アンデッドベヒーモスの断末魔を聞きながら、は硬く瞳を閉じた。
が、衝撃に身構えていた彼女が感じた物は、酷く温かく、優しいものだった―。
「・・・!」
驚いて瞳を丸くする。
背と膝裏に温かな物が触れている。そう、横抱きにされているのだ。
直ぐに誰にされているかを理解し、は慌てて上を向いて彼を見た。
「ッ・・・シャドウ!」
地に下ろされた時には、既に彼の息は上がっていた。
は慌てて膝を着いたシャドウに手を翳してケアルガをかける。
きちんとした手当ては近くにあるサマサの村でやろうと思っていたのだが、傷が開いてしまったのでは仕方が無い。
はケアルガをシャドウにかけ、覆面越しに彼の頬を撫でた。
「・・・すまない・・・、何時もお前には迷惑をかけてしまっていたな・・・」
そう呟くように言い、はシャドウにもう一度回復魔法をかけるとモグ達の様子を盗み見た。
どうやらモグが幻獣・ミドガルズオルムを召還し、アースサラウンドを発動した為に倒せた様だった。
はそれを確認し、シャドウの腕を肩に回し、立たせた。
そしてモグ達に向かって口を開いた。
「此処ではまともな手当てが出来ない、サマサの村に行こう!」
『クライド・・・相棒の・・・・・・俺を・・・よくも・・・殺したな・・・』
暗闇の中で声が響いた。
『お前も・・・・・・俺の所に来いよ・・・・・・なあ、クライド・・・』
闇の中から浮かび上がってきた男はそう言い、手を伸ばしてきた―――。
次に、行き成りサッと景色が変わる。
森の中で自分、クライドと相棒のビリーが其処に居た。
何をしているのかというと、盗んだ金品をチェックしていた。
ビリーが大口を開けて嬉しそうに、豪快に笑う。
『ひゃっほー!!やったぜ! クライドよ!』
『1000000ギルはあるぜ!楽しいねェ!強盗人生も!』
ビリーとクライドは嫌な笑みを浮かべ、お互いに手を叩き合い喜び合った。
そして荷物を纏め、歩いているとビリーが口を開いた。
『そろそろ名前を考えなきゃいけねえ』
『名前?』
『コンビの名前さ。俺は考えてあるんだ』
嬉しそうに言ってくる相棒にクライドは笑みを向けて『何だ?』と問うた。
それにビリーは更に笑みを深くし、口を開く。
『シャドウだ!! どうだ?カッコイイだろう?』
『世紀の列車強盗団シャドウか・・・・・・』
嬉しそうに言ってくるビリーに、クライドも満更では無い様子でそう呟いた。
暗転―。
『しっかり目を開けろ!』
『俺はどうなってる? ・・・はァ・・・はァ・・・ これ・・・、俺の・・・血か?』
『・・・大丈夫。心配するな』
『油断したよ・・・・・・すまねえ・・・』
『喋るな!街に着くまで・・・!』
『俺には分かってるよ。俺の血だろ・・・?これ・・・。 もう駄目だよ・・・さあ、行け!足手纏いの俺を構うな!』
『しかし!』
『捕まってもいいのか! ・・・だがクライドよ、行く前に・・・・・・其のナイフで俺を刺してくれ・・・』
『そんな事・・・!』
『捕まったらどんな仕打ちを受けるか知っているだろう? 俺はそんな目に遭いたくねえ。・・・腕を触ってみろ。
震えているだろ?生まれて初めてさ・・・ガキみたいにガタガタ震えるのは。
だから、しょんべんチビって恥ずかしい思いをする前に、お前のその手で・・・・・・』
『無理だ!!』
『クライド!!』
『すまない・・・・・・!』
『クライド!! よくもーーー!』
置き去りにした仲間の叫び声が響いた。
『もし・・・もし・・・、しっかりして』
次に聞こえたのは女性の声。
倒れているクライドの頬を軽く叩いてくる。
『こ、こは・・・?』
『サ・・・マ・・・という小さな村よ。 さあ、しっかり!』
『パパは?』
すん、と鼻を啜りながら少女は問うた。
この少女の世話を任された老人は眉を下げ、少女の頭を撫でる。
ポロポロと止め処無く涙を流す少女に、近くで少女を見ていた犬が寄り添い、少女の涙を舌で掬う。
少女はか細い声で再度『パパは?』と言った。
『パパは・・・?パパは何処行ったの? もう、帰ってこないの?』
犬が少女に擦り寄るが、少女は涙を止めなかった。
『リ・・・ム・・・を一人にしないで・・・』
そう弱弱しい声で呟き、少女は涙をポロポロと流した。
犬は少女を暫く、じ、と見詰めていたが、何を思ったのか家の外へと出て行く。
そして村の入り口に立っている主人を見つけ、ワンと鳴き近付く。
『俺を連れ戻しに・・・・・・だが、戻る訳にはいかん・・・お前は娘と一緒に平和な世界で生きるがいい』
クライドはそう言い犬の頭を優しく撫でた。
そして歩き出すが、犬はゆっくりとクライドの背を追った。
それから時を経て、死に掛けの少女に出合った。
ボロボロの衣服を身に纏い、身体中に傷を作った少女。
気付いて、暫く見ていたが、横にいた犬が駆け寄り少女の様子を確認した後に、頬を舐める。
自分も近付くと、何処か諦めた様に瞳を閉じている少女が居た。
暫くすると、少女は瞳を開け、金色の眼で此方を見てきた。
『・・・生きたいか?』
そう問いかけると少女は表情をくしゃりと歪ませ、唇を噛み締め、小さく頷いた―。
「・・・シャ・・・・・・ド・・・、 きろ・・・・・・、 い・・・、」
頬を軽く叩かれる感覚で、シャドウは意識が浮上するのを感じた。
瞳を開くと、其処に映ったのはあの時拾った時から成長した少女。
心配そうに自分を見つめている彼女だったが、ほっと安堵の息を吐いた。
「・・・魘されていた」
それだけ短く言うとはシャドウの覆面を少しだけずらし、額に水で湿らせたタオルを置いた。
其れに眉を顰めるシャドウだが、は「大丈夫」と言い足元で眠っているインターセプターを見た。
「此処の部屋に居るのは、私とインターセプターだけだ」
モグは今獣ヶ原でガウとウーマロと遊んでいる。とは付け足して言い近くにあった果物を見た。
「何か腹に入れた方が良い」とは言い、林檎を手にとってナイフで皮をむき始めた。
―沈黙が落ちる。
が食べやすい大きさに林檎を切っていると、シャドウがポツリと呟いた。
「・・・此処は、サマサか」
「・・・正解。ストラゴスの家を借りている」
と、いうか。リルムの家だがな。は瞳を細めてそう言いシャドウを見やった。
が、シャドウは特に気にした様子も無く「そうか」とだけ返した。
そんなシャドウの様子には溜め息を一つ零した。
「ストラゴスとリルムは、サマサに戻っていないみたいだ。だが、きっと世界の何処かに居るだろう・・・。
暫くはお前の怪我もあるし、此処に滞在する事にした」
「俺に構わず行けば良い」
「放っておけない・・・。 シャドウ、一緒に行かないか?皆を探しに・・・」
何処か縋る様な瞳でそう言われ、シャドウは溜め息を一つ零す。
そして視線をから外し、天上へと移し、口を開いた。
「あの男を、捜すのか」
「・・・男・・・、 ・・・ロックの、事・・・?」
目を瞬かせて言うにシャドウは頷く。
其れには「そうだけど、皆を、だ」と言いそっぽを向いた。
自分の気持ちがシャドウにバレバレな事が恥ずかしいのだ。
はそっぽを向いたまま、視線だけをシャドウに戻す。
「・・・シャドウ、行かないか?」
「・・・俺に残されたのは、戦いだけの修羅の道・・・お前と行くのも、良いのかもしれないな」
シャドウがそう呟くとは嬉しそうに微笑み、「ありがとう」と言った。
そんなを見て、シャドウは彼女が此処まで心から微笑む様になった事に、少々驚きを感じながら瞳を閉じた。
一撃の刃?ナニソレー(テメ・・・!)
今度上げます・・・!;;;