「ロック、すまなかったな。もう大丈夫だ」
はそう言いロックの胸を軽く押した。
するとロックは頷いてゆっくりと、優しくを地へ降ろした。
はもう一度ロックに礼を言い、彼の顔を見るが何故か笑みを浮かべた。
「・・・怪我は全部治したが・・・煤だらけだな」
そう言われてロックは「え?」と言い自分の頬に手を這わし、掌に付いた煤を見て「本当だ」と言って笑った。
「も、髪の毛も黒いぞ?」
「・・・お前は銀から黒毛になっているぞ」
そう言った後、お互いに笑い合って、視線をティナ達に移す。
リルムも大事無かった。
だがまだ火傷が少々残っているようなのでティナが今ストラゴスの隣でリルムの治療をしているのだ。
は全員に大した外傷が無いのを確認して安堵の息を吐いた。
暫く経って大分良くなったのか、リルムがベッドから起き上がる。
此処はストラゴスの家だが、ストラゴスに聞きたい事もあるし呼ばれた事もありその場に居た達は彼女に視線を移した。
ストラゴスがベッドに近付いて優しげな瞳でリルムに問いかける。
「良くなったかの?」
「うん、おじいちゃん」
リルムが元気良く答えるとストラゴスは「そうか、良かった」と言って微笑んでリルムの頭を一撫でした。
其の後に達に視線を移して「この人達のお陰じゃ」と言った。
「ありがとう」
リルムがにこりと微笑んで言う。
達も笑みを返した所で、ストラゴスが「それにしても、」と呟き眉を下げた。
「恥ずかしい所を見せてしまった様じゃな・・・」
「此処の人は皆魔法が使える様だが、一体・・・?」
誰もが疑問に思っていた事をロックが言う。
は頭の隅である事が引っ掛かっていたがストラゴスの口から真意を確かめなければ確信は確信の儘だ、と思い腕を組んで壁に寄りかかって聞く体制に入った。
ストラゴスは少し何かを考える様に瞳を瞑っていたがゆっくりと其れを開いて、口を開いた。
「此処は・・・魔導士達の村じゃ」
「魔導士・・・。やはり」
「やはりって、。勘付いていたのか?」
ロックが瞳を丸くしてに問うとは無言で頷いた。
ストラゴスはに視線を向け、疑問を口にしようとしたが其れより早くが口を開いた。
「私達とは違う魔法の放ち方だった。私達は魔石を使っている。
・・・私とティナは違う、内から魔力を放出して魔法を使っている・・・、其れと似ていたからな」
「そうじゃ。昔、人間は魔石から魔導の力を取り出した。
そして魔法を使えるようになった人間が魔導士と呼ばれる人・・・其れが儂らじゃゾイ」
「まさか魔導士の生き残りが居るだなんて思ってもいなかったがな」
「魔大戦の後、幻獣達は封魔の向こうに結界を張りそこに隠れ住んだ。
自分達の魔導の力を利用される事を恐れたのじゃ。そして残ったのは人間だけ。
普通の人間達が最も恐れたのが魔導士達の力じゃった・・・。
・・・皆、魔大戦の悲惨さが身に沁みておるからの・・・。
そこで行われたのが魔導士狩り。 不当な裁判により、魔導士達は次々と殺されていったのじゃ」
ストラゴスの話を聞いて「酷い、」とティナが呟いた。
胸の前で重ねられた手をぎゅ、と握って俯いた。
「魔法を使えること以外何も変わらない人間なのに・・・・・・」
「・・・その時に逃げ出しこの土地に隠れ住んだ魔導士達が我々の先祖じゃ。
血が薄まり、魔導の力は大分衰えたが、何らかの形でまだ残っておる」
「・・・もし、良ければ・・・私達に協力してくれませんか?」
ティナが問うとストラゴスは思いのほかあっさりと頷いた。
「幻獣がどうのと言っておったな。リルムの命を救ってくれた恩を返さなくては。
その幻獣探し、わしも手伝うゾイ」
ストラゴスの一言にロック達の表情が輝いた。
魔導士の生き残りの村人の一人である彼からなら、何か有力な情報も入手出来るかもしれない。
心強い味方を得た。 そう思い礼を口にしているとベッドの上の少女が「リルムも!」と言い手を上げた。
そんな彼女に対して少々厳しめにストラゴスが「駄目じゃ!」と言い諌める。
自分の手伝いを却下されたリルムはぷう、と両頬を膨らませて「リルムつまんない・・・!」とぼやいていた。
そんな歳相応な感情表現するリルムに何処か和む気持ちを感じつつもはストラゴスに視線を移した。
「手を貸してくれるのはありがたい。 何か幻獣について心当たりはあるのか?」
「む〜〜〜。
この島に幻獣が逃げ込んだのなら、村の西にある山かもしれんゾイ」
「西の、山?」
「強い魔力を帯びた山ゾイ。伝説では、幻獣の聖地と言われとる」
(幻獣の、聖地?)
何か引っ掛かりを覚え、は瞳を細めた。
確かに、強い魔力を帯びた山なら幻獣達が引き寄せられるという事も納得出来る。
だが、何かが引っ掛かる。
強い魔力を帯びた山、幻獣の聖地、 そう言われて浮かぶ事と言えば・・・・・・・・・・・・、
(・・・しかし、まさかな・・・)
取り敢えず行って確かめるに越した事は無い。
確かめるついでに、自分の目的も其処で果たせたら果たしてしまおう。
はそう思い瞳を伏せた。
リルムを残してストラゴスを新たにパーティに入れ、外に出たらシャドウに会った。
が近付いて「シャドウ、」と声をかける。
「昨夜は助かった。ありがとう」
「勘違いするな、コイツの為だ」
シャドウはそう言い少し放れた位置に居るインターセプターを一瞥した。
そういえば昨夜姿が見えなかったな、とは思ったがシャドウが其れだけの為にあの火事の中来てくれた訳では無い事を理解しているのでくすりと笑う。
「それでもいい、礼が言いたかっただけだからな。
・・・それで?お前は如何するんだ? 別行動でも取るのか?」
「・・・俺は俺のやり方で幻獣を探す。インターセプター!行くぞ!」
シャドウがそう声を上げるとインターセプターが「ワン!」と一吼えしながら走り寄って来た。
は自分の真横を態々通って行ったインターセプターに笑みを浮かべ、軽く手を振った。
シャドウと別れ、達は西にある強い魔力を帯びている山を目指して村を出て行った。
――――それから少しだけ時間が経った後、
キィ、という何かが動いた音が微かに響いた。
こっそりと開いたドアの隙間から小さな顔を覗かせて、大きな瞳で辺りを見渡して障害が何も無いのを確認した後、彼女は家を飛び出した――。
さぁおいかけろ!