・・許される事じゃ、無いのにな・・・。俺は」

「ん?」

「否、何でも無い。 ・・・兎に角マッシュ、ガウ。ありがとうな!
 ・・・何か、やっとハッキリしたぜ」

「がう!」


ロックは無意識に自分の腕に巻いてあるのリボンに触れつつそう言った。
そんなロックを見てマッシュは笑い、「良かったな」と言った。

ロックは頷いて笑みを返して「そろそろ皆の所に戻ろう」と言った。
其れに二人は同意して階段を上がり始めた―。


ロックは一歩進んだが足を止めてゆっくりと振り返った。

そして唯一言、「
ゴメン」と呟くと二人の背を見、階段を上がり始めた―。




ティナお帰り!