落下して来たのは頭に可愛いリボンを巻いている少女。
―そう、サマサの村で置いてきたリルムだった。
リルムはタコの上からひょいと軽い足取りで降りつつもストラゴスを見て悪戯に成功した子供の様に、それでも少々申し訳無さそうに片目を瞑って「来ちゃった」と言いペロリと舌を出した。
「リルム!家に居ろと言ったじゃろ!」
ストラゴスが慌ててリルムに駆け寄り小さな肩を掴む。
だがリルムは「えへへ」と笑っている。 反省の色無し(先程のは演技か)
リルムはストラゴスから離れて絵筆を取り出して器用に其れを手の内でくるくると回した。
「お絵かきなら何でも来いのリルム様、初登場!」
そう言ってシャキーン!という効果音が付きそうなポーズを決める。
子供は何しても和むな、と何処かずれた考えをしていただが、リルムがオルトロスに視線を移したのを見て少々驚いた。
「ねえねえ、あんただあれ?」
「だあれとは、失礼な!オルトロス様に向かって!!」
びし、と絵筆でオルトロスを指して言うリルムにオルトロスがタコ足をじたばたさせながら反論する。
そんなやり取りを見ていたロックが溜め息交じりに頭を抱えた。
「リルム様にオルトロス様・・・何だか分けが分からなくなってきたなあ・・・・・・?」
「分かろうとするからだ、取り敢えず自分の中では偉いんだ、きっと」
「そう、なのか・・・?」
の言葉に納得した様子を見せたが直ぐに「いや、なんか違うんじゃないか?」と言いロックは再度頭を抱えた。
達がそんなやり取りをしている内に、向こうも色々なやり取りをした様だ。
リルムが絵筆をまたくるくると回し「ねえねえ、オルちゃん、似顔絵描いてあげようか?」と言った。
オルちゃん・・・・・・。
可愛いんだか憎たらしいんだか微妙な響きだ、と思いは複雑な心境でタコを見た。
「オ、オルちゃん!? 失礼な! このオルトロス様に向かって!! 似顔絵なんぞいらんわい!」
タコ足をリルムに向けてびし、と指してそう言ったオルトスにリルムは落胆の色を見せた。
先程まで元気にはしゃいでいたのに俯いてゆっくりと後退して行った。
そしてくるり、と後ろを向いて両手で顔を覆った。
「えーん、えーん、 あげないんだもん・・・・・・描いてあげないんだもん・・・」
ぐすり、と態とらしく鼻を啜る音を出しながらリルムは崖の様に先も底も見えない穴の真横に立った。
「良いんだもん・・・リルム・・・此処から飛び降りてやるんだもん」
「! 駄目よ!そんな事しちゃ駄目!!」
目が飛び出る位驚いたストラゴスより先にティナが慌ててリルムに駆け寄りそう言う。
リルムは近付いて来たティナを見上げこっそりと耳打ちをした。
ひそひそ、ひそひそ、ひそひそ、
ティナは最初こそ瞳を丸くしていたが直ぐに何かを理解したのかオルトロスに鋭い視線を向けた。
珍しいティナの表情にオルトロスだけでは無く、ロックとも思わずビクリとした。
「どーすんの!? こんな小さい子、苛めちゃって!何かあったら許さないわよ!!」
腰に手を当てて声を張り上げてそう言いティナはオルトロスに詰め寄った。(正直怖い)
ビビッたオルトロスは「そ、そんなあ・・・じゃあどうすればいいのよ・・・?」と言い困り果てている。
其の言葉にロックとは顔を見合わせたが、直ぐに二人でにんまりと嫌な笑みを浮かべてオルトロスに近付いた。
「描いて貰えばいいじゃないか。元が元だが案外格好良く描いてもらえるかもしれないぞ?」
「この、この、憎いねえ」
が本心を混ぜつつそう言った後にロックが肘でタコを突付く。
オルトロスは二人の言葉に「むむむむ!」と悩む声を上げた後、急に黙り込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オルちゃん、
似顔絵 描いてもらっちゃうもんねー!」
行き成り調子付きやがった。
と思いは白けた目でオルトロスを見ていたが真横からリルムが絵筆とキャンパスを手に駆けて行ったので其方に意識が向いた。
リルムは「えへへ、」と言い微笑んだ。
「私の得意技に任せてよ!」
「リルム!兎に角こっちへ来るんじゃゾイ!」
ストラゴスが叫びリルムを呼ぶ。
リルムは其れに素直に応じ、キャンパスをオルトロスに向かって立てて絵筆をくるくる回した。
一緒に下がった達は、リルムがどんな絵を描くのかを覗き込んで見ている。
だがリルムは途端に立ち上がり宙に絵筆を向けた。
「いっくよー!」
紫の絵の具を付けた絵筆をササーッと真横にずらすと宙に絵が描かれていく。
不思議な光景だ、と思いは興味津々に見ていたが完成した絵に眉を顰めた。
―それまでは良かった、
「でーきたっ! えい!」
リルムの掛け声と共に完成したタコの絵はなんとにゅるん、という嫌な効果音と共に平らだった筈の絵から立体的に変化しつつ出てきた。
間近で等身大タコを見てしまったは思わず後ず去った。
丁度後ろに居たロックに背がぶつかったが気になんかしている場合ではない。
「いっけー!リルムのオルちゃん!!」
リルムがそう言い絵筆をびしりと敵のオルトロスに向けるとスケッチで出現したオルトロスがタコ足で敵のオルトロスを吹き飛ばした(ややこしい)
オルトロスは「そんなーーーー!!」という悲鳴を上げつつ先程リルムが覗き込んでいた穴へと落下して行った。
「三度目の正直、だったな」
「四度目は無いと良いな」
の言葉にロックがそう返し未だ自分に寄りかかった儘だった彼女の肩に手を置く。
「やったやった! ね?見てくれた?リルムも立派に戦えるよ。ジジイよりは役立つんじゃない?」
「ジ、ジジイ!?」
「連れてっても良いんじゃない?」
ティナが笑みを浮かべつつもストラゴスにそう言う。
彼は少し迷った様だがはぁ、と息を一つ吐いて口を開いた。
「・・・分かった分かった。しょうがない奴じゃ」
「やったー!」
ストラゴスの言葉にリルムは両手を挙げて喜んだ。
小さくとも力強い仲間を入れて、更に奥を目指す事にした。
ティナは怒ると怖いと思う←