酷い飢えに襲われていた。


は唯一人で荒野に倒れていた。


酷く喉が渇いた、お腹が空いた、


頭が痛い―、


(あの日から何日経ったんだろう・・・?)


故郷が滅んだ、あの日から、


は虚ろな目で目の前の荒れた地面を見詰めた。


父に教えられた武術、銃技等あって今までなんとか凌いで生きてきた、


けれどももう限界みたいだ、


は瞳を閉じた。


(かたき・・・、とりたかったな・・・、)


帝国、許すまじ。


幼き心でそう思い今まで進んできた、


けれども、やはりそれももう終わり、


小さな命の灯火が消えようとしていた其の時、体内に居る幻獣が何かを感じたのか動き出す。


は其れに反応してゆっくりと瞳を開いた。


視界に入ってきたのは、犬の顔。


何故こんな所に犬が?とは思ったが直ぐに其れを考えるのを止めた、


何だか全てが如何でも良くなってきたのだ。


再び瞳を閉じた其の時、犬に頬を舐められた。


其れはが瞳を開けるまで繰り返された。


再度が瞳を開いた時、視界に入ったのは―――、
























「・・・生きたいか?」


























ドンドンドンドンッ!


静かだった室内に響いた大きな音には瞳をパッと開いて物凄い速さで身を起こした。

其れとほぼ同時にベッドから身体を起こしたティナが視界に入った。
はティナに視線を送り、今の物音について問おうとしたがまた先程と同じような音が響いた。

ベッドから降りて足早にドアに近付いて開けると、其処には夕方に別れたストラゴスが酷く焦った様子で立っていた。


「・・・どうしたんだ? こんな時間に、」


がそう聞くが、ストラゴスは口早に「大変じゃ!リルムが!」と声を張り上げて言った。
そんなストラゴスの言葉に何事かと隣の部屋から出てきたロックが「リルム?」と問い返した。


「さっき会ったじゃろう!わしの孫じゃゾイ!」

「・・・あの時の」


ロックに次いで部屋から出て来たシャドウが呟く。
も思い直してリルムという少女は夕方に会ってインターセプターが懐いた少女だと理解した。

その子が一体如何したんだ?と思いはストラゴスに視線を戻すと彼は両手を上や下に上下させつつ口を開いた。


「そうなんじゃ!その子じゃ! リルムが火事になって、近所の家が巻き込まれて・・・!
 あややや・・・、何が何だか分からなくなってきたゾイ! とにかく!手を貸してくれんか!」


ストラゴスは口早にそう言い走って部屋を出て行ってしまっていた。


「・・・放っておく訳には行かないだろう。 ロック」

「あぁ、行こう!」


の言葉に頷いてロックは走ってストラゴスの後を追った。
ティナも其れに続いたので、も続こうとした所で後ろでシャドウが止まっているのが視界に入った。

辺りを見渡しているシャドウの様子には訝しげな視線を向けた。


「・・・シャドウ?」

「・・・・・・先に行っていろ」

「・・・・・・」


はシャドウの様子が気になったが取り敢えず今はリルムが先決。
そう思い足を進めた。


「・・・インターセプター・・・・・・何処だ!?」




















ごうごうと燃えている家。

パチパチと木が燃える音、そして崩れ落ちる音が響く中、消火活動は行われていた。


「リルムがあの家の中に居るんじゃ!」

「あんな家の中に・・・」


は目を細めて燃える家を再度見た。

消火活動は行われているがとても間に合わない。
水も人手も足りていないのは目に見えて明らかだった。

はゆっくりと瞳を伏せて意識を集中させた。

余り得意とはしないが、自分の中の幻獣の力を借りれば、水系の魔法も放つ事が出来る。

こんなに民間人が沢山居る中で魔法を使うのに少々抵抗はあったが、今は其れを気にしている場合ではない。




『近付かないで!』子供を抱きかかえ、瞳には恐怖と嫌悪の色を浮かべる母親。ぎゅ、と子供を守る様に、抱き締めている。
大丈夫だった?そう聞こうとして無事を確認する為に伸ばしかけた手。言葉は音にならなくて、手は空を掴んだ。





『また傷付くのか?』
「・・・優先順位は、明らかだ・・・」


頭に響いてきた声にそう返し、はゆっくりと手を翳した。

―その時、




ガッシャアアアァァン!!!




!!


家が一部崩れた。

今この不安定な状態で下手に放水したら帰って危険かもしれない。
はそう思い咄嗟に魔法を中断させた。

キン、という高い音が響いて指先に痺れが生じたがそんな事は今構っている場合では無い。

家が一部崩れた事により周囲がどよめく。
ストラゴスは真っ青な顔をして「リルム!」と叫んだ。

そろそろ水の魔法を放っても大丈夫か、と思い再度意識を集中しようとした時に真横から魔力を感じては其方を見る。

見たと同時に、ストラゴスが「でやっ!」と声を上げて手を振りかざした。

彼の手の中に凝縮されていた魔力は、水の魔法となって燃えている家に降り注がれた。

その場に居た全員が、目を瞠った。


「それは!?」


ロックが思わず声を張り上げて言うが、ストラゴスは其の言葉が耳に入っていない様子だった。
また彼は魔法を放つが、炎の勢いが強すぎるせいで其れは無駄に終わった。

ストラゴスがまた魔法を放とうとすると、この村の村長が足早に彼に近付いて声を張り上げる。


「魔法は禁じた筈じゃ!」

「魔法・・・!」


やはり、の意を込めてが呟く。

この村の人の行動で直ぐに予想がついたが実際に魔法が使われている所を見、再確認した。


「そんな事・・・!! リルムが中に居るのじゃゾイ!」


ストラゴスはそう言いまた魔法を放つ。

効果の程は―、先程と変わらず。


「村長・・・!」

「うむむ・・・・・・、致し方あるまい・・・」


一人の村人が村長を見て目で訴えをかけると、村長は少しだけ考えた後にそう言い彼もストラゴスと同じように手を翳した。
村人も村長に続く様に手を翳す。 そして――、


「はっ!」


魔力が高まり、燃え盛る炎を覆う様に魔法を放つ。
村人達の魔法も其れに続いて放たれるが、炎の勢いは一行に治まる様子が無かった。


「駄目じゃ・・・火の勢いが強すぎるゾイ!」

「この家には炎のロッドが積んであったから・・・」


ストラゴスの後に村人が悔しげに呟く。

炎のロッドは炎系の魔力が込められている杖。
其れがある家が火事だなんて・・・、危険物を所持しているのならきちんと注意して欲しい物だ。

―とは思いながら足を進めた。

無言で燃えている家に歩いていくを、ティナが慌てて呼び止めた。


!危ないわ!」

「此処で見ていても意味が無い。直接中に入って助けてくる」

「儂も行くゾイ!」


ストラゴスがそう言い家に入る準備の為に水を被っているに駆け寄る。

と同じように水を被るストラゴスを見つつ、ティナとロックは目配せして頷き合い、二人に近付いた。


「待って、私も行くわ」

「そうだぜ、爺さん。も。 水臭いじゃないか」

「何を言う!儂は爺さんと呼ばれる程老いぼれてはおらんゾイ!」

突っ込む所は其処なのか・・・


はロックとティナに水の入ったバケツを渡しつつ溜め息交じりにそう呟いた。

その瞬間、また家の一部が崩れ落ちた。


「・・・さぁ。馬鹿やってないで行くぞ」

「そうだな、冗談抜きでやばいって。 急ごう!」


ロックは頷いた後そう言い家の燃えている玄関のドアを蹴り倒して中へ入っていった。
達も其れに続く。




―中に入った途端、物凄い熱気に立ちくらみがした。


(・・・暑い・・・)


思わず、口元に手を当てる。



以前も、こんな事があった。

燃える城、燃える人、

忌々しい帝国軍―。



一瞬脳裏にその光景が過ぎるが、は首を振ってゴーグル越しに目を覆った。


(いけない。 今は眼前の事に集中するんだ!)


首を数回振っては真っ直ぐに前を見、歩を進めた。


外から見て明らかな事だったが、家の中は炎の海の状態だった。

壁や天上は燃えているし、床も穴が開いていたり所々に炎があったり、危険な状態だった。

先程入る前に被った水も、今はもう殆ど乾いてきてしまっていた。


「火の回りが速いな・・・」

「そうね・・・今にも崩れてきそう」

「早くリルムを見つけないと!」

「勿論だ。 此の儘此処で全員あの世行きとなる訳にもいかないしな」


はそう言い辺りを見渡しながら背から銃を降ろして、近くにあったドアを叩いて開けた。
しかし其処にはリルムの姿は見当たらなかった。


「取り敢えず、部屋を見回るしかない。 急ごう」




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