――無音の中、ゆっくりと瞳を開いた。
暫く虚ろな眼差しで眼前に広がった視界をゆっくりと見渡す―、
―何処かの一室の様だ、
はぼんやりとした頭でそう考え、再度瞼を閉じた。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは―あの時の光景、
強大な魔力を感じたと思った途端、放たれた光。
其れは天へと真っ直ぐに伸びて、一気に地上へと光の矢の雨へと姿を変えて降り注いだ―。
村や町、大陸の様々な所に光は降り注ぎ大地を削ぎ取り、大地に大きな亀裂を生んだ。
生まれた亀裂は大陸を引き裂き、人々なす術も無く、光の矢に打たれ消滅したり、裂け目に吸い込まれて行った。
その光は飛空挺をも襲い、船体を真っ二つに切り裂いた。
悲鳴が飛び交う中、落ちていく裂けた飛空挺―。
自身も落ちそうになった、必死に甲板の縁にしがみ付いた―、
(・・・・・・そうだ・・・!)
パチリ、と大きく瞳を開き毛布を払い一気に身体を起こす。
覚醒しきっていない身体は悲鳴を上げたが、そんな事を気にしている余裕は今のには無かった。
落ちていった仲間達、 離れた、手。
「ロック・・・!」
皆・・・!
乾いた喉から擦れた声を出し、はベッドの上で自身を抱き込むように腕を回し、項垂れた―。
何がどうなった? 皆は? 此処は何処だ? 世界はどうなった? ケフカは?
ロックは?
「っつ・・・!」
きつく唇を噛み、込み上がって来た涙を流さぬ様に耐える。
一体何が、どうして、何が!!
の頭は疑問符だらけだった―。
何も理解できない苛立ちを感じ、手を思い切り横に薙ぎ払う。
その腕は近くにあった花瓶に当たり、水の入った花瓶を床に叩き落した。
ガシャン!というガラスの割れた音が響く。
その音を聞いてハッとするが、は唯其れを見詰める事しか出来なかった―。
申し訳程度に活けられている、枯れかけた植物。
これは花と言うには程遠いものだった。
床に散らばった破片、植物、水。
それらをは唯唖然として、じ、と見ていた。 すると、
コンコン、とドアがノックされた。
は視線をドアにずらした。
そうした時、ドアがキィ、と嫌な音を立てて開く。
室内に入ってきたのは―、
「・・・レオ、将軍・・・」
以前サマサで会ったきりの帝国の将軍、レオだった。
彼はの驚いた瞳を見、苦笑を浮かべつつ近付いて来た。
「今は将軍などでは無い。レオで結構だ」
「・・・では、レオ。 お前が私を助けてくれたのか?」
覚えているのはセリスを突き飛ばし、光の雨を自分に防御魔法をかけて防いだ事まで。
落ち行くなか風圧で気を失ってしまったのだろう、自分は。
はそう思いながらレオを見上げ、問うた。
レオは頷きを一つ返して、壁際にあった椅子をベッドの横に引き寄せて其処に腰を下ろした。
「君は・・・どれ位眠っていたのだろうな。半年以上の気もする・・・だが、一年は経っていない気もする・・・」
「そんなに、」
はレオの言葉に瞬きを数回繰り返し辺りを再度見渡す。
其の時に髪がサラリ、と揺れ自分が髪を下ろしている状態な事に気付く。
其れと同時に、バンダナが無い事も―。
「!!」
バンダナが無い事を理解したは慌てて辺りを見渡す、
そんなの様子にレオは一度椅子から立ち、何やら引き出しから取り出すと戻ってきた。
彼の手の中には、見慣れた青のバンダナ―。
レオから其れを受け取り、は其れを胸に抱いた。
(ロック・・・・・・、)
ぎゅ、と其れを握る手に力を込めて瞳を伏せる。
ふるり、との睫毛が震えたのを見、レオは言い辛そうにに声をかけた。
「・・・残念だが、君以外は・・・」
「良いんだ、分かっている。 ・・・それより、此処は何処だ?」
「ナルシェだ」
レオの言葉には「ナルシェ・・・」と復唱する。
そんなを横目で見つつ、レオは窓のカーテンを開けた。
外の景色は、相変わらずの雪模様だったが、人の気配が全く無かった。
「・・・今やこの街は、魔物の巣窟となっている。
引き裂かれた世界は地形も、環境も、全て変わってしまった。
ナルシェには魔物の大群が攻め寄せてきて、ほぼ皆出て行ってしまったよ」
「・・・ナルシェのガード達もか?」
「・・・彼らも、だ。 ・・・残って戦った者も居た様だがな・・・」
「・・・・・・お前は、」
何故、此処に。
その意味を込めた目でレオを見ると、彼は再度椅子に腰を下ろし、を真っ直ぐに見た。
「サマサでの負傷の後、私はリターナーの者に助けられた。
・・・ナルシェしか、安全な場所は無かったとも言う。帝国が襲ったサマサの村には居れなかったしな・・・」
「・・・・・・そう、か」
はそう言い、チラリと床の上に視線を移した。
先程自分で落とした花瓶だ。
に習いレオも視線を其れに移し、口を開く。
「あの日から世界は一歩一歩破滅に近付いている・・・。
草木や動物は次々と死に追いやられた。人々は、希望を失い自らの手で命を絶つ者も多い」
「・・・でも、」
はきゅ、とバンダナを強く握り、真っ直ぐにレオを見上げた。
金色の瞳は曇り一つ無く、レオが少々たじろいだ―。
「私は、生きている」
だから、と言葉を続け、は瞳を一度伏せた後、ゆっくりと開き微笑んだ。
「皆も、生きてる」
そう、信じてる。
は微笑みを浮かべた儘、窓の外の景色へと視線を移した。
景色を見ながら、思い浮かべるのは魔大陸での彼のあの言葉―。
「・・・後で・・・、話したい事があるんだ。 たくさん、」
話したい事があるのは、お前だけじゃないんだ。
の笑みの中に微かな憂いが浮かんだのを感じ取ったレオは、の細い肩に手を置く。
瞳を丸くするに、レオは「まぁ、疲れているだろう。今は寝ておいた方が良い」と言い席を立った。
はレオに「ありがとう」と感謝の言葉を述べると、ゆっくりとベッドに横になった。
レオが部屋から出て行き、静かになった室内で、は手の内でバンダナを弄んでいた。
これがあるから、今まで大丈夫だったんだ、ずっと、
ゆっくりと瞳を閉じながらは眠気の為に靄の掛かっていく頭を感じつつ、思う。
死なないで、そう願ったから、きっと、大丈夫――。
覚醒