取り敢えず飛空挺に戻る為に封魔壁へ続く洞窟を足早に抜けて、封魔壁監視所へ来た。
入り口付近まで行くと、見知った影が見えた。
飛空挺に残っていたエドガーとガウが来ていた。
ガウは達の姿を視界に捕らえると「がうがうがう!!」と言い跳ねた。
そんなガウの反応にエドガーは達が来た事に気付く。
「エドガー、ガウ・・・!」
「無事だったか・・・」
エドガーは安堵の息を吐いて表情を緩めた。
が、直ぐに真剣な目になって
「何が起こったんだ?
幻獣達が群れを成して飛んで行ったが・・・・・・その後、帝国の人間も怯える様に逃げて行ったが・・・、」
「その事については追々詳しく話す。 幻獣達は何処へ飛んで行った?」
何処か焦った様子で口早に言って来たにエドガーは一瞬たじろぐが、直ぐに口を開いた。
「帝国の首都、ベクタの方角へ・・・」
ブラック・ジャックに戻って直ぐにベクタに向かった。
ベクタに行くまでの間にマッシュがエドガー達に封魔壁で起こった事を伝えた。
「・・・もう少しでベクタだな」
舵を取りながらポツリとセッツァーが呟く。
甲板に全員が居るので、前に見えてくるであろうベクタの方角へ視界を向けた。
そんな中、だけが俯いていた。
一人俯いている彼女に、ティナが近付く、
「・・・・・・・・・」
「ティナ・・・お前も感じているのか・・・・・・?」
「・・・えぇ」
先ほどから感じている魔力。
其れはベクタに近付くにつれて強く感じる様になって来ている。
―キィン!―
突然、の身体が輝いた。
隣に居たティナは其れに驚いて瞳を丸くしたが、直ぐにあるものを感じてハッとした。
『これは・・・・・・!』
「? ?」
の小さな呟きが聞こえたロックはを見やる。
だが、直ぐに瞳を丸くして「否、違う・・・ケツァクウァトルか?」と言った。
の身体を借りているケツァクウァトルは頷き、甲板の一番先のほうへ行ってベクタの方角を見た。
「・・・感じる・・・」
ティナがそう言い不安気に自分の胸の前で両手を握った。
「どんどん近付いて来てるの・・・」
「感じるって?」
ロックがそう聞き返す。
直後、空が光った。
全員が驚き、空を仰ぐ。
「光った!」
「何だろう!?」
ロックがそう言いケツァクウァトルの後ろに行って光った方角をじっと目を凝らして見詰めた。
ケツァクウァトルも同じように、だがゆっくりと其方を見た。
瞳には、悲しさの色を浮かべて・・・。
『・・・やめて下さい・・・・・・』
ポツリと呟いた。
だが其れは誰の耳にも届く事も無く、空気に溶け込んで消えた。
声が小さかったからでは無い、姿が見えるまで近付いて来た幻獣達の魔力と風圧によって掻き消されたのだ。
「・・・!! まさか、幻獣!?」
『やめて、下さい!! 皆――・・・!!』
「くっ、危ない!」
此方に向かって物凄い速さで飛んできた幻獣に、皆慌てて身を屈めた。
ロックもやろうとしたが、悲痛な表情で立ち尽くしている精神はケツァクウァトルのの身体を強く引いて押し倒した。
ビュン! という強い風を切る音と同時に、真上を幻獣が通り過ぎていった。
『・・・・・・ぁ・・・、』
「今のは何だ!?」
思わず舵を方って立ち上がったセッツァー。
すると背後からまた幻獣が近付いて来た。
それに気付いたロックは慌てて走り出し、セッツァーの頭を掴んで無理矢理しゃがませた。
「危ない!伏せていろ!!」
この際ゴンとかいう綺麗に甲板に頭をぶつけた音など気にしている余裕も無い。
寧ろ助けた事に感謝して欲しい、とロックは少し場違いな事を考えていた。
―現実逃避とも言う・・・。
幻獣達の向かっているのはベクタだ。
このままだと確実に帝国首都ベクタは、人の居るあの街は、幻獣の手によって―――、
「・・・げ、幻獣・・・・・・!?」
『・・・ベクタの、方角ですね・・・』
身を起こしつつケツァクウァトルが言う。
その表情は先ほどと同じく、悲痛な物だった。
『・・・お願いです・・・・・・、やめて、下さい皆さん・・・!』
未だ通り過ぎている幻獣を見上げて両手を広げて言う。
エドガーが「危ないぞ!」と言っても其れを無視して唯叫び続けた。
『お願いです!止まって下さい!! 怒りに身を任せてもっ・・・・・・!!
悲劇しか生まれません!!!』
ケツァクウァトルは甲板の端ギリギリまで行き幻獣に呼びかけた。
だが、幻獣達はケツァクウァトルの声が聞こえていないのか、次々と通り過ぎて行く。
『止まって下さい! っつ・・・・・・止まって下さい!!!』
最後の一体が通り抜ける。
ケツァクウァトルは伸ばせる限りに手を伸ばして懇願したが、其れは届く事は無かった―。
『行かないで下さい・・・! 皆・・・!我の声を・・・・・・――っつ!!』
途端、床が斜めになった。
行き成りの事でケツァクウァトルは驚いて座り込んでしまう。
再度床が斜めになる。
きつくなった斜面でケツァクウァトルは飛空挺から落ちそうになり、手摺りに捕まった。
そんな様子を見てロックは瞳に焦りの色を浮かべ、走り寄り其の手を掴み引き上げる。
「大丈夫か!?」
『・・・すみません・・・』
無事な様子にロックは安堵の息を吐いてケツァクウァトルを引き上げた。
安心していた二人だったが、直ぐに其れは掻き消される。
「セッツァー!」
「うわあああぁぁ!舵が利かねぇ!!」
「「!!」」
必死にセッツァーとマッシュ、エドガーやカイエン、ガウ、モグと続々と続いて舵にしがみ付く様に止めようとするが飛空挺は段々斜めになっていく。
―落ちていく!!
「駄目だ、落ちる!」
「何処かに捕まるんだ!!」
誰かがそう叫び、誰かが続いてそう叫んだ。
そんな事をもう理解している余裕も無い。
ロックは近くに居るを強く抱き締め、手摺りにしがみ付いた。
「・・・ロック・・・!!」
「・・・!」
腕の中で光が消えた。
其れと同時に飛空挺ブラック・ジャックは完全に垂直の形になって、高速に落下し始めた―。
海に落ちないでいてくれ、
ロックはそう願いながら腕の中の大切な存在を守る為に覆いかぶさった。
落ちた