「何ですか? その反抗的な瞳は」
『ケフカ・・・。お前の行いを我々幻獣は決して許さない』
そう言い掌をケフカに向けた途端、凄まじい電流がケフカ目掛けて真っ直ぐに伸びていった。
ケフカは慌てて横にずれて避けるが、の身体を借りているケツァクウァトルは決して追撃を緩めなかった。
「しかし、余り長持ちしないでしょう!? ヒャア! 先程魔力の中和を行ったのです!! わわっ!
余り魔力を使っていると ヒョッ! 身体が持ちませんよ!! ヒッ! それとも!」
ケフカは器用な事に喋りながら全てを避けて隙を見て他の幻獣達に先程の光を放つ為に構えた。
ケツァクウァトルは当然其れを止めようとサンダガを放とうとしたがケフカが「ストップ!取引です!」と声を張った。
「そろそろ貴女も持たなくなってきているでしょう? 取引をしましょう。
私はもう十分な位魔石を手に入れた。まぁ、これ以上あっても別に害は無く、私は嬉しいだけなんですがね!
ですが、そろそろ止めて引き上げてあげてもいいですよ?
幻獣と融合した、貴女が私の手に落ちてくれるのなら―、」
ケフカの言葉に、ケツァクウァトルの眉がピクリと跳ねる。
ケフカは歪んだ笑みを浮かべ、他の幻獣達を見る。
「私は別に此の儘この光を放ってもいいんですよ? けれども貴方の攻撃は喰らいません。
華麗に避ける自身もありますし、 盾だって其処にいらっしゃいますからねぇ」
ケフカはヒッヒ、と笑い声を上げつつ倒れているレオに視線を向けた。
ケツァクウァトルは瞳を細め、ケフカを睨み付けた。
『・・・我は別に構わない、 我は・・・ッ!!
駄目だ!駄目だケツァクウァトルっ・・・!」
ケツァクウァトル、否、へと精神が入れ替わり彼女は大きく首を振った。
『・・・!』
「駄目だ、駄目なんだ・・・。これ以上、幻獣達を傷つけさせたく無いんだ・・・私は・・・!」
『・・・・・・・・・貴女は・・・、』
「終わらせてやる」
そう、全てを終わらせてやる。
はそう硬く決意をし、キッと真正面を見て、ケフカを睨み上げた。
「約束は約束だ。これ以上幻獣達や、皆に手を出すな」
「よろしいですよ」
ケフカは笑みを浮かべ、村の入り口へと歩を進めた。
村の入り口で待つケフカに視線を向けて、はまずレオの横へ膝を付いた。
そして手を翳し、彼の傷を癒す。
「・・・っく・・・、」
「・・・動くな、傷は深いんだぞ」
「・・・・・・・・・、いけない・・・君は、ケフカの、一番の狙いだ・・・」
「・・・だから、行くんだ」
はふっと笑みを浮かべ、レオの傷を全て癒した後、スリプルで彼を眠らせた。
酷い眠気に襲われつつも、レオはを見上げていたが、直ぐに地に顔を伏した。
「・・・・・・そう、だから」
『・・・良いのですか?』
「うん、 私は、此れ位しか、良い案が浮かばないんだ」
はそう言いストラゴス、リルム、セリス、ティナへ回復呪文をかけた。
皆は気絶をしていた為スリプルをかけなくても良さそうだった。
はそんな事を思いつつ、一人遠くで倒れているロックに近付いた。
しゃがみ込んで、気絶している彼に、そっと手を翳す。
「・・・ロック・・・、」
閉じられている瞳。
開かないで、開いて、と矛盾した事をつい考えてしまう。
そんな自分に本日何度目か分からない自嘲的な笑みを浮かべ、ロックの治療を終えた後、は自分の後頭部に手をやり、シュルリという布音を立てて彼から預かっているバンダナを解いた。
其れと同時に金の髪が重力に従い落ちるが、は気にせずバンダナを愛しげに見詰め、軽く其れに口付けをしてからロックの顔を覗き込んだ。
「・・・ロック、サヨナラだ・・・、 私はケフカと共に行き、全てを終わらせて来る、」
ニコリ、と微笑んで静かに語りかける。
は瞳をゆっくりと閉じて、今までの事を思い出していた。
そして、これからの事も、考えた。
――自分は、全てを終わらせる。
だから、ロック。 お前は此処に居て、残された幻獣達の事を、お願い―、
そう思い最後に、と思いロックの頬にそっと手を添えた。
もうこの温もりに触れる事も、無くなってしまう、
そう考えると、酷く寂しかったが、仕方ないのだ。
は手を引いて、立ち上がりロックに背を向けた。
―其の時、
「っ・・・・・・、・・・!」
「っ!?」
腕をグイ、と引かれてバランスを崩した。
尻餅をついた後、倒れる、と思っていたら背に温かい感覚。
きつく、身体に回された、腕。
嗚呼、これは――、
「・・・!」
ぎゅ、と強く抱き締められる身体―。
背から伝わる体温と、耳元で囁かれる自分の名前。
それだけでは胸いっぱいになっていた。
「・・・駄目だ・・・・・・っ、行くな・・・・・・!」
「ロック・・・」
は瞳を少しだけ伏せて、ロックの腕を解こうとしたが、彼は其れを許さなかった。
再度名を呼んで彼を見上げると、は正面からロックに抱き締められた。
「ロック・・・!」
「嫌だ・・・!もう俺は失いたくないんだ・・・! ・・・!」
「・・・・・・」
は悲痛な表情でそう言うロックを見上げて、綺麗に微笑んだ。
―そして―、
「ロック、」
「・・・? ・・・・・・!」
少しだけ身体を伸ばして、 キスをした―。
瞳を見開いているロックとは対照的に、は瞳を伏せ、頬を朱に染めていた。
軽い口付けの後、瞳を大きく開いて呆気に取られているロックにはクスリと笑みを向け、彼の額へ手を持って行ってスリプルを放った。
突然襲われた眠気にロックは頭を抑え、首を振り必死に其れを払おうとした。
「くっ・・・・・・、ッ・・・! 駄目、だ・・・!」
「ロック、でも私は行かなければいけないんだ。全てを終わらせる為に、」
「だからっ・・・! 其れが嫌なんだ!! 俺はっ・・・・・・!」
恐らくがこれからケフカと共に行った後に如何しようとしているかを理解しているロックは必死に首を振り、立ち上がるの腕を力ない手で掴んだ。
は困ったような笑みを浮かべ、バンダナを片手に口を開いた。
「コレ、貰うな・・・。 私は、コレが無いともう駄目みたいだから・・・、」
「っ・・・そんな物幾らでもくれてやる・・・! だからっ!」
「ロック」
は笑みを浮かべてロックの手を放した―。
「今まで、ありがとう。
―――ずっと、好きだった・・・、
・・・さようなら―――」
睡魔に襲われて、瞳を閉じてしまう瞬間に見た彼女の笑顔は、
酷く綺麗で、美しかった―。
離別