何時も、何事にも感心が無い様で、


本当は、誰よりも、他人を気遣ってるんだ―。



そんな彼女を、俺は、



守りたかったのに―――、





























―目が覚めて、最初に視界に入ったのは焼け焦げたサマサの村の風景。

つい先程か、それとも何時間も前の事なのか分からないが、取り敢えず此処で惨劇があった事を明らかにしている風景だった。

ロックは身体を起こして辺りを色の無い瞳で見回す。

他の仲間の所には、村の人々が回ってくれてて介抱してくれている。
ロックの所にも、青年が一人来て起きているロックに気付き「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。


「あぁ・・・・・・」

「・・・そうか。 ・・・記憶は大丈夫か?打ち所が悪かったみたいだったから・・・」

「・・・・・・、」


ロックは瞳を少しだけ伏せると「記憶、」とポツリと呟いた。


嫌な位ハッキリしている、記憶―。


『ロック』


ニコリ、と笑みを浮かべて俺の手をやんわりと解いた彼女―。

そして其の侭綺麗な笑みの儘、


『今まで、ありがとう』


さようなら、と言い離れていく身体―。

確かにあの時、


「・・・・・・この腕の中に、あったのに・・・・・・、」


あの、温もりが、


「っつ・・・・・・!!」


もう、隣に居ない―――。


視界がぼやけて来る。

ロックはそう思い拳を強く地に打ち付けて「クソッ!」と吐き捨てると力無く項垂れた。
そんな彼の後ろから「ロック・・・」と小さな声が聞こえた。

セリスとティナだ。
二人は項垂れているロックに近付きしゃがみ込んだ。
セリスは何かを言おうと口を開いたが、彼にかける言葉が見つからずに口を再度閉ざした―。

少しの間、その場を沈黙が包んだが、やって来た人物に気付き、ティナが立ち上がり声をかけた。


「レオ将軍・・・」


来たのはストラゴスとリルム、そしてレオだった。

レオは酷く苦しそうな表情をしていたが、恐らく其れは傷のせいでは無いだろう。
ティナがレオの言葉を待っていると、レオは唯一言、「すまない、」と言って来た。


「どうして貴方が謝るの?」

「彼女・・・。は身を呈して私を守ってくれたのに、私は彼女を守る事が出来なかった・・・。
 一番近くに居たにも関わらず・・・・・・!」

「そんなの、」


ティナが小さく首を振ってレオを見返した。

其の瞳には、後悔と憎悪、怒りと悲しみの色が入り乱れていた―。


「私達も、一緒よ・・・・・・」

「・・・・・・」


ティナの言葉を聞いて、ロックは無意識の内に腕に巻かれている赤いリボンに触れていた。


『じゃあ・・・此れもお守りだ・・・』


そう言い彼女が差し出してきたこのリボン。
其れに触れていると、少しだけだが安心出来る気がしていたから―。

リボンに触れ、其れをじっと見詰めているロックを見、セリスは表情を悲しみで歪ませた。




―其の時、




か細い鳴き声が沈黙の中に落ちた。
思わず其処に居た全員がその方向を見る。 ――と、
其処には片足を引き摺る様にして歩いてくるインターセプターが居た。
此方の姿を視界に留めると再度鳴き声を出す。


ロックは立ち上がり、インターセプターに走り寄った。


「どうしたインターセプター! 其の怪我は!?」

「レオ将軍やだけでなく味方のシャドウまでも・・・・・・! 帝国め・・・!」


ロックは苦々しくそう吐き捨てるとインターセプターの足にケアルをかけた。
そして次に頭に巻いていたバンダナを解き、インターセプターの未だ痛むであろう足に巻いた。


「・・・これでよし」

「優しいのね、」

「・・・もきっと、こうしただろうしな」


ロックがセリスにそう返した後、リルムがインターセプターに身体を寄せて心地の良い身体に頬を摺り寄せた。
「リルムが着いていてあげる」と言い彼女は主人の無事を案じているのか、くん、と頼り無くか細い声で鳴いたインターセプターの頭を優しく撫でた。

ティナが一人顔を上げて「こうなったら、帝国に残ってる皆が心配だわ」と口を開いた。
セリスが頷いて「無事だと良いけど・・・」と返す。



―――其の時、ぶわりと風が舞った。


タイミングの良さにティナがそちらを見て安堵の息を吐いた。
飛空挺が来た。となると皆無事なのだろう。

其れはロックやセリスも同じなようだった。

飛空挺から残って居た皆が降りてきて近付いてくる。

一番前を歩いていたエドガーが片手を上げて挨拶をしてくる。
その横に居たセッツァーが村の様子に肩眉を上げながら口を開く。


「帝国が裏切った。危うく罠にはめられるとこだった」

「良く無事だったわね」

「事前に脱出でき申した。エドガー殿の情報のお陰でござる」


セリスがそう言うと後ろから来たカイエンがそう言いエドガーに視線を向ける。
其処に居た全員の視線がエドガーに集まる中、ロックが「さすが一国の王!」と褒める。


「お茶を運んできてくれたレディにご挨拶したら、丁寧に教えてくれたよ」

・・・・・・便利な特技だな


兄として情けないのか、何処か複雑な表情でマッシュがエドガーに視線を向けてポツリと呟く。
其れを耳ざとく聞いていたエドガーはマッシュの方を見て「ちっちっちっ、」と指を振った。


「女性が居るのに口説かない。そんな失礼な事が出来ると思うかね? 
礼儀だよ! れ・い・ぎ!」


其れに対して「ダメダコリャ」という感じで顔を逸らしたマッシュにエドガーが何故か礼儀についてを延々と説明する。
そんな双子に、その場の雰囲気が柔らかくなる中、ロックは物足りなさを感じていた。


何時もなら、きっと彼女が、


「お前は礼儀という言葉を辞書で引け」とか「寧ろ無礼だ」とでも言ってくれるのに。


そう思ったロックは、また気分が沈んできてしまい、溜め息を一つ落として顔を俯かせた。
そんな彼の様子に気付いたエドガーとマッシュがふざけ合いを止めて彼を見やる。


「・・・どうかしたのか?」

「そーいえばよ。は何処に居るんだ? 村の方か?」


エドガーに対しての突っ込みが無い事に疑問を感じていたのか、マッシュが問う。
其れにロックが「は・・・・・・、」と呟くが、続きがどうしても上手く言えなかった。
そんなロックを見、ティナが口を開いた。


は・・・サマサの村を襲った帝国に連れて行かれたわ・・・」

!! なんと!」


ティナの言葉に皆が驚き瞳を大きくする中、カイエンが声を上げた。
マッシュは「何で・・・が・・・・・・・・・」と呟くがある考えが浮かび上がりハッとして顔を上げた。


「まさかアレか!?前から帝国が狙ってた幻獣の!!」

「・・・恐らく、間違いでは無いだろうな」


エドガーが頷きロックに視線を向ける。
そして言葉を発する為に口を開こうとしたが、ティナに止められた。
エドガーが彼女に視線をやると、ティナは「私に任せて」と言いロックに歩み寄った。


「・・・を助けに行きましょう」

「・・・・・・当然だ・・・!」

「・・・その気があるんだったら、早く立ち直ってちょうだい」

「ッ! 俺は・・・!」

はっ!!」


反論を上げようとしたロックの言葉を遮ってティナが声を張る。
彼女が声を張る事なんて珍しい事なので、周りに居た仲間達は瞳を丸くしていた。


「・・・沈んだ貴方を、見ていたくは無いと思うわ・・・!」

「けど・・・!俺は最後にアイツを掴んでたんだ!この手で!! なのに・・・・・・!!」



守れなかった―。



そう最後に呟いてロックは地に拳を打ちつけた。
其の言葉を聞いて、ティナは少しだけ笑みを浮かべて座り込んだままのロックに手を差し出した。

其れをみて瞳を丸くするロックにティナはこう言う。


「じゃあ、また掴めば良いのよ。 取り返しに行きましょう? 盗みは、得意なんでしょう?」


微笑んでそう言うティナを見て、ロックは脳裏に彼女の姿が浮かんだ。



最後に別れた時の、あの笑顔が―――。



「・・・取り敢えず飛空挺に戻って、を助ける為に考えを纏めましょう!」


ティナがそう言うとストラゴスが近付いて「儂も行って良いかの?」と聞いてきた。
初対面のエドガーは「貴方は?」とストラゴスに問う。
其れに答えたのは立ち上がったロックだった。


「この村の人だ」

「魔導士の血を引く人なの。力になってくれるわ」


ティナもロックに続きそう言い手短に説明をして歩き出す。
エドガーは「え?其れで終わり?」という顔をして二人の背を見詰めたが答えは戻ってこなかった。


「力の使い方を誤った帝国を放って置く訳にはゆかんしの」

「リルムも!」


ストラゴスの後にインターセプターに身を寄せながらも手を上げて自己主張をするリルムに、マッシュが視線を送った。
彼女と目が合うと、マッシュは笑みを返してリルムの頭をわしわしと撫でた。


「子供は足手まといだしな」

「なにをー!このキンニク男!」

「はっ!口だけは達者だな、嬢ちゃん」

全く相手にする気の無いマッシュにリルムはぷぅと頬を膨らました後くやしそうに声を上げた。
そして、絵筆を素早く取り出してマッシュにビシ、と向けた。


「くーっ・・・・・・似顔絵描くぞー!!

うわ――!!ヤメヤメ!!駄目だぞ!!


リルムの言葉にロックが素早く反応し、彼女の所に戻っていき絵筆を没収する。
そんなロックにリルムは「返せー!」と言い彼の足をゲシゲシと蹴っている(

ティナはそんなロックを見、安堵の息を吐いた後、再度歩を進めた。


「分かった分かった。仕方の無い奴じゃ」

「やったー!!」

「・・・じゃあ行くぜ!」


リルムも行く事に決定した時、ロックがそう言いリルムに絵筆を返して歩を進めた。(心なしか足を痛そうにしながら)
そして前に歩いているティナを呼び止めると少しだけ照れ臭そうに鼻の頭を指で擦った後、口を開いた。


「ありがとうな、さっき」

「ううん、いいの。 私、が大好きだから」

の為・・・だよな、やっぱ」

「あら?ロックの為でもあったわよ、ちゃんと」


くすくすと笑って言うティナにロックは「どうだかね」と言い笑みを返した―。


皆が進む中、エドガーはじっと新しく仲間に入った少女を見詰めていた。
其の視線に気付いたリルムが歩調を緩め、エドガーの横に並んで彼を見上げる。


「どしたの? 色男」

「いや・・・。 君、幾つだい?」

「10歳よ。 ・・・変なの。先行ってるよー?」


リルムはそう言い前を歩くストラゴスの横に並んでいってしまった。

エドガーはそんな彼女の小さな背中を見詰めていたが暫くしてほうっと息を吐くと額に手を当てた。


さすがに犯罪か・・・・・・。 止めとこう」




ロック褒め損過ぎるwww