港町ニケア。
それは以前と変わらずの呼び名の町だった。
町は世界崩壊のせいで所々に傷があったがモブリズよりは幾分かマシだった。
此処の船が使用出来る事を知ったはレオからの好意で今まで使用させて貰っていた元帝国の船をナルシェへ返す事にした。
元帝国兵の男達にその事を告げて了承した事を確認してからシャドウとモグ、そしてインターセプターと共に町へ入ったのだ。
情報を集めながらは世界で何が起きているのかを頭の中で整理していた。
まず、モブリズからニケアに来る途中に出来ていた道。
あれは元々海中に沈んでいた物が天変地異のせいで出てきたと聞いた。
蛇の道、と聞いた気がする。蛇の道なら確か以前・・・、
と、其処まで考えては雑念を払うように首を振り「次、次」と思い他の情報を思い返す。
ドマ城は無事らしい。
孤島となってしまった場所にひっそりとあるらしかった。
だが其処は魔物の巣窟と今はなってしまっているらしかった。
ドマ城と言えば、カイエンだ。とは思い以前の仲間の老戦士を思い浮かべる。
しかし、幾らなんでも其処には滞在していないだろう、と思い他に彼の行きそうな場所を思い浮かべようとしたが、中々浮かばなかった。
彼と行った場所で印象深い所と言っても、魔列車だしなぁ・・・。とは何処か遠い目をしながらぼんやりと思った。
他の情報ではフィガロ城が今は大変らしい。
砂漠の下を移動している最中に何かのせいで止まってしまい、生き埋め状態の人が沢山居るらしい。
この話を聞いた途端、以前の仲間のフィガロ国王を思い浮かべ、は顎に手を当てた。
ニケアから船に乗ってサウスフィガロに行って、洞窟を通って上手い事地下に行けばなんとか地中のフィガロ城に辿り着けるかもしれない。
仲間の城でもあるしな、以前世話にもなった人たちも沢山居る。
はそう思い後ろを歩いていたシャドウ達を振り返る。
「サウスフィガロ行きの船は出ているだろうか?」
「出てるって聞いたクポ。でも盗賊団が貸切してるっぽいクポ!」
そう尋ねるとモグが片手を上げてそう答えた。
モグの言葉には、そういえば盗賊団が町に居るとも聞いたな、と思い再度歩を進める。
そんなにモグは「何処に行くクポ?」と問いかけてくる。
はそんなモグに悪戯っぽく笑った後、パブの扉を躊躇い無く開いた。
が中に入った途端、中で騒いでいた盗賊達が少しだけ静かになって視線を向けてくる。
その視線を気にせず、はカウンター席に着いてマスターを見上げた。
「一番強いのを頼む」
そう言い両脇にシャドウとモグを座らせる。
マスターに出されたアルコールの度数が多いであろう酒を横に座っているシャドウの前へ、つ、とずらすとはマスターを再度見上げ、口を開く。
「フィガロ城が地中で生き埋めって噂を聞いたのだが・・・」
「・・・そうだね、そういう事なら其処に居る盗賊達が詳しく知ってると思うよ」
何せフィガロ城から逃げてきたらしいからね。
マスターの言葉を聞いたはゆっくりと振り返り盗賊達を見やる。
すると話を聞いていたらしい盗賊の一人が近付いて来た。
「姉ちゃんなんだ、城が気になるのか?」
「結構」
「俺らが見てきてやろうか? 俺らの宝がまだあの城にあるんだよ」
「地中にあるなら、進入は不可能なのではないか?」
シャドウが飲んでいたグラスを手に取り、傾けて中身を揺らしながら、は盗賊へ視線をやった。
金の髪から覗く、これまた美しい金色の瞳に盗賊はゴクリ、と喉を鳴らしつつ再度口を開く。
「それがな、俺達だけが知っている秘密の洞窟からフィガロ城に乗り込むのさ!」
「秘密の洞窟?」
盗賊に続きを催促させるように甘い声でそう問いかけると盗賊は大きく頷き「おう!」と言い言葉を続けた。
「牢屋が偶然大ミミズの巣に繋がったんだ。 其処を通って地上まで出てきたんだ・・・、つまりまた其処から入れる。
サウスフィガロの北西に洞窟があるだろ?其処の奥に行くと巨大ミミズの巣があるんだぜ」
盗賊の言葉をしかと耳に残したは「ふぅん」と言い少しだけ笑みを浮かべた後「ありがとう、」と言い視線を盗賊から外した。
グラスを再度シャドウの前にずらした時、ふと視線を感じては振り返る。
―視線の主と目が合った途端、は瞳を大きく見開いた。
「・・・え?」
盗賊の格好をして、少々髪形も違うが気品や容姿までは誤魔化せまい。
に視線を注いでいた男は――、
「・・・エドガー?」
正にフィガロ国王のエドガーその人だった。
何で此処に、というか何故盗賊と一緒に、とが思っているとの視線に気付いた盗賊が「ああ、あれはうちのボスさ」と言った。
ボス、ボスってお前、何してるんだ王様が。とが混乱する頭の中でそう思っているとエドガーらしき男が席を立ち、近付いて来た。
髪色も、少し違うかもしれない。けれど気品は隠せていないぞ、お前。
と、近付いてくる男を真っ直ぐに見上げながらは思った。
男は最初は少しだけ驚いた様に瞳を瞬かせていたが直ぐに甘いマスクを被り、の手を取った。
「美しいお嬢さん、俺に何か用かい?」
わざとらしく微笑んで恭しく手を取る男。
気障な動作、間違い無い、エドガーだ。とは確信の意を持ちながら目の前の男を見返した。
「・・・否、何処かで会った気がしてね」
けれど彼が身分を隠して盗賊に混ざり、しかも頭をやっているのには理由があるのだろう。
理由と言えば、一つしかない。恐らくは盗賊達しか知らない秘密の洞窟を通って地中のフィガロ城へ行き、家臣達を助ける為だろう。
それを理解していたのではあえて彼をエドガーとは呼ばずにそう答えた。
すると彼は少しだけ嬉しそうに笑い「おいおい俺が口説くつもりだったのに口説かれちまったぜ」と言った。
口調まで変えるとは・・・結構楽しんでるんじゃないか?
と、は思いつつ口の端だけを吊り上げて笑みを浮かべた。
「貴方はこの盗賊団のボスなんだってな」
「ああ、逃亡の際に前のボスが亡くなったらしくてな。俺がボスになったんだ」
「・・・へぇ」
興味無さげにそう言葉を漏らすに彼はクスリ、と笑みを浮かべて両手で、そ、との手を包んだ。
「俺はジェフだ。 レディ、君に興味が沸いてしまった。俺達と共に来ないか?」
ジェフと名乗った男がそう言うと周りで話を聞いていた盗賊達は「オオーッ!」と歓喜の声を上げる。
はニコリ、と微笑んで「よろこんで」と言い、ジェフの手をパシンと叩いた。
レディって言うのは知る限りエドガーしか居ない。隠す気あるのか、お前。
と、が思っているとジェフは「つれないね、」と言い叩かれた手を摩っていた。
そして口の端を吊り上げてこう言った。
「だが、其処がまた良いね」
だから、隠す気はあるのかと・・・。
はそう思い、げんなりとしながら横に座っているシャドウに寄り掛かった。
やっぱ美人には用心棒が必要なんだな。
モーグリが何で居るんだ?
・・・ペットとか・・・?
・・・等と言う盗賊達の会話をさりげ無く聞きながらは潮風を気持ち良さそうに感じた。
シャドウは相変わらず無言で、寄り添うインターセプターの頭を撫でてやっている。
モグは「ペットじゃ無いクポ!」と言い頬を膨らましてぷりぷりと怒っていた。
はそんなモグに「気にするな、言わせておけばいい」と適当に返して風で舞う髪を押さえた。
―今達はニケアを出、盗賊達が貸し切っていた船に乗っている。
盗賊のボスであるジェフが気に入ったから着いて来いと言ったので目的地も一緒であったし、何よりジェフが気になったので達は頷き、着いていくことにした。
傾いている太陽を見ながら、は大きく息を吐いた後、くるりと身体を後ろに向けて歩を進める。
モグが「何処行くクポ?」と問うて来たのでは「気になるからやっぱり行く」とだけ返した。
それにモグは「分かったクポ」と言いの背を見送った。
―この船に入り込んでいる侵入者が、やっぱり気になっていたのだ、は。
モグはそう思いながら横に居るインターセプターに寄り掛かり、座った。
歩を進めて歩く。
そんなの背後で動く影。
それに気付いているはくすり、と背後の相手に気付かれない様に笑みを零した。
そしてそのまま暫く船内を歩き回った後、人目の付かぬ船の後ろの方で立ち止まり、振り返った。
「―で? 好い加減コソコソしてないで顔を見せてくれても良いんじゃないのか?」
笑いながらそう言うと、物陰から大きな影と小さめの影が出てきた。
「・・・・・・!」
そう震える声で名を呼びながら近付いて来た女性を、月明かりが明るく照らした。
は久しく見る顔に懐かしさを感じながら、ゆっくりと手を彼女に向けて差し出した。
「久しぶり、セリス。マッシュ」
一気に増えるよー