「意外と・・・柔らかいのだな・・・」
ウーマロの真っ白な体毛を恐る恐る触れた後、はこう一言発した。
―広い船室の中。は膝に乗るモグにも人撫でした後、呆、と思案に耽った。
(・・・これから何処へ行こうか・・・、)
ウーマロとモグをナルシェで仲間にした後、レオの言葉通り、海岸沿いの船を借りた。
元帝国兵だった彼らに聞いた話では、世界は前とは全然違う地形になっているようだった。
彼らの情報では、ナルシェのある大陸から東に進んで行くと別の大陸があるらしかった。
其処に出る魔物は世界中の魔物が集まっているから、もしかしたら獣ヶ原かもしれない。
は元帝国兵だった彼らの話を信じ、獣ヶ原を目指すため、東へ進む考えを纏めた。
獣ヶ原と言えば、浮かぶのはあの少年。
初めて会った時は酷く腹を空かせていて、此方にを警戒していた少年―。
「・・・元気だろうか、」
呟いた声は、潮風に乗って舞った―。
心配は杞憂だった。
はそう思い呆れながらも目の前に飛び出してきて自分に抱き付いて来た少年の頭を撫でた。
「がうがうがうがう!!!!」
「ガウ、何だか久しぶりだな」
嬉しそうに擦り寄ってくるガウの頭を撫でながらは微笑んだ。
ガウは元気な笑みを見せて「ひさしぶり!」と繰り返して言った。
はガウを取り敢えず離し、口を開く。
「ガウ、世界が引き裂かれた後お前は何をしていたんだ?」
「うー。ガウ、つよくなる。しゅぎょうしてた」
「修行・・・?」
「がうがう!ガウ、もうまけたくない!だからつよくなる!」
―恐らくは、ケフカを止められなかった事を言っているのだろう。
は真っ直ぐな瞳でそう言うガウの頭を再度撫でつつ、「そっか、偉いな」と笑みを向けて言った。
其処でふとした考えが浮かび、はウーマロを振り返った。
「ウーマロ、お前はガウと此処で修行をしていたらどうだ?」
「ウー・・・?」
の言葉にウーマロは小首を傾げた。
が、直ぐに何処か悲しげに瞳を細めてを見やった。
それには「別にお前が邪魔だとかそういう訳では無いからな。」と付け足して言う。
の言葉にウーマロは安心した表情を浮かべた。彼の足元に居たモグが「じゃあ何でクポ?」とに問うた。
はモグから一度視線を外し、ガウを見やった。
「ガウは此処でもっと強くなるんだろう?」
「がうがう!」
同意の声を上げるガウには「だからさ、」と言い、続けた。
「ウーマロだって、強さを求めているだろう?何だか二人は似ているからな・・・何となく気付いたんだ」
「ウー・・・」
ウーマロはの言葉に元気良く頷いたが、直ぐにモグに不安気な視線を送る。
恐らく、親分の傍を離れて良いのか、それか許してくれるか、等と不安に思っているのかもしれない。
彼の視線に気付いたモグはにこりと笑みを浮かべ、「行ったらいいクポ!」と言った。
「僕はを守るクポ!ウーマロはガウと一緒に強くなって、一緒にを守るクポ!」
「ウー! 親分の許し出た・・・おれ・・・強くなって戻ってくる!」
「がうがうがう!!次が来る時まで強くなる!」
「おれも!」
意気込む二人には笑顔で応えた。
ウーマロは此の儘連れて行っても恐らく何処かでこの様な様子になっただろう。
彼は元々強かったのだが、更なる高みを目指しているのをは気付いていた。
は「そうだ、」と言いガウを見た。
「ガウ、確か獣ヶ原にはモブリズがあったはずだが・・・、」
以前、バレンの滝を通り抜けた後に休んだ所だ。
其処の様子を尋ねようとしたのだが、ガウは少々気落ちした様子で首を振った。
「がうー・・・モブリズ、ない。獣ヶ原、あるの洞窟だけ」
「・・・洞窟か・・・」
「モブリズ、いくみち、無い」
「・・・道が無いだけ?」
がガウに問うとガウは「わからない」と言い首を振った。
―しかし、大陸が分断されただけでモブリズは無事な可能性がある。
はモブリズに関してはそう思う事にし、ガウの言っていた洞窟という事を考えた。
もしかしたら生き残りがひっそりと暮らしているかもしれない。
そんな希望を抱き、はモグに「洞窟に向かってみよう、生き残りが其処に居るかもしれない」と言った。
モグは元気良く頷きを返した。
「がうがうがう!ガウ、案内する!」
「助かる」
はそう言ってくるガウに笑みを返す―。
ガウも笑みを返してきたが、直ぐに真っ直ぐに、真剣な瞳でを見上げた。
しかし、何処か言い辛そうに言葉を発した。
「がう・・・、、」
「ん? 何だ?」
「・・・ロック、居ない?」
ガウの言葉に、は思わず足を止めた―。
其れにガウは気付くが、言葉を続ける。
「がう・・・。ロック、をまもる言った」
「・・・そう、だな」
「俺は、お前だから守るんだ! 誰でも良い分け無いだろ!?」
―オペラ会場で言われた言葉、今でも覚えている。
初めて会ったナルシェから、ずっと、其の通りにやって来てくれていた。
「・・・ロック、サヨナラだ・・・、 私はケフカと共に行き、全てを終わらせて来る、」
サマサの村で、別れを告げた。
皆傷だらけで、ボロボロで、ああするしか無かった時だったから、
自分一人で行って、全てを終わらせようとした。
けど、
「・・・駄目だ・・・・・・っ、行くな・・・・・・!」
痛みの為、悲鳴を上げる身体に鞭打って私を引き止めた。
力無い腕も、其の時の私にとっては物凄い力に感じた―。
―は瞳をゆっくりと伏せた。
そして、微笑んで口を開く。
「モグも、ガウも無事だった。 アイツだって無事だ」
がそう言うとガウは瞳を少しだけ大きくした。
其れには気付くが、敢えて触れず、ガウの頭を撫でた。
「・・・、かわった」
「・・・うん」
「もう、おびえてない」
「うん、」
「、」
ガウが最後の確認をするかの様に見上げてくる。
は勿論、笑顔で答えた。
「私も、アイツも、お互いに言いたい事がまだ沢山あるんだ。
だからきっと、ううん、絶対、大丈夫。
私がアイツを想っている限り、絶対」
がガウの目線に合わせてしゃがんでそう言うと、ガウはとても嬉しそうに微笑んでに抱きついた。
首に回された腕に、そっと手で触れては微笑んだ。
―何時も自分を心配していたこの子供。
にとってガウは弟の様な存在であって、とても大切だった。
ガウにとってもは姉の様な存在だった。
大好きな彼女を悩ませ、悲しませるロックが唯、許せなかった。
何時も悩ましげに瞳を伏せる彼女を、見たくは無かった。
ガウはに回した腕に力を込め、「、」と名を呼んだ。
「ガウ、いまの、もっとだいすき、」
「・・・ありがとう」
次は獣ヶ原の洞窟。