轟音が響く中、達は走っていた。

だが何処へ如何行けば良いのかなんて、よく分かっていなかった。


「飛空挺に・・・!」


誰かが言った。

は取り敢えず眼前に迫り来る敵に容赦無く蹴りをお見舞いした後にサンダラを放つ。
一瞬で戦闘を終わらせて再度走り出す―。

崩壊のせいで凸凹になった地面のせいで、は足を引っ掛けてバランスを崩す―。


、大丈夫か!?」

「ロック・・・!」


咄嗟に横に居たロックがの身体を支えてくれた。
はロックの顔を真っ直ぐに見て頷きを一つ返した。

其の時、


!! 急いで皆!」


ティナがそう叫んで達の背を押して走らせた。

たった今通って来た地面に亀裂が走り、崩れ落ちていく―。

其れを見て達も瞳を見開いて走り出した。
直後―、


「・・・!! 危ないエドガー!」




前方を走っているエドガーの足元に亀裂が入ったのを見てがエドガーにマントを思い切り引っ張った。
だが既に遅く、亀裂は広がりエドガーと、そして後ろに居たロック達も巻き込んで亀裂に飲み込まれた―。


落ちる!!


と思ったが幸い下に地面があり全員其処に倒れた。
全員が身体を地面に打ちつけ、痛みで動けなくなっていると―、


「兄貴!!」


聞き覚えのある声が響いた。
其れと同時に「がうがう」という声と「大丈夫でござるか!?」という声が聞こえてくる。

は何とか身体を起き上がらせると、皆にチャクラをかけているマッシュ。
そして寄って来た魔物を倒しているカイエンとガウの姿が其処にあった。


「マッシュ・・・!」

「よぉ、。無事だったんだな・・・・・・立てるか?」


チャクラを終えたマッシュが皆に聞くと皆大分楽になったのか立ち上がり始めた。
魔物を倒し終えたガウが「がうがうー飛空挺、こっち!」と言いながら走り出した。
其れに全員が続いて走る―。


「何か魔物が来てよ、ちょっと強い奴だったけど倒しておいたぜ!」

「・・・ケフカの足止めだったかもしれないしな、ありがとうマッシュ」


がそう言うとマッシュは「いいって」と返すと改めてを見た。


「・・・大丈夫だったか?」

「・・・・・・あぁ。ロックのお陰だ・・・」


はそう言いマッシュとは逆隣に居るロックに視線を向けた。
ロックは何処か照れ臭そうに笑みを返して来た。
そんな彼の様子を見ては先程のロックの言葉を思い出して頬を紅潮させる。


(さっき・・・そういえば・・・、)






好きな女って―――、






!!!


思いなおした途端、の頬は真っ赤に染まった。
其れを見てロックもつられて顔を赤くする。

マッシュはそんな二人を見て瞳を丸くしていたが、前方のある場所を見て「おっ」と声を上げた。


「此処だ! 降りるぞ!」


どうやら下に飛空挺が止めてある様だった。
ガウ、カイエン、マッシュ、エドガー、セリスと順々にロープを伝い飛空挺に降りていく中、だけは行こうとしなかった。
ロープに手をかけたティナが振り返る、ロックもの背を見ていた。


「・・・、」

「・・・・・・先に降りていても構わない」

「否、」


ロックは首を振っての横に立った。
そして微笑んで彼女を見詰めた―。


「隣に居る・・・一緒に待とうぜ?」


そう言ってくれたロックには笑みを返す。
―ティナも微笑んで「私も此処で待っていたいけど・・・、」と言い言葉を濁した後、直ぐに口を開いた。


「・・・皆に伝えてくるわ。気をつけてね」

「うん・・・・・・、ありがとう、ティナ」


が笑みを向けてティナに言うと彼女も笑みを返してロープを伝い降りていった。



―轟音が響く中、は真っ直ぐに道を見詰めていた。


もう既に所々崩壊しているせいで道が無い。

だがシャドウならきっと―、


はそう思い瞳をゆっくりと伏せた。


「・・・、」


隣から少々控えめな呼びかけが聞こえてきては顔を上げた。
するとロックが少々罰が悪そうな表情でを見ていた。


「・・・後で・・・、話したい事があるんだ。 たくさん、」

「・・・・・・うん、私も、お前に言いたい事がたくさん、ある」


は微笑んでロックを見上げた。

そしてもう自分の足元近くまで迫っている亀裂を見詰めながら、言った。





「・・・だから、



 死なないで――――、」





そうポツリと呟いた瞬間―、亀裂が走り達の足元の地面を裂いた。
とロックは素早く後ろへ飛び、其れをかわして辺りを見渡した。


「シャドウは未だなのか・・・?」

「・・・シャドウ・・・、」


お前は、生きる道を選んでくれるのか―?


はそう思いながら祈るような気持ちでロックの手を掴んで走り出した。

其れに驚いたのはロックだった。


!?」

「そろそろいい加減危ないからな・・・」


走るにロックは「何でそんな冷静なんだよ・・・!」と焦りの声を上げてきたが自身も何故自分がこんな冷静なのか分からなかった。

否、確信があるからかもしれない。


「シャドウは・・・、私との約束を破った事が無いから・・・!」


がそう言った直後、ある気配を感じてとても嬉しそうに顔を綻ばせた。
そしてロックの手を掴んでいない方の手を前へ出して笑みを浮かべながら口を開いた。


「シャドウ!」


伸ばした手に触れた温もり―。

ぐい、と手を引かれて約束通り戻って来てくれたシャドウは「急ぐぞ」と言い走った。

もう直ぐ背後まで亀裂が走っていたが、怖さなんて全然無かった。

右手には師の手、左手には愛する人の手、

其の温もりを感じながら、は地を蹴って飛空挺へと飛び降りた―。











ちょ、ちょっと!!何でロープ使わないの!?



降ってくる達を視界に留め、セリスが焦った様に叫ぶ。
横ではティナが瞳を大きくしている。

空中では「あ、否、すまない、ノリだ」と言うと左隣から「ノリ?!」という焦った声が聞こえてきたが気にしない。
がロックに苦笑を向けた瞬間、右に強い力で引かれた。
何だと思い瞳を丸くしていたら、視界がぐるんと動いた。

ロックが此方を見て少々悔しそうな表情をしながらスタン、という軽い音と共に飛空挺に着地した。
を横抱きにして難無く着地したシャドウはそんなロックの視線等気にせずの足を甲板の床に着けてやった。

は其処でようやくシャドウに助けてもらったのだと理解した。


「シャドウ、ありがとう」


そう言うとシャドウはふい、と顔を背けた。
は別に慣れているので大して気にせずに笑みを向けた。

達が無事なのを確認してセッツァーは舵を動かした。


「掴まってろ!離脱するぜ!」


セッツァーの声と共に魔大陸から離れる飛空挺。

は遠ざかっていく魔大陸をじっと見詰めながら膨れ上がっていく強大な魔導の力を感じていた。
他の皆も同じ様に魔大陸を見ている。

―少し経った頃、急に光が魔大陸のある一点から溢れ出した。


直後、


其の光は光の矢の雨となり天から地上へと降り注いだ―。


村や町、大陸の様々な所に光は降り注ぎ大地を削ぎ取っていく―。

大地に生まれた亀裂は大陸を引き裂き、人々は光の矢に打たれ消滅したり、裂け目に吸い込まれて行く―。




止められなかった・・・!




誰もがそう思ったその時、飛空挺にも光が当たった。

ガグンと思い切り揺れる船に其々が悲鳴を上げて必死に何かに掴まる。

ミシリ、という嫌な音を耳にしながらは手摺りにしがみ付く。



―直後、また光が飛空挺に直撃した。


二度目の其れは耐えられる筈も無く、飛空挺を真っ二つに引き裂いた。



「うわあああ!」

「きゃああああああ!」

!!



聞こえた悲鳴に、思わず其方を見やる。

すると真っ二つに割れた飛空挺の、落ちていく方にエドガーやカイエン、シャドウやリルムが必死に手摺りやら何やらにしがみ付いていたのだ。
エドガーとカイエンは此方を見上げてきて、シャドウは今にも落ちそうなリルムの細い腕を掴み、支えている。

落ちていく彼等を見、が息を呑んだその瞬間、飛空挺の間近にまた光が落ちた―。

激しい揺れに耐えられず、は真っ二つに割れて斜めっている飛空挺の下のほうへと重力に従いずり落ちていった。
何とか落ちないようにと必死で縁に両手を着いて落ちない様にする。
そんなの真横を、セリスがずり落ちていった―。

は咄嗟にセリスに片手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。
セリスも丁度裂けた甲板の縁を掴んだ様だった。

自分も危ない状況なのにロックが斜めの甲板の上を真っ直ぐに此方に向けて来てくれるのを視界に留めては彼への愛しさで胸がいっぱいになった―。

次の瞬間、また船がガクンと大きく揺れた。

とセリスはその揺れに耐え切れず、手を放してしまい空中へ投げ出された―。



―――!!」



ロックが自分を呼ぶ声を聞きながら、はセリスと繋いだ手を放すものか、と強く思いながら握り締めた。
するとセリスもの思いに気付いたのか、空いている手も此方へ伸ばしてきた。

強い風圧を感じながら、上の方を見ると大破した飛空挺が見えた。
残っていた皆も空中に投げ出されて―、

上を見ていると、また頭上で光った何かが見えた。


また来る!!


は直感でそう感じてセリスには悪いが彼女を思い切り突き飛ばした―。


「っ、!?」


はセリスを光の攻撃が及ぶ範囲から遠ざけ、魔力を高める。

幸い上の方に居る皆は射程距離内に入っていない様だ―。



「っ・・・・・・!」



ドオオオオオオオオン!!



―――――――――!!!」



セリスの悲痛な叫びは、轟音に掻き消された―。

魔法で防いだらしかったも、遥か下方へと追いやられて行った―。

伸ばしても届かない手―。

セリスは涙を一粒零し、それでも出来る限りへ手を伸ばし続けた―。







―其の日、世界は引き裂かれた―・・・。





崩壊