――あの後少し休んで傷も全て癒した後、ベクタに向かった。
飛空挺はもう使い物にならなくなってしまったので、徒歩で。
ベクタに向かっている途中、はセッツァーをちらりと見た。
大切な飛空挺だと以前言っていた。
其れが壊れてしまったのだ・・・、落ち込んでいるかもしれない。
そう思いはセッツァーを心配気な瞳で見詰めた。
の視線に気付いたセッツァーが「ん?」という顔をしての横に来て並んで歩く。
「・・・セッツァー、その、・・・・・・大丈夫か・・・?」
「ブラック・ジャックの事か? ・・・まぁ、壊れちまったし、ショックって言ったらショックだぜ」
セッツァーは苦笑してそう答えた後、「でも」と付け足した。
そして自分を心配気に見ているを安心させる様に微笑んだ。
「直せないって決まった訳じゃねぇからな。まぁ平気だ」
微笑んで言ったセッツァーに、も微笑みを返す。
は分かっていた。
表面上結構彼は平気な振りをしているが結構堪えている事に。
微笑を返しながらはセッツァーの横からは離れなかった。
帝国首都、ベクタに着いた達は街の惨状に言葉を失った。
城壁や家、店も全てが瓦礫と化している。
未だ何とか形状を保っている家等もあったが、所々から火が出ていた。
人々は戸惑い、絶望、怒り、悲しみの色を瞳に浮かべつつも、唯立ち尽くしていた。
「・・・・・・」
其の光景を見たの瞳の色がフッと変わる。
―深い哀愁の色に―、
―焼け焦げた、臭い、異臭、目に付く炎、瓦礫の山―、
様々な光景がの脳裏を過ぎったがは雑念を払うように首を振って前を見た。
(違うんだ・・・、帝国に滅ぼされた私の国とは、違うんだ、此処は・・・)
真っ直ぐに前を向いて気持ちを目前の事に向ける。
がそんな事をしている間に仲間の中で一番早く自分を取り戻したエドガーがナルシェのガードとリターナの兵を目に留めて彼等に歩み寄る。
すると彼等もエドガーに気付き寄ってくる。
「エドガー様・・・!」
「ベクタの街は・・・何があったんだ・・・?」
「それが我々もつい先ほど此方に着いたばかりで・・・。
・・・バナン様も来ています。お話しますか?」
「あぁ」
エドガーが頷くと兵士が「此方です」と言い帝国の城へと続く階段を上がる。
其れにエドガーも、中間達も続いた。
階段を上がって少し歩くとバナンとジュンの姿が見えた。
バナンは達に気付くと直ぐに此方へ向かって来た。
「此れは一体如何いう事じゃ・・・?」
封魔壁へ行った自分達に向けてバナンがそう尋ねてくる。
其れに答えたのはエドガーではなく、だった。
「・・・恐らく幻獣だろうな・・・」
「なんと、幻獣が・・・!? そんな・・・・・・」
驚くバナンとジュン。
は一度頷いて続ける。
「封魔壁を開いた後、数多くの幻獣達が一斉に出て行った。 そしてベクタの方面へ向かって行った・・・・・・。
私達は飛空挺を壊されてしまったから徒歩で来たんだが・・・・・・」
はそう言い其方は何か知らないのか、という目線をバナンとジュンに向けるが彼等は首を振った。
恐らく先ほどのリターナの兵士やナルシェのガードと一緒に来たのだろう、
来た時には既にこの有様だった―――、という事か・・・。
「・・・少し、見回ってみない・・・?」
ポツリとティナが呟いた。
其れに反応して皆がティナを見る。
「・・・そうだな、何か情報が入るかもしれないしな」
「しかしこの様な大人数では目立つでござるよ」
「そうだなー、分かれるか?」
頷いて同意したロックの後にカイエンが言う。
其の後にマッシュがそう言いエドガーに同意を求める様に視線を送る。
エドガーは頷いて「そうした方がいいだろうな」と言い各々の顔を見回した。
―回る人はロックと、モグ、セッツァーが。そしてエドガーとカイエン、ガウ、ティナという二手に分かれて進む事になった。
エドガー達は帝国城の様子を見てくると言い進んで行った。
ので、達は街の中を見て回る事になった。
「・・・酷いな・・・」
無言で歩き進んでいる中、セッツァーがポツリと呟いた。
ロックとモグは苦い顔をしてちらりとセッツァーに視線を送るがだけは唯黙々と歩を進めていた。
「・・・あ、」
が短い声を上げてある一点を凝視した。
其れに如何したのかと思った三人はを見るが彼女は無言の儘歩を進めてある場所で止まった。
恐らくは家があったであろう場所。
瓦礫の下に何かがあった。
そっと手を伸ばして、其れに被っていた灰を落とす。
姿を現したのは、汚れてしまって焦げ目も付いてしまっているクマのぬいぐるみだった―。
は無言で其れをじっと見ていたがふい、と視線を外して再度歩を進め始めた。
―先ほどより重い雰囲気の中、ロックはの隣へ行って横を歩いた。
ちらり、と彼女の様子を盗み見てみるが彼女の顔は無表情の一色で何を考えているのかは読めなかった。
―それでもロックには分かっていた、
彼女が今、酷く心を痛めている事を―。
以前ティナの記憶を魔石の力により見た時にの過去も少しだけ目にした。
焼け焦げた建物、壊れた城壁、
幻獣を守る為にガストラ皇帝の前に立ち塞がった少女――の姿、
―恐らく今自分が何か言葉をかけても逆に彼女に気を使わせてしまうだろう、
ロックはそう思い少しだけ俯いて誰にも気付かれない様に重い息を吐いた。
(―・・・何も、出来ないのか・・・また・・・)
ぎゅ、と無意識に拳を強く握りつつ、ロックは瞳を細めた。
(テディベア、)
ほうっ、と軽い息を吐いては何処か虚ろな瞳を伏せた。
(あれは以前私がお父さんに買って貰った物に似ていた・・・)
誕生日でも、何かの記念の日でも無いのに、父がプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみ。
其れが酷く嬉しくて、は寝室に飾って一日に一回以上は必ず触れていた。
触り心地の良い可愛らしいぬいぐるみが大好きだった―。
今はもう、顔も余り覚えていない大好きだった父がくれた物。
(・・・お父さん・・・)
父が大好きだった―、
父は以前が故郷としていた王国の王直属の親衛隊の隊長だった、
そんな父を誇りに思い、自分に愛情をいっぱい注いでくれた父が大好きだった。
何時か父の様に自分も王の為に働くんだと思っていた。
王もとても優しい方で、結構自分にも構ってくれていた。
暇な時は体術や剣術、狙撃の訓練に父と共に付き合ってくれたりもしていた。
父が大好きだった、
王が、国が、大好きだった―。
今はもう無き名も忘れられているであろうあの国が、
は瞳をゆっくりと閉じて七年前までは美しかった国を思い描いた。
そして瞳をゆっくりと、開いた。
目前に広がった光景は、ボロボロの街。
(・・・気付けばあの城も、こんな風にボロボロになっていた・・・)
は不意に空を仰いだ。
空の色は何時の間にか青空は消え、どんよりとした暗い色の雲で覆われていた。
ぼうっと其れを見詰めている内に、の頭にはある考えが浮かんできた。
(・・・悲惨)
其れは今が立っている街の状況だった。
(・・・・・・幻獣が居るから? 否、力があるから、物欲があるから、人々は自分で自分を傷つける、気付かぬ内に、)
空を見たまま歩いていたは足物の何かに躓いて前のめりになるが横に居たロックが支えてくれた。
はロックに笑みを向けて礼を言い、再度歩を進めた。
(そんな事は、如何でもいい・・・。 ・・・、・・・不思議なものだ・・・、)
は自分が考えている事に対して心中笑みを零した。
(悲惨。 今回は別に私のせいでも何でも無いのに、 ・・・止められれば、良いなんて、)
願ってしまうなんて、
は少しだけ俯いて歩いた。
久々にこんな焼け焦げた臭いなんて嗅いだから思考回路が可笑しいのかもな、
はそう思っていても本心で先ほどの事を思っていたのに気付いていた。
ふう、とまた息を吐く。
昔の事を思い出したら自分を助けてくれた恩師に会いたくなった。
恩師ともそろそろ再会だよ・・・!
今回はヒロインの過去話入りました、フラッシュバック・・・!