船から下りて地に足を着ける。

辺りを見渡してみると、廃墟が視界に入った。
は無言で其方へと歩を進め、辺りを再度見渡した。


―今、達はモブリズへ来ていた。
ティナが居る事は確かなのだろうが、今のモブリズは以前の面影を無くし、瓦礫の山と化していた。
辛うじて残っている建物の被害状況から見ると、ケフカの裁きの光を受けたのだろう。

は眉を顰め、また一歩足を踏み出した。

―其の時、


「うわあ!誰か来た!!」


小さな男の子がそう叫び物陰に隠れた。
そんな少年を庇うように、前に少しだけ年上と思われる子供達が出てきた。


「此処から先には行かせないぞ! ボクたちだって戦えるんだ!」


敵と勘違いしている子供達の様子にが口を開くより先に「待って!!」という懐かしい声が響いた。
奥の建物から出て近付いて来た者は、以前と変わらずエメラルドグリーンの髪を綺麗に靡かせていた。

と目が合うと、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。


・・・!」

「ティナ!」


が安堵の息を吐いて、ティナへと近付く。
そんな二人の様子を見ていた子供達は「ティナママのお友達?」やら「だーれ?」やらティナへ質問を投げていた。
ティナは子供達の頭を撫で、「後で話すわ」と言い子供達の背を押した。


「ほら、家に入ってなさい」


ティナがそう言うと子供達は素直に「はーい」と返事をすると家の中へと入って行った。
ティナはを改めて見ると嬉しそうに微笑み近付いて来た。


・・・会えて良かった・・・!」

「私もだ。 ・・・ティナ?」


も同じように笑みを返した時、彼女はティナの様子が何時もと違う事に気付く。
小首を傾げ、彼女を見るとティナは少しだけ俯いて「此処じゃなんだわ」と言い家の中へ入るよう促した。

達が後を追っていくと、中に居た子供達がチラチラと此方を見てくるのに気付いた。
大人が居ない事に気付いたはある考えが頭に浮かび、眉を潜めた。


奥に行くと、地下へ下りる階段があった。
其処を下りると、地下に作られた部屋が沢山あった。
リターナーの本拠地を思い出すな、とは思いながら歩を進める。

ある部屋に着いた時、ティナが振り返る。
此処で話をしようというらしい。

達も歩を止め、彼女を見た。


「・・・ティナ、どうかしたのか?」


がティナにそう優しく問いかけるとティナは俯き、少しだけ間が空いた後にポツリと呟いた。


「私・・・、戦う力が消えてしまったの・・・」

「な、なんでクポ!?」


モグが驚いた声を上げる。
ティナは俯いた儘ゆるゆると首を振り、「分からないの・・・!」と言い項垂れた。


「・・・世界が引き裂かれた日・・・この村の大人達は、ケフカの裁きの光から子供達を庇って皆死んでしまった・・・」


ティナの言葉を聞いてはやはり、と思う。
大人が一人も居ない事に不自然さを感じていたが、村の半壊どころでは済まない様子を見ると予想はついていた。


「此処は子供達だけの村・・・
 そして、此処に辿り着いた私を子供達は必要としている・・・」


だから、一緒に行けないの。
ティナはそう言い申し訳無さそうにを見た。
は小さく首を振り、ティナへと一歩近付く。 ―其の時、


「ティナを取るな!」


行き成り真横から男がティナとの間に割り込んできて声を張り上げた。
男、と言ってもまだ若い少年だ。そんな少年の腕を掴み、他の少女が「ディーン・・・!」と言う。
そしてその少女は申し訳無さそうにを見た。


「・・・ごめんなさい。でも、ティナが居なくなったら私達、支えを失ってしまう・・・」


そんな少女を見ながらは大きく息を吐いた。
あからさまな溜め息にディーンと呼ばれた少年が苛立った事には気付いたが、あえて無視して口を開いた。


「そんな事見て分かる。ティナだってお前たちを支えに思っている事もな」


はそう言い放ち、ディーンを退けてティナへと再度近付く。
ティナは揺れる瞳をへと向けていたが、申し訳無さからか、俯いてしまう。

そんなティナには優しく微笑み、彼女の手を握った。


「ティナ、勘違いしないでくれ。 私はお前に来て欲しくないわけでは無い。でも、来て欲しいわけでも無いんだ。」

「・・・え?」


の言葉を理解出来ない、という様子でティナは顔を上げる。
はティナの手を優しく握りながら言葉を紡いだ。


「ティナには、見つけて欲しい。此処でなら其れが出来るかもしれない」

「・・・私、あの子達が何故私を必要としているかは分からない・・・。
 私があの子達を守らなくてはならない理由なんて無い。 でも・・・何か変な感じなの・・・」


はティナの言葉を聞きながら彼女の掌を再度優しく包み込む。


「そして・・・、この感情が私に芽生えた時、私から戦う力が無くなってしまった・・・。
 何かが分かりかけている気がするの。はっきりとは言えないけど・・・、
 でも、その答えを見つけようとすればするほど、私の中から戦う力が無くなっていくの・・・」


これが、の見つけて欲しい物なの・・・?

最後にそう付け足してティナはを見詰めた。
は頷き、ティナに笑みを向けた。


「・・・不安に思う事は無い。大丈夫、ティナなら絶対見つけられるさ」

は? はこれを見つけたの・・・?」


ティナの問いかけにはクスリ、と笑みを零して「まあね」と言った。


「ま、見つけたと思った途端に何処かのドロボウに持ってかれてしまったがな」


くすくすと笑って言うに、ティナも気付けば笑顔になっていた。

穏やかな雰囲気が漂う中、「大変だ!」という切羽詰った声が響いた。
下りてきた男の子が「大変だ!」とまた言い口を開く。


「フンババがこっちにやって来るー!!」


フンババ。確か古の魔物ではなかったか。とが思っていると目の前でティナが走り出した。
は慌てて彼女を追い、腕を掴む。


「ティナ!危険だ、残っていろ!」

「私も・・・!!」

「・・・ティナは此処で子供達を見ててやれ」


ティナから魔力が微弱にしか感じなかった事は言わず、はティナにそう言い銃を背から降ろして再度足を速めた。
そんなの後ろにシャドウ、モグと続いて走っていく。

背を見送る事しか出来ない自分に歯痒さを感じ、ティナは拳を握り締めて俯いた。
































































上へと出ると、緑色で巨体を持つ魔物、フンババがもう目前まで迫っていた。

は直ぐに銃を構え、標準をフンババに合わせる。


「・・・これはまたでっかいのが来たな・・・」

「大きい分当てやすくて良いだろう」

「なめるな。お前こそ、でかい的でよかったじゃないか」


はシャドウにそう言い、引き金を引いた。
其れはフンババに命中し、フンババは怯んだ様子でその場に立ち止まった。

しめた。とは思い魔力を高める。


「魔法を放つまでの時間稼ぎを頼む」

「分かったクポ!」


モグはそう言い槍を構えてフンババへ向かう。
シャドウは無言で走って行ったが、無言は肯定の合図だろう。

そんな事を思いながらは意識を集中させた。

モグが槍を、シャドウが暗器を放つとフンババはバランスを崩した。
今だ!とは思い翳した手を一気に振り下ろした。


「サンダラ!!」


ピシャ!!という音の後、轟音を立てて雷がフンババへと落ちた。
まともに其れを喰らったフンババは悲鳴を大きく上げると大きな身体を翻して村から出て行った。

追い払えたか、とは思い銃を背負う。
シャドウとモグも武器を仕舞い、振り返る。

―其処には、ティナが立っていた。


「・・・やっぱり、私にはもう戦う力が無いのね」


一緒に戦う事すら出来ない。

ティナはそう思い顔を上げ、真っ直ぐに三人を見た。


「私、此処に残るわ。一緒に行っても足手纏いになる。・・・それに、子供達は私を必要としてる・・・」


ティナはそう言い、自分の横に居る子供達に視線を向ける。
はそんなティナを見、「そうだな」と言い頷いた。


「もう少し時間が経てば・・・・・・、今、私の中に芽生えようとしている物の答えが出れば・・・」

「ティナ、焦る必要は無い」


はそう言いマントを翻す。
久々に見るの背を見つつ、ティナは彼女の言葉の続きを待った。


「・・・私たちの事は気にせず、今は自分の事を第一にしていろ。
 ・・・・・・大丈夫、様子見に来るくらいはするさ」

・・・」


でも、と言いかけたティナには片手をひらひらと振りながら歩を進める。
歩を進めだしたにティナは慌て、「待って!」と声を上げる。


「・・・良いの、も自分の事を第一に考えて!
 まだ貴女はケフカに狙われているかもしれないのに・・・!それに、ロックとの事とかも・・・!」


其処まで言いかけて、ティナは口を噤む。
一緒に居る様子が見れなかったので、つい言ってしまった言葉。
下手しなくても、一番彼の事で心悩ませているのはだというのに。

ティナは自分の失言を悔いた。

―その時、


「ティナ」


が微笑んで振り返った。

久々に見る、真っ直ぐで綺麗な微笑み―。

ティナは金色に輝く彼女の髪が揺れる事にも懐かしさを覚えながら、彼女に見惚れた―。


「私がティナの事を思うのはいけない事か?」

「・・・そうじゃないわ・・・!でも、私の事よりも貴女の事を・・・!」


ティナが其処まで言うと、は言葉を遮る様に首を振ってティナを真っ直ぐに見た。

―そして、




「それが、友達という物さ、」



「――え?」




風が吹いたと同時に揺れる髪を押さえながら放たれた彼女の言葉―。

其の言葉を聞いたと同時に、ある記憶が脳裏を過ぎる―。


以前、自分はにこう問いかけた事があった。


自分達は友達になれるのか、と。


其の時も、今の様な優しい声色で彼女はこう言ったのだ。





「なれたらいいな」





全ての意味を込めて、言ってくれた言葉。


ティナは滲む視界の中、輝く金色へ向けて走り出した。


ッ!!」


そして、彼女へ抱きついた。

は優しくティナを抱き返し、頭を優しく撫でてくれた。


「・・・・・・・・・」

「ん?」

「・・・大好き・・・大好きよ、・・・!」


ありがとう


その意を込めて抱き着いて来るティナに、は微笑み「私も」と言いティナの肩に手を置いた。
そしてゆるりと、柔らかい動作で身体を離す。


「・・・また、様子を見に来る。それまでに元気でな」

「・・・ええ。 ・・・もね」


ティナの言葉には頷く。
そんなにティナは笑みを浮かべ、「そうだわ」と言う。


「モブリズを出たらニケアに行くと良いわ。其処で彼らと再会出来るかもしれない」

「彼ら?」


が問い返すとティナは微笑みながら頷いた。




彼らって誰って、彼らですよ(オイ)